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第13話 ただのファン


 中庭にひしめくモンスターの大群を片付けたトオルたちは一息ついていた。モンスターを一掃したことで、ここはセーブのできる安全地帯となったらしい。だがシオンは休んでいるどころではなかった。


「で、さっきのことを説明してくれるワケ……?」


「すごい……! トオルさんって、まさか伝説の勇者だったんですか!?」


 責めるような視線を送るシオンと、対照的に目を輝かせるミコト。


「フッ……そうさ、俺は勇者。この世界に平和を取り戻すため、この世界に降り立った選ばれし者」


 トオルは得意げに笑みを浮かべて、格好良くポーズを決めた。

 だが正気を取り戻したシオンがドヤ顔を晒している男の両肩を鷲掴みにする。


「痛っ、ちょ、ちょっと待てよ! なにすんだよ!」


「うるさい黙れ、この変態トマト! アンタどうしてその剣を装備できてるのよ! っていうかなんで持ってるの!」


「え? フツーにしろの宝物庫にあったけど」


「勝手に持ってきたっていうの!?」


 トオルが持っているのは、歴代のファイナルクエストにおける主人公の専用武器である聖剣だった。


 勇者の象徴で、タイトルロゴにも使用されているほど。マルチプレイとなった今作ではプレイヤーが手に入れることはできず、かつてこの世界を救った勇者から受け継いでいるという設定で王城に安置されていた。それを男が装備できるはずがない。


「ちょっと、ステータス画面を見せなさいよ!」


「えぇ? まぁ、いいけど……」


 シオンは相手のステータスを見る魔法を唱えた。すると彼の職業欄を見て驚愕の声を上げた。


「"伝説の勇者"!? う、うそ……勇者なんてジョブはまだ無いはずなのに!」


「制作サイドが、あとで聖剣を持つプレイヤーを勇者にするイベントでも開催するつもりだったのかもな。俺はただ、強制装備バグで無理やり装備しただけだけど」


「強制装備バグ……?」


 聞いたこともない単語に、シオンは首を傾げる。しかしすぐに思い当たる節があったようで、彼女はハッと顔を上げた。


「まさか、その訳わかんない着替えはそのための?」


「そう、正解~!」


 ご名答とばかりにシオンへ拍手を送るトオル。だが彼女は信じられないと目を大きく見開いた。


 強制装備バグ。

 その名の通り、強制的に装備品を身に着けてしまう不具合である。


「方法そのものは簡単なんだけど、下準備が面倒でさ~」


 このバグを起こすには、いくつかの段階を踏む必要がある。

 まずはインベントリ。ファイナルクエストでは初期で百個のアイテムを所持することができるのだが、種類は何でもいいのでこの限界まで埋める。そしてアイテム欄のラストに装備したいアイテムにしておく。


 次に可能な部位にすべての装備をしてから、目的のアイテムと装備を交換する。

 すると通常は装備できないアイテムを装備することができるのである。


「他にも魔石や回復アイテムなんかも装備できるぜ」


 ほら、と今度は胸部に赤い宝石のようなものを埋め込んでみせた。他にも股間に籠手を生やしたりと、メチャクチャな装備を披露する。

 それがいったいどういう効果を示すかは分からないが、本来あるゲームの挙動ではないことはたしかだった。


「うわっ、本当だ! こんなのチートじゃん!」


「おいおい、人聞きの悪いことを言うなよ。これは運営が修正する前の、ルールに則った正規の方法だろ。問題があるとしたら、バグを放置した開発者が悪い」


「うぅ……確かにそうかもしれないけど、なんか釈然としない!」


「はいはい、文句は後で聞いてやるよ。それよりも今はアレだ。他のプレイヤーたちと合流しないと。――ほら。今の騒ぎを聞いて、誰かが様子を見にきたっぽいぞ」


 トオルはミコトとシオンを連れて、中庭の中心に立つ。すると豪華な鎧を身に付けた金髪の男たちが現れた。


「――シオン! ここに居たのか!」


「タクミ!? 良かった、無事だったんだね!」


 シオンは男の顔を見てホッとした表情を見せる。どうやら彼が件の彼氏らしい。


「ああ、怪異から逃れたNPCに運よく遭遇してさ。おかげで城をダンジョン化させた元凶も判明したよ。……ところで、そちらの男性は?」


「えっと、あの人は……」


 なんと説明したらいいのか分からず言い淀んでいると、代わりにトオルが口を開いた。


「俺はトマトちゃん。通りすがりの勇者です」


「ゆ、勇者ですか? ……そのトマト頭にその名前。もしかして、トマトちゃんねるの人!?」


「俺を知っているのか!?」


 男はトオルの正体に気付いたようだ。

 ここにきてようやく自分を知る人間と出逢えたことに、トオルは驚いた様子で訊き返す。


「もちろん、チャンネル登録もしてますよ! トマトメイトってやつですね!」


「おいおいおい、マジでかよ! キミ、タクミ君って言ったっけ? 良い奴だな~、俺のことを特別にトオルさんって呼んでいいぜ!」


 まさかのファンだった。しかもアンチではなく、純粋なファンである。感極まったトオルは今にも抱き着きそうな勢いでタクミの手を奪いにいった。


「あはは、俺も会えて嬉しいっす。っていっても俺がトマトちゃんを知ったのは、もう配信界隈から引退した後でしたけど……」


「あぁ、いや。知ってくれているだけで嬉しいよ。ありがとな!」


「いえいえ、こちらこそ! それにしても本当に久しぶりっすね~」


 女子二人をそっちのけで和やかな雰囲気を作るトオルとタクミ。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! アンタたち、いきなり現れて何を話しているの!?」


「ん? 何だよ、シオン。あの伝説的ゲーマーのトマトちゃんを知らないのか?」


 二人の会話を遮るように割り込んだのは、シオンであった。

 突然現れた見知らぬ男がまさか彼氏と知り合いだと思わなかった彼女は、困惑している。


「知らないわよ。っていうか、なんでタクミがそんな有名人を知ってるわけ?」


「それは……」


 タクミはチラリとトオルを見た。トマト頭をした彼の表情は窺い知れないが、どこか申し訳なさそうに首を横に振った。本人も事情を口にしたくないらしい。


「悪い、シオン。その話はまたあとでな」


「……? 分かったけど」


 シオンは怪しげな視線を向けながらも、渋々といった感じで引き下がった。


「それより、ここから脱出する方法を見付けたんだ。……そうだ、トオルさん。俺たちと一緒に来ませんか?」

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