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第43話 防衛準備

すみません。43話のアップが漏れてました・・・

 ニコと一緒に倉庫に戻ると、空気が思ってた以上に張りつめてる。いや、“空気”っていうより、“視線”が刺さる。言葉も音もないのに、全員の視線がビシッと俺たちに突き刺さってくる。


 目が合った瞬間、静かな圧が全身にのしかかる。わかってる、これは「説明しろ」って空気だ。


 俺は息をひとつ吸って、前に出る。緊張はしてないフリだけは、それなりに上手くなった。


「まず、状況の確認だ」


 隣でルミナが一歩進み出る。姿勢はいつも通りシャキッとしてるし、声も滑らか。だが、内容が……まあ、いつもながら容赦がない。


「対象は傭兵団『イレギュラー・エッジ』。先の抗争にてあなたたちから反撃を受け、構成員数名が負傷しています。彼らはその報復として、現在周辺エリアにて捜索行動を開始しています」


 ざわつきが走る。空気がきしむ音が聞こえそうなほど、反応が生々しい。


「やつら、自分たちの面子を潰されたって思ってる。だから今、あちこち嗅ぎまわって、拠点の場所を探してる。こっちが黙って見過ごせば……遅かれ早かれ見つかる」


 ルミナが、平坦な声で追加情報をぶち込む。


「加えて、報復の具体的内容ですが……あなたたちを“ブローカーに売却”する計画のようです。赤髪の子供――つまり、ニコだけを企業に引き渡し、他の子供たちは“別ルートで処理”するそうです」


 処理。まるでゴミ扱いだ。


 誰かが低く、「マジかよ……」とつぶやいた。何人かが拳を握りしめ、何人かが顔を背ける。


 俺は、そんな反応をひとつひとつ見逃さないように目を巡らせる。すると……ニコ。壁際に立ってた彼女が、ほんの一瞬、肩を落とした。


 その顔が、苦しそうで……でも、すぐに戻る。ああ、無理してんのが見え見えだ。


「なあ、ニコ……お前、何か事情があるのか?」


 問いかけると、彼女は少しだけ間を置いて、ぽつりと口を開いた。


「……正直、私にもよくわかってない。あたしの親は“白き翼”って傭兵団の団長だった。でも、ある時壊滅したって聞いてる。あたしは、壊滅直前にここに避難させられて……それっきり。なんで追われてるのかも、理由は教えられてなかった」


「つまり、ニコが“何か”の鍵を握ってる可能性は高いってことだな」


 ルミナがすぐに解析めいたことを言いそうになるが、その前に俺が遮る。


「でも、今それを詮索してる場合じゃねぇ。目の前の現実をなんとかする方が先だ」


 俺は、倉庫の真ん中に立ち、みんなを見渡す。ニコも、他の子たちも、誰一人目をそらさない。


「戦うか逃げるか、それはまだ決めなくていい。ただ、選べるようにする。そのための準備を、俺とルミナで教える。見張り、通信、撤退ルート、基本的な戦術と自衛手段。できる範囲で、お前らが“無力じゃなくなる”手伝いをする」


 静寂。だけど、それは絶望の静けさじゃない。考えてる空気だ。


 そんな中、小柄な少年が手を挙げて言った。


「……俺、やる。黙ってやられるのは嫌だ」


 それを皮切りに、「じゃあ、何すればいいんだ」とか「逃げ道って、どこまで用意できんの?」とか、現実的な声がぽつぽつと上がってくる。


 ニコはずっと黙っていたが、やがて小さく頷いて、俺の目を見て言う。


「……わかった。じゃあ、教えて。あたしたちが生き延びるために、何をすればいいか」


 俺はただ、うなずく。それで十分だった。




 ユイとエリスには、「数日戻れないかもしれない」とだけ伝えた。


 ユイは案の定、「じゃあ、私も行く!」と目をキラキラさせながら言ってきたが——正直、その目にちょっとだけ弱い。でも、今回ばかりは譲れない。


「すまん。遊びに行くんじゃないんだ。お前らまで巻き込みたくねぇ」


「どうしても?」


「今回は、我慢してくれ。……理由は、あとで話す。必ず」


 俺がそう言うと、ユイはしばらく唇をかみしめてたが、やがて小さくうなずいた。エリスは、横でそっと肩に手を置いてくれる。無言だけど、その表情は「気をつけてくださいね」って言ってた。


 ……ほんと、助かる。


 ルミナは後ろで腕を組んで、「この程度の説得に三分もかけるとは、非効率です」とか言ってる。効率じゃねぇんだよ、人間関係は。いや、お前も今じゃ“人間寄り”だろうが。


 とにかく、二人を残して俺はフリーランクスの支店へ向かう。カウンターの奥、いつもの位置にレーネがいる。視線だけで俺の姿をとらえると、微かに眉を上げた。


「今日は慌ただしいわね?どうしたの?」


「取り合えず、これを聞いてくれ」


 PLDから再生するのは、イレギュラー・エッジの傭兵たちの会話。赤い髪のガキ、まとめて潰す、ブローカーの回収――冷たい言葉が、無機質な録音データとして流れ出す。


 レーネは何も言わず、最後まで聞き終える。わずかに眉をひそめたまま、しばらく黙っていた。


「……建前上、通報義務はある。けど、“存在しない子どもたち”のために警備隊が即動くとは思えない。正直、被害が出てからじゃないと、本腰入れてはくれないわね」


「現行犯なら……ってことか? つまり、襲わせろって話か」


「そうは言ってない。でも、事実として“現地で不法侵入が確認された瞬間”なら、動けるように段取りできる。私はその“ギリギリ手前”まで、力を貸す」


 俺の問いに、レーネはわずかに肩をすくめる。


 レーネは端末を開いて手早く設定を組みながら、冷静に言い切る。


「警備隊には通報しておく。正式な被害届じゃなく、“不審動向あり”の予備報告として。現時点では動かないよう手を回すわ」


「じゃあ、どう動かすんだ?」


「簡単よ。警報が作動すれば、“現行犯の不法侵入”として即出動できる体裁にしておく。場所と時間が一致すれば、現地判断で逮捕も可能になる」


「つまり――仕掛けて、踏ませるってわけか」


「そう。仕掛けはあなたたち、踏ませるのは向こう。私は、スイッチが入ったときだけ流れをつなぐ」


 ルミナが補足を入れる。


「合理的です。“存在しない子どもたち”の名簿を偽造するより、目の前の不法行為を正攻法で対処する方が、はるかに確実です」


「……やり方は荒っぽいけど、悪くないな」


「荒っぽいのはあなたの人生設計のほうでは?」


「うるせぇよ」


 レーネは微かに笑いながら言う。


「とにかく、今は“構えておく”だけ。動くのは警報が鳴ってから。あなたは、守りを固めて」


「あと、“地域安全協力の一環”ってことで、非常用の医療キット、簡易センサー、警報装置を手配できる。武器はさすがに今日中には無理だけど……それ以外なら、今からでも送れる」


「それで十分だ。守りを固める時間がほしい。それだけでも、大きな違いだ」


「わかった。搬送ルートは私が押さえる。最低限、変な目で見られない業者を使うから」


 そこに、ルミナが割って入る。


「支援ルートの確保、上出来です。ただ艦長、“事後報告”ではなく“事前相談”を日常にしてください。生存率が劇的に改善します」


「今もギリギリ間に合ってるだろ……」


 レーネは小さくため息をつき、肩の力を抜くように笑う。


「とにかく、その子たちを巻き込むなら、選ばせてあげて。逃げるか、戦うか。決めるのは彼ら。でも、その選択肢を与えるのが、大人の役目でしょ?」


 俺は深くうなずく。


「……俺がやるのは、“守ってやる”ことじゃない。“守れるようにする”ことだ」


 それだけ言って、俺は席を立つ。もう迷いはない。




 防衛体制の構築ってのは、もっとこう、派手でテンションの上がる作業かと思ってた。現実は地味だ。ひたすら地味で、神経をすり減らす作業だった。


 まずは、倉庫の構造確認から始める。ルミナが支援物資と一緒に届いた簡易センサーを展開しつつ、全体の三次元マップを生成してくれる。出入り口、通気口、床下配線の通路、崩れた壁の亀裂まで――一つ残らず浮かび上がる。


「防衛拠点としては欠陥だらけですが、即席の要所を設定することは可能です。ここに隠し通路を一本追加、視界の通らないルートとして活用を」

「現存する構造のうち、“封鎖すべき場所”と“開放すべき逃走ルート”を色分けして投影します。ご確認を、艦長」


 空中に浮かぶホログラムを囲んで、俺は子どもたちに説明する。

「ここは塞ぐ。通気口がそのまま侵入口になる」

「ここは逃げ道に使える。補強が必要だけど、なんとかなる」


 最初はみんな、完全に他人事みたいな顔してたけど――時間が経つごとに空気が変わってくる。工具を扱える子どもたちがジャンクから部品を集めて、資材を組み上げ始める。バリケード、センサー、警報装置。レーネが手配してくれた“地域安全協力の物資”、ありがたく使わせてもらう。


 ニコは静かに全体を見回しながら、必要な場所に的確な指示を飛ばしていく。多くを語らないけど、彼女の目が、場を締める。あれはもう、“子ども”の目じゃない。


 周囲には、ルミナが調整した動体検知ドローンを三機、すでに展開済みだ。警報装置と連動させてあり、指定条件を満たせば――つまり、奴らがこの拠点に“不法侵入”すれば――即座に警備隊に通報がいく。レーネが言っていた。「現行犯じゃないと動けない」って。なら、その現場を作ってやるだけの話だ。……もっとも、こっちはただ黙って待つ気なんて、最初からない。


 短距離用の通信端末と、アナログな手信号も整備して、連絡網を構築する。電波が不安定な場所じゃ、むしろこっちの方が頼りになる。


 俺は一人ひとりに声をかけて、見張り位置を確認して回る。

「ここからなら、通路が見える。やれそうか?」

「このルート、緊急時に抜けられそうか?」

 最初はおずおずだった子どもたちが、少しずつ――「やってみる」「ここなら自分が」って、自分の言葉で答えるようになる。


 訓練も始めた。小規模の避難シミュレーション、防衛動作の反復練習。俺が動きを教えて、ルミナが補足と修正を入れる。


「反復学習は、感情と直結する即応行動の形成に有効です。“恐怖に飲まれず動ける”確率を、理論上32%向上させます」


 数字はともかく――子どもたちの顔が変わっていくのを見てると、確かに意味はあるって思える。


 不安も焦りも、全部まだ残ってる。けど、そこに“準備した”っていう実感があるだけで、人は少し強くなれるらしい。


 見張りの交代が回り始めた頃、ニコがぽつりと声を落とす。

「……これってさ、結局“戦う準備”なんでしょ?」


 その問いに、俺は少しだけ間を取ってから答える。

「……まあ、そうかもしれない。けど、全部が“戦うため”じゃない。“戦わなくて済むため”でもある。もし話し合いが通じなかったら、もし逃げ道がふさがれてたら――そのときのための最後の選択肢だ」


 ニコはそのまま、少しだけ頷く。

「選べる手段、か。……悪くない言い方だね」


 その目に浮かぶのは、もう怯えじゃない。ほんの少しの覚悟と――ほんの少しの信頼。




 最初の訓練。俺は正直、ちょっと身構えてた。相手は子どもだ。しかも、まともな訓練なんて一度も受けたことのない――そう思ってた。


 でも、すぐにその考えが甘かったって気づく。こいつら、隠れて生きるのが“日常”だ。


 足音を消すコツ、物陰に紛れる動き、視線の通らないルートの選び方――教える前から、身体に染みついてる。誰にも気づかれずに街を渡るための、本能みたいなもんだ。


「……これ、教えるまでもなかったな」


 俺が思わずつぶやくと、ニコが苦笑しながら肩をすくめる。


「そりゃね。バレたら終わりの暮らししてれば、勝手に覚えるって」


 たしかに、説得力はある。ただ――一人でやるのと、集団で動くのとでは話が違う。


「信号なしでバラバラに動くと、逆に目立つ。連携ってのは、静かに、確実に通すもんだ」

「各自の役割を明確にして、連絡、監視、退避、それぞれの動きが重ならないようにしろ」


 ルミナがすかさず補足する。声はいつもどおりの無機質モードだ。


「音声ではなく、気配による連携を重視してください。推奨隊列距離は2.5メートル、視界範囲内での静かな意思伝達が理想です」


 それを聞いて、子どもたちは真剣な目をする。飲み込みは驚くほど早い。元から“隠れる”のは得意だ。そこにルールと目的が加わっただけで、動きに芯が出てくる。


 最初の避難シミュレーションでは、全体がバラバラだった。でも三回目には、ルート分担も完璧、誰が何をするかまで明確になっていた。


「今ので二分三十八秒。前回より十五秒短縮」


 俺がそう言うと、小さくガッツポーズする子が何人か出てくる。口に出さなくても、空気が少しずつ変わっていくのがわかる。


 ジャンクから作ったセンサーや簡易バリケードも、日に日に完成度が上がってる。拾い物の修理に慣れてるせいか、工具を扱う手つきに迷いがない。


 夜になり、片付けをしていると、ニコがぽつりと俺に訊いてくる。


「ねえ……あたしたち、本当に戦えるのかな」


 その声に、不安はある。でも、逃げ腰じゃない。確認したいだけの、素直な問いだ。


 俺は少しだけ笑って答える。


「戦う必要がないなら、それが一番いい。でもな――備えてるやつを、舐めるやつはいない」


 ニコは一瞬、驚いたような顔をして、それからふっと笑った。


「……そっか。うん、そりゃ、そうかもね」

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