49話 魔竜と世界樹
シギュンは美女に対する邪念をブンブンと振り払い、真剣な表情で口を開いた。
「鬼族の方々もご存知の通り、我が国はアマツ山より連なるアース山脈の一角にある都市国家であります」
都市国家。なるほど、竜人の国は小さな国なのか。
みんなはうんと頷く。
「アース山脈には、“魔竜ニーズヘッグ”と呼ばれる守り神様がおられます。アース山脈の中心にあります世界樹より聖の力を授かり、我らがアース山脈の平穏を保って下さっておりました」
「世界樹……ふもとに妖精族の集落があるよ」
と、ニコラス。そうか、妖精族も竜人族と同じアース山脈の住人なんだ。
シギュンは話を続ける。
「3日ほど前です。そのニーズヘッグが突如魔物のように黒いモヤを放ち山脈中で暴れ出し、世界樹の幹を食べ始めてしまったのです!」
「まぁ、まるでカグツチがなってしまったような……」
と、サクラ。確かに一大事だ。
「妖精族の民は“ニーズヘッグの怒り”だと訴え、その怒りを鎮めるため“生贄”を差し出すよう要求をしてきました。アース山脈に住む種族である妖精族、竜人族、そして鳥人族からそれぞれ1人ずつ生贄が選ばれ、明日、世界樹に留まっているニーズヘッグへと捧げられてしまいます……」
「よもやアース山脈でそのような事態が起こっておろうとは……」
と、将軍様。
シギュンは、ここで大きく声を張り上げた。
「ここからは俺の私情です! 軍の断りなく勝手にアカツキ城を訪れています。その理由が……俺の最愛の姉が、生贄に選ばれてしまったからです……! こちらの火の神様がご乱心された時に、“古代魔法”を使って火の神様を一撃で鎮めた大賢者様がおられると鬼の旅人から伺いました! お願いです! どうか、大賢者様のお力をお借りしたく、彼が今どちらにおられるのか、お教え頂けないでしょうか……!」
シギュンは額をゴリゴリと床に擦り付けながらそう嘆願した。彼も家族を守るためにアース山脈から下りてこのアカツキまでやって来たんだ。
僕は立ち上がって彼の目の前へと行き、正座をした。
「大賢者かどうかは分からないけど、古代魔法でカグツチをワンパンしたのは僕だよ。シギュンさん」
僕がそう言った途端、シギュンはぐんと身体を起こす。
「ほ、本当ですか!? って、え!? き、君……いや、あなた様が……?」
目をぱちくりとさせるシギュン。もうそう言う反応には慣れっ子になってしまった。
「シギュン殿。こちらが我が国の英雄フィル・ガーネット殿で間違いないぞ」
と、将軍様。
「僕、隣のエリージュ王国の人間なんだけど、たまたまアカツキに来ていたんだ。その魔竜ニーズヘッグっていうのは、カグツチと同じ土地の精霊の一種だと思う。僕で良ければ力を貸すよ。早速世界樹のところへいこう」
「な……なんて俺は幸運なんだ……! ありがとうございます! フィル様、よろしくお願い致します!」
シギュンは涙を流しながらもう一度床に頭を擦り付けた。
⸺⸺
それからはみんな必死に酔いを覚まして出かける支度をする。
もうすっかり夜になってしまったけれど、生贄の儀は明日未明。
アカツキの兵士さんにガーネットへの伝令を頼み、僕たちガーネット騎士団の幹部はシギュンを仲間に加えて急遽アース山脈へと旅立った。




