第19話 どうして
「ふぅ、これで最後だな」
トオルたちは、ヴォーパルバニーを連れて2nd.ユニバース内で救助活動をしていた。
探索中に生存者を発見し、怪異とみられるモンスターを撃破。
そして今、仮想現実から脱出するために、救助隊の待つ鳥居へと向かっている。
「トオルさん、私……」
「大丈夫だって。きっと無事に帰れるよ」
「……」
ミコトはずっと元気がない。
無理もない。彼女は、自分の友人であるシオンとタクミを亡くしてしまったのだから。
王城での戦いのあと、二人とも安全地帯に留まることはしなかった。他の要救助者を助けるためにトオルたちと戦い、そして犠牲となった。
「それに元凶とみられる怪異は俺たちがあらかた倒しただろ? ログアウト処理がキチンと終了すれば、タクミたちも帰ってくるさ」
「……そうですね」
「ほら、笑顔を見せないと。せっかくの美人が台無しだぞ?」
トオルは冗談交じりに笑いかける。本当は、トオル自身も辛いはずだ。しかし、それを表に出さずに明るく振舞っていた。
「ん? なんだ……?」
そうして鳥居の姿が見えてきたころ。トオルは異変に気が付いた。
妙に人の気配がない。だがどこかへ移動したとの連絡は受けていないはず。嫌な予感が彼の脳裏をよぎる。
「いや大丈夫、あとは帰るだけじゃないか……」
そう自分に言い聞かせながら、セーフティポイントへ慎重に近付いていく。
だがそこでトオルたちを待っていたのは、助けたはずの救難者や救助隊たちの無残な姿だった。
「なっ……どうして……?」
ふらつく足取りでひとつひとつのテントを確認していく……が、どこも酷い有様だ。全身が焼け焦げた死体や下半身が無い遺体など、およそ生きているとは思えない状態の人々ばかりだった。
「う、うそ……なんで……なんでこんなことに……?」
ミコトの目から大粒の涙が流れ落ちる。
その様子を見て、トオルの表情も険しさを増した。ここまでの努力がすべて水の泡となってしまった。いったいなぜ、という感情が溢れ出る。
「……クソッ! なんでだよ!!」
地面を蹴りつけ、怒りをぶつける。トマトちゃんねるを視聴していた人々も絶望のコメントを寄せ、実況用のスレッドは阿鼻叫喚となっていた。
「俺が、俺がちゃんとしていれば、こうはならなかったはずなのに……!」
「……トオルさん、アレ! まだ生きている人がいるみたいです」
「え……?」
ミコトが指さす先に、確かに呼吸をしている人影があった。
「待ってろ、すぐに連れてくる!」
そう言うなり、トオルは駆け出した。
「おい! しっかりしろ! 一体ここで何があったんだ!?」
通信用の機器に寄り掛かるようにグッタリとしている男性がいた。
その人物は傷だらけで、身体中が血まみれになってしまっている。トオルの呼びかけに反応するが、顔を上げる気力も残っていないようだった。
「……その声は……トオルなのか?」
「あぁ、そうだ! もう帰れる一歩前なんだ、頼むからこんなところで死ぬんじゃない!」
「違う……俺たちは騙されていたんだ……すべては最初から仕組まれて……」
そう言うなり、彼はガクリと力なく項垂れてしまう。
「おいっ!?」
慌てて脈を計るが、すでに事切れていた。
「くそっ! 怪異はすべて倒したはずなのに、どうしてこんなことに……?」
それに彼が最後に言いかけていた謎の言葉が妙に引っかかった。『彼女』とは誰のことを指しているのだろうか? 疑問が尽きないが、今は考えている暇はない。
「とりあえず、ミコトを連れて鳥居へ急ごう」
慣れない手つきでナギへの緊急通信を掛けながら、急いで鳥居へと向かう。
数時間前に行った最後の連絡では、現実世界側の鳥居に第二次救助隊が待機していると言っていた。原因が分からない今、これ以上の犠牲者を出すわけにはいかない。
「おい、ミコト? さっきから無言だが、大丈夫か――」
「悪いけど、貴方たちを元の世界に帰すわけにはいかないわ」
返事をする代わりに、ミコトとは違う女性の澄んだ声が響いた。




