54話 事の発端
「ニーズヘッグ、本題に入ろう。どうしてそんなに魔障に取り憑かれちゃったのか、教えて?」
一段落ついたところで、僕はニーズヘッグへと話を切り出した。
『うむ。我はカグツチから魔障の話を聞いていてなるべく用心していたつもりだった。だが、アマツ山の結界の整備が始まった頃からだ。世界樹から送られてくる聖のエネルギーに異変を感じるようになったのだ……』
「それってもしかして、アマツ山が結界を張ったせいで、魔障がそっちに流れて行っちゃったって事!?」
と、僕。ニーズヘッグは申し訳なさそうに答える。
『決して主らのせいだと言いたい訳ではないのだ。だが、アマツ山から魔障が流れてきていることは事実なのだ……』
「いやいや、それ、十分俺らのせいじゃねぇかよ……」
と、グレン。スズランも「自分らだけ助かろうとしてしまっていたようじゃ、すまぬ……」と頭を下げた。
『良いのだ。自分らだけ助かろうとしてやったのではないと皆分かっている。だからこそ、このアース山脈まではるばる駆け付けてくれたのであろう。誰も主らを責めたりなどしない』
「でも、ただ結界を張るんじゃなくて、魔障の発生の根本を解決しなくちゃいけないって事が、これで分かったね」
僕がそう言うと、ガーネット騎士団のみんなはうんうんと同意を示した。
ここでフレイヤが口を挟む。
「もしかしたら、アマツ山の地下で何かが起こっているのではないでしょうか?」
「そうなのじゃろうな……しかし、アマツ山を掘り起こすにはちと心が折れそうじゃのう」
と、スズラン。シギュンが答える。
「姫様、上から掘り起こさなくても、このアース山脈の地下空洞からアマツ山の地下に行けるぜ」
「本当!?」
と、ガーネット一同。
「あぁ。最近は魔物の湧きがすごくて地下空洞事態が侵入禁止になっているんだけど、フィル様たちなら余裕で進めるんじゃないか?」
「それは、行ってみる価値がありそうだ! 早速今から……って思ったけど、実は僕調子に乗って古代魔法使ったから、魔力がもうほとんど残ってないんだよね」
僕はトホホ……と脱力する。それに寝てないし……。5歳児が徹夜とかコンプラ違反もいいところだよ。
すると、竜人のイケオジがこう進言してきた。
「でしたら、まずは我が国ヨルムンガンドにてゆっくりと休息をお取りください! あなた方のおかげで生贄を差し出すことなく無事に事を解決する事が出来たのです。国を挙げて歓迎致しますぞ!」
「おぉ、それはありがたい……! ふかふかのベッドで寝たいと思っていたところなんだ」
僕がそう言うと、ガーネットのみんなも「俺も」「私も」と同意を示し、大あくびをしていた。
そしてイケオジは、デレッと鼻の下を伸ばす。
「そちらの美女の方々には超特別VIPルームをご用意させていただきますぅ……!」
フレイヤが呆れ果てて「はぁ……」と深いため息をつく。
はい、もうこのイケオジが誰なのか分かっちゃった。シギュンとフレイヤのお父さんで、ヨルムン軍の部隊長さんだね。シギュンのあのノリは父親譲りだったのか……。
僕たちは彼らのご厚意に甘えて、高低差のある城塞の様な都市国家“ヨルムンガンド”へとお邪魔して、ヨルムン軍の宿舎で今日一日ゆっくりと疲れを癒やした。
ちなみに家がなくなってしまった妖精族たちもヨルムンガンドにしばらくお世話になれることになったらしい。




