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3話 僕の覚悟

⸺⸺魔水晶の泉⸺⸺


 鬼のおじさんがレベッカを抱えて僕のところへと辿り着く。意外にも体力はあるらしい。

「はぁ、はぁ……やっと追いついたぜクソガキ……ほら、無理だろこんなデカイやつ。そこら辺でぴょこぴょこ跳ねてる愛嬌のあるやつとは大違いなんだよ」

 おじさんはそう言ってレベッカを隣へ降ろした。

「ひぃぃぃ~! お、降ろさないでほしかったかもですぅ~……!」

 巨大スライムを見てそう発狂するレベッカ。彼女のためにもサッサと討伐しよう。


 右手のひらをすっとスライムの方へと向ける。

 大丈夫だ、この世界の魔法はお母様の魔道書をあらかた読み尽くして網羅してる。むしろ、制御する魔法杖がないからやり過ぎないかが心配。


⸺⸺初級雷魔法⸺⸺


「サンダー!」


 バキバキバキッ、と激しい音を立てて特大の雷が巨大スライムに直撃する。

「「ぎょっ!?」」

 目を大きく見開いて固まる2人の目の前で、巨大スライムは一瞬で体力を空にされて黒い霧となって消えていった。討伐完了のサインだ。

 そのスライムがいた場所には、スライムの体液でべちょべちょになった1本の刀が残されていた。


 ふぅ、なるべく力を抑えたから、周りの木とかには当たらなかったな。我ながら上出来だ。

「これでもう大丈夫だね」

 そう言って大人2人を振り返ると、彼らは魂が抜けたようにポカーンと立ち尽くしていた。

 うわ、しまった。これでもやり過ぎだったんだ。僕は思わず、2人に怖がられ化物呼ばわりされて逃げられる未来を想像してしまった。


 しかし……。

「す、すすすすごいですフィル様! 流石奥様のお子ですぅ~!」

「んだよ、やるじゃねぇかてめぇ! んなすげぇもん持ってんなら先に言いやがれってんだ。ったく、心配して損しちまったぜ」

 2人はそう言って僕のもとへ駆け寄ると、2人で僕の頭をくちゃくちゃに撫で回した。

「うわぁ、髪の毛ボサボサになっちゃう……!」

 僕はそう言いながらも、怖がられなかった事にホッとしてコッソリはにかんだ。


「げっ……せっかく“フィル様”が取り返してくれたってのに、べちょべちょじゃねぇか……うぇ、汚え……」

 おじさんは落ちていた刀の鞘についた紐の先をちょっとだけ持って、刀をつまみ上げる。

「さっきまでクソガキだったのに……おじさん、フィルでいいよ」

「ん、あんなん見せられたら流石にクソガキとは呼べねぇだろ。俺だって“おじさん”じゃねぇ」

「はいはい、お兄さんね」

蒼月紅蓮(そうげつぐれん)だ。あー、この国じゃ名前が先か。グレン・ソウゲツだ。特別に“グレン様”って呼ばせてやる」

 え、名前かっこよ……。

「ぐれちゃ、ね」

 そうバサッと切り捨てると、グレンは「ダセェ!」とツッコミを入れて、深い溜め息をついた。


 レベッカとグレンもそれぞれ自己紹介を済ませたので、僕は本題に入った。

「その“ばっちい刀”がぐれちゃのお仕事道具?」

「あぁ、そうだ。まぁ鞘に入ってるから刀身は大丈夫だと願いたいが……あんま見たくねぇな……」

「グレン様は剣士様なのですねぇ! てっきり穴掘り師かと」

 と、レベッカ。僕もグレンも苦笑して誤魔化す。


⸺⸺僕は、ここである一大決心をした。


「ぐれちゃ、“うちの騎士団”で働かない?」

「あ? 騎士団だぁ?」

「え、でもフィル様、このガーネット領に騎士団は……」

「フィルてめぇ、メイドなんか連れてるし、貴族の息子かなんかか?」

「うん、僕はこのガーネット領の領主の息子だよ。お父様の爵位は伯爵。ちょっと田舎だけど、悪くないでしょ?」

「マジか! 領主様の子か……! つーことは……コイツについていけば衣食住は問題なし……?」

 よし、釣れた。と、そう思ったのに。


「あー、やっぱ無理だわ」

「えっ、なんで!?」

「“騎士団”っつー、ガチゴチに型にはまったお堅い集団の中で足並み揃えて……てのは、俺の性分じゃねぇんだよ。悪いなフィル。他を当たって……」

「それなら大丈夫。だって、騎士団はたった今出来たばっかり。団長はこの僕で、団員はぐれちゃ一人だから」

「なっ……!?」

「フィル様が団長を!?」

 なんだか今日はこの2人を驚かせっぱなしだ。

 でも、グレンは突然大笑いをし始めた。

「だぁーっはっはっは! マジか、そりゃ型破りもいいとこだ! よし、乗ったぜフィル! 俺を拾ってくとかなんとか言ってやがったな、いいぜ、拾わせてやる!」

「本当!? ありがとうぐれちゃ!」

「はわわわ、なんだかとんでもない事に……」


 こうして僕は、根無し草の鬼のおじさんを拾って“自称騎士団”を結成して屋敷へと戻るのであった。


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