第36話 吉報
ここ最近、俺たちは《フリーランクス》から中小の依頼をちまちま請け負ってる。索敵支援、遭難救出、護衛任務とか、そういうやつ。派手さはないけど、実績にはなるし、金も出る。なにより、ユイの“感応”がめちゃくちゃ役に立つ。
あいつ、敵が来る前に察知するだけじゃなく、位置も人数もほぼ正確。今回は潜伏してた兵を、“音”じゃなくて“息”で見つけたとか言い出す始末。しかも「空間がちょっと歪んでたから」って、普通の人間にはわからない基準で。
感応力ってレベルじゃねぇぞ。予知に近い。ていうか予知だろこれ。
で、帰艦してすぐ、いつものようにエリスの健康チェックを受ける羽目になる。俺とユイは定期検査の対象だから、医務室での診察はルーチンだ。が、今日もまた妙な情報を引き出される。
「艦長さんの筋肉修復速度、通常の4.8倍ですね。あと、夜中にこっそり筋トレしてるのも把握してますよ」
「監視されてる!? プライバシーどこいった!?」
「データとして残してますから安心してください。動きも正確で、筋繊維の収束に無駄がありません」
安心できねぇよ……。
ユイの方も診てもらってるけど、こちらはもっと不思議な話になる。
「ユイさんの感応中の脳波、前回よりさらに安定してきてます。共鳴域も拡張してるし……これって進化ですね」
ユイが少しだけ不安そうに俺の方を見る。
「えと、これって……変じゃない? 大丈夫?」
エリスは優しく笑って言う。
「大丈夫どころか、むしろ好調。いまのユイさんは“共鳴している”というより、相手の存在構造に干渉できる段階に入ってるかも」
「えっ、それって……もう超能力って言っていいレベルだよな?」
と、そこにルミナが口を挟んでくる。というか、画面上のホログラムがまるで“眉を寄せているような表情”をして、俺に向かってさらっと毒を吐く。
『ご安心ください、艦長。現時点でお二人の強化処理は安定していますし、負荷も想定内です。ただし、さらなる拡張には、バイオカプセルの再調整と――“設計者の意図”の解析が必要です』
「なんで設計者の意図とか出てくるんだよ。それ、死亡フラグにしか聞こえないって」
『そのときは艦長にも“分解される覚悟”をお願いすることになるでしょう』
「ぜんっぜん安心できないからなそれ!!」
そんなやり取りをしてるところに、俺のPLDに着信が入る。
『こちらレーネ。おかえりなさい、みんな。依頼報告、ちゃんと期限内に提出してね?』
音声越しでもレーネの調子は軽い。まるでただの事務連絡みたいに聞こえるけど、続きがあるのはわかってる。
『あ、それとユイちゃん、また“感応”とかした?』
「うん、今回もあったよ。壁の向こうにいた敵が……“息”で分かった。空間がちょっと、変だったの」
『どんな感知方法!? ほんとすごいわねそれ……』
エリスが相槌を打ちながら端末をタップしている。
「視覚・聴覚よりも、もっと深い領域ですね。生体の“存在感”に反応している……そんな感じです」
『“存在感センサー”ですか。芸能スカウトにも使えそうですね』
またもやルミナの冷静すぎるコメントが入る。冗談のつもりはないのかもしれないけど、余計に混乱する。
「いやいやいや、なんのスカウト!? あと、ユイがすごすぎて俺がただの一般人にしか見えなくなるんだけど」
『ご心配なく。艦長の“戦闘介入効率”は、統計的に“中の中”です。むしろその“普通さ”が貴重です』
「もっと……ほら、フォローとかないのか、ルミナ……」
『“現実を見据える”という行動は、自己肯定の第一歩ですよ』
褒めてるのか貶してるのかわかんねぇよ……!
そんなタイミングで、レーネが通信越しに“思い出したように”言ってくる。
『あ、そうそう。ひとつ良い報告があるの忘れてた』
「ん? また依頼か?」
『次の依頼、うまくこなせたら――シンヤ、“本登録”になるかもよ』
思わず反応してしまう。言葉が出るより前に、拳を握ってた。
「マジで……!? それ、デカいな」
『住居、保険、正規の生活支援つき。これまでの“自由業”とは違うよ? やっと“まともな市民”の仲間入りね』
それにかぶせるように、ルミナが追撃してくる。
『おめでとうございます、艦長。ようやく“成人してるのに生存権が宙ぶらりん”という状態を脱却できますね』
「なあ……言い方ってもんがあるだろ!? マジで泣くぞ俺!」
誰も返事しない。ルミナのホログラムが小さく首を傾げる。
『……冗談、のつもりだったのですが?』
おい、それが一番怖ぇよ。
《ストレイ・エクシード》を離れ、俺たちは《フリーランクス》支部へと向かった。《ラゲルド・コロニー》の中央区にあるこの施設は、見た目こそ味気ない業務棟だけど、一歩中に足を踏み入れれば空気がまるで違う。傭兵たちの談笑や、受付で交わされる激しいやり取り――戦場とは違った意味で、ここもまた前線なんだと実感する。
レーネはすでにカウンターの向こうで管理業務をこなしていた。着崩した制服姿がやたらと様になっていて、この数週間ですっかり“ここの顔”に戻っている。
「いらっしゃーい、ご一行様。戦場帰りにしては顔色いいじゃない?」
と、いつもの調子で軽口を飛ばしてくる。
「全員無事。今回は“交信相手”がちょっと変だったけど……」
ユイがぽそっと言うと、レーネは眉をひとつ上げた。
「“変だったって”って、感情を持った融合生命体に襲われながら、共鳴会話で渡り合ったあんたが言う? アンタたちの“日常”は怖すぎるわ」
「私たちは日常ですが……世間的には非日常ですかね」
エリスの冷静な補足に苦笑しつつ、俺たちは奥の業務用コンソールへと向かう。大型ホログラムディスプレイには、依頼一覧がずらりと並んでいて、眺めているだけで目が回りそうだった。
そんな中でレーネが本題に入る。
「さて、本題。今回は重要案件よ。次の依頼を達成すれば、シンヤは“本登録”扱いになるわ。そうなれば、ユイちゃんの“身元引受人”にもなれるってわけ」
「身元……?」
ユイが小首をかしげる。その横で、俺がそっと説明を加える。
「……つまり、俺がユイの“保護者”みたいになるってことかな」
「それって……シンヤの“家族”ってこと?」
「まあ、書類上はね。感覚的には“保証人付きのパートナー契約”って感じだけど」
俺がそう答えると、レーネは肩をすくめながら端末を操作し、ホログラムを切り替えた。
「正式な市民登録がされれば、保険、定住権、教育支援、行政サービス――いろいろ使えるようになるわよ。もちろん、納税義務もきっちり発生するけどね。スペースコロニーならまだマシだけど、惑星の定住圏になると生活コストが跳ね上がるから、そこは覚悟しておいて。ま、傭兵稼業なら艦暮らしで渡り歩くってのも、わりと普通だけどね」
「……なんか、急に現実が押し寄せてきた……」
俺が思わずつぶやいたところで、PLD端末からルミナの声が飛び込んできた。
『ようやく社会的信用が付与されるのですね。現在の艦長の“公共評価スコア”は2.8と、やや“信用困難”に分類されておりますので、これを機に改善を期待します』
「うるさいよルミナ!!」
『事実の提示です』
やれやれ、と頭をかきながらも、俺の視線はふとユイへと向く。彼女は依頼一覧のディスプレイをじっと見つめながら、ぽつりとつぶやいた。
「次の依頼……ちゃんと、うまくいくといいな」
その声には、不安よりも希望がこもっていた。ああ、そうだ。俺たちは前に進んでいる。少しずつだけど、確かに。
レーネがディスプレイの表示を切り替える。
「さあ、“次の一手”を選びましょうか。ここからが、ほんとのスタートよ」
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