25話 打ち砕かれた野望【シルバ視点】
ふっ、ふざけるなよ、何だってレイモンドの野郎はあんなガキを団長に……!?
せっかく“あの方”に“魔障活性薬”とかいうものすごいヤバい薬をもらって、この地を魔物だらけにして追加の討伐料を請求しまくろうと思っていたのに。
これでは今まで入ってきていた多額の防衛費が全部もらえなくなってしまう。
と言うか、そもそも本当にあの大量に“湧かせた”ドロドロの奴を全部倒したと言うのか? ガキがハッタリを言っているだけの可能性もある。一応確認しに行こう。それで1体でも魔物が残っていたら、嘘つき呼ばわりしてもう一度多額の討伐費を請求してやるんだ。
そう思い私は魔石の森へと足を踏み入れた。
⸺⸺魔石の森⸺⸺
「あれ……本当にいない……」
あのドロドロの奴は倒しても倒しても出てくる厄介な奴だ。なのに、なぜ、1体もいない……!?
そう言えば、あのガキ結界がどうのこうのって……。私は急ぎ足で大きな魔石のある泉へと向かった。
⸺⸺魔水晶の泉⸺⸺
「あ゛っ、黒いモヤがない!」
一昨日の夜に苦労して巨大なドロドロを1体湧かせる事に成功したのに、昨日確認しに行った時には既に姿を消していた。
そのため私は“あの方”に相談をした。そして、“あの方”にこの魔石にあのヤバい薬をまけば一発だと助言をもらって薬を魔石にまいたんだ。
そうしたら、魔石全体に黒いモヤが発生し、あれよあれよとドロドロが湧き出て来たんだ。私は自分がこのままでは危ないと感じ、慌ててその場から逃げ出した。
⸺⸺
あんなに苦労したのに! なんで消えている!? クソッ、こうなったらもう一度あの薬をまいてやる。
私はジャケットのポケットから“魔障活性薬”を取り出すと、ドボドボと全量魔石にぶっかけた。
しかし……。
「なっ、消えた!?」
一瞬黒いモヤが発生したかと思うとすぐにそれは蒸発して消えてしまい、魔石は何事もなかったかのようにその場にたたずんでいた。
「クソがッ!」
薬のビンを地面にパリンと叩き付け、その場から去る。
あの薬、めちゃくちゃ高かったのに! これで防衛費が入らなくなってはむしろマイナスではないか!
こうなれば、もう一度“あの方”に相談するしかない。
私はガーネットの町の入り口に停めていた馬車に乗り込むと、そのまま自領を越えて南の国境を治める“ゴールディ領”の領主の屋敷を訪ねた。
⸺⸺ゴールディ領主の屋敷⸺⸺
「おや、シルバ卿ではございませんか。本日はお約束をしておりませんが。困りますなぁ、アポもなしに来られるのは」
メイドに屋敷の中まで通してもらうと、そう言って知的なメガネをかけ、スラッとした男が領主の部屋から顔を出した。
「も、申し訳ございません! ですが、一大事でして……!」
「ほぅ、聞きましょうか」
私はその場で一部始終を彼へと話した。
⸺⸺
「ガーネット騎士団が復活……? ふん、レイモンドめ……つくづく気に入らない男だ。私からレイチェルを横盗りしておきながら……」
それは、ゴールディ卿が若かりし頃密かにレイチェル氏に想いを寄せていたというだけの話だ。
彼からそれを聞かされて“盗られた”と発言をされた時には、流石の私でも『ストーカーでは?』と心の中で思ったものだ。
しかし、ゴールディ卿がレイモンドを恨んでいるのは私にとっても好都合。このまま彼に媚びを売りまくって甘い汁が吸えれば私はそれで良いのだ。
ゴールディ卿はしばらく考えると、再び口を開いた。
「まだ、彼らは王都に行った訳ではないのでしょう?」
「はい、恐らく明日以降に向かうものだと……」
「だったら……“辿り着かせなければいい”。賊でも雇って王都付近に配置をし、王都に向かう貴族を狙わせるフリでもさせておけば、こちらが怪しまれる事もないでしょう。間違ってもガーネットの町を襲わせるのはダメですよ。契約を打ち切られた腹いせだと疑われては厄介ですから」
「なるほど……王都付近で賊に殺させると。流石はゴールディ卿! あぁ、これからもお導き下さいませ!」
「ええ、お互い良き未来のために、協力しましょう」
「はい!」
私はルンルン気分で自領へと帰った。見てろよレイモンド。貴様が許可証を発行したせいで貴様のガキの死体が王都付近の街道に転がるんだからな。ぐぇっへっへ。
⸺⸺シルバ領主の屋敷⸺⸺
「ふぅ、帰ったぞ……」
「遅いですわ! たかがガーネットの町まで行くだけでなんだってこんなに時間がかかるんですの!?」
ひぃっ、妻がめちゃくちゃ怒っている……勘弁してくれこっちは疲れているのに。
「いや、それは、色々あって……」
「で、追加の討伐費は? わたくし、それで新しい指輪がほしいと言ってあったでしょう?」
「だぁーっ! しまった……そうだった……」
「……え? まさか、取り立てられなかったなんて言いませんよね?」
「えっと……それは……その……」
「おふざけもいい加減にしてくださいまし!」
「ぎゃぁ、痛い、ヒールで蹴らないで……や、やめて……痛い……」
クソッ……! なんだって私ばかりがこんな目に……!




