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最後通告 天女の調べ  作者: 皐月
五章 吉備編

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38話 禍の者

 私は窪三刀クボノミトの大通りを人混みをかき分けながら進み、道行く人にオヌガマが住む屋敷の場所を聞く。

 話を聞くとオヌガマは人混みが苦手な為、国造が住む宮殿から離れた郊外に立っているようだ。


 私はその話を聞き、畑や百姓の家が立ち並ぶ畦道の先に進むと他のとは一風異なって立派な屋敷が田んぼの中に立っていた。

 あたりの百姓の家と比べればかな立派なものの、柵低く、堀もない為貴人が住むにしては少し見窄らしく感じる。


 そして門の前まで歩くと私は門番に止められた。


 「——スンスン。おい、そこの華奢な男。何ようだ」


 門番を見ると犬妖怪で立派な尻尾と見た目に合わない可愛らしい犬の耳を生やしている。

そして唸り声を上げながら私を見下ろす。

 私は怖気ないように手に持った袋を見せる。


 「少しオヌガマ様がお怪我をなさったと聞きまして。早く傷が治るようにと真実モミを持ってまいりました」


 「——そうか。よし実を出せ」


 「はい。えっと、これでどうでしょう」


 私は袋から真実モミ取り出す。

 すると門番は顎を撫でと私の胸に指を差す。


 「ほう、持ってきたものは本物か。では、その胸の膨らみは?」


 「——」


 えっと、これはバレてる?

 これもし私が触ったら怪しまれておしまいだし、なら触れと堂々と言えば身ぐるみを剥がされおしまい。

 無言も同じ結果だ。


 どれをとってもこれは詰んだ……。


 しかし、予想外なことに門番は呆れ気味にため息をつくと欠伸をした。


 「はぁ、もしやアイツがまた口説いた女か? アイツめ、今度は女子に男装させるとはとことん腐ってやがる」


 門番は私を見て頷くとしっしと追い払う。


 「こいつは渡しといてやる。どうせ変な癖を凝らしたアイツ無理やりやらされているんだろ。俺から言っといてやるから今日は帰りな」


 ——どうやらなんとかなった。


 私は安堵の息を漏らすと頭を下げる。


 「ありがとうございます。ではオヌガマ様にお大事にと」


 「うむ。気をつけて帰れよ。ここ最近この辺りに禍の者どもが見られるようになっているんだ」


 「——禍の者? 分かりました。ありがとうございます」


 私は正体がバレる前にこの場から退散し宿屋に戻った。


 ————。


 宿屋に戻り、一眼につかないように奥に進んで物置小屋の中に入る。

 そこにはチトセとナビィさんが仲が良くなったのか二人で話していた。

 二人は私に気づくとこちらを見た。


 「あぁ、マカさんでしたか。先ほどチトセがこっそり抜け出して情報を集めてきたので話をお聞いていたのです」


 チトセはナビィさんの言葉に鼻を高くする。


 「うん、そうだよ! マカは何か収穫あった? オヌガマのとこに行ってたんでしょ?」


 「あー……それなんですが」


 私は二人に事情を説明した。

 二人も大体察してくれたのかただ頷くだけだった。


 ナビィさんは少し間をおくと口を開く。


 「けど一応接点は気づけたのですよね? なら今度は街中を歩いているところを……て、あぁ」


 「私が顎を砕いたから当分外には出れないと思います」


 「なるほど。では謁見は無理なんですね。その格好ではもう」


 「それに合わせて私が咄嗟に変な嘘をついたせいで多分……指名手配も入ってそうですねこの格好も」


 私はナビィさんと共にから笑いをする。

 本当にどうしよう——そう思っているとチトセは何か思い出したのかナビィさんの頭の上に乗った。


 「そうだマカ。最近禍の者と言うのが辺りにいるらしいんだよ。その話聞いたでしょ?」


 「え、うん。聞いたけど。それがどうしたんです?」


 「そいつ、今日一瞬だけ見てきたけど本物の奴だよ。幸い弱いけどこの街を簡単に半壊にすることが出来る」


 「——どんなのですか?」


 「そうだね。ある時代では良きオオナマズと言われ、またある時代では海にいたことから海津翁と呼ばれたんだ」


 「——津翁? 天河の津翁と違う奴ですか?」


 「あぁ、同じ津翁だけど違うよ。それに禍と言っても、彼は禍の神とは無関係でただ災禍を引き起こすからそう呼ばれているだけだ」


 チトセの言葉にナビィさんは首を傾げる。


 「えーとチトセ。それ最初に聞いてても思ったのですが、海津翁の話、ワタシは聞いたことありませんよ?」


 チトセはナビィさんの言葉に微笑む。


 「封じたのが相当昔だったから口承が途絶えたんだろうね。マカ。こいつは僕らで再度封じよう。彼は何者かが封印を破って髭を二本とも奪われたことに怒り狂っているだけさ」


 「——分かりまして。で、今から行く感じですか?」


 「——うん。そうだね。あの感じだと今夜にも南門に来ちゃうし」


 チトセの言葉には嘘はない。

 それにチトセの言葉から恐らく海津翁を討ち取ったという功績で謁見されるかもしれないという推測に違いない。

 私はチトセの目を見ると静かに頷くとナビィさんに視線を向けた。


 「けどナビィさん。この真っ昼間に行くのは危険ですよね。流石にバレるかもしれないです。私はともかくチトセが」


 「——いや、二人別れて移動すればいいだけでは?」


 ——あ、そうか。


 こうして私はチトセと話し合い、南門を出た先にある二つに分かれた道の看板先で合流することにし、時刻は夕暮れに決まった。

 

 ————。


 それから夕暮れ時まで休み、私それからはチトセと共に物置蔵から出てチトセと分かれたあと南門に向かう。

 門に着くと何やら兵士たちが集っていた。

 恐らく海津翁を討伐するためだろう。そして彼らをよく見ると顔に包帯を巻いている大将らしき人がいた。

 それにあの顔に見覚えが……それに犬妖怪の門番まで近くにいる。間違いない。オヌガマだ。


 ここで落ち合ったらまずい。こっそり通ろう。


 私は兵士たちの間をすり抜けるように進むと門番に止められた。


 「待て、もう夕暮れ時だなぜ出る」


 門番は私の顔をじっと見る。

 ——よし、この言い訳ならいいだろう。


 「少し、山に住む幼馴染の妖怪が久々に来るというので出迎えにです」


 「——ほう。その妖怪は、街に入らんのか?」


 「——人見知りで」


 門番は大体察したのか頷くと「分かった。けど、夜道は危ないから妖怪にここまで送ってもらえよ」と親切に言ってくれた。

 私は「ありがとうございます」と言い門を超えた。


 ——。


 私は小走りで先に進み、分かれ道に着くとチトセがふよふよと浮いており、私を見ると手を振った。


 「おぉ! なんとか超えれらね。オヌガマが居たよね門に? 見つからなかった?」


 「えーと。門番に止められた時に多分見られたかと。その中に屋敷の門番をしていた人も見えたので確実に」


 チトセは私の言葉に「まぁ、しょうがないよ」と口にすると道の先に指を差した。


 「マカ。耳を澄ませて。咆哮が聞こえない?」


 「——」


 私は目を瞑り耳を澄ませる。

 すると風に乗るかのように、前からおどろおどろしい言葉に表現できない音が耳に入ってきた。

 ゆっくり目を開けるとチトセは音が聞こえた方向を見る。


 「よし行くよ。早くしないと兵士たちが来てしまう」


 私はチトセの後ろをついて行く。

 チトセは徐々に近づいてくる音と共に私の肩に乗る。


 「マカ。海津翁を鎮めるには君の剣に宿る天河津翁の力が必要だよ。その為には海津翁の脳天に突き刺すんだ」


 「——それ、死にませんよね?」


 「あぁ、死なないさ。むしろ深く突き刺さないと天河津翁の言葉はあいつには届かないよ」


 それからしばらく歩くと森の奥から木々を薙ぎ倒す音と不気味な叫び声が響き渡る。

 チトセも先ほどまでの砕けた顔から真剣なものなる。

 次の瞬間、鳴き声が辺りから聞こえたと思えば目の前で赤い閃光が見え大きな何かが私目掛けて突撃してきた。


 私はチトセと共に間一髪で避け、振り返るとオオナマズがいた。ナマズは赤い目が四つあり、チトセが言った通り髭があったところは何者かにちぎられた後があり、口から湯気が立ち上るほど怒りで我を忘れているようだった。


 「チトセ。あれが海津翁?」


 「うん。この子だよ! あいつは口から光弾を放つから気をつけて!」


 チトセは私が戦いやすいようにかなり上まで浮く。

 海津翁の怒りを鎮めるなんてどうすれば。


 海津翁は私に視線を向けると叫び声をあげて突撃をし、また間一髪で避けると尻尾を振り上げた。


 「——あ」


 私は咄嗟に起き上がって前転して海津翁から離れると大きく体を回し地面を大きく切り裂く。その時の風が私を吹き飛ばし、私は木に勢い良くぶつかった。


 「ガハッ!」


 私はガンガンとする腰の痛みに耐えながら立ち上がる。

 頭を触るとべっとりと生暖かい水が手のひらに広がる。海津翁はしっぽを再び上げると剣のように私目掛けて振る。

 辛うじてそれを避けるがその度にしっぽにぶつかった木々が次々と薙ぎ倒される。


 何度も押され下がり続けると背中がひんやりとする。

 私は止めと言わんばかりに勢い良く振り下ろされた尻尾を両手で剣を握り、それを防ぐと一気に地面に向かって力が加わり、全身の骨が髄までビリビリと震え言葉にならない痛みが関節に向かって走りビシビシと音がした気がした。


 海津翁はその叩き潰そうと何度も尻尾で私を地面に叩きつける。

 手加減もなく問答無用の攻撃に私にはなす術がなく、舌を噛んでしまい口から血を吐いた。


 「はぁぁ!」


 私はこけるように横転すると津翁の尻尾が地面に叩きつけられ奥深くまでめり込んだ。

それを見て剣を握ると力一杯に突き刺した。


 「ウヴァァァ!」


 海津翁は大きな声を出すと暴れ始め、私が剣を抜くと中に高く浮くと四つの赤い眼が輝き始め、口から白い光が漏れ始める。


 そして大きな光となった次の瞬間私目掛けて光弾を飛ばしたためそれを剣で弾くと次々と光弾を私目掛けて放出する。


 逸れた光弾は地面にぶつかり粉塵を生み出したせいで避けづらい。


 私は感覚が鈍くなってきた両足で無理やり動かし光弾を避けなながら近づく。

 気づけば剣が輝いている。


 「海津翁ぁ!」


 私は声を上げると粉塵の中を進み、盾で光弾を防ぎながら前に向かって走る。

 海津翁は近づいてきたのに気付くとこちらを向き口の中に今までの比にならないぐらいの光を溜め始めるがよく見るとかなり隙だらけだ。


 私は剣を強く握る。


 好機は今しかない!


 「ごめん、痛いけど我慢して!」


 私は剣を海津翁に向かって投げつけると口の中に入り深くまで上顎に突き刺さった。


 「アァァァ!」


 海津翁が悲痛な叫び声をあげた瞬間、剣は青白く輝き始めその光はやがて海津翁を包む大きな光の球となった。


 光は最初はしばらく中に浮かんだままだったのが、少しすると地面に降りてくる。

 地面に着くと光は粒となって消え、中にはさっきまでとは違い、落ち着いたような感じの海津翁がそこにいた。


 チトセも気づけば私の目の前にいる。


 「ねぇ、海津翁。落ち着いた?」


 「——」


 海津翁は何も口にせず。私を見ると口を大きく開くと中に剣があった。


 「あ、ごめん」


 私はすぐに駆け寄ると剣を引き抜いた。

 そのまま少し後ろに下がると口を閉じてそのまま何処かへと飛び去っていった。


 海津翁が飛び去った方向をじっと見ているとチトセは私の前に来る。


 「マカ。すごい怪我だけど大丈夫?」


 「——ちょっと休みたいです」


 「手当てしてあげるからそこの木にもたれて」


 私はそばにあった大木に持たれるとチトセは私の体を隅々まで触る。その度に全身に痛みが走った。


 「逆に海津翁相手にこれだけで済んだのが奇跡だよ。普通だったらもっとひどい怪我だよ」


 チトセは私を見ると悲しそうに微笑んだ。


 「あと、海津翁なが暴走した理由は剣と海津翁の二人だけの会話を覗いてみて分かったよ。髭を切られたのが発端だけどその犯人がね」


 「——その犯人?」


 「チトセはゆっくりと息を吐きながら口にした」


 「小さなサソリだよ。もしかしたらだけど——」

 急にチトセが黙ったのかと思えばチトセの後ろからぼんやりと松明の日の大群が近づき、あっという間に私の前まで来た。


 「——む、女が怪我をしておるぞ! 誰か手当てを!」


 一人の兵士の言葉に包帯と棒を持った数人の兵士が私に近づくと手当てを始めてくれた。

 その間に兵士たちは何人かは周囲を警戒し、大将らしき人たちは何やらボソボソと話している。そんな時、たまたまオヌガマと屋敷で出会った犬妖怪の二人に目が合うと、犬妖怪が私に指をさした。


 「オヌガマ様。やはり昼頃に屋敷に来た娘です」


 「——そうか」


 オヌガマは私に近づくとチトセに気づ木、しばらくじっと見た後腰を下ろして私と視線を合わす。


 「お前、昨日俺の顎を砕いた女子だろ?」


 「——」


 「認めるんだな」


 私はチトセを見る。チトセは半ば諦めた顔で首を振る。


 「はい。私です」


 しばらく無言が続く。

 オヌガマも何を言いたいのかを考えている。それもとても苦しい顔で。


 「お前は、どうして顎を砕いておきながら見舞いに来た? 許されると思うたからか?」


 「その、怖かったからです。ただ旅に来て急に追い回されて剣を抜かれたので。女子だけの旅でしたので乱暴されると考えてしまいました」


 「——」


 そんな時手当てをしていた額の出来物を包帯で隠す一人の老兵がオヌガマを見る。


 「オヌガマ様。だから言ったではないですか。いくら父君に認められたいがために強引な手に出るといつか痛い目に見ると。それと、この子の手をご覧なさい」


 老兵は私の手を握ると少しだけ持ち上げる。


 「これは無闇に人を傷つけるのではなく、もう片方の子を守るために鍛えたんだろう。そしていくらこの子が武人で強くともな、いきなり追いかけてきた男の群れ相手は怖いはず」


 老兵の言葉にオヌガマは少しだけ考えていると大きく息を吸い、ゆっくり吐き出した。


 「分かった。罪にはせん。こちらもすまなかった」


 「——え?」


 予想外なことにオヌガマは素直に謝罪した。

 そしてオヌガマは宙にぷかぷかと浮いているチトセに視線を送る。チトセは警戒しているのか間合いを取る。


 「オヌガマさん。この子が禍の者——海津翁を倒したんだ。だからもう海津翁に関わらないでやっておくれ」


 「——こいつが倒したのか?」


 オヌガマは信じられないという反応で私を見る。

 そんな時老兵は少し私の目を見るとゆっくり頷いた。


 「オヌガマ様。本当ですぞ」


 「——そうか」


 オヌガマは何故か悲しい顔をする。

 ——この老兵の言葉と合わせるにもしかしたら父に認められるきっかけの一つにしたかったのだろう。

 なら、これを交渉材料にするしかない。


 「あの、この功績はオヌガマ様のものにしてください。オヌガマ様のお顔に傷をつけたお詫びとして」


 「——分かった。だが、褒美を取らせる。お前たち、この娘を我が屋敷にまで案内せよ」


 「「えい!」」


 兵士たちは私を担ぐと屋敷まで連れて行き、チトセは私の腹に乗って移動した。


 ————。


 そのままオヌガマの屋敷に案内された私は寝室で安静にするように言われる。

 チトセは私の枕元に来るとあたりをキョロキョロ見渡す。


 「マカ。あの老兵なんだけどさ、色々と見透かすあたり多分妖怪だよ」


 私はあの老兵の額の出来物を思い出す。

 あの感じ、悟り妖怪の目にかなり似ている。


 私は痛む首を動かさず、微笑みで返す。


 「——うん。私も思う。上手いこと争いにならないように調整しているあたり、本物ですね」


 チトセは私と同意見だったのか笑みを浮かべた。

 そんな時私の胸元の勾玉が青白く輝いた。


 ——恐らくカグヤからだろうけどここだと不味いな、どうしよう。


 「大丈夫。僕がなんとかするよ」


 チトセはそう口にして私の額に触手をくっつけるともう片方の触手で勾玉を握ると頭の中にここにいないはずのカグヤの声が聞こえた。


 『マカ。大丈夫?』


 『うん、大丈夫だよ』


 『良かった』


 私の心の中の声が通じたのかカグヤは嬉しそうな声で返事した。


 『マカ。実はもう一つわかった事があるの。真実モミって知っているかな?』


 『あぁ、うん。知っているよ。薬じゃなかったっけ?』


 私の回答があっていたのか、顔は見えないけど少し悔しそうな顔をしているカグヤの顔が思い浮かべた。

 カグヤは少し無言になると拗ねたように少し早口で喋り始めた。


 『その実なんだけど、穢れを払う事ができるの。もしかすれば禍の神に何かしらの効果を発揮するかもしれないから頭の隅に置いておいて』


 『——なるほど、分かった。ありがとう』


 『あと、少しだけなんだけど言い?』


 『——?』 


 カグヤは思い出しながらぽつりぽつりと話す。


 『今日マカの叔父さんがね、戦から帰ってきたんだけど吉備と安雲の国境で変なサソリに襲われて怪我をしていたの』


 ——叔父?


 私は聞き慣れない二つの単語に悩むが、カグヤはそんなことを知らずに話を進める。


 『そのサソリはなんとか撃退したけど、吉備方向に進んだみたいだから注意して』


 『うん、分かった。ありがとう』


 『良いの。マカも怪我だけはしないでね。叔父さんもマカがいなくて寂しそうだし』


 『うん。カグヤもね』


 私の言葉を最後に勾玉の光が徐々に消えていった。

 チトセは私とカグヤの会話を聞いていたのか「なるほど、なるほどね」と口にした。

 カグヤが口にしたサソリ。そういえばチトセが海津翁の髭を切り落としたのは小さなサソリ。


 「マカ。事態は深刻かも」


 「——やっぱりあのサソリに何かあるの?」


 チトセは真剣な眼差しで私を見ると頷いた。


 「あの子が口にした大きいサソリ。確実に禍の神の手先だ。小さいサソリはそいつの式神。こいつ、もしかしたら牛鬼を蘇らせにきているかもしれない」


 「——吉備王がじゃなくて?」


 「王も怪しいけど——いや、杞憂だとありがたいんだけどね」


 チトセはただ苦しい表情だけを私に向けた。


 ——————。


 チトセとマカの二人が話しているのと同時刻、オヌガマは甲冑を脱ぎ、老兵——悟り妖怪のツシと二人だけで居間から夜空を眺めていた。


 ツシはぼーと空を見るオヌガマを肘で小突く。


 「オヌガマ様のようなお方がこの老人を呼ぶとは珍しい。如何なさいました?」


 「——ツシよ」


 オヌガマは悲しい表情を浮かべる。


 「我が一族は旧王家を根絶やしにした祟りでこう皆体が病弱なのだろうか? 父は病気で倒れ、兄たちも体が弱く国人たちの力が増すばかり。聞けば旧王家の残党がもう一度立ち上がろうとしているらしい」


 ツシはオヌガマの言葉にただ静かに頷く。

 そして髪を掻くと大きく欠伸をした。


 「祟りですか。そもそも旧王家が開墾のためにとサガノオ様が作った結界を壊したのが原因なのに。オヌガマ様。父君は既に認められておりますのでここは下手に暴走せずに落ち着いてくだされ」


 「——分かった」


 この時のオヌガマの瞳の奥は炎で赤く輝いているように見えた。

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