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第44話 防衛

 数日が過ぎた夜、ルミナの声が俺の耳を貫く。いつも通りの落ち着いたトーン――ただし、内容はいつも通りとはいかない。


「艦長。南側路地にて、武装個体三名を確認。動き、装備、紋章照合から判断して、傭兵団『イレギュラー・エッジ』の先遣部隊と推定されます」


 その瞬間、脳のスイッチが切り替わるのを感じる。一拍置かずに俺は倉庫に引き返す。ニコの元へと真っ直ぐ向かい、低く短く告げる。


「来た。三人、外にいる。間違いない、奴らだ」


 ニコは一瞬だけ目を見開き、それからすぐに動き出す。言葉も少なく、だが明確な指示を出しながら、子どもたちをそれぞれの持ち場へと流していく。


 誰も騒がない。誰も音を立てない。それぞれが呼吸を殺し、身を低くする。動きに迷いがない。訓練の成果が、しっかりと体に染み込んでいるのがわかる。


 俺は倉庫の端にある監視端末を操作し、外の映像を引き出す。映っているのは、やたらと静かに動く三人組――軽装ながら、動きに迷いはない。明らかに“やる気”があるタイプの傭兵だ。威嚇して、無視されたら排除する。そんなノリがにじみ出ている。


 そのうちのひとりが、こちらに向かって声を張る。


「なあ、中にいるんだろ? アカガミ~、出てこい。話し合いだ。平和的にな」


 嘘くさい声に、笑ってしまいそうになる。声の下地にあるのは、怒りと威圧。完全に脅しだ。


「応答がなけりゃ、押し入るぞ? 逃げ場なんてねえんだからよ」


 俺は短く息を吐いて、通信回線を開く。声を少し低めに抑えて、特徴が割れないようにする。


「やめとけ。ここは手を出す場所じゃない」


 間があって、鼻で笑うような声が返ってくる。


「誰だよ。ヒーロー気取りか? 面白ぇな、管理人さんよ」


「違う。ただの忠告だ。今夜引き返すなら、それで済む」


「済むわけねぇだろ。こっちの面子潰されてんだぞ? 中に隠れてんの、引き渡せばいい。そうしないなら――話は別だ」


 ああ、もう話をまとめる気なんて最初からないんだな。俺は静かに通信を切る。


「ルミナ、非常警戒。避難と防衛、同時進行で始めろ。配置、確認頼む」


「警戒レベル最大、起動。全ユニット、所定位置へ展開中。なお艦長、今からでも“引き返す”という選択肢は――」


「ねぇよ」


「……でしょうね。せめて五秒だけでも“撤退案”を検討したという履歴を残したかったのですが」


 倉庫内の空気が、ぐっと張り詰めていく。でも、誰も叫ばない。逃げ出すやつもいない。みんな静かに、でも確かに、自分の位置に着いている。


 ニコが俺の横に立ち、ボソリとつぶやく。


「……来るよね」


「ああ。だが、ここは守る。お前たちの場所だからな」


 ルミナの読み通り、奴らは真正面から来やがった。しかも、いきなりド派手に。


 爆音が轟いて、正面ゲートの鉄板が盛大に歪む。衝撃で倉庫の中がビリビリ揺れる。天井からホコリが舞って、空気が一気にピリつく。


「第一バリケード、保持。応戦は待機。接近まで距離7.4メートル」

 ルミナの声はいつも通り。冷静で、無駄がない。でもその裏で、こっちはこっちで血の気が引くのを感じる。


 手信号を出すと、子どもたちが訓練通りに動く。無駄な動きなし。無駄な音もなし。音響センサーが敵の足音を拾い、監視ドローンが即座に位置を割り出す。ホログラムのマップに、赤いマーカーがぽつぽつと浮かび上がる。


「今だ」


 合図と同時に、通路脇のスモーク弾を起動。中身は缶詰とアルミホイルを合体させた即席仕様。けど、この狭さなら十分だ。白煙が一気に通路を埋め、視界を奪う。


 その隙に、第一の罠が作動。床材の下に仕込んでおいた圧力板が反応し、天井から吊っていたパイプが「ガコンッ」と落下。その音が鳴った瞬間、もう一段階――ジャンクのリニアモーターで押し上げた床が派手に吹き飛ぶ。


「――ああッ!」


 敵の一人が悲鳴と一緒に穴に消える。


「一名転倒。残り二名、後退中」


 ルミナの声が響く。声のトーン、全然上がってない。ある意味、安心できる。


 続いて、側面から回り込もうとする第二波。けどそっちには、古い配線管に偽装した電撃トラップを仕込んである。


 トリガーを押すと、床がバチッと光って金属板が火花を散らす。案の定、一人が派手に吹き飛んで転がる。絶縁処理の甘い装備だったら、そりゃ無理だ。


 その間に、ニコが動く。背後の梯子に設置していた反重力ワイヤーを起動して、敵一人が浮き上がる。そこへ、耳元で爆音を放つ小石入りの空き瓶――“爆音ボトル”が炸裂。爆発はしないが、あれを至近で食らえば三分はまともに動けない。


「三名排除済み。反応複数、戦術変更の兆候あり。敵は学習能力を発揮し始めました」


「ルミナ、パターンB。東側ルートに誘導しろ。持久戦に切り替える」


「了解。ルート再構成、煙幕展開座標を変更中……しかし艦長、先に寝不足のあなたがダウンする確率がじわじわ上がっています」


「今それ言う?」


 その時、煙の向こうから閃光。焼夷弾だ。


「高熱源感知。南壁材、発火の恐れあり。なお、消火は“水”ではなく“知恵”でお願いします」


 火を使ってきたか。思ってたよりガチで潰す気だな、あいつら。なら、こっちも次の手を打つ。


「ルートC、開放。撤退準備開始」


 ニコが先頭で子どもたちを誘導する。俺は最後尾、罠の再起動を確認しつつ後退。だが、敵はまだ諦めてない。裏手に回り込んできている。


 仕掛けておいた第二の落とし穴――油で偽装した床板が崩れ、一人が落下。でも一人、抜けてきた。足元を読む反応速度が尋常じゃない。そいつは罠を回避して、まっすぐこっちに突っ込んでくる。


 ナイフを抜いて構える。相手も武器持ち。間合いの中で、刃と刃がぶつかるたびに火花が散る。


 俺の遺伝子に施された強化処理が稼働する。反応速度、筋出力――全部ブーストされてる。けど、そいつもタダモンじゃない。訓練されてる。間合いを読んで、力で押してくる。


 体格差で押し負け、背中から地面に叩きつけられる。肺から空気が抜ける。


「終わりだ」


 ナイフを振りかぶるその時――


「やめろッ!」


 銃声が響く。敵の肩が弾け、ナイフが床に落ちる。


 煙の向こう――ニコが立っている。震える腕で銃を構え、両足をしっかり踏ん張って、俺を守るように。


「……こいつは、俺たちの場所を守ってくれてる。だったら今度は、俺たちの番だ」


 その一言で、全身に火がついた。


 俺は奴の膝裏に回り込み、渾身の蹴りを入れる。バランスが崩れた瞬間、喉元に肘を叩き込む。反応速度と出力を全開にして、一撃で沈める。


 敵が動かなくなると、俺は大きく息を吐く。振り返ると、ニコがまだ銃を握ったまま、真っ直ぐこっちを見ている。


「……助かった」


「当然でしょ。あんたに教わったから。もう、逃げてばっかじゃない」




 敵の最後の一人が地面に沈む。俺は息を整えながら、ゆっくりとナイフを引く。周囲はまだ緊張の余韻を引きずっているが、もう戦いは終わった。


 そのとき、ルミナの声が聞こえる。


「艦長。警報に反応して、警備隊が現在接近中。おそらく三分以内に到着します」


「上等だ。やっと“正規の出番”ってやつか」


「正規の出番が三分遅れで来る街、それがこの地区の実態です。記録しておきますね」


 俺は肩をすくめながら、倒れている傭兵たちの装備を一つずつ確認していく。武装解除、通信端末の取り上げ、何より“口実を潰す”のが先だ。


 そして三分もしないうちに、倉庫の正面扉が開き、警備隊が数人、銃を構えてなだれ込んでくる。


「動くな! ここで何が――……おい、これは……」


 警備隊が倉庫に踏み込んでくるなり、床に倒れた傭兵たちと、散らばった武装の残骸に目を走らせる。現場の空気で、すぐにただ事じゃないと察したようだ。


 俺は両手を上げて、落ち着いた声で応じる。


「待て。手を出すな。こいつら、武装して押し入ってきた連中だ。侵入からの交戦――すべて記録してる」


「記録?」


「ルミナ、送ってくれ。戦闘ログと映像データ」


「はい。監視ドローンの映像と、音声ログ、時系列対応の戦術記録を圧縮送信中です。警備隊のシステムと互換性あり。即時閲覧可能」


 隊長格の男が端末を受け取り、数秒後に顔をしかめる。


「……なるほどな。こっちに手を出してきたのは向こう。抵抗の形跡と、防衛の証拠も揃ってる。つまり……“現行犯扱い”で、引き取って構わないってことか」


「そういうことだ。助かる」


 連中が手際よく傭兵を拘束していく。無力化された敵に反抗の気配はない。警備隊の制服が見えた時点で、勝負はついてた。


 俺は一歩前に出て、視線を隊長格の男に向ける。


「それと……この子たちのことだが。未登録だ。手続き上は“存在しない”扱いになる。そこ、なんとかならないか?」


 隊員が視線を鋭くするが、俺はその前に言葉を続ける。


「俺が引き取る。責任は持つ。登録は後日でいい。とにかく、今は巻き込まないでくれ」


 ルミナがすかさず補足を入れる。


「補足いたします。この件は、記録・監視・支援の全工程を私――AIルミナが一貫して対応中です。現場の指揮責任者は艦長であり、未登録市民の保護に関する正式な申請および一時保護者としての登録手続きも、すでに所轄局に受理されております。したがって、警備隊の皆様は“不法侵入者の確保”という本来業務に集中していただければ十分です」


「おい、勝手に代行とか……」


「事後承諾で十分です。あなたに“書類の山”を任せると、次に発生するのは“未処理地獄”ですから」


 隊長は少し考えてから、渋い顔のままうなずいた。


「……特例として処理する。あんたらが全員責任を持つって条件なら、黙認の形で扱ってやる」


「感謝する。ほんとに」


 警備隊が去っていき、倉庫に再び静けさが戻る。


 誰も口を開かない。けど、その沈黙の中に――確かにあった緊張が、少しだけほどけていくのがわかる。

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