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最後通告 天女の調べ  作者: 皐月
7章 東国の災禍

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51話 狂う歯車

前回のあらすじ:

東国へと向かい、桑名クナの町に向かう道中でツキマロと名乗る味方を自称する天人に会う。

そこでマカはツキマロより桑名クナの町に味方がいることを伝えられ早速向かうとここにはいないはずの星神がマカたちをじっと見ていた。

 「……星神、どうしてこんなところに?」

 

 昼前の桑名クナの町の人々の活気に満ちた明るい場所のはずが、一瞬だけ周りの声が聞こえなくなり、体もまるで蛇に睨まれた蛙のように動かない。

 星神はしばらく廃屋の戸の隙間から私たちをじっと見た後、深淵の中に姿を消した。


 チトセとナビィさんは急に止まった私を見て首を傾げる。


 「マカさん。どうかなさいました?」


 ナビィさんは心配そうに声をかける。

 私は首を横に振ると深呼吸をするともう一度廃屋を見た後、開いた戸に指を差す。


 「いえ、一瞬だけあそこの廃屋で星神の姿が見えました。星神はここまでくることはありますか?」


 私の言葉にナビィさんは驚く。しかし、それ以上にチトセが目玉が飛び出しそうになる程驚いていた。


 「え、アイツここまで来れないよ? アイツはあの小尾島に縛られている神様なんだ。くるなんてまずない」


 「え? じゃ……さっきのは?」


 私は再び廃屋を見る。

 チトセは私の前に出て先に廃屋に近づきじっと見つめた後再び戻ってきた。


 「——天人の気配が消えてる。星神に扮しているのか? いや、けど星神を直接見た神なんて……」


 チトセはどこか不満げな顔で何やらボソボソと呟きながら廃屋を睨む。そして私たちの方に向き直ると笑みを浮かべた。


 「まぁ、とりあえず今日はどこかに泊まろう……ん? この気配はツムグ? なんでここにいるの?」


 チトセは急にあたりをキョロキョロ見渡す。

 その光景に私とナビィさんはポカンとするしかない。


 「どうしたんです?」


 「……あーうん。なるほど」


 チトセは呆れた顔でへ、へへへと少し引き攣りながら笑っている。

 そして私たちを見ると半分怒っているのか、頬を少し膨らませる。


 「その、豪族の館に行ってもいい? マカの身分なら泊めてもらえそうだし。それとね」


 「それと?」と言うナビィさんの言葉にチトセは眉間を震わせる。


 「ツムグのやつ、中に入れて貰えなかったからって不法侵入して即捕縛されたってさ」


 「「……」」


 ツムグさん。なんだろう、こう言う意味不明なことをしてくれると生きているんだなって湧き出てくる安心感はなんと表そうか?


 それから私達は豪族の館に向かった。


 ————。


 街の丘の上に聳える豪族の館は街の繁栄をそのまま体現したかのように壮大で、首を動かして視線を変えても視野に収まらないほどだ。

 そして門の前に行き、早速私は門番に声をかけた。


 「あの、すみません」


 「なんだ……白髪の女か。まだ夜這いまでの時間じゃないぞ」


 門番は呆れたような眼差しで私を見る。

 それにしても夜這い……どう言う意味?

 いや、今はいいか。とりあえず早く目的を話さないと追い返される。


 「その、私は源マカと申します。今晩、こちらに泊めていただいてもよろしいですか?」


 「源マカ? ……マカ。あぁ! 源足草ミナモトノタシクサ様の姪っ子か!」


 タシクサ? タシクサ、タシクサって——。


 「……あぁ! タシクサ父さん!」


 私はようやくカグヤが言っていた叔父と言う言葉について思い出した。

 タシクサ父さんはそう言えば私の実父の弟で、早くに父を亡くした私やお兄ちゃんの父代わりをしてくれていた。

 兄はそう言えば叔父と呼んでいたけど、実の親を知らない私はずっとタシクサ叔父さんを父さんと呼んでたっけ。

 

 私が十歳になる前に出征して行ってそれっきりだったからうっかり忘れていた。

 そう私は感銘を受けながらも門番の言葉にうなづく。


 「はい。タシクサの姪です」


 「分かりました。首長様はあの人に助けられたのできっと泊めてくれますよ」


 門番も助けられた一人なのか、この場にいる誰よりも嬉しそうに屋敷の中に全速力で向かった。


 ————。


 あの後、私達は首長の許しを経て館に泊まることとなった。待遇自体は思っていた以上で。ご飯も二人と一匹では食べきれないほど用意された。

 水浴びの場所や着物の着替えも全て用意してくれた。

 さすがに申し訳ないと言ったけど「いや、これでも足りないぐらいです。恩人の姪っ子にもっと恩返ししたいですよ!」と言われてしまったから彼らの面子を潰さないようにありがたくいただくことにした。


 それから気づけば日がすでに落ちており、外からは哀愁漂う虫の歌声が鳴り響く。

 そういえばツムグさんのこと忘れてた。

 私は絶賛ナビィさんに叱られているチトセを見ると「あ、あの」と声に出す。。


  「あの、ツムグさんどうするんですか?」


  「……説教はここまでにしときます」


 ナビィさんは渋々と言った感じでやめてくれた。

 別に水浴びを覗かれたからってここまで叱らなくても良い気がするけどまあ良いか。


 チトセは少ししょんぼりしながらたどたどしく話す。


 「えーとね。うん。多分ここにいるんだけど言い出すのを逃しちゃった」


 「……今からでも言いに行きます?」


 「明日、出る時に言おうか。今行ったら追い出されそう」


 「——」


 確かにその通りだ。

 ここの人たちは私を恩人の姪として丁重に扱ってくれている。もし、盗賊ツムグさんと知り合いとくれば待遇を変えかねない。


 「そうですね、明日にでも——」


 私が話していると突然寝床の戸が開かれ、外から見慣れた赤い髪に少し小柄の少女が入ってきた。

 少女は冷や汗を流しながら周囲を警戒して私たちに気づかず入ってくる。


 「ふぅ、ようやく脱獄……あ」


 脱獄少女、ツムグさんはようやく私たちに気づくと冷や汗を流す。私とナビィさんは呆れ、チトセは少し怒っている。


 「ねぇ、ツムグ。言いたいことあるなら話してみなよ」


  初めて聞いたチトセの若干怒った声にツムグさんは少し体を震わすと大人しくなる。


 それからツムグさんはちとせにこっぴどく叱られながら何をしていたのかを説明してくれた。

 どうやらツムグさんは旅の中、よくカグヤへの報告をすっぽかす私と違い、毎日チトセに報告していたようで、褒められるあまり調子に乗りすぎてしまったみたいだ。


 そしてツムグさんがしっかり頭を下げると、チトセは「もうしちゃダメだよ。こんな危ないこと」と口にした。

 チトセからしたら小さい頃からそばにいた子がこんなしょうもないことで処刑されるなんでみたくないからそら怒るだろう。


 その後、ツムグさんは事の経緯を説明し、旅の中で集めた情報を私たちに話してくれた。

 ざっくりとまとめると東国はとりあえず乱が収まっても蝦夷の諸部族たちが各地で散発的に集落を襲撃する賊徒と成り果てているらしく、そのせいか禍の神の祠が崩されたり不自然に血が穴より噴き出ている集落などもあったみたいだ。


 ツムグさんは話し終えると、旅の中一人だと心細かったのか体を震わせる。


 「さ、さすが禍の神と言わんばかりに各地で起きる異変は本当に恐ろしいよ。けど、禍の神の手先たちはユダンダベアと協力している蝦夷たちが各地でなんとか撃破できているみたい。だけど、これまで復活したのは下位のものたち。それ以上が来るとわからない」


 私はツムグさんの話を聞いて何とか頭の中を整理する。

 とりあえず何とかできているけどこれからが分からない。そんな感じだろう。

 チトセはうんうんと頷いていた。


 「……高志はどうだった? 話とかあまりなかった感じ?」


 「そこは別に禍の神は何もしていないみたいですけど……どうして?」


 「ううん。何でもないよ」


 チトセは神妙な顔でそう答えると聞きたいことがなくなったのか満足そうに息を吐き出す。

 すると先ほどまで静かにしていたナビィさんが「あーあの」と声に出す。


 「その、ツムグさん。脱獄したことバレてません?」


 「え? あぁ、正面から逃げたから普通にバレてる——」


 ツムグさんがそう不用心に口にした瞬間、戸が勢いよく開かれると中に甲冑を纏った数人の男たちが怒りに満ちた顔で入って来るとツムグさんをあっという間に取り囲み、私たちを守るように間に入ってきた。


 「この盗人が! 大人を舐めるな!」


 「だ、だから泥棒じゃないよ!」


 ツムグさんは早速半泣きで弁明する。

私達はしばらくツムグさんが無実であることを丁寧に説明した——。


 ————。


 マカたちとツムグが再開したのと同時刻、狛村でも同じく日が落ちてあたりはすでに真っ暗。カグヤは狛村の小さな丘の上にある徳田神社に泊まる。

 もし天人が来なければマカの家があり、そこでマカと共にs平穏の日々を過ごしていた。

 だが、天人が襲来してからその平穏は完全に崩された。

 天人との戦いはすでに半年が過ぎ、さらに禍の神との戦いにも備えないといけなくなった。

 それはカグヤも同じで、非力な自分ができることの一つに、マカの手助けになる情報を集めることだ。


 今日もカグヤは調べ、まかに伝えようとして勾玉に声を投げたが源氏が来なかったため少し子供のように拗ねる。


 カグヤと同じく、情報を集めに来た天河の長、チホオオロは苦笑する。


 「カグヤさん。マカも忙しいのでしょうがないですよ。けど、禍の神の片割れ、チトセが無害な情報だけでも伝えたかったですね」


 「——多分、マカはすでに知っていると思う。チトセは口が軽そうだからなおさら颯爽に」


 カグヤは自分の集めた情報はチトセとナビィの知識量と比べたらまだまだ浅はかであろうと考えると心が少し熱くなる。

 


 カグヤは膝を抱えると顔を隠す。


 「私、もっとマカのお役に立ちたい。……もっと」


 「——」


 チホオオロはカグヤの様子を見て察すると側に寄り添うと背中を優しく撫でた。

 カグヤはしばらく反応を見せなかったが、落ち着いてきたのか徐々に目が虚になりチホオオロの日ぜの上に頭を乗せると眠りについてしまった。

 チヒオオロは少し笑みを浮かべる。


 「きっとマカは、カグヤさんが元気に今を生きているだけでもきっと嬉しいと思いますよ」


 チヒオオロはボソッと小さな声でそう呟いた。


 それからチヒオオロも眠りにつき、寝床には静寂に包まれる。


 ————。

 ——————。


 二人が眠りに入ってしばらく時が過ぎた。

 カグヤは何かの気配を察知したのかゆっくり目を開けると周囲を見渡す。


 「……誰かが私を呼んでる?」


 カグヤはナビィの勾玉を手にぎゅっと握りしめると起き上がり、寝床から出ると外に出た。

 神社の外は少し肌寒く、月明かりに照らされた境内の中を何かの声に導かれるがままに歩く。


 「誰? 私を呼んでいるのは誰?」


 やがて神社の裏に回ると勾玉が急に紅色に輝く。普段は青白く光勾玉が今まで見せたことのない光を発し始め一瞬だけ怖気つく。

 その時、勾玉からはっきりと初めて聞く女の声が聞こえた。


 『もう目覚めなさい。これ以上眠ると禍の神を鎮めれなくなる』


 「うがっ! あ、頭がっ!」


 カグヤはあまりの頭痛に頭を抑えるとその場に座り込んで呻き声をあげる。そして激しい嫌悪感と罪悪感、悲壮感といった負の感情に押しつぶされそうになる。

 初めてなのに知っている光景、人が頭の中を駆け巡る。


 そして痛みが引くとカグヤは息を荒くしてしばらく座り込んだ後、ゆっくり立ち上がる。

 まるで先ほどまでのあどけない村娘のような振る舞いではなく、マカと初めて出会った時の高貴な人物のような佇まい。


 「——私、ずっと眠っていたの……ですね」


 カグヤは空を見上げて月を見る。

 何も言わずただじっと。

 そして目からほろりと涙を流す。


 「——マカでは絶対に禍の神を倒せない。だから起こされたんだ……!」


 カグヤは——いや、カグヤヒメは震える声でそう口にした。


 ——————。


 翌朝、私、源マカは寝起きで重い頭と体を無理やり起こしてまだ眠っているナビィさんやチトセ、それからツムグさんを見る。ほぼツムグさんのせいであまり眠れなかった。

 昨晩は必死にツムグさんの行為についての弁明に奔走し最終的には寛大な首長が「まぁ、マカ様が言うのであれば良いですが」と優しい口調で言われた後、次はないと言われてしまった。


 「そういえばまたカグヤに情報を伝えるのを忘れてた。今日こそは忘れずにやろう」


 最近忙しくて会話することさえ忘れてしまう。

 私は自覚はしていなかったけど冷たい人間かもしれない。


 そんなことを考えていると胸に掛けていた勾玉が白く輝き始めた。

 すると勾玉からカグヤの声が徐々に大きく聞こえてくる。


 『マカ? 聞こえる?』


 「うん、聞こえる。昨日はごめん、色々あって忘れちゃった」


 『良いの別に』


 カグヤも寝起きだからか少し眠そうに聞こえる。

 だけど不思議と少しというか、かなり大人びて聞こえる。


 『マカ。今どこにいるの? 東国に向かっていることは聞いたけど』


 「今から不死山に向かう予定だよ」


 『——そう。なら、その場にいる神は倒さないで。あれは禍の神にはならない。良くて虫に寄生されるだけだから』


 「——情報、集めてくれたの?」


 『……うん』


 ついびっくりしたけど、カグヤはこんなに情報を知らない間に集めてくれたんだ。これは感謝してもしきれない。


 『あとマカ。一つだけ言いたいことがあるの』


 「どうしたの?」


 私がそう聞くと、カグヤはしばらく黙る。そしてゆっくりと悲しそうな息遣いになる。


 『高志と飛騨の二カ国にも向かってほしいの、そこに禍の神に関する情報があるから』


 「うん、分かった。ありがとう」


 すると勾玉が徐々に光を失い、カグヤの声も聞こえなくなった。

 久々にカグヤの声を聞けて安堵の息を漏らす。


 「——今の声は?」


 「——っ!」


 突然の声にびっくりして顔を上げると、私の目の前にいつの間にかチトセがいた。チトセは目を少し細めて私を見ると勾玉に触れた。


 「——早い、早すぎるんだよ」


 「何か言った?」


 「ううん。何も」


 チトセはどこか遠いところを見てい他のが頭に残った。

 それから私は寝床から出て厠に向かい、用を済ませる。


 それにしてもチトセのあの反応はどこか不思議だ。

 普段のチトセは真剣な部分はもちろんあるけど、今回ばかりはどこか違う

まるで本当に怒っているような反応。


 私は空を眺め、雲がやってくる方角を見る。

 その時、たまたま一つの雲がカグヤの長く綺麗な髪に見えた。


 「……カグヤも、どこか口調が大人びている感じだったな。チホオオロさんの喋り方が映ったのかな?」


 明朝のぼんやりとした光を浴びながら同能天気なことを考えつつ、寝床に戻る。

 その時、きた時には感じなかった背後からの悪寒が走る。

 それはまるで冷たい刃を向けられた感触。


 私はゆっくり足を止める。

 

 「……だれ?」


 私が声をかけると、何かがゆっくりと近づく。この不気味な感じは天人だ。

 やがて天人が私の背後で歩くのを止める。


 「あ、あれ? 体が動かない?」


 『暴れられては困る。そして、見られても困るためこうさせていただく』


 天人はそう口にすると、有無を言わさず。私の手を掴むと何か束にまとめられたものを握らせると、私の手を強く握りしめた。


 『不死山に向かうのならこれを持っていくが良い。そしてチトセに宜しく頼む。我が名はツキテル』


 「つ、ツキテル?」


 『それは天の矢。禍に穢されたものを浄化できる唯一の矢。大切に使ってくれ』


 天人——ツキテルの声がしなくなったのと同時に体が急に軽くなる。

 咄嗟のことで前によろめきながら振り返るとそこには誰もいなかった。


 「……これって」


 手に握られた矢を見るとやじりが翡翠でできていた。

 そしてどこか心が洗われるような感じがする。


 「——何でこれを私に? ツキマロが話していた天人にも味方がいるのって嘘じゃなかったの?」


 私は新たな疑問に悩ませながら駆け足で寝床に戻った。


 ————。


 それから戻るとすでにみんなは起きており、旅支度をしていた。

 ナビィさんは私に気づくとほっとしたような顔をする。


 「あぁ、おはようございます。マカさんの荷物はまとめておきましたよ。て、その矢は?」


 「あぁ、ちょっと話が長くなるんですが——」


 私はナビィさんとツムグさんやチトセに厠から戻る道で起きた出来事を伝えた。

 ナビィさんとツムグさんは半信半疑な感じだ。


 ツムグさんは悩ませながら矢に触れる。


 「僕はやめておいたほうが良いと思うけど……。味方だとは言っても何か騙そうとしているかもしれないし」


 「ワタシも同じです。ツキマロさんは信用できる感じですけど、ツキテルと言う人の行動は不審です」


 ナビィさんも矢を使わないようにと口にする。

 それに対してチトセは何も口にせず、ただ頷くだけ。

 せめて一言ぐらい何か言ってほしいな。


 「ねぇ、チトセはどう?」


 ワタシがそう口にすると、チトセはゆっくり顔を上げる。


 「使っても大丈夫だよ。昔、僕も使ったけど効果は本物だよ」


 チトセの言葉に、ナビィさんはしばらく考えた後「まぁ、チトセがそう言うのなら」と納得したそぶりを見せつつも、まだ疑念を感じているようだ。

 ツムグさんはもちろんチトセの言うことを全て信じているのか「なら良いいか」と軽い感じで納得したようだ。

 私は真剣に悩んでいるんだけどね。

 そして再び私たちは旅支度を進めた。


 ————。


 それから旅支度を終えた後、寝床から出て大広間に向かい、首長にお礼を言った後、館から出発した。

 そして桑名クナの町から出て山道に入る手前でチトセは急に「ごめん、ちょっと良いかな」と申し訳なさそうな口調でみんなの足を止めた。

 

 「少し狛村に行ってくる。何か嫌な予感がするんだ」


 チトセの言葉にナビィさんは少し首を傾げる。


 「嫌な予感ですか?」


 「うん、ちょっとね」


 ナビィさんの言葉にチトセは少しはぐらかせると、ツムグさんを見る。


 「ツムグ。ナビィとマカをお願い。場所と目的地は昨日話したでしょ?」


 「えーと、うん。不死山だよね」


 「そうだよ。じゃ、ごめん! 用が終わったらすぐに向かうから!」


 チトセはそういうとあっという間に空高く飛び上がり、西の方角に向かった。

 私はただチトセの突然の行動に疑問を浮かべるしかなかったけど、彼のことだ。きっと解決して戻ってくるだろう。


 「じゃ、行きますか」


 私はそう口にして三人で東国に向かって出発した。

ツキテル:

マカに天の矢を差し出した天人。

天人の中では最年長。彼は禍の神に穢されずに生き残った天人たちを集めて地上で混乱を引き起こしている禍の神の下僕と化した天人の討伐の指揮をとっている。

チトセとは何かしらの縁があるようで、チトセも彼を知っているようだ。

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