43話 事態の収束と気になる成分
⸺⸺アマツ山⸺⸺
アマツ山ではシノノメ率いるアマツ軍、そしてスズランとライカが次々に湧き出る魔物をひたすらに無双していた。
その間に僕たち結界部隊は魔障の噴き出している箇所を中心に結果を展開。レベッカの魔力がカラカラになったところで予定通りアマツ山の南側に結界を張ることができた。
アマツ山に湧き出る魔物もとりあえずは南側へ侵入することができなくなり、これでようやく事態が落ち着いたのである。
⸺⸺数日後。
僕はガーネット騎士団の幹部メンバーを連れてペリドット領主のお屋敷を訪れていた。
⸺⸺ペリドット領主の屋敷、客間⸺⸺
シノノメとサクラ、そしてアレンも加わり、ペリドット卿と共に今回の事態を振り返る。
「ガーネット騎士団、それから聖騎士団の皆様に救われ、なんとかこのペリドットの町、そしてアマツ京を守ることができました。奇跡的に両国共に死者は一人も出ておりません。この度は、本当にありがとうございました」
ペリドット卿がそう言ってお辞儀をすると、シノノメとサクラも揃って頭を下げた。
僕は謙遜して首を横に振る。
「良いよいいよ、だって同盟だし。不幸中の幸いだったのは、事件が起こる前に同盟を結べていたって事だね」
「確かに……それぞれがバラバラに対処していてはどうすることもできなかったし、お互いの事を知らないままであれば、エリージュ王国が魔物をけしかけて攻めてきたと思ってしまったかもしれない」
と、シノノメ。僕はその“エリージュ王国が攻めてきた”という言葉が引っかかった。
「今回の事だけど、僕は全部人の手で引き起こしたんじゃないかって思ってる。今若様が言った“仲違い”が目的だったか、それかペリドットの町を潰したいと思っている人がいるか……だね」
「でも、フィルぼっちゃん。たとえそうだとして、アマツ山から魔障が噴き出たり、町の中に新種の魔物を湧き出させたりなんて、人の手でできるものなんだろうか……?」
と、ペリドット卿。その疑問にアレンが答えてくれた。
「少なくとも後者は可能である事が今回の件で判明しました」
「何だって!?」
と、一同。アレンが続ける。
「魔石の森に落ちていた割れたビンに付着した成分と、今回の事件でペリドットの結界に付着していた成分は同じものである事が鑑定で明らかになりました。そしてその成分は魔障に刺激を与え、活性化する作用があったのです」
「そんな危険なものが……。ビンに入っていたと言うことは、作っている人がいるって事だね……」
と、ペリドット卿。アレンはこくんと頷く。
「ええ。これを結界になんらかの形で関与させると、例のスライムがその結界の範囲内に現れるのではないかと推測されます」
「マジかよ……こんな事あちこちの町でされたら流石に対処しきれねぇぞ」
と、グレン。
「そうだね。今回の結果はきっと、仕掛けた側の望む結果ではなかったと思う。だからこそ、早く犯人を見つけてどうにかしないと、次はもっととんでもないことをしてくるかも……」
僕がそう言うと、シノノメがうんと頷いた。
「私たちは早急にアマツ山道の整備を行って、結界をアマツ山全体に広げていきたいと思っています。今後ペリドットと連携が取れなくなるのはマズいと思いますので……」
「それなら、れべちゃを若様のところへ出張させるよ。今回のことで気付いたんだけど、れべちゃの張った結界には悪さはできないっぽい」
「ふぇぇ!? わ、私、フィル様に言われた通りに魔力を送っているだけですよ!?」
レベッカがあわあわしている横で、アレンが「何を根拠にそう思ったんだい?」と尋ねてきた。
「魔石の森の話だよ。あのビンが森に捨てられたのは、れべちゃが泉の魔水晶に結界を張った後だ。その後で結界にその怪しい成分を作用させてスライムを湧かせようとしたけどできなかった。だから怒ってビンをその場に捨てて去っていった……」
「そんな感情的に行動をする人が、今回の黒幕……? もしかして、フィル君は犯人に目星がついているのかい?」
と、アレン。
「……シルバ卿。ペリドットの件は分からないけど、魔石の森の件はシルバ卿なんじゃないかと思う」
「領主がそんな事を!?」
そうアレンが驚く傍らで、ライカが「やりそう……あのオヤジ、すごくやりそう……」と呟いていた。
「だよな、あのクズ、ガーネットのこと“金づる”つってたもんな。魔石の森に好きなように魔物を湧かせて延々と討伐料を請求するつもりだったかもな」
と、グレン。
「わ、分かった。シルバ卿の身辺をそれとなく探ってみよう」
「本当? 聖騎士団が動いてくれるの?」
と、僕が期待を込めてそう尋ねるとアレンは「いや、俺個人で動くよ。騎士団が大々的に動くと“ペリドットの犯人”に警戒されるかもしれないしね」と言った。
「ありがとう。じゃぁ僕たちはひとまず騎士団を大きくするって目的に戻るね」
「私らペリドットは町の復興に全力を注がせていただきます。アマツ山道の整備はシノノメ殿にお任せしても……?」
「大丈夫です。アマツ京には魔物の侵入はなく、都の被害も皆無ですので、山道の件はこちらにお任せを」
それぞれの道が決まったところで緊急の会談は終了。未だアマツ山の魔障の噴火は原理がわからないままだからなんとかしなきゃいけないけど、もし魔石の森のスライムが本当にシルバ卿の仕業だったら……僕は、彼を決して許しはしない。
そして僕たちガーネット騎士団がペリドットのお屋敷を出ていこうとしたところで、僕はある人物に呼び止められた。
「フィル……!」
「あっ、ニコラス!」
どうしたんだろう? ニコラスの方から話しかけてくれるなんて。僕は少しわくわくして続きを待った。




