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最後通告 天女の調べ  作者: 皐月
五章 吉備編

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40話 乱れ始める

  ————オヌガマの屋敷の地下にある牢獄。

 そこには先日マカの襲撃を指示したことをオヌガマにバレ、罰として禁固刑を受けたキラヒメがポツンと一人だけ中にいた。

 キタヒメは歯軋りを立てながら柵を握る。


 「おのれ、源マカ。お前さえいなければ私の計画が破綻する事がなかったのに……!」


 キラヒメがオヌガマを思うその心は本当で、ここからオヌガマを守ろうと尽力していた。

 そして守るのはオヌガマだけでなく、オヌガマが守ろうとしている吉備国全体を含んでいたのだ。

 

 そんなキラヒメの目の前にどこから入ってきたのか小さなサソリが牢屋の中に入り込みキラヒメに近づく。

 キラヒメはハッとした頭を下げた次の瞬間。頭の中に悍ましい声が響き渡る。


 『でかしたぞ、これで我らが禍の神が世を統べる偉業に一歩近づいた』


 キラヒメはその声に臆する事なく落ち着いた様子で返す。


 「なら良かったです。牛鬼の肉体のありかは教えました。だから、吉備にこれ以上禍をもたらさないでください。お願いします」


 『禍? 面白いことを聞く女子だ。それにお前、源氏の勇者が来ていることを報告しなかったのは何故だ?』


 「そ、それは私の方で始末しようと考えていたからです。しかし、焦ったあまり報告が遅れて——」


 『そのお陰で我は怪我を負った。責任を取ってもらう』


 「え?」


 キラヒメが顔を上げると目の前にいたサソリは尻尾を振り上げていた。


 「え?」


 サソリは尻尾の先端にある針をキラヒメの右目に突き刺した——。


 ————。


 宿屋の物置小屋の中で、私はナビィさんから牛鬼を封じるための策について教えてもらった。

 どうやら牛鬼はサガノオに剣を突き刺されたあと、まず四肢を切り落とされてそれぞれ四つの要石に封印し、胴体と頭を吉備にある火を吹く山に封じたらしい。


 「で、その火を吹く山はどこに?」


 「やはり長い年月が経ったからでしょうね。まさしく今宮殿があることろです」


 「え?」


 私は呆気に取られる。

 いや、九百年もすれば城も建てられる場所にもなろうから気にしたら負けだ。

 次の瞬間そこら中から破裂音が聞こえたかと思えば夥しい数の悲鳴、肉が引き裂かれる音が生々しく耳に残った。

 私は咄嗟に立ち上がると物置小屋から出るとあたりから煙が上がそこら中から悲鳴が響き渡っていた。

 私の後に続いて出てきたナビィさんとチトセも外の光景を見ると言葉を失う。


 「ナビィさん。これは?」


 「恐らく、あのサソリが犯人としか——マカさん!」


 ナビィさんは急に横の塀に指を差す。すると私の腰ぐらいの高さのサソリの大群が私目掛けて押しかけてきた。


 私は剣を抜くとサソリたちを薙ぎ払い、一歩一歩下がっていくと宿屋からおばさんが飛び出してきた。


 「あ、あんた達まだ居たんかい!」


 おばさんを横目で一瞬見るとサソリに襲われたのか着物に血が滲み、飛び出してきたおばさんの後ろからは一回り大きなサソリが追いかけていた。

 私は剣を治めるとおばさんに向かって走り肩に担いだ。


 そしてナビィさんに視線を送る。


 「ナビィさん! 取り敢えず街の外へ! チトセは空高く飛んで敵がいない場所を見つけて!」


 私の言葉にナビィさんとチトセは頷く。

 チトセは頷くと空高く飛び上がり、ナビィさんは私の後ろにくると腰に携えていた剣を抜く。


 「マカさん、早いうちにいきましょう!」


 「——あっ」


 周囲を見渡すとサソリの大群に取り囲まれている。

 私は深呼吸をする。


 「ナビィさん。こいつらの背中を飛び伝って脱出しましょう。行けますか?」


 「えぇ、大丈夫です。マカさんこそハサミで足を切り落とされないでくださいね!」


 私はナビィさんと共に高く飛び上がり、足を曲げてサソリのハサミを交わすと背中に足を乗せて再び飛び上がって後ろにいる別のサソリの背中に飛び伝うのを何度も繰り返した。

 肩に担がれているおばさんは初めての経験なのかかなりびっくりしている。


 「おばさんごめんなさい! こうしかなかったんです!」


 「うぶっ。だ、大丈夫だよ。あんたのおかげで命拾いさ!」


 「なら良かった——危なっ!」


 私は咄嗟に足を曲げて鋏を交わす。


 そしてしばらく飛んでいくとサソリの最後尾を飛び越えると全速力で山の中に向かって走る。

 すると首位を見てきたのか空からチトセが私の隣に戻る。


 「マカ。そのまま真っ直ぐ。しばらくいくと蛇神が住む洞穴があるからあそこに逃げ込んで!」


 「分かった! 案内して」


 私はチトセに案内されながらこの場を後にした。


 ————。


 蛇神の洞穴の中


 しばらく山の中を走りようやく蛇神の洞穴に辿り着いた。

 中に入るとそお名の通りと言うべきが大蛇が中におり、私たちを見ると状況を察したのか中に滞在することを許してくれた。


 中に入った後私はおばさんの手当てをしてチトセとナビィさんは蛇神と会話をしていた。

 そしておばさんの手当も終えた頃合いに蛇神が長い体を動かして私に顔を近づけた。


 「それにしても源氏のものがここにいるとは長く生きていると不思議なことがあるものだ」


 「は、はい。蛇神様。ここに匿ってくれてありがとうございます」


 「気にはするな。ユダンダベアは古来より源氏と大王、として諸王たちによって守られてきた歴史。そのものどもを無碍に扱うことなどできぬ。恩知らずの鬼どもにはわからぬがな」


 蛇神様はそういうと乾いた笑い声をあげる。

 

 ナビィさんは少し微笑むとおばさんに近づき、姿勢を低くして視線を合わせた。


 「そういえばおばさん。貴女の名前をお聞きしてもいいですか? 色々とお世話になっているのに聞いていないのは失礼だと思いまして」


 「ん? あぁ、いいけど。私は里目サトメって言うんだ。で、私の名前を聞いたんなら何か知りたい事があんじゃないか?」


 「はい。あの、宮殿へ忍び込める道ってあります?」


 「いやいや、なに聞いているんですか?」


 つい声が出てしまったけど意外なことにおばさんは「あー入り方ね」というと教えてくれた。


 「まぁ、今は鬼の王様だけど民への姿勢は前の王様と同じだよ。気軽に入れて中庭までなら監視付きでも自由に散歩できるよ。宮殿内はわからないけど——。逆にこんな状況ならどさくさまぐれで入れるんじゃないかい?」


 ——あぁ、宮殿から行くのか。


 私はその場から立ち上がると剣を肩に掛ける。

 ナビィさんは下手に争いを生まないように、吉備の兵士たちにバレないように行動をしたいんだ。

 チトセと蛇神は状況をわかっていないのかキョトンとした顔を浮かべる。


 そしてナビィさんはサトメさんから色々聞いた後、再び立ち上がった。


 「マカさん。チトセ。現在都はどうなっているかは大方予想はつきますが、大サソリは確実に宮殿にいます。彼が牛鬼を完全に復活させる前に向かいましょう」


 「うん分かった」


 私はナビィさんとチトセと共に洞穴を後にした。


 ————。


 吉備の都に戻るとほぼ全域から煙が上がり、炎の海となっていた。

 すでに街の住民は避難したのかもしくは皆殺しにされたのか悲鳴は少なく、聞こえているのはパチパチと木かもしくは肉が焼ける音のみ。

 奥まで進んでいくとサソリ達が闊歩し、私はそれを斬り伏せながら先に進んでいく。

 そして宮殿があった場所までたどり着くと門の前には王のものと思わしき豪華な被り物が身につけられた男の首が飾られていた。

 が、飾られていたのは王だけでなく宮殿の中にいたであろう老若男女の生首はずらりと飾られている。


 「——っ」


 ナビィさんは流石にその光景に耐えきれなかったのか吐き出す。

 私も吐きそうになりながらもそれに堪え、宮殿の門を潜る——すると遠くから剣と硬いものが激しくぶつかり合う音が鳴り響いた。


 「まだ中で戦っている人がいる!」


 「——行きましょうマカさん!」


 私はナビィさんと共に炎の中を進み、炎の中から出てきたサソリ達を斬り伏せて広く開いたところにくるとオヌガマとオオサソリが激しく戦っていた。

 オヌガマは片手に剣を持ちもう片方の手には鏡の盾が握られている。


 しかし、オヌガマは見るからに疲れているのに対してオオサソリは疲れているようには見えない。


 「まずい——そうだ!」


 私はナビィの勾玉を握り、青白く輝かせるとこの場にはなかった弓が現れ、それを握ると大サソリ目掛けて構える。

 そしてオオサソリがハサミを大きく振り上げた瞬間に私は目に目掛けて矢を射る。


 「グワァ!」


 矢は一直線の軌道で進み、オオサソリの目に深く突き刺さった。

 オオサソリは呻き声をあげてその場で悶え始める。その隙に私はオヌガマの元に向かい、担ぎ上げるとナビィさんの元に向かうとその場に下ろす。


 オヌガマの体をよく見るとかなり重傷なようで火傷のせいで身体中が真っ赤で所々水膨れができている。

 その時後ろから殺気を感じる。

 振り返るとオオサソリは片目から血を流しながら私をにらめつけている。


 「き、貴様!」


 私は深く息を吸うと立ち上がる。


 「ナビィさんはオヌガマを避難させて手当てしてください。私はこいつと戦います。ひび割れを狙えば良かったんですよね?」


 「えぇ、ひび割れです。そこを確実に剣で突き刺せば大丈夫なはずです。では、ご武運を」


 ナビィさんはそう口にするのその場を後にした。

 最終的にこの場に残ったのは私とオオサソリのみ。


 オオサソリは私を見ると「くくく」と笑う。


 「ほほう。この俺様に苦戦したお前がまた俺に挑むのか。馬鹿な奴め」


 「戯言は良い。で、牛鬼は復活させたの?」


 「——ふふふ」


 オオサソリがこう呟いた次の瞬間、オオサソリの背後の炎が渦となって高く登ると大きな半透明の牛の頭の骨が現れた。


 オオサソリは嬉しそうに笑う。


 「こいつが牛鬼だ。感謝するよ。だが、また生きた人間の血肉が足りず完全なる復活とはいえない。だから、お前が血肉となれ!」


 オオサソリはそう叫ぶと私目掛けて飛びかかってきた。

 私は咄嗟に横に避けて剣を抜き、オオサソリのハサミを避けながら後ろに下がっていく。


 「相変わらず大きいくせにすばしっこい!」


 オオサソリの攻撃には隙が見つからない。天人達の攻撃——アタベと比べてもかなり格が上だ。下手に攻撃したら瞬く間に形勢が逆転されてしまう。


 その時、オオサソリはハサミを地面に叩き、その衝撃波で私の体は空高く宙に浮いた。

 足元を見るとオオサソリはハサミを上に構えて大きと飛び上がると一瞬で私の目の前までくるとハサミで切り掛かってきた。


 「——っ!」


 私は咄嗟に避けるとハサミと腕の隙間に剣をしっかり突き刺すとオオサソリは「くそっ!」と口にして大暴れする。

 そして広角の隙間から明るくなったと思えば炎を吹き出した。


 「あぶなっ!」


 間一髪で私は剣を抜くと地面に降り立ち。オオサソリの攻撃を交わしながら接近した。

 オオサソリにあの攻撃は意外と聞いたのか片腕だけで私に攻撃を仕掛けたが攻撃が大雑把になり、一瞬で間を詰めると額のひび割れに剣を突き刺すした。


 「グワァぁ……」


 オオサソリが声を上げようとした瞬間、剣が強い光を放つ。

 その光は一瞬でオオサソリを包んだ。


 「ガガガガガ!」


 オオサソリはあっけなく断末魔を挙げると光の中で体がボロボロに崩れて消滅した。


 「——意外と弱かったんだ」


 私は空を見上げて牛鬼を見る。

 牛鬼は不気味なことに一向に動こうとしない。


 「——た、ましい」


 一瞬牛鬼の頭蓋骨がしゃべった——。


 次の瞬間、牛鬼の口が大きく開くとあたりの炎や門に飾られていた生首や焼け焦げたしにくお吸い込み始めた。


 私は咄嗟に剣を深く突き刺して足を踏ん張って巻き込まれまいとしばらく耐え、ようやく終わったかと思えば牛鬼の骨から血が滲み出し、首からしたの骨、肉、皮の順で出来てきた。


 そしてあっという間に二足歩行の牛の姿をした巨漢の鬼——牛鬼が復活した。


 「ぶもー!」


 鬼男には雄叫びをあげると肩を大きく動かしてい首を回すと私を見下ろす。

 すると不気味な笑みを浮かべる。


 「ぶもも。お前はあの時の源氏……。今ここで復讐——女?」


 私は剣を構える。しかし牛鬼は困惑の表情を浮かべたまま固まった。

 そしてしばらくして理解したのか「ぶもー!」と叫び声を上げあたりの炎を自身の手に集めて炎の刀を生み出した。


 「そうか! ここは遠き時の彼方か! あやつはもう死んでいるのか! ぶははは!」


 「サガノオのこと? 残念だけどもう死んでる。今度は私があんたを殺す」


 私の言葉に何を思ったのか牛鬼は「ぶももも」と笑う。


 「ふ、サガノオ? あぁ、ゼロのことか。ならお前はその子孫!」


 ——は? ゼロ?


 一つの疑問が生まれたのと同時に牛鬼は刀を渡し目掛けて振り下ろす。

 咄嗟に避けた途端、剣が触れた地面から火柱が立った。


 その光景に唖然としていると牛鬼はただ笑みを浮かべている。


 ——新たな疑問が生まれたのと同時に牛鬼との戦いが始まった。

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