26話 いざ、王都へ
お父様もお母様も、スズランを紹介したときにはペリドット卿と同じ反応で、僕は思わず笑ってしまった。
一方のスズランはこれから家族同然の付き合いになるだろうからと、猫は被らずいつもの天真爛漫な彼女でおり、僕の両親もすぐに打ち解けたようだった。
お父様に将軍様からのお手紙を渡して、お父様とお母様にアカツキの都での一部始終を伝えた。2人とも、僕が都を救った英雄になったと聞いてとても喜んでいて、2人の幸せそうな顔を見ていて僕も嬉しくなった。
そして明朝に王都へ向かうこととなり、この日はみんなにうちのお屋敷に泊まっていってもらった。
⸺⸺明朝。
出発前、僕とレベッカがお母様に呼び止められる。
「フィル、レベッカ。レベッカの魔法のことなんだけれど……」
「あ、うん。小人族のこと調べてくれたの?」
「奥様が、小人族のことを……?」
「ええ。あまり詳細な事は分からなかったのだけれど、小人族の魔力はやはり私たち人間とは質が違うものみたいなの」
魔障に耐性のあるもの、あれは、小人族独特のものだったのか? それとも、レベッカ特有のものなのか。どちらにしても、性質が違うことだけは僕も身を持って体験している。
「ふぇぇ、だから私は、回復魔法が上手く出てこないのでしょうか……?」
「各種族には、それぞれ得意不得意があるのよ。回復魔法だったら一番得意なのは妖精族だし、獣人族や鬼族は魔力が少ない人が多い代わりに、素早い動きだったり、武に長けた人が多いわ。人間はどれもそこそこできるけれど、“そこそこ止まり”な人が多いの」
「では、私の小人族は……?」
「小人族はね、魔法杖よりも“魔道メイス”を扱う職の方が向いている人が多いそうよ」
「魔道メイスって……なんでしょうか?」
レベッカはそう言って首を傾げる。その問いには僕が答えた。
「見た目は魔法杖に似てるけど、性能は全く別物の武器って思ってくれたらいいよ。魔道メイスで使える魔法は、昨日僕がぐれちゃやすずちゃの武器にかけた“エンチャント”って魔法がそうだよ」
それに対しスズランが「あの魔法は画期的で素晴らしかったのう!」と嬉しそうに言った。
「他にも防御なんかのステータスを上げる“バフ系”の魔法も魔道メイスだね。今の2つの魔法を扱う魔道士を“付加魔道士”って呼ぶんだよ。れべちゃさえ良ければ、付加魔法にもチャレンジしてみようよ」
僕のその提案に対し、レベッカは「はい、やってみたいです!」と二つ返事で答えた。
「ではフィル、レベッカ。この町の武器屋には魔道メイスは売っていないから、王都に行ったついでに買ってきなさい」
「うん、そうだね」
「はい、お手数おかけします」
⸺⸺
レベッカの話もまとまったところで、レベッカと4人の鬼を連れて馬車へと乗り込んだ。
立ち上げメンバーは僕にグレン、レベッカ、スズラン、フウガ、ライカの6人だ。立ち上げた後でお父様とお母様もサポートメンバーとして参加してくれるとのこと。
王都への馬車が出発すると、僕は早速グレンにある提案をした。
「ぐれちゃ、副団長やってくれる?」
「お? 俺でいいのか? 俺ぁてっきりスズランにやらせるもんだと……」
「そもそも初めは2人で立ち上げようと思っておったのじゃろう? ならば、妾もグレンが務めるのが妥当だと思うぞ」
と、スズラン。他の3人もうんうんと頷いた。
「わぁーったよ。しゃーねぇからやってやるよ、副団長」
「わぁ、ありがとう、ぐれちゃ! それでね、型にはまるのは嫌いって言ってたけど、一つだけ約束してほしい」
「ん、なんだ?」
「恨みの感情で人を殺さないって、約束して」
僕は真剣な眼差しをグレンへと送った。彼は少し目を開いて僕の顔を見つめると、はぁっと小さく溜め息をついた。
「……賊のことを言ってんだな。この国にも野盗みたいなクズはいんのか」
「いるよ。それこそ、お金持ちを狙った盗賊や山賊っていうのはそこら中にいる。この国では賊とみなされた集団は殺しても罪には問われない。でも、罪に問われるか問われないかじゃなくて、恨みで人を殺していると、その気持ちに囚われてぐれちゃが闇に堕ちちゃう」
「特に、キリのない賊なんかは言えておるな」
と、スズラン。グレンは強く頷いた。
「俺のためにそう言ってくれてんだな。ありがとよ。あくまでも、賊に襲われてる旅人と遭遇したときには、そいつらを守るために戦え、そう言うことだろ?」
「そう言うこと! できれば生け捕りにして王都に対処を任せるのがいいけど、それは時と場合によるね」
「分かった、約束する。なら、てめぇも団長として1つ約束しろ」
「うん、なぁに?」
「まだ5歳のガキだ。何があっても人は殺すな。賊の対処は俺やスズランの“大人”がやる。あと、団長だからって一人で考え込むな。団員に頼ることを忘れるなよ」
グレンはそう言ってニッと笑った。嬉しいなぁ、これが、仲間か。
「ぐれちゃ……1つじゃないんだけど……」
僕が静かにそう言うと、周りのみんなはプッと吹き出した。
「うるせぇな! 細かいこと言うんじゃねぇ! いいから全部約束しやがれ!」
「うん、約束する!」
僕はえへへ、と笑いながらそう返事をした。
⸺⸺
馬車を2つほど乗り継ぎ王都へ向かう街道を進む。王都までもうちょっとだ。
すると、僕たちの乗っている馬車の進行を邪魔するように、剣や斧を持ったガラの悪い集団が道を塞いできた。
「さっきこの話したばっかりだろ!」
と、グレン。
「しかも……狙われているのは……ウチら自身……」
ライカがボソッとそう言う。
「ゆくぞ、グレン、仕事じゃぁ~!」
スズランはそう言って馬車から飛び降りた。
僕はこの辺りの地形を思い出し、ある提案をする事にした。
「すずちゃ、待って! 良い考えがある!」




