57話 地下空洞の先で見つけたもの
⸺⸺アマツ大空洞⸺⸺
岩壁の層が変わった途端に感じる濃い魔障。この空間、かなり魔障濃度が濃いぞ。
「れべちゃ、念の為“にこちゃ”に結界を」
「け、結界ですか?」
レベッカは目をぱちくりとさせる。すると、ニコラスがゴホゴホッと咳込み出した。
「ゴホッ、な、なんか……苦し……ゴホゴホッ!」
「やっぱり……! 妖精族は魔障への耐性が他より低いんだ。早く、結界を!」
「はい!」
レベッカがニコラスへ魔力を送ると、ニコラスはすぐに状態が良くなり、ふぅっと安堵していた。
「ありがとう、レベッカ。助かったよ」
「いえ、遅れてすみません」
更に念の為レベッカが全員に結界を張り、慎重に奥に進んでいった。
「なんでこんな魔障が濃いのに魔物はあんまりいねぇんだ?」
と、グレン。確かに、アース地下空洞よりもたくさん出ていいはずなのに、ここには魔物がほとんどいなかった。
魔障の流れをよくよく感じてみると、ある一定の方向へと流れていっているのが分かる。風の流れがあるから魔障粒子がその場に留まらず、魔物に変化しないのか? そんな憶測をしてみる。
⸺⸺
しばらく奥へと進み続けると、すり鉢状の大広間へと辿り着き、壁を伝って螺旋状に中心部へと道が続いていた。
⸺⸺その中心部にいたのは。
「なんっじゃありゃ、カグツチみてぇな……!?」
と、グレン。
「地面に磔られてるの!?」
と、フレイヤ。
そこにいたのは、地面に磔にされている巨大な土人形、つまりゴーレムだった。
『ウゥゥ……』と呻き声が聞こえてくる。苦しそうだ。
すると、フレイヤの側にニーズヘッグの思念体がポンッと飛び出てきた。
『あやつは、地の精霊“ノーム”だ! もっと西の地にいるべき精霊が、なぜこんなところで縛られ、苦しんでいる……!?』
「地の精霊……! 暗くてよく見えないし、とにかくもっと下に降りてみよう!」
そう言う僕にみんなはうんと頷き、急いで螺旋状の道を下っていった。
半分ほど下ったところで、ライカが「あのスライムが湧いてる……!」と、ノームの方を指差した。本当に? 暗くてあんまりよく見えない。
注意深くノームの周りを観察してみると、確かに何かがうにょうにょとうごめいていた。
「スライムの体液で魔障に取り憑かれてしまっておるのかの?」
と、スズラン。
「どうだろう……」
まだ、分からない。
更に下へと進んで中心部に到達する。ノームの全長は10mくらいあるだろうか。そんなノームからは真っ黒な魔障がモクモクと湧き出していた。
すると再びライカが「フィル様、見て、あそこ……。パイプから何かの液体がノームの上に、垂れてる……!」と僕に報告してくれた。
ライカ、猫目なのかな? 暗いところ見え過ぎじゃない?
「とりあえずスライムが邪魔だね、まずはスライムを片付けて、そのパイプに近寄ってみよう!」
「了解!」
ボタンの“スライム防御液”が役に立ち、あっという間にスライムを一掃する。
そしてその例のパイプに近づいてみると、確かに何かがポタポタとノームの頭上に落ちていた。
「この臭い……多分例の魔障活性の薬だ。スライムはただの副産物、ノームはこれを直接かけられて魔障漬けになって苦しんでいるんだ」
僕は手で臭いを送りながらそう言う。
更に中心部のあちこちに別のパイプが伸びており、ノームから生成された魔障はそこからあちこちに流されているようだった。
「分かった、あのパイプである特定の地域に魔障を大量に送り込んでるんだ。ガーネット領とか、ペリドット領とかね」
やっぱりこの一連の魔障問題は人為的なものだった。
一体何を企んでいるのか知らないけど、ガーネットに喧嘩を売ったのが間違いだったかもね。
⸺⸺だって、僕たちがこんな仕組みぶっ壊してやるから。




