表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後通告 天女の調べ  作者: 皐月
五章 吉備編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/57

36話 吉備の「鬼」

マカは天人との戦いを終えたのも束の間、禍の神がいる限り天人との争いが続くことに気づき再び旅に出るのであった。

 ——旅に向かうのは七日後となった。


 チトセが来たのと同時ぐらいに村のみんなが集まったため私は正式にユダンダベア各地に眠る禍の神の手先を討伐する旅に向かうことを伝えた。


 そして最初は吉備に向かうことも。

 

 みんなは最初は心配していたけどタキモトさんのおかげで納得はしてもらえた。

 しかし、イナメさんが私に休めと言ったため七日間何もしてはいけないこととなってしまった。

 だけど何もしないのはあれだと思った私はカグヤに案内されてカタベさんが住む屋敷に向かった。


 昼の暖かい太陽に照らされているカタベさんの屋敷。小さい頃遊んでいた時には気にはしなかったけどカタベさんの屋敷は言われてみれば他の家と比べたら徳田神社と私の家に次ぐ大きさだ。


 門の前に来るとカグヤは大きな声を出した。


 「カタベお婆ちゃん! 遊びにきたよ!」


 ——私がいない間にカグヤは村の子供たちの影響を受けてすっかり田舎娘になったようだ。

 私と出会った当初は姫様みたいな気風が合ったのに。人は変わるものなんだ。


 カグヤが声を出してから少しして、ゆっくり門が開くと中からカタベさんが出てきた。

 カタベさんはイナメさんより年上で顔はシワクチャで体は華奢で弱々しく見えるけどそれを払い除けるように顔つきと姿勢が綺麗で勇ましさが溢れ出ている。


 カタベさんはカグヤと私の順に見る。


 「おや、マカちゃんかい。何か話したいことがあったみたいだけど来れなくてごめんよ。ところで旅は終えたのかい」


 「——あ、ははは。実はまだなんです」


 私はカタベさんに再び旅に出ることと、吉備に向かうことを伝えた。

 カタベさんはにこやかに頷くと手招きした。


 「なるほどね。さぁ、二人とも中にお入り」


 私とカグヤはカタベさんに屋敷の中に案内された。


 ————。


 屋敷の中は広く質素だが一人暮らしには十分すぎる大きさだ。

 カタベさんは囲炉裏の前に座ると、私とカグヤはそれを挟むようにして座った。


 よし、話題を切り開こう。


 「あの、カタベさん。吉備について教えてくれませんか?」


 カタベさんは顔を上げる。


 「安雲の東にある国で、鉄がよく取れるオヌの国だな」


 「——あの、カグヤが歌を教えてもらったと言ったのですが、あの歌は……」

 

 「——吉備姫の歌だよ。昔、吉備からある武者と共に落ちた可哀想なお姫様のね」


 カタベさんは意を結したような表情をすると重い腰を上げると棚から鬼のお面を出した。


 「マカよ。このお面はな。その姫さんが武者と逃げている道中に古の武者の亡霊から渡されたものなんだ。その亡霊の名は、源再護男ミナモトノサガノオと言った」


 「——っ!?」


 「その反応、やはり知っていたか」


 カタベさんは懐かしそうに笑うと仮面を撫で、過去のことを語り始めた。


 ——————六十年前。


 吉備のある山の中にて一人の武者の背中に当時十歳のカタベが体を震わせていた。

 以前まで仲良くしたいた鬼たちが急に反旗を翻し、都である窪三刀クボノミトを焼き払った。


 カタベは間一髪で忠臣である武者に助け出され何と安雲との国境付近に辿り着いた。


 大嵐の中武者は高久飛び跳ねながら周囲を警戒してカタベに声を掛ける。


 「姫様! 安雲まで後少しでございまする!」


 「お、お父様は? お兄様と妹たちは皆。皆死んだのに私だけ……」


 カタベは涙を流す。

 あの反乱の中で唯一生き延びた王族はカタベただ一人だけ。

 カタベも剣を握って戦い違ったが王の名を受けた忠臣によって助け出されたのだ。


 そんな時武者とカタベの周りを甲冑を身にまとった鬼たちとその取り巻きの人間と妖怪たちが囲む。


 武者は片腕だけで槍を持つ。


 「お前たち! 主人を殺しその一族を滅するとはなんと言うことだ!」


 武者の言葉に一人の鬼は笑った。


 「くくく。おい。姫を降ろしな。さもなくばお前も殺すぞ?」


 「なるほど。話は通じないようですな」


 カタベは武者と鬼の二人の会話に体を震わせる。


 すると次の瞬間、武者とカタベを取り囲んでいた敵が血を口から噴き出すと頭と手足がぽろりと地面に落ちる。

 そして悍ましい光景と共に林から古の武者の亡霊が現れた。


 「だ、誰だ!?」


 武者の言葉に亡霊はゆっくり顔を上げると掠れた声が聞こえる。


 『我が名は源再護男ミナモトノサガノオ。吉備から逃げる者たちよ、ここは我が守る。早く避け』


 「——み、味方のようですな姫」


 武者の言葉にカタベが唖然とする。そんな時カタベは何か思い出したかのように咄嗟に我に返るとサガノオに手を振った。


 「待って! 源再護男ミナモトノサガノオって……。あのかつて吉備を救った勇者様!?」


 『——』


 カタベの声に反応したのかサガノオは腰に付けてあった鬼の面を取るとカタベに向けて投げる。

 カタベは武者に支えられながら受け取るとサガノオは掠れた声で一言だけ口にした。


 『この仮面をいずれ現れる源氏の勇者に渡すのだ。さすれば再び王位に帰れる』


 「王位に……」


 カタベがそう口にすると遠くから追っ手の声が聞こえてきた。

 武者は再びカタベをしっかり背負うと「さぁ、逃げますぞ!」と言って安雲まで走っていった——。


 ————。


 カタベさんは長く昔話をしたからか腰を伸ばす。


 「まぁ、そんなところだ。あの後この村に行き着いてイナメと出会い、結婚して子供を残して待ち続けたのだ。だが、ここまで長いとは思わなかったがね」


 カタベさんは何故か笑っているが私は反応に困る。

 と言うことはカタベさんは吉備姫で確定でいいだろう。


 そしてカタベさんは私に鬼の仮面を渡す。


 「この仮面を被れば鬼を欺けると言う。マカよ。吉備に向かうのならこれを思っていきなさい」


 「ありがとうございます。えっと、カタベさんはもし鬼がいなくなったら……吉備に帰るのですか?」


 「——」


 カタベさんはどこか遠いところを見る。


 「アタシはもう帰らんよ。この歳だと誰も当時の私を知る者はいないし、孫もひ孫もいるんだ。それにワタシは少し希望を持っているんだよ」


 「希望ですか?」


 「大王の元に確かアタシの従兄弟がお支えしていたはずなんだ。王権が乗っ取られた後も吉備にはいなかったと思う。だから生きているはずだ」


 「——では、もしもう一度糸麻イトマに行く時があれば探してみますね」


 「あぁ、頼むね。もし、廃絶させられていたら何も言わないでくれよ」


 「——」


 カタベさんは顔は真剣だけど目はどこかしら希望を感じているようだった。

 カタベさんからすれば六十年も待ち続けてようやく現れた勇者。その思うは仇を取ってくれかまたは別の思いかは知らないけどこの人の思いだけは絶対踏み躙ってはいけないのは確かだ。


 「お任せください。じゃ、カグヤは他に何か喋ることはない?」


 「え? 良いの?」


 どうやらカグヤは先ほどからずっと遠慮していたみたいだ。

 別に聞いても良いんだよと言いたくなってしまう。


 カグヤは少し考えると「武者の人はその後どうしたの?」と聞く。


 カタベさんは予想外だったのか一瞬驚きの顔を浮かべるとみるみるうちに笑顔になる袖で口を隠しながら笑い始めた。


 「ふぁははは! あの不忠者はまだしっかりと生きておるよ。なんならマカも会ったことがある。あの野郎。ここにきた時た当初はアタシのそばに居たのに十五になった途端にな、近くにいる同族の元に引っ越しやがったわ」


 「——もしや武者って妖怪だった?」


 「あぁ、それもうんと長生きで小遣いが欲しいとか言う理由でアタシに支えていたんだよ」


 ——その妖怪ってカシさんのこと……いや、カタベさんが話していた感じだと武者はかなり足が速い。カシさんだと絶対無理と言えるほどの足の速さ。

 カタベさんは私の反応を見てか楽しそうに笑った。


 「蛙妖怪のアマだよ。お前さんに稽古つけてただろ」

 

 「あ、あの人!?」


 

 つい驚きの声を上げるとカグヤは納得そうに頷いた。

 

 「確かにあの人は足が速いし強いから疑いの余地がない。ね、マカ」


 「う、うん」

 

 アマさんは蛙妖怪の中でも強いというのは小耳に挟んでいたし、確かに子供の頃から知っている。稽古も十歳の頃から付けてもらっていた。

 戦い方も俊敏性を意識しているものだとタキモトさんが以前教えてくれた気がする。


 ——今度再会したら確認してみよう。


 改めて私は姿勢を正すとカタベさんに頭を下げる。


 「カタベさん。色々とありがとうございます。カタベさんの思い、必ず叶えて見せます」


 「——全く。そう言う義理堅いところはイナメにそっくりだな」


 カタベさんはそう言葉を漏らした。


 ————。


 次はどうしようか?

 あの後カタベさんの家を後にしてカグヤと共に村の中を散策する。

 そんな時カグヤが畑の方向を指さした。


 目を凝らしてよく見るとツムグさんとチトセが子供たちに囲まれていた。


 「あれ、どうしたんだろう?」


 「多分珍しがられているだけだと思う。ほっといても何もないよ」


 「——私だったら気になって向かうのに一体カグヤは誰に似たのか……」


 私の反応が気に入らなかったのかカグヤは露骨に頬を膨らませると何か言いたげな目で見る。


 「マカがいない間にいきなり体が大きくなったりしたもん。そのせいでみんなからお姉さん扱いされてたからこうするしか無かったの」


 なるほど。私がいない代わりをしてくれていたのか。

 よくよく考えれば私と年が近いのってこの村だとカグヤ(身体年齢だけ)とヤトノスケだけだ。

 そのことを踏まえればカグヤがこうなるのにも頷ける。


 「分かった。私が悪かったよ」


 「分かればいいの」


 カグヤはまだ少し拗ねているのかそっぽを向くと徳田神社に向かって歩き始めた。

 しょうがないと言えば悪いけど残り七日はカグヤとゆっくり過ごそう。

 

 するとツムグさんとチトセは私に気づくと大きく手を振ってきた。

 カグヤと顔をしばらく見合わせた後に手を振り返すと二人は私たちの元に駆け寄ってきた。

 ツムグさんが一足先に近くまで駆け寄ってくると私に笑顔を向けた。


 「マカ。さっき神様と話し合ったんだけどボクは別の道に行くよ?」


 「別の道?」


 私が疑問に思っているとようやく追いついたチトセがツムグさんの頭の上に登って口を開いた。


 「うん。ツムグには禍の神が先手を打って攻めてくる場所を探りに行ってもらうんだ。場所の目安は大まかなところは把握しているけど如何せんこの国は大きい割に豪族たちが割拠しているから複数の地域に展開できないからね」


 チトセの言葉にツムグさんは悲しい顔をしつつも首を横に振った。


 「マカ。マカは取り敢えず吉備に行ってよ。お互いの無事を祈って」


 「うん。そうですね」


 「——」


 何か気に入らなかったのかツムグさんは腰に手を当てると呆れたように息を吐いた。


 「マカ。タメ口で話してよ」


 「どうしてです?」


 「なんか前から癪だったの。年が近くて身分が近いもの同士遠慮なんていらないでしょ」


 「——え、あ〜。分かった。じゃ、これからはタメ口で」


 隣でチトセとカグヤがドン引きにながらツムグさんに「いや、お前とマカの身分の差は天と地ほどあるけど?」と言いたげだったけど言わないであげて欲しい。チホオオロさんの件でもだけど多分深く考えていないだけだし。


 その時まるで私とツムグさんが無事であるようにと小鳥たちが高く綺麗な音色の歌声を当たり一面に響かせた。


 ————。


 それから七日後、旅の支度を終え、朝方にナビィさんとチトセとともに狛村を出発して吉備に向かって歩き始めた。

 ツムグさんは次の日に出発するようで、見送ってくれた。

 カグヤは行く時寂しそうな顔をしながらも私のためにお守りをくれた。

 お守りは川で撮れた綺麗な石が入った袋で、私は大切に首から掛けている。


 あの後ナビィさんが勾玉をカグヤに渡していたけど、もしかすると遠くからでも話すことができる勾玉なのかも知れない。

 私はまだ首にかけているナビィの勾玉を人差し指で小突く。


 道順は南の方角へとひたすら山道を進み、吉備の首都である窪三刀クボノミトに向かう。

 季節は春とはいえ、安寧など存在せず山は生きる者たちの争いの場となる。

 現に集落に着くまでに盗賊や野良妖怪や狼やクマなどの獣に襲われながらも撃退した。

 取り敢えず野宿せず集落に泊まらせてもらいながら進んでいこう。


 ナビィさんと私は慣れているけど意外なことにチトセも大丈夫だった。

 それから夕方前に稲田の集落に到着した私たちは空き家を借りてそこに泊まることにした。

 家の中に入ると早速チトセは大きな声でくしゃみした。


 「いやぁ。山の中はそう言えばこのぐらい物騒だったよ。ナビィが旅していた時はどうだった?」


 「——」


 「わ、私たちも物騒だったですよ。ね、ナビィさん?」


 私の言葉にナビィさんは「まぁ、そうですね」と言う。

 

 チトセはすぐに奥に進むと囲炉裏を温めたりしてくれるなどかなり気がきくことをする。

 この神様、ナビィさんが言うほど悪い感じはしないけど。


 「あのチトセはツムグさんとは小さい頃からお知り合いなんですよね?」


 「うん。そうだよ」


 「今回の旅に連れて来なかったのもやっぱり傷をつけて欲しく無かったからですか?」


 「——」


 私の言葉にチトセは何も言わない。

 するとナビ資産が私の前に手をかざした。


 「マカさん。チトセは信用してはいけません。己が野望のために平気で人を切り捨てる。そんな神です」


 「——ナビィさん。今回は三人で旅なんですからそれはやめませんか?」


 「——」


 ナビィさんも同じく静かになる。


 狛村から出発してからこうだ。

 チトセはかなり友好的に接しようとするけどナビィさんだけはそうはならない。

 確かにナビィさん的には何かあったのかも知れないけど、三人での旅なんだから険悪な空気のまま過ごしたくはない。


 チトセは囲炉裏を温めてほどよくなったのか顔を腑抜けさせる。


 「いや〜マカ。一応道はこの稲田から徐々に山を越えて南に進むんだよね?」


 「はい。坂根に西城と日南と徐々に南に。で、吉備へ入国する際には私がカタベさんから頂いた鬼の仮面を被り、二人を従者てな感じでしたよね?」


 私は腰に付けていた鬼の仮面を取ると顔につける。

 チトセはお面を不思議そうにじっと見ると何か思い出したかのように声を上げた。


 「あ、見覚えあるなと思えばアイツか」


 「アイツって?」


 チトセがお面に向けて触手の先を向けたため、私は取り外してお面をじっと見る。気づけばナビィさんも私にもたれかかるようにしてお面を見ていた。


 「このお面、確か源再護男ミナモトノサガノオだったはずだよ。昔牛鬼ウシオニを倒してね、鬼人オヌヒトや人間、妖怪たちから讃えられたんだよ。そしていつだったかは忘れたけど牛鬼と一体化して鬼神オヌカミ様って呼ばれるようになったんだよ」


 「——あぁ、言われてみれば」とナビィさんはどこか嬉しそうな顔になった。

 そういえばナビィさんは源再護男ミナモトノサガノオと旅をしたことがあるんだった。


 チトセは思い出して満足だったのか私の顔——ではなくナビィさんを見つめた。


 「ねぇ、ナビィ。君、源再護男ミナモトノサガノオと吉備に行ったんなら知っているんだよね? 吉備への本当の入り方」


 ——あ、そうか。さっきの話だとナビィさんも吉備にいるはずだ。


 ナビィさんに視線を移すと少し嫌そうにしながらも首を横に振った。


 「今とは変わりましたよ。昔は国内がめちゃくちゃだったので入りたい放題で今みたいに厳しくは無かったです。だけど……やっぱり鬼だけが気がかりです。昔の彼らは温厚で優しく、人を殺すなんてしなかったのに」 


 「要するに少し性格変わってしまったと言うことですか?」


 「はい。そうなります。王にも忠誠心を持っていた彼らが反乱を起こすなんて……」


 ——まぁ、飢饉となれば誰もが目先の利益を欲してしまうからおかしくはないと思う。

 今私たちができることは前に進むことだけだし。


 私は深呼吸をする。


 そんな時首にぶら下げていた勾玉が音沙汰もなく急に輝き始める。

 チトセは驚いた顔でそれを見る。


 勾玉を掴むと最初はぼんやりだったカグヤの声が徐々にはっきりと聞こえてきた。


 『マカ、聞こえる?』


 「カグヤ?」


 ここにはいないはずのカグヤの声が確かに勾玉から聞こえてきた。

 チトセは「へぇ」と関心を向けている。


 そして勾玉からカグヤの声が続けて流れる。


 『マカ。あの後ね、カタベおばあちゃんの家にお邪魔して日記を読ませてもらったんだけどその時気になる内容があったの?』


 ——あ、もしかしてカグヤなりに私の旅の手助けをしてくれているんだ。嬉しい。


 私は口角が上がりそうになるのを我慢する。


 「うん。それで何が書いてあったの?」


 「吉備なんだけどオヌは山にいるけど安雲に近い方にすむ鬼は旧王家と仲が良くて、反乱の際にも味方だったみたい。おばあちゃんが武者と逃げる時もそこからだったみたいだよ」


 なるほど。偶然私たちが進む道通りでいいのか。

 思いっきり近道のつもりだったけどよかった。


 「うん。ありがとう。ところでオヌ達について詳しいことは分かった?」


 『うん。吉備のオヌは三つの氏族がいて一つは鬼谷オヌタニ、二つ目は鬼鷺オヌサギ、そして最後は現王家の鬼羅オヌラ。その中でも鬼鷺オヌサギが最後まで味方だったから彼らを頼ったみたら?』


 「分かった、そうするよ。ありがとうね」


 すると勾玉からカグヤの嬉しそうな笑い声が聞こえる。


 『良いの。若氏が勝手にしたところだから。ナビィもチトセと仲良くだよ?』


 突然話を振られたナビィさんは少し驚くものの平静を装って「えぇ、もちろんです」と返す。

 そしてしばらく勾玉は輝いていたが、徐々に光を失いやがて元に戻った。


 「ナビィさん。そう言うことみたいですけど予定通りで大丈夫ですよね?」


 「えぇ、大丈夫です」


 すると先ほどまで静かだったチトセは旧に浮いたと思えば私の勾玉に触れた。


 「へぇ、遠くのこと意思疎通できる勾玉なんて初めてみたよ」


 「あーえっと。ナビィさんが旅に使えるからって渡してくれたんです」


 「ナビィが?」


 チトセはナビィを見てナビィさはチトセから視線を逸らす。


 「うん。確かに有用だね。じゃ、明日も早いことだし飯食って寝よう」


 「そうですね。ナビィさん何が良いですか?」


 「え、えぇと私は——」


 それから私は飯の支度をして明日に備えた。


 ————。


 それから二日ほど掛けてさらに進む。

 沼地や湿地を超え、チトセとナビィさんの喧嘩を収めながらようやく吉備との国境に辿り着いた。

 国境には何もない訳もな道を遮るように砦が立ってあった。

 私はバレないように木陰でお面をかぶると二人の前を堂々と歩き門の前で足を止めた。


 しばらくすると物見櫓にいたオヌが私を見下ろした。


 「女ァ! 何ようだ?」


 「そちらで祀られる牛鬼様からの御神託を頂きたいのです。護衛も部下二人を連れて遥々遠くから参りました。どうかご容赦を」


 「——少し待て!」


 兵士はそう言うと姿が見えなくなった。


 咄嗟に戯言を吐いてしまったけどどうしようか。

 理由はきちんと考えておけばよかった。


 しばらくすると門が開き、中から先ほどのオヌに加え、立派な白髭を携えた首領らしきオヌが出てきた。すると私の前まで歩くと鼻息を唸らせる。


 「ふん。誠に女子か? 女子と偽ってきた男ではないだろうな?」


 「私は正真正銘の女です。疑いの余地もないでしょう?」


 「それに剣と盾に……。武者か。だが、髪色は銀色で妖怪と同じ。不思議じゃな」


 老いたオヌは私の肩を掴む。開いたもう片方の手で胸を撫でるように触る。そしてなぞる様に手をしたに移動させ、腹まできたところで私は手を叩いた。


 「失礼。私には許嫁がいるもので」


 老いたオヌは驚いた顔でこちらを見ると鼻で笑い始めた。


 「んふふふ。立派な女か。その反応。確かに人妻の反応だ。失礼した。では、通るが良い」


 老いたオヌは気前良くそういうと道の先に歩むよう手で指す。

 しばらく止まっていた足を進める。

 

 ——この人、通り際に尻を撫でてきた。


 そのまま私たちは二日ほど集落に泊まりながら山を越えて盆地の中央に位置する大きな街を見つけた。

 その町は屋根という屋根から煙が上がり熱気がここまで感じる。


 ——ついに窪三刀クボノミトに到達したのだ。

裏話:

吉備は古来からユダンダベアでの製鉄の要であったことから外臣でありながら朝臣と同じ待遇を受け、政治の中枢に強い影響力を持っている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ