48話 思わぬ来客
⸺⸺アマツ山道⸺⸺
みんなでアマツ山の山道に入ると、山道は既に結界や道路の整備が終わり、たくさんの人間や鬼が行き来をしていた。
僕たちがその見違えた光景に感動していると、山頂の方から見知った人影が下山してくる。
レベッカにライカ、シノノメにサクラであった。
「フィル様~!」
レベッカが手を振りながらこちらへ駆けてくる。僕もジャンプをしながら両手を振って彼女たちを出迎えた。
「れべちゃ、らいちゃ、お疲れ様! 若様にサクラ姫様も久しぶり~! 結界の整備はどう?」
みんながそれぞれ挨拶を交わし、僕の問いにシノノメが答えてくれた。
「アマツ山全体の整備が終わり、今はその最終確認が終わったところなのだ。レベッカ殿がいなければ強固な結界をこんな短時間に展開するのは不可能に近かった。彼女を派遣してくれてありがとう」
レベッカは「そ、そんな私は全然……!」と顔を真っ赤にして照れまくっていた。
⸺⸺
そのため、アマツ山の魔障問題は一件落着したため、僕とレベッカは鬼たちの里帰りに付き合い、アカツキ城へと向かった。
⸺⸺アカツキ城、本丸御殿、大広間⸺⸺
将軍様とも久しぶりの再会を果たし、新たな仲間のニコラスを鬼族へと紹介。
それからアマツ山の結界整備完了のお祝いにみんなでどんちゃん騒ぎをしていた。
「フィル……! ここのお料理とっても美味しいし、とっても楽しいところなんだね」
と、ニコラス。
「本当? “にこちゃ”、こういう雰囲気苦手かと思ったけど楽しんでくれていて良かったよ!」
「最初はちょっとビックリしたけど、今は楽しいよ。フィルと一緒に来て良かった」
ニコラスがそう言ってはにかんだので、僕も満面の笑みを返した。
⸺⸺そろそろ宴も終わる頃、城の衛兵が大広間へと駆け込んできた。
「宴会中失礼致します! ここより北の“ヨルムンガンド”より竜人の旅人が来城されました!」
「竜人!?」
思わずそう叫ぶ僕。だって、1回も見たことないから……。
「ふむ、何かあったのかね?」
と、将軍様。
「はっ。それが……我が国の英雄、“古の賢者”様の力を借りたいとかで……」
そう言う衛兵に僕はブーッとお茶を吹き出す。それ、僕のことじゃん……。っていうかカグツチの言った“古の賢者”って称号がそのまま隣の竜人国まで伝わってたんだ。
「フィル殿、その者をここまで通して良いかね?」
と、将軍様。僕は「もちろん」と二つ返事で答えた。
⸺⸺
衛兵が一旦引き下がり、5分程度で廊下からある男の声が聞こえてくる。
「はっ、そこの美しい鬼のレディ。良かったらこの俺と愛の逃避行、してみませんか……?」
「す、すみません。私はこのお城で働かせていただいている身なので……」
振られてる……。
「おい、冷やかしなら城から追い出すぞ。将軍様も英雄様もお待ちなのだ。サッサと歩け」
「あっ、ごめんなさい! どうか追い出すのだけはご勘弁を!」
怒られてる……。
そして、「失礼致します!」と言って再び大広間の襖がサッと空いた。
土下座をしているその男。黒髪の隙間から鬼族のように銀色の角が2本生え、背中には真っ黒で大きなドラゴンの翼が付いていた。
これが竜人族! せっかくめちゃくちゃかっこいいのに、さっきのやり取りで全部台無しだ。
その男は土下座をしたまま自己紹介を始めた。
「竜人の国のヨルムンガンドより参りました、ヨルムン軍部隊長の息子、名をシギュンと申します」
「うむ、よくぞ参られた。面を上げなさい」
と、将軍様。
「はっ、失礼致します!」
ゆっくりと顔を上げたシギュンは顔立ちも整いイケメンそのもの。なのに、スズランやライカに目が行った途端「美女……!」と鼻の下を伸ばしてしまい、残念な第一印象となった。




