表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後通告 天女の調べ  作者: 皐月
7章 東国の災禍

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/57

55話 不死の試練

戸の隅間から入る夜風で体を少し震わせながら熱い椀を持つ。


 「——いただきます」


 私は猿の雑炊を食べる。寒い山道を歩いていたせいか雑炊の暖かさ体を包み、味噌の塩が疲れた私の体に染み渡る。

 猿は頃合いを見ていたのか、汁を一口飲むとふんと鼻をならす。


 「では、不死の主についての話をしようか」


 猿のその言葉と共に、ここの空気に緊張が走った。


 「まず、不死の主は九百年前の例の祠だな。あの時、私は禍の力を浴びて暴走した主をあの祠に封じた。ナビィ、お前が一番知っているであろう?」


 猿の言葉にナビィさんは顔を上げる。


 「はい。不死山の山頂より北に進んだ先にある、時歌岳というところにある祠ですね。古い時代に流れたこの山の熱き血が中に穴を残して出来た、洞窟。そうですよね?」


 「そうだ。その洞窟の中に、封じたのだ。そしてナビィとサガノオが入って束の間、洞窟が壊れサガノオが頭に乗ったまま、主は天高く舞い上がり激闘を繰り広げた」


 隣にいるツムグさんはその話を興味深く聞き、ナビィさんは少し懐かしそうに見えるけどどこか悲しそうな顔で聞いている。

 猿もまた楽しそうに語るわけでもなく、辛そうな顔で語っていた。


 「——ナビィにとっては辛い話となる。だから話はここまでだ」


 猿はそのまま立ち上がり「もう夜だ。はよう寝ると良い」と口にして立ち去ろうとする。

 けど、肝心の時の渦の話がまだだ。


 「あ、あの! 時の渦はどこにあるのですか?」


 「——この社の裏の祠だ。そこは主が出入りする神聖な場所。遠き時への干渉は高格の神にしかできぬ。そして神の許しを得たものしか入れぬところだ」


 「——なら、もし主が助けを必要としなかったらそもそも渦に入れないと?」


 「うむ。基本はそうだが今回は別だ。渦の出入りが緩くなっている」


 「——そうですか」


 「入るのは明日か明後日。マカとやら。お主の素質を見て決める」


 「——っ!」


 私は猿の言葉に何も言うことが出来なかった。


 ————。

 ——————。


 それから私たちは猿に寝床に案内される。

 ナビィさんは猿に話があると言って出ていき、中にいるのは私とツムグさんだけ。

 ツムグさんは相当疲れていたのかすでに寝る支度をしている。

 ツムグさんは機嫌良く鼻歌を歌うと、私の尻を指で突いてきた。


 「ねぇ、マカは寝ないの?」

 

 「私は……」


 少し言葉に悩むとツムグさんは微笑む。


 「ナビィさんが気になるんだ」


 「……まぁ、はい」


 「僕、色々ナビィさんに昔の話をしてもらったけどちょっと後悔しているんだ」


 「——?」


 「だってご飯を食べている時、お猿さんが話している時ナビィさん、すっごく辛そうだった。だから僕と話しているときはずっと我慢していたんじゃないかって」


 ツムグさんは少し体を起こすともみあげを弄る。


 「よくよく考えたら一緒に旅をしていた人が死んだんだ。心なんてそうそう納得するわけじゃない。だから謝るよ」


 「——そうですね」


 ツムグさんが言うように、ナビィさんによく昔の話をお願いしていたけど考えてみると大切な人が死んだんだ。流石に無配慮が過ぎていた。きっとナビィさんは気にしないと言うだろうけど、罪悪感だけでも取り除きたい。


 ツムグさんは私に身を寄せると、小声で耳に声をかける。


 「あと、今チトセ様がここに向かっているんだけどさ。その、カグヤちゃんって人格というか、人が変わったことってある?」


 「え? 別にないですけど……」


 「——ないのか。あのね、チトセ様が天人から言われたみたいなんだけどなんかカグヤちゃんにふたつの記憶が眠っているみたいなの」


 「——テルヒメの記憶じゃないですか?」


 「ううん。テルヒメとは別の物。まるで自らが引き裂いて魂のように残っているみたい」


 「——何が良いんたいんですか?」


 ツムグさんは色々と言いたそうにしているけど頭を痛そうに抱えている。

 きっとチトセがこれ以上話すなと言っているに違いない。


 「別にどうだって良いです。昔のカグヤはいません・いるのは今のカグヤだけです」


 その時、ぼんやりと私の頭の中に天人に襲われる前のカグヤの姿が浮かび上がる。

 まだ汚れも知らず、楽しい日常のみ堪能し笑顔しか浮かべないような可愛い村娘。それが私の知っている昔のカグヤ。


 今のカグヤも楽しそうな顔をしているけど、どこか哀愁を感じさせる。遠くを見つめ、何やら思い出したそうな顔を浮かべている光景。

 私は拳を握る。


 「カグヤは、今のカグヤだけです。私は、今のカグヤだけでも守りたい。その、気分が悪くなったので少し歩きます」


 私が立ち上がるとツムグさんが苦しそうにしている声が聞こえる。そして私が寝床を後にしようとすると「なんで、なんで言ったらダメなの? それじゃマカが……!」と声が聞こえる。

 チトセは自分が何かしたら自分から言いたがる。だからきっと言うに違いない。

 私はそう信じてこの場を後にした。


 ————。


 屋敷の中を少し歩くと、締め切った部屋の中でナビィさんと猿の声が聞こえた。よく聞いているとナビィさんが涙を流しながら何か話しているようだった。


 「私は……もうマカ様を戦わせたくありません。吉備や、それ以降の戦いで分かるんです。絶対、アイツに勝てないんです……」


 「落ち着け。だから明日見極めると——」


 「絶対無理です! マカ様はあの人と違って力が無いんです! 私はあの人と約束しているんです。妹を頼むと。だからもう戦わせたくありません!」


 「しかし、あやつだけだ。源氏の勇者と呼ばれる資格があるのな。ちゅらも力は無かったが果敢に戦い、知恵と勇気で乗り越えたんだぞ」


 猿の言葉にナビィさんはどんどん声を大きくする。

 ナビィさんの言葉には悪意はない。むしろ私の為なんだと理解はできる。

 だけど、そんなことを思われていたんだ。


 私の心に傷にナビィさんが気づくわけもなく、猿と議論を交わす。


 「勇気と知恵ですか……。確かに初対面の頃よりかは勇気は溢れています。けど!」


 「もういい。私が見極めたほうが早そうだ。こんなに心に傷をつけてでも大切な人を救おうとする子に対しての言葉か? え? お前にとっての勇気はなんだ? ゼロしか見えていないだろう? 源氏の勇者はゼロ以外にもいる。弱虫に泣き虫にお漏らし小僧に卑怯者もいるんだ。いくら肌を重ねた仲だからと言ってあやつを買い被りすぎる。あやつは源氏の勇者の中でも馬鹿みたいにお人好しだ。だからアイツに同情してしまったんだ」


 「——っ!」


 部屋の中で暴れる音が聞こえる。


 まずい、殴り合いになりそうだ。

 私は震える拳と、眉間を落ち着かせるととを勢いよく開けた。


 「——っ!?」


 部屋に入るとナビィさんは猿の着物の胸ぐらを掴み、顔を真っ赤にして涙を浮かべて視線を下にしてためらいを見せていた。

 


 ナビィさんは私に気付き、振り返った後部が悪そうな顔をすると手を離す。それに対して猿は気づいていたのか呆れた顔をしている。

 私は心を落ち着かせてナビィさんに近づく。


 「ナビィさん。私はあなたがいくら止めても禍の神との戦いはやめません」


 私の言葉にナビィさんは少し考える。

 そして視線を逸らす。


 「なぜ、戦うんですか。貴女は弱い、弱すぎるんです。戦っても犬死にするだけです。今なら引き返せますよ」


 「——私以外に誰が戦うんです?」


 「——」


 「大王ですか? 無関係な民草ですか? それともカグヤが犠牲になって倒せって言うんですか?」


 徐々に詰め寄るとナビィさんも一歩づつ下がる。


 「みんな、私にとって大切な人たちなんです。なのにそれを見殺しにしろって言うんですか? 小さな世界に、大切な肉親を失ってひとりぼっちだった私を、私として見てくれた人たちなんです。そんな人たちを見捨てろって言うんですか?」


 「——」


 気づけばナビィさんを壁まで追い詰め、ナビィさん自身何も言えなくなってしまっていた。

 みんな私にとって大切な人なんだ。もちろんナビィさんも。


 私は目頭を熱くし始めるとナビィさんは拳を握る。


 「私は……私はあの人と約束したんです! もし死んだら貴女を守ってくれと! いくら源氏でも貴女はあの人と違って弱い。私と、初めて会った時のこと覚えていますか?」


 「初めて……会った時?」


 私はナビィさんと初めて会った時のことを思い出す。

 去年の秋ごろ、心地よい朝の日を浴びながらご飯を食べていたその日、天人に初めて襲われ、カグヤは小さくなり記憶を失った。

 その後、月を模した仮面の化け物を打ち倒して狛神の森を抜けて廃れた社に逃げ込み、そこでナビィさんに出会ったのだ。


 ナビィさんも同じような情景を思い出していたのかしばらく俯き、ゆっくり顔を上げる。


 「あの時は、実は貴女に悲しみの気持ちで一杯だったんです。彼の話した通り泣き虫で、うだうだ言いつつも意外と頑固。だから天人に対して諦めず立ち向かう姿には感服していたんですよ?」


 ナビィさんはそう口にすると同時に笑みを浮かべ、涙が頬を伝って流れる。


 「だけど、勇者としてはあまりにも弱々しくて。この子も死ぬんだなって悲しくなったんです。少しは……私の心の安らぎになると思って……っ!」


 ナビィさんが何か一言口にしようとした瞬間、猿が間に入る。


 「……もうやめい。ではマカよ。明日、確かめさせてもらうぞ」


 猿はそういうと私とナビィさんを部屋から追い出した。

 そして寒い廊下の中、私のナビィさんの周りを思い空気が肩に乗る。

 ナビィさんは居心地が悪かったのか、何も言わず歩き出そうとしたのを私は手を握って止めた。


 私がしばらく何を話そうかと悩んでいるとナビィさんは私の手を強く握る。


 「なん……ですか?」


 「いえ、その——」


 ナビィさんをよく見ると肩が震えている。

 きっとと言うか、ナビィさんが猿に話したことは全て本当だろう。

 だってナビィさんからすれば私は唯一純粋に兄を一緒に語り合える仲。

 だから死んでほしく無かったと言うのが分かる。

 だって私が死んだら本当の兄について語り合える人がいなくなるんだから嫌でしかない。


 私はゆっくり顔を上げるてナビィさんを見る。

 ナビィさんは袖で顔を隠しているけど涙を流しているに違いない。

 私は心を落ち着かせると笑みを浮かべた。


 「私を、大切にしてくれてありがとうございます……」


 「——それだけですか?」


 「——その、兄ではないので不足かもしれませんが肌を重ねたくなったらいつでも私に言ってきてくださいね」


 「は——?」


 ナビィさんはまるで拍子抜けしたような顔をしたかと思えばその場で固まった。

 どうしたんだろう?


 あぁ、もしかしたらお礼を言われるなんて思わなかったのか。

 なら、私は先に寝床に戻ろう。


 私は「なら、先に眠りますね」と言って先に寝床に戻った。


 ————。


 寝床に戻るとツムグさんが飛び出してくると私に抱きつくと胸に顔を埋めた。


 「ごめん! 配慮のないこと口にしちゃって!」


 「え? あぁ……別に気にしていないので大丈夫ですよ」


 カグヤの話のことより、ナビィさんとの話の方が頭に残っている。

 これはきっとカグヤの方はもう自分の中でけじめができているからだ。

 そして私が寝る準備をするとツムグさんが私にくっつく。


 「その。ナビィさんと何話したの? ちょっと遅かったから心配したよ?」


 「——え? あぁ」


 流石にあの話を全部するとややこしくなるから適当で良いか。


 「——ただ、もし寂しかったら私がサガノオの代わりに肌を重ねますよって言っただけですよ」


 「——ん? ごめんもう一度」


 ツムグさんを見ると顔を真っ赤にして目を泳がしている。何か変なこと言ったのかな?


 「だから、サガノオの代わりに肌を重ねるって言っただけですよ」


 「——マカ、ごめん。我慢の限界だから教えるね」


 ツムグさんはそう言うと起き上がり、私の体を揺さぶって起きるよう口にした。

 仕方なく眠たい体を起こし、ツムグさんと目を合わせる。


 「あのマカ。肌を重ねるって意味はね? まず君はなんだと思っているのさ」


 「一緒に寝ることでしょ? 兄弟のように」


 私の言葉にツムグさんは無表情でゆっくりと首を振る。


 「全然違う。肌を重ねるって意味はね? 男女が肌を重ねて愛し合うって意味なの。寝ると言っても子作りをするって言うことなのね? それであまり口にしない方が良いんだよ。好きな人以外にはあまり」


 「愛し合うのって別に悪いことじゃなくないですか?」


 「——もう我慢できない。マカ、もう一気に叩き込むよ。子作りのやり方とか全部」


 今晩、ツムグさんの話を聞いた私はナビィさんの顔を見ることが出来なくなった。


 ——————。


 早朝の涼しい風を体に巻くようにして目覚めると腕にしがみついて眠っているツムグさんを見る。

 私、今まで恥ずかしいこと口走っていたんだ。いや、私は悪くない。教えてくれなかった兄が悪いんだ。


 そして隣で露骨に間を開けて眠るナビィさんを見る。

 ナビィさんは私に背中を向けて縮こまっている。


 「——私、かなりバカなこと口走ったんだ」


 その時、脳裏に猿の声がぼんやりと響き渡る。


 『マカよ。剣を持って鳥居の前に来るが良い。盾は持ってくるなよ。技術なくば盾に頼りすぎる』


 「——」


 やっぱり行かないといけないのか。

 私は重い体を肩でて持ち腰を上げて寝床の隅に置いていた剣を手に持つ。

 あ、けど外に向かう前にナビィさんに何か一言言っておきたい。


 私はナビィさんの後ろに立ち、体の上に手を乗せる。


 「昨日、変なことを言ってすみませんでした。けど、きっと過去に行って一人孤独だった兄のそばにいて愛してくれてありがとうございます」


 「——」


 気のせいかナビィさんは少し体を動かすと体を丸める。

 よし、行こう。


 ————。


 それから外に出て鳥居の前に来ると猿が矛を持って待っているのが見えた。

 猿は私に気づくと笑みを浮かべる。


 「来たかマカよ。かつてのちゅらは己が剣術が弱いことを知り、我が元に来た。そして私に勝負を挑み、我が技をその身に覚えさせた。引き分けだったがな」


 猿は矛を私に向かって構える。

 「さぁ、剣を構えよ。源マカ。もしお前の胸に宿る思いが真なら、我が矛に争うことができるはずだ」


 「——っ」


 私が剣を構える。その時猿は私に瞬きをする時間も与えず、一気に詰め寄ってきた。

 

 「——速いっ!」


 なんとか猿の矛の一手を間一髪で避けるも、猿はすぐに足を踏み込んで切り掛かってくる。私はしばらく避けることに精一杯で何も出来ない。

 猿はそんな私を見て呆れるばかりか笑みを浮かべた。


 「最初は避けるが精一杯。ナビィが前来た時に教えたわ」


 「ナビィさんがっ!?」


 そして猿は私に蹴りを入れようと軽く飛んで体を捻ると回し蹴りを仕掛けてくる。 私は剣を持つ右腕の事で防ぐと腕から骨に軽くヒビが入った音が聞こえる。

 猿は、一瞬痛がった私をおかしく思ったのか笑みを浮かべる。


 「お前はなぜ戦う。その魂胆は怒りではないか?」


 「怒り? 怒り、かもしれませんね!」


 私がなんとか剣を振るも猿は容易く避ける。


 「私が思い描いた幸せな世界を天人が壊し、結界を築いてなんとかなったかと思えば禍の神がくる! 怒りを覚えないわけがない!」


 「うむ、良き太刀筋になってきたぞ」


 気づいたら私は猿相手に体が追いつき、猿も必死に私の攻撃を避けている感じに見える。

 だけど、全く疲れていない!


 「早く! 私は早く禍の神を倒してカグヤを自由にしてあげたい!」


 「良き心に染まった怒りだが、怒りに目を任せて剣を振るばかりでは何もならんぞ」


 猿はそういうと私の剣を避けると腹を蹴り上げる。

 私が痛みに抗いたくても猿はその暇を与えず矛を私の顔を本気で指す勢い押し出す。


 「——チッ!」


 私はそれを剣を使って受け流して切り掛かるも猿は急に矛を離して拳を握ったかと思えば私の剣を屈んで飛ぶように掻い潜ると同時に勢いよく私の腹を凹ませる勢いで殴る。

 あまりの衝撃に吐き気を覚え、眩暈がした瞬間に一瞬足を止めてしまう。


 その間に後ろで猿が足を踏み込み、矛を再び持ち上げた音が技かだが聞こえた。

 そして、猿がこちらに向かって足を踏み込む音が何故か透き通るように聞こえると体がし自然と動くと振り返り、猿と視線があった。


 猿は今まさに私の腹に穴をあける勢いで矛の先端ををこちらに向けている。

 そして猿は笑みを浮かべる。


 「さぁ! どうする!」


 「——っ!」


 私は体を傾け、矛の視線を避けると左肘で猿の顔を殴った。

 しかし、「猿は全く動じず、私の左腕を掴むと捻じ曲げてきた。

 あまりの激痛に声を出せずにいると猿は愉快な声で急に笑い始めた。


 「良いぞ。その蛮勇こそ源氏だ!」


 猿は私の左腕を話すと再び矛を強く握ると殴りかかってきた。

 私は咄嗟に飛び上がって矛の刃の部分に乗る。

 そして猿が槍を振り上げたのと同時に大きく飛び上がると剣を猿の後頭部に叩きつけるように振り下ろす。


 しかし、猿はかなり上手なようで矛を持ち直したかと思えば体を前に向けたまま矛の柄で後頭部を守る。

 そして剣と柄がぶつかり鋭い音を立てた。

 私はそのまま地面に受け身を取って転がる。


 「——歯がたたない」


 この戦いで分かった。

 私は本当に弱い。


 猿はキキキと笑いながら手を打ち鳴らす。

 その声に私は振り返り、立ち上がって振り返ると猿は満足げな顔をしている。


 「なるほど。確かにナビィの言った通り弱いがな。この時代であれば致し方ない。むしろよくちゅらと同じ太刀筋を身につけれたものだ」


 猿は私の右手を握る。


 「まぁ良いだろう。この私はこの時代では禍の神に単独で打ち倒せる者はいないと思っていた。倒すには数多の犠牲しかないとな、だが天人との戦いはお前をここまで強くしたのだ。サガノオとまでは言わないが、ちゅらの再来とは自信を持って言える」


 「——ちゅらの再来」


 猿の言葉に私は安堵な気持ちと、背筋が凍る感覚がした。

 本当のちゅらに怒られないかという心に染まった。

裏話:

ナビィはマカと初めて会った時、一瞬だけゼロの面影を感じ泣きたくなったがそれを堪えて悟られないように知るのに精一杯だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ