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第2章 【午前9:30 バグ報告】

《勇者マヨーナ》


落ちるーーー


その瞬間、もうどうにもならない事だと分かった。


ああ、お父さん、お母さん、お兄ちゃん。

ちゃんとした勇者になれなくて、ごめんなさい。


恋だって、まだしたことないのにーー

それが、マジで悔しいよぉ


私は、めそめそと悲嘆に浸りながら、もう直ぐ来るであろう死を待っていた。


はずだったのに


なぜか今、崖の入り口の前に立っている。


「...え?...はぅ?...って?...え??」


待て待て、はてなマークで頭パンクしそうだけど??


つい先まで重力で引き摺られた感覚が、ピタッと夢のように止まった。やっぱりあれはただの夢だったの?


ーーいや、違う。違う違う。


頭を抱えて屈み込む。なぜかわからないけど、私が何か大事なことを忘れていると、急かす気持ちで必死に思い出そうとしている。


ーーそう、私は結界の誤作動で崖から落ちて

そして何だったっけ?


落ち着こう。息を吸って、吐いて。

結界を張る時と同じように。慌てずに土台を深く芯を張り強く。古代ドラゴンみたいに独占欲あふれて大切なものが奪われないように、私は守る。モヤモヤだった記憶が次第に清明さを取り戻していく。そうだ...


ー私は落ちて、誰かに助けられた。


はっ!


となった瞬間全力で頭を上げて、人の気配がないのにもかかわらず声をあげて彼の名前を叫ぶ。


「ツナギさん!!」


ーー


 ツ:エラーコード[E02]

   対象の記憶処理、失敗。

   #15628 報告を上げました。

   状況が分かり次第、再度連絡します。


メッセージを送って思わずため息をついた。忙しい時期でこれか。俺が取った行動を振り返ってみた。全てマニュアル通りのはずだった。マスターキーを使ったが、許容範囲以内で間違いない。装備のメンテナンスも三日前に行ったばかり。


俺が推測できる原因としては、マスターキーの不具合、又は救助対象、勇者マヨーナに()()()()()()があったことぐらいだ。


さて、これからどう対応するか。


すぐそばで俺の名前を連呼している問題児救助対象を見て、額を押さえた。


「そんな大きい声出さなくていいです。聞こえます。」


彼女にそう声をかけると、彼女がグキっと凄いスピードで顔を俺に向けた。


…コイツ、首から怖い音しなかったか?大丈夫?

救助したそばから仕事増やすな。


「ツナギさん!」


キラキラした目で俺を見つめる彼女。その表情を見て、俺は確信した。彼女は、俺の名前だけじゃなく、顔まで覚えている。


「事情調査のため録音させてください。あなたの名前と年齢をお伝えください。」


「ふぇ?え、と、ま、マヨーナ、です。えとー、18歳。」


「続いて、家族構成を教えて下さい。」


「え、え?なに、面接?えと、両親と兄一人と私の4人家族、です。」


そのあと、俺はマニュアル通りの取り調べを続けた。彼女は戸惑いながらも抵抗なく素直に答えた。救助直後も確認はしたが、その時と同様、現在も意識朦朧なし、精神状態も安定している。俺がみたところ、彼女は勇者として性格がやや不安な面があっても至って普通の女の子にしか見えない。そろそろ肝心な質問に入ろう。


「ありがとうございます。続いて、あなたはなぜこの崖に来ましたか。」


「レベル上げしに来ました!一応、勇者なんで。」


「そうですか。何時に入り口に入ったか覚えていますか。」


「えと、うーん、朝9時ぐらい?」


「その後のことを覚えていますか?」


「...」


死に瀕する怖さで黙っているのかと思って、メモ帳から視線を彼女に向けると、彼女がカーと擬音が出るぐらい顔を真っ赤にした。


…なぜだ?


「...えと、崖を降りようとした時に、わ、私が間違って結界を張ってしまって、崖から落ちました。っでも、普通はそんなミスしないよ?!私、そんなポンコツじゃない、決して。あ、あれは、単なる人間としての一瞬の判断ミスというか何というか...」


急にわけわからん早口で話し始めた。


「...私、死ぬかと思いました。もう家族に会えないなと。まだやりたい事がたくさんあるのになと。でも、ツナギさんが助けてくださったお陰で、私は無事です。本当に、ありがとうございます。」


まっすぐと俺をみて頬をほんのり赤らめながら笑顔を見せた彼女は、ちょっとだけ眩しい。今気づいたけど、彼女の瞳がはちみつの色だったんだ。温かくて彼女らしい。こんな非常事態、はじめてで対応に困ったせいか、思考が脱線しそう。俺は、救助対象から感謝の言葉を貰えるなんて思ってもいなかった。思わず言葉を失った俺に気付かず、彼女は言い続けた。


「その後、ツナギさんが自己紹介してーー

えと、確か”げーむおーばーきゅうじょ”の方でしたっけ?えと、で、”きおくしょり”すればツナギさんのこと思い出せなくなるって言った途端、白くて眩しい光で目がつぶりそうになった。で、気づいたらツナギさんが急にいなくなったから、私、呼んで見ました!」


はい。バッチリ覚えているな、コイツ。

しかも人の仕事を増やすのに、いいことやった感が顔に書かれている。


頭が痛くなりそうな所だけど、再度整理すれば今の状況は最悪の中の最善かもしれない。記憶が残っていること以外、救助対象に異常は無し。業務の記録と先ほどの取り調べの結果で、俺の行動に問題がないことを裏付けるだろう。ヨシ、マニュアルの事項を再度確認して本部へ戻ろう。


「勇者マヨーナさん、ご協力ありがとうございます。この件については、後日正式な証言をするまで、詳細を控えて下さい。」


コクコクと頷いた彼女を確認し、戻る準備に入る。


「それでは、失礼します。」


「え?ちょっとま」


何か聞こえたけど、俺は迷わず空間移動を発動した。

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