7話 相棒の魔法杖
⸺⸺ガーネット領主の屋敷、倉庫⸺⸺
「うーん、そうねぇ……これはわたくしが修行中に使っていた物なんだけれど……魔力の変換効率も良いし、初めてには丁度いいんじゃないかしら」
お母様はそう言ってシンプルな1本の魔法杖をレベッカへと手渡した。
「はい、ありがとうございます!」
レベッカは気合い十分にはにかむ。
「それからフィル。魔力の制御のために魔法杖が欲しいんだったわね。これはわたくしの家に代々伝わる名杖“エメドラシル”です。少し重いし大きいけど、きっとあなたなら使いこなせるはず」
「わっ、すごく綺麗な杖……わぁっ、お、重たい……」
杖を受け取り、おっとっととふらつく。
「まぁ、ごめんなさいフィル、大丈夫!? やはり重さがネックね……」
「だ、大丈夫……」
どんなに魔力があっても身体は5歳児。立派な杖であるほど重くなってしまうか。だったら……。
「おかーさま、この杖ももらっていい?」
僕はそう言って他の杖よりも短い木でできた杖を持ち上げた。
「それは子どもの頃に遊びで使っていた“木の杖”だわ。この家に嫁いでくるときに懐かしくてつい持ってきてしまったのよ。あなたが欲しいなら持っていきなさい。でも、その杖はほとんど魔法杖としては機能していないけれど……」
「わーい、おかーさまありがとう!」
エメドラシルが重たいのであれば、性能はそのままに、見た目だけ変えてしまえばいい。
僕はエメドラシルを地面に寝かせて、その上に重ねるように木の杖を持った。
「フィル……あなた何を……?」
「あっ、おかーさま。今からやる事は、元に戻すこともすぐに出来るから、安心して見ててね」
「まぁ、今度は何を見せてくれるのかしら♪」
お母様の表情がまるでわくわくを抑えきれない少年の様に明るくなった。その好奇心と探究心は、偉大な魔道士には欠かせないもの。それに魔力の感じからも……お母様は、めちゃくちゃ強い。
「じゃ、いくね」
両方の杖に魔力を送り、それを繋ぎ合わせるように魔力操作をする。
「エンチャント!」
僕がそう唱えると、両方の杖が強い光で包まれ、やがて木の杖だけがその場に残った。
「えっ、うそ……エメドラシルは……!?」
一気に絶望の表情へと変わるお母様。
そんなお母様にネタバラシをするため、木の杖を拾うとそれをお母様へと手渡した。
「ほら、おかーさま、持ってみたら分かるよ」
お母様は恐る恐るそれを受け取ると、すぐに目を真ん丸にした。
「これは! 中身はエメドラシルだわ! でも質量や見た目はただの木の杖……すごいわフィル! 一瞬で重さの問題を解決してしまうなんて!」
「エンチャントは本来武器に能力を付加するサポート魔法だけど、それを応用してエメドラシルに“木の杖の見た目”をエンチャントしたんだよ」
「素晴らしいわ、フィル! あぁ、あなたはわたくしの誇りよ。はい、この杖はもうあなたの物です。大事に使うのですよ」
「えへへ、ありがとう、おかーさま!」
「はわわ……すごいです。私もフィル様のように、ちゃんと魔法が使えるようになるのでしょうか……」
と、レベッカ。
「あ、れべちゃごめん、お待たせ! 早速魔法の特訓しよっか」
「は、はい! よろしくお願い致します!」
僕とお母様とレベッカの3人は、レベッカの魔法修行のため屋敷の庭へと向かう。
そこではすでにお父様とグレンがテラスでのほほんとコーヒーを飲んでおり、彼らに見守られながらレベッカの奮闘が始まった。




