9話 行ってきます!
⸺⸺翌朝。
ガーネットの町の入り口にたくさんの人だかりが出来ていた。その中心は、僕たちだ。
僕はお母様が仕立ててくれたピッタリの魔道ローブに身を包み、背中にはリュックと木の杖を装着。
レベッカもお母様から白い魔道ローブをプレゼントされており、いつものメイド服ではなく、格好だけは立派な回復魔道士になっていた。
グレンも自身の和装を綺麗に洗濯してもらったようで、スライムの体液を拭いたときのシミもないし、腰には刀の代わりにお父様が昔使っていた剣を携えていた。
自然と集まってきた町のみんなに盛大に見送られながら、僕たち3人は待機していた馬車へと乗り込んだ。
「行ってきます!」
ゴトゴトと動き出した馬車の窓から身を乗り出して、大きく手を振る。お母様は、なぜか泣きながら手を振っていた。
僕は町のみんなが豆粒になるまで手を振って、大人しく座席に腰掛けた。
「えーっと、まずは国境のペリドットの町までこのまま馬車で行きますよ♪ 街道は魔物も出ないし安全ですね」
レベッカが地図を広げながらそう言う。
「国境のペリドットっつーと、エリージュ王国に入ってすぐのあの町か。すげー賑わってていい町だったなぁ、確か。ま、俺ぁガーネットの町も好きだけどな」
と、グレン。ガーネットの町が好きって言ってもらえるのは素直に嬉しい。
「ありがと、ぐれちゃ。ペリドットの町はね、ペリドット領の領主様がとっても良い人なんだ。おとーさまとおかーさまもペリドット卿と仲が良くて、僕も何回か会ったことがあるよ」
「あー、だから行くときに旦那様から手紙のおつかい頼まれてたのか」
グレンの言う通り、お父様からペリドット辺境伯への親書を預かっている。どうやら僕の事を書いたらしいんだけど、ちょっと恥ずかしい。
「うん、まずはペリドットの町にある領主様のお屋敷に行くからね」
「ほいほい、了解。なぁ、ならガーネット領の防衛もペリドットの騎士団にお願いすれば良いんじゃねぇのか? ペリドットには騎士団はねぇのか?」
「あるよ。ペリドットには大きな騎士団がある。でも、ペリドット領はとっても広いし魔物の湧きも多いんだ。それに、ペリドットとガーネットの間のクォーツ領って小さな領土や他にも周辺の領土も守ってて、更には、国境だから町の守りも固めないとで……ガーネットまで守ってくれる余裕はないんだよ」
「フィル様……すごいです。旦那様が前に仰ってた事、ちゃんと全部理解して覚えていたんですね……」
と、レベッカ。僕は「えへへ……」と笑って誤魔化した。
「国境の警備なんていらねーのにな。別に鬼族らはなんもしてねぇだろ」
「念の為だよ。分からないから怖いんだ、逆に。国境の山道もあんまり整備されていなくて魔物もわんさか。たまぁーに、ぐれちゃみたいな冒険者的な人がポツポツ来るくらい。でも噂では強い人、特に武に長けた人が多いって聞くし、念の為、守りを固めておこうって、そんな感じだよ」
「まぁ、そう言われるとアカツキも似たようなもんか。山道を抜けたすぐ先に都を構えて部隊を整えてるからなぁ。まぁ、別に国境だからってんじゃなくて、山沿いに都を置きたかっただけらしいんだけどな」
「へぇ~。アカツキの国、どんなところなのか楽しみだなぁ……」
馬車に揺られること2時間弱。まだ見ぬアカツキの国を想像しつつ、一先ずペリドットの町へと到着した。
 




