15話 極楽の湯
⸺⸺アカツキ城⸺⸺
僕たちはそのまま、日本の昔のお城とそっくりの外観のお城へと招待された。
みんな服がびっしょびしょになってしまったので、一旦お城の温泉で疲れを癒やすことに。
⸺⸺男湯⸺⸺
グレン、シノノメ、フウガと共に湯に浸かる。まさかこの世界で温泉に入れる日が来るとは。
鹿威しが時折カコーンと鳴る風流な空間で、シノノメが口を開いた。
「フィル殿。自己紹介が遅れた、私は暁東雲、この国を治める将軍家の長男だ」
「あっ、僕はエリージュ王国のガーネット領主の息子、フィル・ガーネットです。将軍家の長男って事は……若様ってこと?」
お湯に浸かりながらペコリと自己紹介。
「はい、みんな若様って呼んでますよ!」
そう答えてくれたのは、フウガだ。
「フウガさんは、えっと……」
「そんな“さん”なんて、やめて下さい。あの、俺も……良かったら姫様みたいに愛称を……!」
フウガはそう言ってキラキラ光線を飛ばしてくる。なんか元気で従順なわんこに懐かれた気分だ。
「ふうちゃ?」
「ありがたき幸せ!」
フウガはそのままブクブクと温泉に沈んでいった。第一印象はクールな忍者だったのに、話してみると少年心を忘れないピュアで明るい青年だ。
シノノメは小さくため息をついて、補足のために再び口を開いてくれた。
「露草風牙だ。雷花は双子の妹で、2人はスズの私兵だ。まだ20歳にも満たないが、露草家に代々伝わる忍者の戦闘術で立派にスズランを支えてくれている」
「わぁ、忍者、かっこいい……」
僕がそう呟くと、フウガのブクブクが更に激しくなった。「生きてて良かった」的な言葉が水中から聞こえてくる。
「それでフィル殿。君らはどうしてこのアカツキの都に?」
と、シノノメ。
「あのね、ぐれちゃの刀がボロボロになっちゃったから、新しい刀を手に入れるためと、後は、騎士団の仲間探しだよ」
「刀がボロボロに……? グレン貴様、おめおめアサ爺に殺されに帰ってきたのか」
「いや、そこなんだよ。なんとかこの国の英雄フィル様を盾にしてしのげねぇかって思ってる」
グレンはそう言って頭を掻く。
「貴様、とんでもなく最低な事を言っている自覚はあるのか……?」
「そーだぞ、フィル様に謝れグレ兄!」
ザバンッと唐突にお湯から噴き出てくるフウガ。
「わりぃ、んなこたぁ分かってる。マジで頼むわフィル。この通りだ」
グレンは顔の前でパンと両手を合わせてそう言った。
「うん、僕いいよ、それで。ぐれちゃの刀を打ってくれた刀匠さんが、ちょっと気難しいお爺ちゃんって事でしょ? ぐれちゃはガーネット領の村を一緒に守ってくれたし、今回刀を手に入れたいのだって僕の騎士団の戦力になってくれるためだから。僕に出来ることならするよ、僕からそのアサ爺って人に事情を説明すればいいんでしょ?」
僕は素直に自分の気持ちを伝えた。
「フィル~! 心の友よ~!」
「フィル殿……こんなに幼いのになんと出来たお方か……。ところで、その騎士団と言うのは?」
僕はシノノメとフウガにエリージュ王国の騎士団の説明をした。各領内で1つまで作れること。基本的にエリージュ王国は領内の治安は領内で守ること。
お父様が僕の生まれる前に大怪我をして、当時の騎士団は解散。それからはずっと隣のシルバ領に防衛費を払って魔物の討伐をしてもらってるけど、最近は魔物も活性化してきた事もあり、その討伐が追いついていないこと。
などなど、僕が騎士団を立ち上げようと思った理由と、そのための条件も語った。
⸺⸺
「ふむ。それで自領を守るために5歳の子が立ち上がるとは……。しかし、フィル殿のあの実力なら軍の長として申し分ないし、グレンがついていこうと決めたのにも頷ける。よし、この国の英雄の困り事だ。我が軍の中で誰かフィル殿の騎士団へ移籍してくれる者がいないか聞いてみよう」
と、シノノメ。
「えっ、良いの!? やったー、これで騎士団が結成出来るよ! ありがとう若様!」
「本当は私が行ってやりたいのだが、なんせ将来国を治めねばならぬ立場だ、すまないな……」
「うん、大丈夫だよ。十分助かるよ」
話もまとまりお湯から上がろうとしたところ、フウガが「俺も……ついて行きたかったなぁ……」と呟いた。
「おい、貴様、スズに仕えている身でありながら……!」
と、即シノノメに怒られ「わ、分かってます! だから、行くとは言ってませんて!」と慌てて言い訳をしていた。
「ふうちゃ、そうやって言ってくれてありがとね」
「うぅ……フィル様~……」
しかし、みんなで男湯の脱衣所から廊下に出た瞬間、さっきの話し合いが全部ひっくり返る出来事が起きた。
「フィル~、レベッカから聞いたぞ! 何でも騎士団というものを新しく結成したいのじゃが、人数が足りぬのじゃろ?」
と、待ち構えていたスズランに両肩を掴まれる。
「うん、そうなんだ。でもね、若様が……」
「その騎士団、妾と“フウライ”の3人も参加させてもらうぞ!」
「……えっ!?」
驚く男衆。しかし、フウガだけは「いやっほーぅ! 流石姫様!」と飛び跳ねて喜んでいた。




