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第1話 出会い



                 ◇◇◇



 その年の6月30日は、珍しい梅雨晴れだった。

 まだ陽の落ちきっていない夕方。

 皺一つないスーツを着た父と上品な紺色のワンピースを纏う母が、寄り添って歩く後ろをついて行く。

 

 目の前には、木材とガラスが特徴的な青柳美術館。

 ここを1時間貸し切りで入れることが、15歳の誕生日プレゼントらしい。

 きっと美術作品が好きな人にとっては至極の時間なのだろう、と他人事に思うのは、僕が特段美術に興味がないからだ。


 自動ドアを通り抜けると、両親が振り返る。


「きっと、あなたの気に入るものがあるわ」


 特別な展示品もあるのよ、と柔らかい母の声。

 微笑む二人は友人である館長と話があるらしく、作品は僕1人で見て回ることになった。

 少しの解放感に軽くなった足取りで、ホワイトキューブの館内に入る。

 誰もいない美術館は、時が止まっていると錯覚するほどの静寂に包まれていた。


「…やっぱり、兄さんのほうが適任だ」


 展示されている絵画を眺めながら、兄である(こう)ならこの時間を有意義に過ごせたのだろうと思う。

 何せ、誕生日に美術鑑賞をすることになったのは兄の影響なのだから。


 兄は5つ上で、今は仕事のため海外にいる。

 幼いころから芸術作品に興味があった兄は、両親に美術館や展覧会に行きたいとよく強請っていた。僕は付き添いとして同行していただけなのだが、いつの間にか兄弟揃って芸術好きだと思われている。

 ”思われている”というのは、両親は僕たちに興味がない。

 たから、兄がなぜ芸術を好きなのか知らないし、僕がそれほど関心がないことも知らない。

 けれど、決して悪い人たちではなくて、誕生日を覚えていてプレゼントまで用意してくれるのだから感謝している。

 そう、だからせっかくなら一通り見ておこうと、足早に角を曲がったとき。


 僕は無意識に足を止めた。

 

 窓のない白い世界に、ただ一つの展示品。

 膝の高さまである作品台に乗せられた、5メートルを超えるアーチ型の鳥籠。

 その中心に置かれた白いベッドで、こちらを向いて眠る何か。

 身体には、肩甲骨辺りから白い羽が生えている。

 

「っ………」

 

 僕は呼吸を忘れてしまうほど、今まで見た何よりも目を奪われた。

 感覚のない足が一歩、一歩と引き寄せられ、ロープパーテーションのぎりぎりまで近づく。

 目の前の何かは、今まで見てきた白が全て偽物に見えるほど、まさに純白と呼ぶに相応しい存在だった。

 長い白髪に白いワンピース。足首と手首まで覆い隠す布から見える、作りもののような肌。

 作品台の前にあるタイトルプレートには『天使』の文字。


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