第18話 夢と現
◇◇◇
体が、頭がふわふわする。
全身で風を感じる大空のなか、まだうまく飛べない僕。
イトラが手を引いてくれるけれど、その手を離されたら僕は地上へ堕ちてしまうだろう。だから、離さないでというように手をぎゅっと握っている。
そのうち、段々と感覚が掴めてきて自分だけでも飛べると分かる。
でも、だから、イトラの手を離さないといけない。
いつまでも助けられていてはだめだから。
一人で飛べるなら、一人で飛ばなければ。
分かっていても、僕はぎゅっと手を握ったまま。
だって、手を離したらイトラはきっと今より早く進んでしまう。そのスピードに、僕は追い付けない。
いやだ、嫌だ。
せっかく、一緒にいられるようになったのに。
だから、僕はもう一人で飛べるというのに君の手を掴んだままだ。
◇◇◇
「ん……」
鳥のさえずりが、いつもよりよく聞こえる。
目を開けると見えたのは知らない天井…、ではなくて新しい自室の天井。
昨夜、最後の記憶はソファの上だったはずだけど、僕は自分のベットで寝ている。理由は一つしか思いつかなくて、おそらくイトラが運んでくれたのだ。
身長はあまり変わらないとはいえ、イリセンスは見かけによらず力持ちだなと、ぼーっとする頭で思う。
そういえば、心地よいような不安定なような、不思議な夢を見ていた気がする。
どんな内容だったかは思い出せないけれど…。
とにかく、今すぐイトラに会いたい。そう思わせるような夢を。
着替えもせず、足はリビングへ向かっていた。
20年間過ごしていた家とは違う家を、現実なのだと確かめるよう壁に触れて。
物音一つしない家リビング。
小さく震える手で、ゆっくりとドアノブを押した。
朝の白い光に包まれた部屋で、ソファに座って本を読むイトラ。
あぁ、良かった。
僕に気付いたイトラが顔を上げる。
視線が交わる感覚に、ようやく夢じゃないと実感が湧いて。
僕の頬に涙が伝う。
本を置いて、イトラはこちらに来る。
「おはよう」
低くもなく、高くもないイトラの声が聞こえて、伸ばされる手の先に分厚いガラスはない。
雫を掬ってくれる指先が優しくて、細められた瞳は綺麗で。
胸が苦しいほど締め付けられる幸せに、僕はまた涙を流した―――。
◇◇◇