28話 王国聖騎士団
⸺⸺王都エリージア、騎士団本部⸺⸺
受付のカウンターに辿り着くと、僕は小さくてカウンターから顔を出せなかったため、グレンに抱っこをしてもらって受付のお姉さんに挨拶をした。
「こんにちは!」
「まぁ、こんにちは、可愛らしい坊や。本日はどのようなご用件で……? 聖騎士団にお仕事の依頼でしょうか?」
お姉さんは物珍しそうにみんなをひと通り見渡すと、最後にグレンに視線を向けた。
もうこの対応には慣れっ子だから、僕は気にしないでそのまま口を開く。
「今日は、ガーネット騎士団の登録に来ました! これが、ガーネット領主の許可証です!」
僕はグレンに抱っこされたまま許可証をバーンと提示する。
「まぁ、ガーネットに騎士団が……!? 許可証を拝見させていただきますね」
お姉さんはそう言ってペンのような魔導具を許可証へとかざした。
「レイモンド・ガーネット伯爵の筆跡との一致を確認致しました。では、こちらに必要事項のご記入をお願い致します」
「はーい!」
お姉さんから“騎士団登録届”という紙をもらい、みんなで記入台へと移動して僕を中心に立ち上げメンバーの名前を記入していった。
すると、純白の鎧に身を包んだ金髪のお兄さんに声をかけられる。
「こんにちは、我が聖騎士団への依頼でしょうか? 良かったら私が直接伺いましょうか?」
そう言って爽やかに微笑むお兄さん。
ここは全国の“騎士団本部”であると同時に国王お抱えの“王国聖騎士団”の宿舎でもある。このお兄さんは“聖騎士様”なんだ。
「こんにちは聖騎士様。僕たち、騎士団の登録に来たんだよ」
僕がそう言うと、お兄さんはサッと頭を下げた。
「それはそれは私の早とちりで申し訳ございません。鬼族の方々が我が国に騎士団を……? 一体どこの領で……」
お兄さんはチラッと騎士団登録届に視線を落とし、すぐに目を丸くした。
「ガーネット領!? レイモンド団長のご子息が団長に!? え、まさか団長って……君!?」
お兄さんは爽やかさと丁寧な言葉がどこかへいってしまい、素の反応で僕を見つめた。それにしても……。
「うん、僕、フィル・ガーネット。ねぇねぇ、聖騎士様今、レイモンド団長って言った?」
お兄さんはハッとする。
「あっ、すまない、昔のクセでつい……。私……いや、俺は元ガーネット騎士団の団員だったんだ。アレン・ヴァレンタインという」
「えーっ、元団員さん!?」
僕は驚きながらもアレンに差し出された手を取り握手を交わした。
「ガーネット騎士団が解散になった時にレイモンド様が俺を聖騎士に推薦して下さって、俺はこうして騎士を続けられている。あ、ちなみに俺はセキエイの村出身だ」
お兄さんはそう言ってニコッと微笑んだ。すごい、こんなところにそんな身近な人がいたなんて!
「セキエイの村……! 最近その村の周りに魔物がたくさん湧いちゃってたけど、僕とこのグレンで全部やっつけといたからね!」
「あんな田舎なところに魔物がたくさん!? それを君が……あ、いや、この魔力は……あり得る話だ。流石レイチェル副騎士団長のご子息と言ったところか。俺の故郷を守ってくれてありがとう。心から礼を言うよ」
アレンは深く頭を下げた。なんて真面目な騎士様なんだこの人は。
ここで、更に新たな聖騎士様が現れる。真っ赤なツンツン頭に眉毛が薄く垂れ目で人を見下しているような態度。アレンとは真逆の雰囲気だ。
「お? なんだ、依頼か?」
「レオ、聞いてくれ! 俺の故郷の騎士団が復活するらしい」
「ガーネットに? ……は? まさかこのメンツで? 見るからにガキが混じってんじゃねぇか。田舎のやるこたぁよく分かんねぇな」
レオはそう言って僕とレベッカを交互に見た。
その態度が許せなかったのか、フウガがレオの首根っこを掴む。ちょ、フウガ何やってんの!?
「おい、フィル様をガキ呼ばわりするな」
「フウガ、やめんか」
と、スズラン。アレンはレオに「その言い方はお前が悪いぞ、謝れ」と怒っている。
「んだてめぇ、やんのか」
と、レオ。
「望むところだ。ボコボコにしてその態度悔い改めさせてやる」
「ちょ、フウガ、え!?」
流石の僕もパニックに。来て早々聖騎士様と喧嘩になるなんて……!
きっとアレンが収めてくれる。そう思ったのに、アレンはとんでもない事を口にした。
「分かった。なら、“聖騎士団の訓練場”を使おう。そこなら特殊な結界が張られていて、ダメージを受けても身体には傷が付かず、数値化された体力のみが減っていく仕組みとなっている」
えぇ、なんかすごい施設だけど、そんなところで堂々と喧嘩させるんだ……。
「まぁ、こんなところでガキを血祭りに上げちまっても後味わりぃしな、それで勘弁してやらぁ」
と、ドヤ顔のレオ。
「そのセリフそっくりそのまま返す!」
フウガは完全に頭に血が昇ってしまっているようで、いつもの従順なわんこスマイルは1ミリもなくなり、まるで狂犬のような目付きだった。
「あーぁ、フウガはあぁなってしまってはもう何を言ってもダメじゃな」
と、スズラン。ライカも「フィル様ごめん……」と謝っていた。
「フィル君……俺の同僚が本当に申し訳ない。だが、少しだけ付き合ってほしい」
「うん、分かったよ。僕はその訓練場にちょっと興味あるし」
僕がそう返すと、アレンはコソッと「ありがとう。正直言うと俺も鬼族の方々の戦い方が気になるんだ」と耳打ちしてきた。この人、真面目なフリして同僚の血の気の多さを利用したな……!?
聖騎士団、侮れない……。僕たちはとりあえず受付に騎士団登録届を提出して、聖騎士団の訓練場へと向かった。
 




