64話 問答無用【グレン視点】
「獣人の国、ベスティア王国のシフォン王女殿下だ」
シギュンがふざけたキメ顔でそう言う。なんでてめぇがドヤってんだ。
犬のような耳にクルッと巻いた尻尾を生やしたシフォンは、ボロボロと泣きながら俺らに礼を言う。
「ありがとうございます……! まさか、こんな日が来るとは……」
わんわんと泣く彼女をライカが「もう大丈夫……」となだめ、背中を擦ってやっていた。
「マジか、王女かよ……あー、わりぃ、シフォン殿下、一応確認なんだがゴールディのクソ野郎にこんな事されてたんだよな?」
俺がそう尋ねると、彼女は何度もうんうんと頷いた。
「そうです、そうです……ゴールディの屋敷にまだ“マロン”が捕まっているはずなんです! マロンも助けないと、彼女が殺されてしまいます……!」
「マロン?」
と、一同。
「あ……すみません。我がベスティア王国のすぐ南の島を領土としている魚人の国ピスキア公国の大公の娘です。私の従姉妹なんです!」
「マジかよ……そっちも国の姫じゃねぇの……。あー、けど、マロン姫は多分無事だわ。そっちはうちの大将がこれから攻めるところで、俺らが任務完了の伝令を送ったらすぐに地上が動く作戦だ」
「で、でしたらすぐに伝令を……!」
「んだな……」
⸺⸺俺が鳥人の団員を探しに行こうとしたその時だった。
突然パチッと工場内の照明が復活した。なんだ? 予備電源でも誰か入れたのか?
「伝令はさせねぇよ。てめぇらはここで皆殺しだぁ!」
そう言ってトゲトゲの棍棒を持った大男が工場の奥の隠し扉から顔を出す。
なるほど、その奥がまだ続いてんのか。つーか棍棒舐めんなよ。ばっちいだろ。
そんな大男を見たシフォンはガクガクと震え出す。
「ひっ、ひぃぃ……ガジムです……も、もう終わりかもしれません……」
「へぇ、そんなつえぇのか?」
シフォンはコクコクと頷く。
「獣人の兵が何人も殺されてしまいました……!」
「なるほど、殺っていい奴ってことな。フウガ、代わりに伝令頼む」
「了解!」
フウガはその場からシュッと消えていった。
「おい、皆殺しだっつってんだろ! まぁ、てめーらをぐちゃぐちゃの粉々にした後であの鬼のガキはゆっくり探せばいいか。うぇっへっへっへ」
「笑い方キモ……」
と、ライカ。俺はライカの正直なツッコミ、結構好きだ。
「んだとこのガキが! 女だからって舐めてんじゃねーぞ! 俺は女でも容赦し……」
「わぁーった、わぁーった。もうお前ウゼェわ……死ねよ」
もう面倒くさくなった俺は、グッと腰を落として刀の柄に手をかけた。
「てめぇが死ね! ぐぬぬぬ、馬鹿にしやがって……! 俺様には更にこれがあるんだぞ!」
奴はそう言って何かのビンを取り出し、ゴクゴクと飲み干す。
すると、途端に奴の筋肉がボコボコと膨れ上がり、ゴリゴリのマッチョへと変貌した。だから何だっての。斬る面積が増えただけだっつーの。
俺はふぅっと一息つき、ものすごい形相で突進してくる奴を迎え撃った。
⸺⸺奥義 鬼神一閃⸺⸺
「グレン様が消えた!?」
と、シフォン。それに対しライカが「あのデカブツの後ろ……」と解説していた。
奴を斬り終わった後の俺はヒュッと血振りをしてゆっくりと納刀する。
そして、カチッと納刀を終えたところで奴が「ぐはぁっ」と血しぶきを上げて前へと倒れていった。
「か、かっけぇ……全く見えなかった……」
と、シギュン。
「あの、凶暴なガジムを……一撃で……!」
シフォンは希望に満ち溢れた表情をしている。
さて、フウガがそろそろ戻ってくる頃か。
「グレ兄、伝令完了。報告。ペリドット軍がパイプを辿った先で何十人もの獣人、魚人を保護。働かされていた者の家族と思われる」
ほら、帰ってきた。
「……了解。マジで胸糞わりぃな……。で、シフォン殿下、あの先には何があるかご存知で?」
俺はガジムが出てきた隠し扉を指差してそう尋ねた。
「この先にはトロッコがあり、ゴールディの屋敷へと繋がっています。私は毎日そこを行ったり来たりさせられていたので、間違いないです」
「ははーん、なるほど。なら、俺らもそのトロッコでそっち向かうか」
「グレン様、私もお連れください! マロンの無事をこの目で確かめたいんです!」
と、シフォン。
「しゃーねぇ、良いですけど、その竜野郎から離れないようにしてください。そうすれば死んでも守ってくれますので」
俺がそう言うとシギュンは目をハートにしてうんうんと頷いていた。
「あはは……承知しました……」
こうして俺たちはペリドット卿に一言告げて、トロッコに乗り込みゴールディの屋敷へと出発した。
次はお前の番だぜ、大将。




