19話 今日の終わり
グレンに「ちょっと付き合ってくれ」と言われて次にやって来た場所は、墓地だった。
『蒼月椿此処に眠る』
そう書かれた墓石の周りをみんなで手入れをする。このお墓は、グレンの妹のお墓だ。
手入れを終えると、グレンは墓石を見て懐かしむように口を開いた。
「いつも兄ちゃん、兄ちゃんつって俺の後を追っかけまわして来てよ。小便中にまで兄ちゃんとか言って来るんだぜ、全く勘弁してほしいよな」
「ツバキ、妾にとっても愛い妹のような存在じゃったな……」
そう言うスズランの頬には、一筋の涙が伝った。
「……小さいうちに、亡くなっちゃったって事……?」
僕がそう尋ねると、グレンは静かに頷いた。
「家族で隣町に行った帰り道に、金持ちを狙った賊に襲われて、死んじまった」
「賊……!」
事故とかじゃなく、殺されたって事か……!
「もう20年も前の話だ。俺もまだガキで……つっても今のお前よりはデカかったけどな。あん時の俺には、誰かを守る力がなかった。護衛の部隊に守られて妹以外の家族は助かったんだ。でも、妹は死んだ」
「そっか……」
僕の隣から「うっ……ぐすっ……」とすすり泣く声が聞こえてくる。レベッカだ。
グレンはそんな彼女を見ると、大きく深呼吸をして腰に携えていた刀を掲げ、真剣な表情でこう言った。
「だからフィル。俺はてめぇがどんなにすごかろうが、この刀でてめぇを守るぞ。もうガキが目の前で死ぬのは見たくねぇ」
「ぐれちゃ……ありがとう」
“どんなにすごかろうが、守る”。その言葉は僕の心の奥深くまで響き渡った。
刀がなかった時は僕が守っていたけど……と、思ったけど、それは言わずにゴクンと飲み込んだ。
みんなでレベッカを慰めて、手を合わせてお祈りをした。最後にグレンが「行ってきます」と妹の墓石に別れを告げて、僕たちはお城へと戻った。
⸺⸺
夜は盛大な宴が開かれ、みんな思い思いに飲んで食べて踊った。中でもスズランの舞はとっても雅で美しく、一同を魅了した。
こんなに大勢でわいわい一緒にご飯を食べる事なんて今までなかったから、僕は心の底から楽しみ、孤独ではないという喜びを噛み締めた。
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今日は想像していたよりもずっと濃く長い1日になったけれど、たくさんの仲間を得て、仲間との絆も深めた。
明日はペリドット卿の屋敷に寄って、ガーネットの町へと帰還する。きっと明日も濃い1日になるのだろうと僕は思い、眠りについた。正式な騎士団立ち上げまで、もう少し。




