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最後通告 天女の調べ  作者: 皐月
4章 星神

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34話 星神の歌と共に

 天人の襲来に備えてすでに七日が経過した。

 小尾島オビノシマを取り囲む霧もさらに深くなり、月も徐々に大きくなってきている。

 島の民はホシビコが島の北側に隠れ里に避難させた。

 私は朝たっぷり寝てからか意外と夜はしっかり起きれた。


 社を取り囲むように鏡の盾が物見櫓に立ち並び、周囲を警戒して警備している兵士も鏡の盾を持っており、社の前には総大将の宗介さんとホシビコさんとタニマさんの三人がおり、ユミタレさんは門の外で大王から授けられたという神器を持って潜んでいる。

 小切童子はというと弓の腕を買われたのか先ほどから物見櫓で自分より遥かに年上の兵士に指導していた。


 私に気づいた宗介さんは背中を叩いた。


 「マカ殿。チヒサコマ様やチホオオロ様のお二方にも教えたのですが、こう寒い夜は元気に暑いと思えば暖かくなるものです」


 「——ふふっ、そうですね」


 つい宗介さんの言葉に笑みが溢れる。

 すると気づけばさっきまで寝ていたカグヤが私の横におり、しっかりと防寒着を身につけていた。そして鼻先に雪がついたのか眉間に皺を寄せた。


 「マカ。天人は夜は寒いとは思わないのかな?」


 「——うーん。どうなんだろう?」


 「地上は確かに辛いことが多いけど、辛いことがあるからこそ人は成長するんだなって思うの。寒いのが嫌だからどう寒さを凌ごうとか暑いのが嫌だったらどう暑さを凌ごうとかたくさん考えるし」


 そしてカグヤは私の前に一歩足を進めると白い息を口から出した。その顔はまるで悟っているようにも見えた。


 そうこうしているとこきり同時が何やら異変に気付いたのか鐘を激しく打ち鳴らし始めた。


 「警戒せよ! 月が赤く輝き始めたぞ!」


 その言葉に月を見ると中心から外側に向かって徐々に赤く染まり始めていた。

 私はカグヤを社の方に押す。


 「カグヤ、心配しないで中にいて」


 「う、うん……」とカグヤは返事をするが俯いているだけで動かない。


 「カグヤ?」


 そんな時カグヤは何やら決心した顔で息を吸うと腹の中から喉がかき入れそうなほど大きな声を出した。


 「みんな! 絶対死んだらダメだから!」


 「——っ!」


 周囲の兵士はカグヤの大声で一瞬びっくりした顔をする。もちろん私もだ。

 すると一人の兵士は手に持っていた剣を掲げた。


 「御意! ご安心あれ!」


 そしてその声に続くように続々と兵士たちは声を出し始めた。


 「我々には天地の神の加護ありまする!」


 「我々は負け知らずぞ! 神の名において敗れるものか!」


 「この功績は子々孫々に語りつがんぞ!」


 カグヤはその言葉を耳にすると安堵の表情を浮かべ、私の脇腹を軽く小突く。


 「マカも同じだから。また大怪我をしてきたら怒るから」


 「うん。分かった」


 カグヤは満足そうな表情を浮かべると社の中へと戻っていった。ホシビコさんはカグヤの言葉を聞いてかさっきまでよりどこかしらやる気がみなぎっているように見える。


 「ではマカ殿と宗介殿。それからタニマ殿とユミタレ殿よ。そして強者どもよ!この戦いが禍の神との六百年ぶりの開戦となろうぞ!」


 ホシビコさんの言葉に当たり一面から威風堂々の強者たちの声が響き渡る。そしてそれにあわせるかのように赤く染まった月からポツポツと不気味に白く輝く雲たちが大勢こちらに向かってきた。


 それは前回同様まるで風の神に押されているかのように近づき気づけば雲の上に立つ天人たちが被る仮面がはっきりと見えるところまで近づいた。


 それに合わせて物見櫓に上にいる小切童子は弓を構える。


 「構えーい!」


 それを合図に物見櫓に立っていた弓兵たちが雲に向かって弓を構えるとどこに潜んでいたのか門の外からユミタレさんの大きな声が聞こえた。


 「日の神の使いたる八咫の烏よ! 朝敵の目を眩ましたまえ!」


 ユミタレさんが言葉を言い終えるのに合わせて門の外から眩い白い光が瞬く間に当たり一面昼間のように明るくなる。

 なんとか細目で見ると光は鏡に反射され天人たちの方向に伸びているのが分かり月を見ると雲から天人たちが焼け焦げたように真っ黒になって落ちて光の雫になっているのが見えた。


 「放てー!」と小切童子の声が聞こえ始めたのに合わせて光は徐々に消えていった——。


 ————。


 激しい鉄同士のぶつかり合う音が当たり一面に響き渡る。

 私は雲から降りてきて霧かかってくる天女はアメノトカゲを斬り伏せていく。

 光が消えた後天人たちは大幅に数を減らしたものの、小切童子の弓の攻撃を掻い潜りまさかの社のど真ん中に着地して降りてきたかと思えば問答無用に攻撃を仕掛けてきた。


 「皆の者! 天人は単独行動だ! 五人で一体を討て!」


 宗介さんのその言葉に天河の兵士に釣られて物部や大源の兵士たちが天人たちを続々と討っていく。


 門の方を見るとユミタレさんが配下と共に天人を斬り伏せて行っている。


 「おかしい……アタベ、アタベ! お前はどこにいる!」


 混戦の最中私は大声を出す。

 すると脳内に聞き覚えのある無機質な声が響き渡った。

 それはまさしくテレイルの声だった。


 『時は来た。穢れ晴らせし月女。海を渡て地崩さんと』


 ——っ!


 そう声が聞こえたかと思えば天人たちは社の外に向かって逃げ出した。そして逃げた方向にユミタレさんが「我々が追う! お前たちは整えてからだ!」と声を荒げると陛下を率いて追っていった。

 宗介さんはこの好機を逃さんと前に出ると私を見た。


 「マカ殿。追撃しますか?」


 「——海から何か来る。宗介さん。ここから近い岸は?」


 「ここからは……」


 するとホシビコさんが慌てたように声を出した。


 「港だ! あそこはこの島の要所。失えば皆が飢えるばかりか本土に帰れんぞ!」


 「なんと!? マカ殿。ひとまず港で迎え撃ちましょう」


 私は宗介さんの提案に頷くと丁度天人を追っていったユミタレさんの家来が走って駆け寄ってきた。


 「大変だ! 海から裸の大きな女の化け物が!」


 「急ぎましょう!」


 すると小切童子が見張り台から飛び降りて地面に着地した。

 

 「マカ殿。ここは我々二人でよろしいかと。月はまだ赤いです。第二波は空から来るのは確実です」


 「——宗介さん!」


 「ご安心あれ!」


 周りの兵士が全く負傷していない。なら大丈夫か。


 「では、お願いします!」


 私は小切童子と二人で社を飛び出すと港に向かった。


 ————。


 港に着くと港は炎の海に飲まれ、海の方向には夥しい矢に刺された大きな人影が見える。

 唖然としているとユミタレさんとその配下が炎の渦から飛び出してきた。


 「マカ。来たのか」


 「ユミタレさん。これは?」


 「あやつが目から熱線を放った瞬間当たり一面が炎に包まれた。一応兵には損失はないが怪我人が少し出た」


 ユミタレさんの後ろを見ると着物がやきただれている兵士が目に入る。

 そして人影を見ると徐々にこちらに近づいていた。


 「マカよ。あやつの正体は知っているか?」


 「——天谷村での異変の元凶です。逃げたかと思えばここに来るとは」


 「なるほど。その口調だと天人か」


 ユミタレさんはそう呟くと一人の老兵が持っていた矛を手に取ると私に渡してきた。


 「マカよ。この矛は神を封じることができるものだ。大王が用意してくださった」


 「——」


 私は怪物を見る。そしてユミタレさんは小切童子を見る。


 「童子よ。ゆみに自信があるか」


 「はい。多少は」


 「では、我々二人で怪物の目を潰し、マカはその隙に矛を脳天に突き刺せ。さすれば封印できるはずだ」


 私はその言葉に頷く。そして人影がこちらに近づくのを待ち、ついに怪物が炎から不気味なその素顔を見せた。

 真っ白な肌に赤い目と白い髪をした大きな女の怪物。

 怪物は私たちを見下ろすと不敵な笑みを浮かべ目を虹色に輝かせ始める。


 「放て!」


 ユミタレさんの言葉に二人は息を合わせて矢を射ると同時に目に当たる。すると怪物は奇声をあげて目から緑色の血を流すとその場に倒れ込む。


 「よし!」と私は声を出す。

 

 その場でジタバタと暴れる怪物の動きに注意して体の上に乗り頭によじ登る。

 そして矛を振り上げると脳天に突き刺した!


 「——っ!」


 怪物は声にならない奇声を発すると強風を当たり一面に起こし私は咄嗟に矛の柄をしっかり掴む。

 怪物は一気に体が小さくなると光の粒となると鉾の中に入り込んでいった。

 私は矛を折らないように綺麗に着地する。


 「ふぅ……」


 顔を上げるとユミタレさんが驚いた表情をしている。

 どうしたんだろう?


 「後ろ!」


 ユミタレさんの言葉と共に悪寒が走った。


 ————。


 私は肩から息をして咄嗟に矛で背後からの斬撃を受け止める。

 私の目の前にいるやつは知っている。

 そいつは血で錆ついた鎧を体に包み月を模した仮面を被っている。

 その正体はただ一人——今アハバに乗っ取られたアタベその人だ。


 「はぁ!」 


 私は全体重を動かしてアタベを突き放すとユミタレさんを見る。


 「ユミタレさん! 矛を!」


 そして矛を投げ渡すとユミタレさんはうこしよろめきながら受け取った。

 

 「アタベ。もうあなたの勝算は無い」


 私はアタベに向き直る。しかしアタベはまるで死んだように膠着している。


 「そう、おとなしくするなら……。今、楽にしてあげる」


 「愚かな……愚かなことよ」


 「——?」


 どこかアタベの様子がおかしい。


 するとアタベの仮面がひび割れたのかと思えば仮面はあっけなく粉砕して兜が吹き飛んだ。

 突然の突風で一瞬目を閉じ開けるとアタベの顔が完全に崩壊し頭のあった場所からは無数の触手が生えていた。

 

 そんな時脳内に再びテレイルの声が響き渡った。


 『月は無垢。地上の禍を浄化できる思い込み、逆に禍に染まり実に愚かなり。地上に逃したカグヤ姫様を再び月に迎え、禍鎮めようにも時すでに遅……し』


 ——は? 何を言って。


 そうこうしている内にアタベは私に切り掛かってきた。

 アタベの斬撃はいつに増して弱い。なんならただただ私を殺そうと適当に剣を振っているだけにしか見えない。


 「穢れは全て切り裂かねばならない! カグヤ姫が月に戻れば穢れから救われるのだ!」


 アタベはそう大きな声を出すと徐々に斬撃の勢いと、一歩一歩の動きが強まる。


 「我々は地上のことなどどうでも良い! 月の都さえ良ければ良いのだ!」


 するとアタベの顔から生えた触手が私の右腕に絡みつく。

 無理に引きちぎろうとするたびに徐々に引き込まれていく。


 「くっ、離せ!」


 「逃さぬ!」


 アタベは剣を振り上げる。


 その時後ろから強烈な光が当たり一面が一瞬だけ真っ白になる。

 一瞬だけ振り返るとユミタレさんが烏の木彫りが乗る杖を高く掲げていた。

 そして視線を戻すとアタベの頭から人のようにどす黒い血が流れ出ていた。


 ——光の粒が出ていない。こいつはもう……。


 アタベは「ウオォぉ」と苦しみに溢れた声を漏らすと触手が私から離れる。


 ——よし、今だ!


 私は剣で触手を薙ぎ払うとアタベの心臓に剣を突き刺した。

 その時アタベの胸元からやはりどす黒い血が流れる。


 「——お前、天から追放されたのか?」


 アタベは体をビクビクと震わせながら私の剣を掴む。

 アタベの顔は既に崩壊しているため表情は分からない。だけどどこか苦しんでいるのはわかる。


 「禍の神は昔、お前たち地上の人間が月に送った。その主犯は我が中に眠る禍の神の手先……。月の民は無垢ゆえ禍の神から教わった幾千年も溜めていた欲望を思い出させ……た」


 アタベがそう口にした途端身体中から黒い液を辺りに飛ばす。体は徐々に萎んでいき最終的には黒い水たまりとなった。


 私は口に入ったアタベの液を吐き出す。


 振り返るとユミタレさんが私に近づいてきた。


 「——誠に、強者となったなマカよ」


 「——」


 私は水溜りにもう一度視線を向ける。

 次の瞬間水溜りに一瞬波紋が走った瞬間空が月を中心に虹色の輪が一瞬だけ広がった。

 ユミタレさんも見えていたのか空に視線を向けていた。


 「ユミタレさん。あれは……」


 「分からぬ。だが、結界が張れた証だろう」


 月も赤く染まった色から元通りになっている。

 これで戦いは終わったの?


 「マカよ。一旦社に戻ろう」


 「——はい」


 こうして月との戦いは後味の悪い終わり方をした。


 ————。


 それから社に戻るとまず宗介さんとその周りの兵士が私たちの無事に喜びのあまりに勝ち鬨ををあげた。その声にカグヤとナビィさんとツムグさんも驚いたのか社の外に飛び出してきた。

 その時のカグヤについて一言だけいうとなれば本気で怒った。今までに見たことがないぐらい怒った。


 また無理をしたからということでかなり私に怒った。


 その後ホシビコさんが大広間に私たちを案内すると眠いはずなどの急に宴会を始めると宣言して備蓄していた兵糧と酒を用意して騒ぎ始めた。

 しかしこの空気の中私は全身激痛だったため眠ることにし、寝室に入るとすぐに寝転ぶとすぐに意識を失った。


 ——。


 翌日目を覚ますと右腕が重かった。

 見るとかぐやが私の右腕に捕まって寝ており、私が動いたせいかちょうど起きてしまったようだ。

 カグヤは目を擦ると目をゆっくり開けると私を見て笑みを浮かべた。


 「マカ。本当に生きていたんだ」


 私はカグヤの頭を撫でる。

 カグヤは気持ちよさそうに目を細めると疲れていたのが眠りに入った。

 それに合わせるようにユミタレさんがナビィさんと共に寝室に入ってきた。


 「マカさん。とりあえず結界を盤石するためにあと一仕事お願いしても良いですか?」


 「あと一仕事?」


 私はユミタレさんとナビィ二人と——道案内にウサギ妖怪のウヌ。

 この三人で私は裏山に登る。


 ナビィさんがいうにはこの裏山の頂に先日話した星神が待っているようだ。

 話すにはその姿は遠い昔に作られた土偶と同じだがその姿は東にある不死山を凌ぐほどだという。

  

 それから山頂に到達すると石碑に一人の人影が見えた。

 その人影はナビィさんが話した土偶のような見た目をしている。

 もしくはこの人が星神?


 人影はゆっくりと振り返り私を見ると指を刺した。

 ユミタレさんは気づかなかったがナビィさんはすぐに私の肩を揺さぶった。


 「マカ様。竪琴を奏でてください。もともとその音色は禍を祓うためにできたのです。ユミタレ様は懐にしまっている笛を奏でてください」


 「——マカ」


 「はい」


 私は首にかけている勾玉を握るとこの場になかった竪琴が手元に現れた。

 それを構える。すると星神はまるで心を揺さぶるような綺麗な声を辺りに響き渡李、私とユミタレさんはその歌声に合わせるように演奏した。


 『天地神アメツカミ、境を作り国作る。月日国ツキビノクニよ安寧あれや』


 星神の歌声とともに空は一瞬だけ虹色に輝く。


 ——あぁ、これで月はこっちにもう来れない。


 その声が私の心に響き渡った。

 振り返った私はユミタレさんを見た。


 「ユミタレさん——いや、ユミタレ様」


 「どうした?」


 「戦は終わりました……よね?」


 気づけば星神はこの場にはいなかった。

 

 ——?


 私は太陽を見る。

 

 少し……霞んでいる?

最後通告の第一部はこれで完結で次回からは第二部となります!

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