12話 剣豪
「ぐれちゃが、アカツキのお姫様と結婚!?」
「えっ、お姫様なんですか!?」
と、レベッカ。2段構えの驚きだ。
スズランはすぐにレベッカとも挨拶を交わし「レベッカも愛いのう」と彼女の頭を撫でていた。あのねスズラン、レベッカは20歳過ぎた大人だからね……ワンチャン、スズランの方が年下もあり得る。
「だから、結婚なんてしねーっての!」
グレンは必死だ。
「ダメじゃ、決まりは決まりじゃぁ。国の剣術大会で優勝をして“剣豪”の称号を勝ち取った者が妾の婿となると、参加者の契約書に最初から書かれておったじゃろうて」
えっ、グレン、国の剣術大会っていうので優勝してるの!?
「知らねーよそんなもん! そもそも、俺は剣豪なんて称号どうでも良かったのに、てめぇが『一生のお願いじゃぁ~、出るだけで良いから出てたもれ~』とか言うから出ただけだろーが!」
「それでも契約して優勝までしたのに、妾との結婚が嫌だからと言って国から逃げ出すのは酷いではないかぁ~!」
グレンがエリージュ王国に来た理由って……それ!?
いや、そもそも……。
「ぐれちゃって、なんでそんなにすずちゃと仲良いの?」
「別に仲良くねぇ、ただの腐れ縁だ!」
「グレンの家は代々アカツキ家に仕える公家の一族なのじゃぁ。幼い頃から同じ城で育った幼馴染と言う奴じゃな」
公家って言うのがどんなのかイマイチ分からないけど、絶対に貴族だよね……。少なくとも高い地位である事には変わりなさそう。
そんな家の人が外国のカジノで一文無しになって刀も失くして森に住もうとしていたなんて……お家の人聞いたらビックリするよ? 大丈夫?
「ぐれちゃ……」
可哀想なものを見る目でグレンを見ると「んな目で見んじゃねぇ!」と案の定怒っていた。
「ではグレンは、一体何をしに帰ってきたのじゃ? フィルの護衛かえ?」
「いや、むしろそっちの方が護衛と言うか……」
と、グレン。確かに、山道の魔物は全部僕が退治した。
「そなたは何を言っておるのじゃ。いい年してこのような幼い坊やに護られるなど、国を出て武士の誇りまで失ってしまったのかえ」
「てめぇはコイツの事なんも知らねぇから、んなこと言えんだよ。つーか、“アサ爺”は城にいんのか。刀を1本打ってほしい。そのために帰ってきたんだ」
「アサ爺に? 多分おるじゃろうが……そう言えばそなた、刀ではなく変なものを腰に差しておるな。あの刀はどうしたのじゃ」
「砕けた。ボロボロに」
「くだっ……!?」
目を真ん丸にして固まるスズラン。残念ながら本当なんだよ。あのスライムの体液がちょっと特殊だったのかも。
⸺⸺その時。
僕たちが通ってきた山の方からドーンッ! と、大きな地響きが聞こえてきた。
「何っ!?」
「ひぃぃ、さっき通ってきた山からですねぇ……」
みんなでその山の方を見ると、大きな“炎の精霊”のような全身炎に包まれた化物が大暴れをして山の木々をなぎ倒していた。山はどんどん炎に包まれていっている。これは一大事だ!
「げっ! “カグツチ”じゃねぇか。ご機嫌斜めかよ……!」
と、グレン。
「サクラ……! サクラに何かあったのじゃ!」
スズランは泣きそうな顔でそう言うと、立て掛けてあった薙刀を手に取った。




