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第11話


 僕が咄嗟に考えたことをイリセンスが考えていないはずもなかった。

 これ以上思いつく言葉もなく、無言で何度か頷くとスイは同情のようなものを示した。


「我らも理解はできる。他者であっても侵略者に同胞を殺されたくないと。しかし、イリセンスの危険を回避するためには元となっているものを消すしかないのでな。申し訳ない」


 取って付けたような謝罪だが、多分スイに悪気はない。

 正直、僕もイリセンスの行動を理解できないわけではない。けれど、流石に分かりました、と頷いてしまえば、なんというか……、そう、心に靄が残る。

 黙ってしまった僕に、スイはうむと顎を触った。


「とりあえず、貴殿を殺すことはない。真に危害を加えるとこちらの命が危ないのでな。ここに来たのは~~~、…ここではイトラだったか。イトラに伝えることがあったのと、貴殿が生かしたいと思う人間を聞きに来たのだ」


 生かしたい人間…。

 自分が殺されないことに安堵しながら、唐突な質問に重い気持ちは変わらない。

 別に、他人の生死は僕に関係のないこと。

 僕はイトラと生きたいと願ったから、家族や友人には二度と会えないつもりでいた。

 ……家族が気にするかは疑問だが、犯罪者の家族として生きざるを得なくさせてしまった罪悪感とか、そういったものも全部ひっくるめてイトラを選んだ。

 でも、会えないつもりでいたことと、自分の選択次第で家族が殺されるかもしれないことは話が違う、と思う。

 しかし、この場で殺さないでと言ってしまったら、それは僕が他人の生死を決めることになるんじゃないのか。

 力の入る眉間を指で押さえる。普段考えないことを思考して頭が重い。


「……どうしてそんなこと、僕に聞くの?」

「人間は大切にしているものが死ぬと悲しいのだろう。人間に手を下したことによって貴殿にイリセンスを敵と認識されては困る」

「僕が君たちを敵視したところで何もできないよ」

「だが、真はイトラと共にいる。イトラが貴殿の言うことをどこまで聞くかは不明だが、イトラに我らの抹消を願われた場合、攻撃を防げる者は少ないのでな」


 イトラは自身のことを、シルバーに乗っていた琥珀色の瞳を持つイリセンスよりも強いと言っていた。スイの口ぶりからしても、イトラはイリセンスの中でも強い方なのかもしれない。


「…じゃあ、他の方法はないの? 人を殺さなくて済む方法」


 僕の投げやりな質問に「うむ、ないな」と即答しながら、スイは和菓子が乗っていた懐紙を正方形にして何か折り始めた。


「我らも探したがな。これ以上に確実な方法がない。人間とて己が生き延びるため、より楽をするために自然破壊もするだろう。それと同じだ」


 スイやイトラの話を聞いている限り、イリセンスたちは賢くて合理的な判断ができる。

 それらを実行できる力もあって、その者たちが既に行動を起こしているのだから、やはり止められないのだろう。

 なら、僕は…。


「巻き添えにしてほしくない人を伝えたとして、本人たちにも伝わらないようにできるのかな」

「貴殿が望むなら約束しよう」


 約束するのが人間であれば、殺戮の場で選別する裁量なんて信じられないけれど、イリセンスにはその力があると分かってしまう。


「あまり時間はないのでな。早く答えた方が貴殿のためだ」


 急かすスイの言葉に、重い息を吐く。

 最善の答えなんて分からないし、多分なくて。 正直、どちらを答えても地獄なのに変わりはない。

 知っている人が死ぬのも、その人たちの代わりに誰かが死ぬのも嫌だと思うから。

 …でも、この状況で選択肢があるだけ有難いこと、なのかもしれない。

 そう思って口を開きかけたとき。


「スイ」


 真後ろからイトラの声が降ってきた。


「あまり真をいじめないで。君がした質問は真にとっては少し酷だ」

「うむ、そうであったか。これは失礼した」


 謝罪と共に、目の前には綺麗に折られた鶴が置かれる。

 僕は心の中で、素晴らしい助け舟だとイトラに感謝した。


「とりあえずは殺さないでいて」


 僕が答えないうち、軽々と言ったイトラの言葉にスイは頷く。

 結局、イトラに選ばせたのは自分だと言うのに、なんだか錘が軽くなった気がして。

 僕は先程までと違う自己嫌悪に駆られた。




 その後、伝えたいことは伝え終わったとスイは帰った。

 一時的にレーダーを切ると、上でシルバーと合流すると翼を羽ばたかせて飛び立っていった。

 ……いつか、イトラの舞う姿も見れるだろうか。

 ちらりと隣を盗み見ると、その瞳は空ではなくて遠くの海を見つめていた。


「イトラ、ありがとう」


 僕は、既にスイがいなくなった空をもう一度見上げる。

 視界の端でイトラは首を傾げたけれど、すぐに意味が分かったのか「どういたしまして」と言った。



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