11話 鬼の姫様
⸺⸺アカツキの国、アマツ京⸺⸺
都に一歩足を踏み入れたら、そこはまるで時代劇のような世界だった。瓦屋根の平屋が立ち並び、和服の人々が行き来をしている。
一つだけ時代劇と違うのは、みんな頭に2本の角が生えている事だった。
「みたらし団子おかわりじゃぁ~!」
そんな元気な女性の声がして、思わずその声の方向へ目を向ける。“甘味処”と書かれた看板のある屋根の下で、綺麗な銀の長髪に高そうな和装のぼんきゅっぼんのお姉さんがベンチに座って湯呑みをすすっていた。
お姉さんのすぐ横には槍のような武器である“薙刀”が立て掛けてあった。このお姉さん戦えるんだ。
僕は早速お姉さんの所へ走っていって「みたらし団子美味しい?」と尋ねた。
「おぉ、坊やそなた、外国の旅人かえ? みたらし団子はとても美味じゃぞ。待っておれ、そなたの分も追加で頼んでやるとしよう」
お姉さんは無邪気に微笑む。
「やったぁ、ありがとう。1本いくら?」
「金なぞいらぬ、妾のおごりじゃ。すまぬー! みたらし団子もう一本追加じゃぁ!」
お店の奥から「はいよ!」と返事がした。
「いいの? ありがとう。おねーさん優しいんだね」
「良い良い。せっかく観光に来てくれたんじゃから。それにしても愛いのう。そなたは、人間の子かえ?」
「うん、人間だよ」
「珍しいのう人間の旅人とは。ところでそなた、親はどこにおるのじゃ? まさか一人かえ?」
「えっと……ちょっと複雑で……。もうすぐ“保護者っぽい人”が追いついてくるはずなんだけど……」
「複雑か。すまぬ、要らぬ事を問うてしもうた。妾の失言じゃ、許してたもれ」
「あ、えっと、そう言うのじゃなくて……」
あちゃー、変に勘違いさせて気を遣わせてしまった。
「はいよ、“姫様”! みたらし2本ね!」
「おぉ、みたらしが来よったぞ、坊や」
「わぁ、美味しそう!」
お店のおばちゃんからみたらしを受け取り、お姉さんの横に腰掛けて一番上の団子にかぶりついた。
「んー!」
「どうじゃ、美味じゃろ?」
「うん、びみ!」
懐かしくて優しいお味だぁ。お姉さんは、フフッと笑った。
「あれ、そう言えばさっきおねーさん、姫様って呼ばれてた?」
「うむ。妾はこのアカツキの将軍の娘じゃ。鈴蘭と申す」
「えっ!? 将軍様の!? ごめんなさい、僕……知らなくて……」
つまり、王女様って事だよね……。
「やめい、やめい。そなたにとっては妾は姫でもなんでもない。ほれ、そなたも名乗らんか」
「あっ、うん……! 僕、エリージュ王国のガーネット領主の息子のフィルだよ」
「ほほう、領主のご子息か。ここで出会えたのも何かの縁。仲良くしてたもれ、フィル」
スズランは手を差し出した。
「うん、えっと……スズラン様?」
そう言いながら彼女の手を取り、握手を交わす。
「スズランでよいぞ」
「じゃぁ……すずちゃ!」
「おぉ、愛い愛称じゃ。気に入ったぞ」
「フィルー!」
「フィル様~?」
あっ、この声は!
「すずちゃ。僕の旅の仲間が来たよ!」
「ほぅ、あの2人じゃな……って、グレンではないか!」
グレンを見るなりパーッと表情が明るくなるスズラン。
それとは反対にグレンは「げっ! スズラン!? なんでフィルがスズランと一緒にいんだよ……俺、やっぱ刀いらねぇ……」
と、Uターンをして逃げ出そうとしていた。
が、スズランが彼の腕をガシッと掴み、あえなく御用となる。
「妾と結婚するために戻ってきてくれたのじゃな!」
スズランは満面の笑みでそう言った。
「「え~っ!?」」
過去イチの驚きなんだけど……。
「ちげぇに決まってんだろがい!」
グレンはスズランの手をぶんぶんと振り切ると、大きなため息をついた。




