第66話 宙賊拠点攻撃
宙賊拠点の外殻が目の前に広がる。宙賊拠点を覆うシールドは青白い光を帯び、時折うねるように波打っている。
――あれを突破しない限り、何百回撃ち込もうが中枢には届かない。
「……さて、胃薬は持ってきてないんだが」
俺は無意識に腹を押さえる。
「今さら薬でどうにかなる胃痛ではありません。おとなしく耐えてください」
ルミナの冷静な声が返ってくる。
「……それ、地味に励ましてるつもりか?」
「もちろんです。ただし、あなたが無事に胃を壊しても、私の整備計画には影響しません」
「はいはい、優しいこったな」
通信回線が一斉にざわめく。《ホーク》から子供たちの声が飛んできた。
『敵タレット射程内!』
『弾幕来るぞ!』
『撃ち返せ撃ち返せ!』
ニコの怒鳴り声が混じる。
『弾幕張れ!正面押さえる!絶対ビビるな!』
《ホーク》の両翼が光に包まれ、格納されていた粒子砲が次々と火を吹く。古びた外殻が震え、赤や青の光線が雨のように拠点へと叩き込まれる。……正直、あいつらが暴れてるのを見るだけで胃が縮む。
「囮のつもりが、もはや暴れ牛ですね」
ルミナが小さくため息をついた。
「ただし、その乱暴さが敵の照準を引き受けているのも事実です。評価すべきでしょう」
「まあ、結果オーライ……ってことでいいか」
俺は操縦桿を握り直す。《エクシード》の艦体がわずかに姿勢を変え、正面の一点を狙う。
「ルミナ、可変粒子砲。照準データを」
「すでに同期済みです。……外殻シールドに一撃、胃に一撃、覚悟はよろしいですか?」
「そっちの追い打ちは余計だ」
主砲が唸りを上げる。青白い光が艦首に凝縮され、濃紺の閃光となって虚空を貫いた。
――轟音。シールドが波打ち、青い膜にひび割れのような光の筋が走る。だが、まだ抜けない。
「第一波、効果確認。シールド耐久は推定六割低下」
ルミナが冷徹に告げる。
「次弾で貫通可能です」
「よし、続けるぞ!」
そのとき、通信が割り込んだ。《ホーク》からだ。
『正面タレット半分潰した! でも弾幕やべえ!』
『シールド二十パー溶けてる!』
『うわっ!? 直撃! でもまだいける!』
子供たちの悲鳴と叫びが入り乱れる。俺は思わず怒鳴る。
「無茶すんな! 抑えるだけでいいんだ!」
『うるせえ! 俺たちだって、やれる!』
ニコの声は荒いが、確かに勢いがある。
『ここでビビって逃げたら、今までやられてきた連中に顔向けできねえだろ!』
……クソ。正論すぎて、胃がさらに縮む。
「団長。子供に叱られる大人というのも、なかなか珍しい光景ですね」
ルミナがわずかに口調を柔らかくする。
「ですが……あなたは彼らを信じたのでしょう。ならば、結果も受け止めるべきです」
「……わかってるよ」
俺は深呼吸し、主砲に再びエネルギーを流し込む。
「全砲門、同調。――撃て!」
エクシードの主砲と副砲が閃光を放つ。青白い収束光がシールドを貫き、巨大な亀裂を走らせる。次の瞬間、膜が破れたように光が散り、外殻シールドが崩壊した。
「シールド突破を確認。外殻、直撃可能です」
ルミナの声が響く。
モニターの向こう、ホークの艦橋が歓声に包まれる。
『よっしゃああああ!』
『いける! いけるぞ!』
「……ほんと、勢いだけは誰にも負けねえな」
俺は小さく笑い、再び操縦桿を押し込んだ。
外殻シールドが崩壊した瞬間、俺は操縦桿を握りしめた。巨大な宙賊拠点――小惑星を刳り抜いた基地の壁面が、むき出しの岩肌と金属板を晒す。外殻に並んでいたタレット群が、次々とこちらに旋回してきた。
「おいおい……思ったより数あるじゃねえか」
胃の奥がひきつる。
「数を数える余裕があるのなら、まだ冷静です。大変結構」
ルミナの冷ややかな声が返る。
「余裕なんかねえよ。口から出るのは悲鳴だ」
「でしたら、もう少し抑揚をつけて叫んでいただければ、士気高揚に役立つかもしれません」
「……俺の叫びで士気上げるなよ」
その間にも、拠点の砲座が一斉に火を噴く。青や赤の光が雨のように降り注ぎ、虚空が閃光に染まる。《ホーク》が前へ出て、わざと大きく揺れながら敵火線を引きつける。
『ぎゃああああ!? シールド三割削れた!』
『大丈夫! まだ生きてる!』
『ホーちゃん無敵!』
……こいつら、笑ってんのか泣いてんのかどっちだ。俺の胃はもう限界に近い。
「団長」ルミナが落ち着いた声で告げる。
「外殻を突破した今が最大の好機です。拠点内部には燃料タンク、弾薬庫、指令中枢――どれも直撃すれば致命的。優先度の高い順に破壊を」
「了解。だが外殻砲座が邪魔だな」
「エクシードの副兵装群を展開してください。高精度射撃で十分に排除可能です」
「任せろ」
俺は操作盤を叩き、副砲群を展開する。船体が唸りを上げ、格納されていた砲塔が一斉に姿を現す。パルスガン、ミサイルポッド……火線が交差し、外殻タレットを次々と吹き飛ばしていく。
「タレット十基沈黙、残り二十」
「まだ半分以上あるのかよ!」
「文句を言う暇があれば、手を動かしてください」
「……はいはい」
《ホーク》からの通信が割り込む。
『外殻に近づいた! このままぶち込むぞ!』
「待てニコ! 突っ込みすぎんな! お前らは陽動で――」
『知ってる! でも、ここで撃たなきゃ意味ねえだろ!』
《ホーク》の両翼の荷電粒子砲が火を噴く。ハンガードアの一部が爆散し、岩片と金属片が虚空に散った。子供たちの歓声が響く。
『やったああ! 穴空いたぞ!』
『突入できる! いけるぞ!』
「……クソ、マジでやりやがった」
俺は頭を抱えかけて、操縦桿を握り直す。
「ルミナ、ホークの支援に回る。俺たちが外からカバーだ」
「賢明な判断です。もっとも、その判断が遅れればホークは消し炭でしたが」
「刺すようなフォローありがとうな」
俺は《エクシード》を旋回させ、《ホーク》が穿ったハンガーの裂け目に照準を合わせる。
「主砲、出力最大。撃ち抜く」
「エネルギー充填率一〇〇%。……では、どうぞ派手に」
濃紺の閃光が虚空を裂き、外殻の亀裂を押し広げた。爆煙が吹き出し、拠点内部の骨組みと通路がむき出しになる。その奥には――燃料タンクの群れ。
「ルミナ、ターゲットはあれだな」
「正解です。直撃すれば連鎖反応で拠点全体に甚大な被害が及ぶでしょう」
「よし、あとは……」
その瞬間、拠点内部から無数の小型艇が吐き出された。宙賊の迎撃部隊だ。
「出てきやがったな……!」
《ホーク》からも叫び声が上がる。
『ちっちゃいのがわらわら出てきた!』
『どうする!? 撃ちまくる!?』
『よーし! ガンシップ祭りだ!』
俺は額を押さえつつ、ルミナに声を飛ばす。
「……こいつら、絶対ゲーム感覚でやってるだろ」
「子供らしい無謀さは時に有効です。ですが、団長の胃が破壊される可能性も同時に高まります」
「……最後に守るのは、拠点でもホークでもなく俺の胃袋かよ」
だが、もう迷っている暇はない。俺は操縦桿を押し込み、《エクシード》を裂け目へと突っ込ませた。
「行くぞ! 拠点の心臓を叩き潰す!」
拠点の裂け目を抜けた瞬間、目の前に広がったのは――真っ赤な戦場だった。金属骨組みと岩肌が混じり合った内部空洞、そのあちこちに砲座と格納庫が張り付いている。宙賊の小型艇が蜂の巣みたいに飛び出してきて、まるで虫の群れだ。
「……胃が破裂する音が聞こえそうだ」
「その前に船体が破裂しないよう、ご注意ください」
ルミナが、さらりと毒を吐く。
「気遣いの方向性間違ってねえ?」
敵の光弾が雨のように降り注ぎ、シールドが火花を散らす。《ホーク》も裂け目をすり抜け、無理やり内部に突入してきた。
『わーっ!ぶつかるぶつかる!』
『レン!操舵ちゃんとしろ!』
『やってる!やってるって!』
子供たちの悲鳴と怒号が交錯する。……本当に演技なのか、俺には判別できない。
「ホークの回避パターンがやや不安定です。あのままでは壁に突っ込みますね」
「落ち着いた言い方で言うな!俺の心臓止まるだろ!」
「それは困ります。団長の心臓が止まると、私が暇になります」
「優しさの欠片くらい混ぜろ!」
俺は操縦桿を捻り、副砲を一斉射。プラズマランチャーやエネルギー・パルスガンが小型艇を撃ち抜き、火球が次々と弾ける。だが数は減らない。次から次へと湧いてくる。
「蜂の巣を突っついたみてえだな……!」
「正確には、あなたが突っ込ませました」
「わかってる!わかってるから言うな!」
その横で、《ホーク》の中距離粒子砲が火を噴いた。爆炎が格納庫を直撃し、内部から二隻まとめて吹き飛ぶ。子供たちの歓声が飛ぶ。
『やった!』『二隻まとめて!』『ホーちゃん最強!』
「……こいつら、調子に乗ってんじゃねえか?」
「ええ。団長と同じですね」
「俺は調子に乗ってねえ!」
――その時、警報が鳴った。
「警告。高エネルギー反応、拠点内部から接近中」
ルミナの声に、胃がさらに締め付けられる。
通路の奥から現れたのは、重装甲の中型艦だ。小型艇とは違う。分厚い装甲と主砲を備えた、まさに拠点の番犬。
「マジかよ……こんなの隠してやがったか!」
「当然です。彼らも知恵がありますから」
「フォローじゃなくてトドメ刺す言い方すんな!」
敵艦の主砲が光を帯びる。狙いは――《ホーク》。
『やばい!シールド追いつかない!』
『逃げろ!』
子供たちの悲鳴が響く。
「ルミナ!主砲チャージ!」
「了解。……出力一〇〇パーセント、反動で座席から落ちないように」
「落ちたら拾ってくれ!」
「残念ですが、その機能は搭載しておりません」
濃紺の閃光が走り、敵艦の主砲口を正確に撃ち抜いた。爆炎が内側から吹き上がり、敵艦は身をよじる。だが、それでも沈まない。
「しぶてえな!」
「当然です。……でも、あと数発で沈みます」
「軽く言うな!胃が持たねえ!」
ホークが横合いから副砲を浴びせ、小型艇の群れを振り切る。
『今だ!兄貴!撃て!』
子供たちの叫びが、俺の耳に突き刺さる。
「よし――落ちろ!」
マルチレールキャノンを連射し、敵艦の装甲を貫く。爆炎が内部から噴き出し、中型艦は沈黙した。
一瞬の静寂。だがすぐに、拠点全体から新たな火線が降り注ぐ。まるで要塞そのものが牙を剥いたかのように。
「……これ、地獄の本番はこれからだな」
「はい。まだ半分も削っていません」
「はあ……俺の胃が、先に沈むわ」
マルチレールキャノンの反動がようやく収まり、前方スクリーンに漂うのは爆散した敵艦の残骸。沈黙した残り火の向こうから、光の雨が再び襲いかかる。
拠点そのものが怒り狂ったみたいだ。砲台群が一斉に牙を剥き、内部空間全体が火線で埋まる。
「……地獄の本番はこれからだな」
「はい。まだ半分も削っていません。むしろ序盤です」
ルミナの淡々とした返答に、胃がさらに軋む。
「序盤って……ラスボス前に死ぬ勇者パーティかよ」
「ご安心ください。死因は『慢性的な胃痛による指揮力低下』と記録されます」
「優しさをもう一滴くらい混ぜろ!」
その時、《ホーク》の通信が割り込む。
『こっちも砲撃受けてる!ノノが泣きそうだ!』
『泣いてない!』
『レン、回避しろ!もっと右!いや逆だ逆!』
子供たちの怒号と悲鳴が飛び交う。……この状況でよくまあ喧嘩できるもんだ。
「ホークの機動は危険域です。あのままでは敵の弾幕に飲まれますね」
「……わかってる。エクシードで穴を開ける!」
俺は操縦桿を押し込み、機体を急旋回させる。《エクシード》の自己修復装甲が火花を散らしながら砲撃を弾く。マルチレールキャノンをフルオートに切り替え、通路奥の砲台群を掃射する。連射された徹甲弾が次々と敵装甲を貫き、火花と爆炎が空間に散る。
「敵火力、局所的に低下。進入路を確保しました」
「よし――ホーク、今のうちに抜けろ!」
『了解!突っ込むぞ!』
《ホーク》が回避スラスターを吹かし、狭い通路を強引に抜けていく。相変わらず壁スレスレで飛ぶから見てるこっちの胃が死ぬ。
「団長。目的は“通過”ではなく“破壊”です」
「わかってる!……だがまずは突っ込まなきゃ叩けねえ!」
前方スクリーンに拠点の奥部が映し出される。無数の燃料タンク群と、中央に鎮座する制御中枢ブロック。――あそこを潰せば、拠点は終わりだ。
ルミナの声が、少しだけ柔らかくなる。
「狙いは中央制御と燃料タンク。順序を間違えれば被害は拡散します。……胃痛の原因は増えますね」
「その言い方やめろ!……でも、ありがとな」
俺は深呼吸し、操縦桿を握り直す。火線の嵐を掻い潜りながら、狙いを定める。
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