20話 夜叉
⸺⸺翌日。
僕たち騎士団立ち上げメンバーは、お城の入り口でみんなとお別れの挨拶をしていた。
「フィル殿よ。この書状をペリドット卿に渡してもらえるか? 我らの国の現状と、両国で交流し協力したいという旨の文言が綴ってある。こちらはガーネット卿に。娘が世話になるという挨拶である」
「うん、分かった。ちゃんと渡しておくね」
僕は将軍様から2通の親書を受け取った。
「スズよ。困った時はサクラの真似だ、良いな?」
と、シノノメ。スズランは「了解じゃぁ!」と元気に返事をする。どゆこと!?
「フィル殿よ、妹は姫であっても一人前の武人。どうか遠慮せず頼ってくれ」
「ありがとう、若様」
「フィル様、またいつでもこのアマツ京に遊びに来て下さいね。今度は穏やかなカグツチと共に歓迎します」
「サクラ姫様も、ありがとう」
みんなそれぞれ別れの挨拶を告げ、僕たちはアマツの都を旅立った。
⸺⸺アマツ山道⸺⸺
先頭は僕。そのすぐ後ろにレベッカとスズラン。更にその後ろにフウガとライカ。そして最後尾にはグレン。
行きから倍のメンバーとなり、元気に山道を突き進む。
「「我らはガーネット騎士団~♪ ゆくぞ~、すすめ~、どっこまでも~♪」」
僕とレベッカが歌い出すと、スズランとフウガもすぐに一緒に歌い出してくれた。
ライカは歌ってくれないか……そう思いチラッと彼女を振り返ると、嬉しそうな顔で小さく歌ってくれていた。彼女は少し声が小さいだけで、中身はフウガと一緒なんだ。
⸺⸺
昨日の山火事の時には魔物も退却していたのか見かけなかったけど、今は山火事もスコールもすっかり治まって、再び猪の魔物が現れるようになっていた。
何頭かがドシドシと猪突猛進してくる。僕が撃退しようか、とも思ったけど、未だ戦っている姿を見たことがない人物を振り返った。
「すずちゃ、いける?」
「うむ、妾に任せい!」
スズランは背中の薙刀を構え、僕の前へと躍り出る。そして、舞い踊るように大きな薙刀を振り回した。
猪は一網打尽に八つ裂きにされながら吹っ飛んでいき、遠くの方で黒い霧となって消えた。
強い……! と言うか、なんて怪力……!?
「すずちゃ、綺麗で強いね!」
そう言ってスズランの前へと回り込み彼女の顔を拝むと、元々薄黄色だった瞳を真っ赤に光らせ妖艶な笑みを浮かべていた。あれ、いつもと雰囲気が……!
と、思ったが瞳の赤い光はすぐに治まり、いつもの陽気な笑顔に戻った。
「そうじゃろ!」
「す、すずちゃ、今の何!?」
「うむ、妾の中には“夜叉”の力が秘められておっての。その力を引き出して戦うととんでもない怪力女になれるのじゃぁ! フィルが昨日、素晴らしい力を見せてくれた故に、妾も一度この力をそなたに見せたいと思っておったのじゃ。どうじゃ、恐ろしいか……?」
そう問うスズランの表情はどこか寂しげだった。そうか、今はこんなに元気でも、スズランもその力のせいで寂しい思いをした時期があったんだ……!
僕はぶんぶんと首を横に振る。
「恐ろしくなんてないよ。綺麗で、とってもかっこよかった!」
ニッコリと満面の笑みでそう答えると、スズランも「そうじゃろ♪」と満面の笑みで返してくれた。
その後はみんなで魔物を蹴散らしながら、そして歌を歌いながら無事下山し、ペリドットの町へと帰ってきたのであった。




