44話 一大決心
「ニコラス、一体どうしたのだね?」
と、ペリドット卿。どうやら彼も何も知らないようだ。
「あの、僕……あれから……回復魔法の特訓をしているんだ」
ニコラスはモジモジしながら言う。
「そうなんだ! ニコラスは向いてるし良いと思う」
僕がそう言うと、ニコラスは覚悟を決めたように大きな声でこう言った。
「だから、僕……僕を、ガーネット騎士団に入団させてください!」
「何ぃっ!?」
雷に打たれたように固まるペリドット卿。しかし僕たちガーネット騎士団側はみんな「おぉ!」「良いね!」「一緒に頑張るのじゃぁ」と既に歓迎ムードだった。
「本当? ニコラスが来てくれたらとっても心強いよ! でも、ダグラスおじさんが抜け殻に……」
みんなでペリドット卿を見つめて苦笑いをする。そうだよね、普通自分の町の騎士団に入ろうってなるはずだもんね……。
そんなペリドット卿を哀れんでか、スズランがニコラスへこう告げた。
「ニコラスや。アカツキの国にボタンという鍛冶師がおるのじゃが、ボタンがガーネット騎士団に参加しようとしたときに、彼女の祖父に反対されてしまったのじゃ。じゃが、ボタンはちゃんと祖父と分かり合い、納得した形で騎士団に参加をしてくれた。そなたもお父上様に言うてなかったのであれば、まずはお父上様と話し合うところからじゃぞ」
ニコラスはこくんと頷いた。
「お父様……。ペリドット騎士団じゃなくてガーネット騎士団に入りたいって言ってごめんなさい……」
ニコラスがそう語り出すと、ペリドット卿はハッと我に返り我が子を真剣に見つめた。
「話してごらんなさい。ニコラスの考えを」
「うん……。僕、5歳の頃に僕を産んだお母さんと妖精族の集落に行ったんだ。僕の前のお父さんに、捨てられちゃったから……」
「あぁ、そう言っていたね」
「初めは良かった……でも10年くらい経ったある時、僕のお父さんは人間だって友だちに話しちゃったんだ。そしたらみんな手のひら返したように“半端者”とか“不純物”とか“何者でもない者”とかって、急に言い出したんだ」
「妖精族は種族意識というものが、強かったんでしょうか……」
と、レベッカ。ニコラスはうんと頷く。
「そうみたい。僕はそれを知らなくて話してしまったんだ……。集落の人の決定で、お母さんと離れ離れにされて、集落から追い出されたんだ」
「みんなひどいね……」
と、ライカ。それに対しスズランが「他種族の事をよく知らぬが故にそうなってしまうのじゃろうな。我らは敵意ある存在ではないと分かれば、妖精族の認識も変わってくるじゃろうに」と補足をした。
ニコラスは話を続ける。
「それで、魔物から逃げながら彷徨っているうちにペリドットの町について、僕はそこで力尽きた……。次に目を開けたときは、このお屋敷だった。お父様もお母様も、僕のことを助けてくれて養子に迎えてくれて、本当に感謝してる。でも僕はなかなかこの屋敷から、それどころか自分の部屋からすら出るのが怖くて、ずっと引きこもっていた。だって町から外を見ていても、耳の尖った人なんて一人もいないし。こっちでは逆に耳が尖って変だって、言われるものだと思っていたんだ……」
「私はそんなお前が可哀想で、無理に外に連れ出してはいけないと、腫れ物のように扱ってしまっていたかもしれない。寂しかっただろう……すまないね」
と、ペリドット卿。ニコラスは首を横に振る。
「良いんだ。本当に出たくなかったから。そんな扱い辛いだろう僕に、フィルはなんの躊躇もなくグイグイ来た。初めはビックリしたけど、フィルは真っ直ぐに僕を肯定してくれた。僕がどんなに僕を否定しても、フィルは肯定してくれた。こんなの……生まれて初めてだったんだ」
ちょっとウザがられたらどうしようって思ってたけど、どうやら結果オーライだったみたいだ。
だって、あんな良い物持ってるのに、それに自分が気付かないなんて勿体無いじゃない。
ニコラスは視線をそらさずに真っ直ぐにペリドット卿を見つめてこう続けた。
「フィルのおかげで、僕の人生は変わった。だから僕は、フィルの力になりたい。フィルが回復魔法をそんなに使えないなら、僕がその部分の穴埋めをしたいんだ。だから、ガーネット騎士団じゃないとダメなんだ! お父様、僕をガーネット騎士団に行かせてください、お願いします!」
サッと頭を下げるニコラス。そんな彼に、ペリドット卿は涙を流し、微笑みかけた。
「行ってきなさい。しっかりフィルぼっちゃんをサポートするのだよ」
「おぉ!」
と、一同。ニコラスも顔をガバッと上げた。
「ありがとう、お父様! 僕、お母様にも話してくる!」
彼はそう言ってお屋敷の奥へと戻っていった。
「フィルぼっちゃん、ニコラスをよろしくお願いします」
「うん、僕に任せてよ!」
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その後ペリドット夫人からも応援してもらえたニコラスは正式にガーネット騎士団の団員となり、救助隊を率いる幹部となった。




