27話 お星様になった賊
「なんじゃ、フィル! 早くぶっ殺さんと馬車が襲われてしまうぞ」
と、スズラン。言い方が物騒!
僕も馬車から飛び降りると、スズランとグレンに耳打ちした。
「ザッと100人くらいいる。この数を生け捕りは無理だし、縛る物も今はない。かといって、この王都周辺の街道を血まみれにするのも、悪目立ちをしちゃう」
「じゃ、どーすんだよ大将?」
と、グレン。
「東に広がる大森林、西の入り口の方は低ランクの魔物が多いらしいんだけど、西の奥の方はめちゃくちゃ強い魔物がわんさか出るからって、森の中間辺りから立入禁止になっているんだ」
「ふむ、そこまでおびき寄せるのかの?」
スズランは首を傾げる。それに対し僕はぶんぶんと首を横に振った。
「ううん。そこまで“ぶっ飛ばす”の。すずちゃならできるでしょ?」
「ほう、確かにぶっ飛ばすのは得意分野じゃ」
スズランはパーッと顔が明るくなった。
「なるほど。後はそこでその強い魔物と宜しくやってくれって事だな」
「そー言うこと!」
「任せろ大将! スズラン、ぶっ飛ばず威力を上げるサポートをしてやる!」
「なんと! 愛の共同作業じゃのう!」
「ちげぇっ!」
2人は意気揚々と100人ほどの賊の前へと躍り出た。
「おっ、鬼の良い女がいるじゃねぇか……なんだ、この女と引き換えに見逃してほしいってか?」
賊の一人がそう言うと、周りの賊は一斉にデレデレと笑い出した。この後の顛末も知らないで何を呑気に……。
「あいにく、妾には旦那の候補が2人もおる故、下品なそなたらには用はない」
スズランはそう言って薙刀を構え、目を赤く光らせる。旦那の候補が2人って言うのは……今は目をつぶろう。
「おい、この街道のど真ん中で汚ぇもん出してんじゃねぇぞ」
グレンが刀を“納刀”しながらそう言う。だからいつ抜いたのって。
「??」
賊が『何言ってんだこいつ?』と頭にハテナを浮かべたその時、前列にいた賊らのズボンとパンツがパパパパンッと切り刻まれて粉々になった。
「ぎゃーっ!? 何で!?」
「あ゛ーっ!?」
股間を抑えてパニックになる賊たち。
馬車の中ではレベッカが手で真っ赤な顔を覆い、むしろよく見ようとしているライカはフウガの手で目元を隠されていた。
「なんじゃ、粗末なもんぶら下げおって」
スズランはフンと冷たく鼻で笑うと、グッと腰を落として薙刀を振り上げ、妖艶な笑みを浮かべた。
「行くぜスズラン、俺に続け!」
「いつでも準備完了じゃぁ!」
グレンの姿が消えたかと思うと、100人の賊のズボンが次々に弾け飛び彼らは一斉に宙に舞い上げられる。
そしてスズランがその宙を舞う100人に対して、技名を叫びながら薙刀を思いっ切り振り回した。
「愛の連携奥義! 絶嵐旋風!」
薙刀から巻き上がる突風により100人はそのままヒューッと森の方へと吹き飛ばされていく。って言うかなんか連携奥義とかって名前付けててカッコイイんだけど!
「魔物に食われて勝手に死ねい!」
最後にそう気持ちの良いセリフを叫んだスズランは薙刀を背中に収めて夜叉モードを解除し、キランとお星様になった賊たちに手を振っていた。
「あ、あなた方は一体……」
馬車を運転していた御者のおじさんは目をぱちくりとさせて唖然としていた。
「僕たちは、ガーネット騎士団です! って、今から登録しに行くんだけど……」
僕がそう言うと、おじさんは「ガーネット騎士団が復活されるんですね!? それにあんな強い鬼族の方々が団員にいるとは……いやはや、これは楽しみですなぁ」と嬉しそうに言ってくれた。
⸺⸺
ちょっとひと騒動あったけど無事王都入りを果たした僕たちは早速騎士団本部へと向かった。




