第12話 勇者爆誕
「本当ですか! ありがとうございます!」
ミコトはトオルの手を握ると、ぶんぶん上下に振り回した。
トオルは照れくさそうに頬を掻く。
「いいんだ。どちらにせよ救助しに来たんだし」
「トオルさんは優しい人ですね。あっ、私はミコトっていいます」
「ああ、よろしく。俺のことはトオルでいいよ」
「はいっ! よろしくお願いしますね、トオルさん!」
ミコトは元気よく返事をした。
トオルはそんな彼女を見て、思わずドキッとする。
「(本当は視聴者稼ぎが目的なんだけど……まぁこっちも命懸けだし、それくらいの役得は許されるよな?)」
そんなことを考えながらも、トオルは彼女に気付かれないように小さくガッツポーズをしていた。
「そういえば、トオルさんの職業ってなんですか? 魔法使いには見えませんけど……」
「ん? ああ、俺は……あ~、えっとぉ……」
トオルは正式なファイナルクエストのプレイヤーではない。鳥居をくぐって生身の体のまま仮想現実に侵入した、イレギュラーな存在である。だからこのゲームを始めるときに選ぶはずの職業も無いままだった。
つまり現実世界と同じフリーターである。その事実に地味にショックを受けつつも、トオルはそれを隠しつつ答えた。
「実はさ……ちょっと事情があって、俺はまだ自分のジョブを決めていないんだよ」
「えっ、じゃあどうやってモンスターと戦うんですか?」
魔法使いのシオンでさえ、ガーゴイルに苦戦していたのだ。トオルが戦えるとは思えない。ミコトは心配そうな表情を浮かべた。
だがトオルは余裕たっぷりといった様子で、不敵に笑ってみせる。そして自信満々に言い切った。
「大丈夫、俺はこういうゲームは得意だから。なんとかしてみるよ――」
その言葉にミコトは首を傾げる。どう考えても根拠のない言葉だったが、トオルの表情は確信めいた何かを感じさせた。
「(トオルさん……もしかして、凄い人なのかも?……でも、だとしたらどうしてこんなところに? それに初心者の私を助けてくれる理由もよく分からない……)」
トオルの言動の理由と自信の根拠は、このあと実際に目の当たりにすることとなった。
「シオン! 助けを呼んで来たよ!」
トオルを引き連れて再び中庭へと戻ってきたミコトは、親友の姿を見て叫ぶ。
「その声はミコト!? 良かった、助かった!」
シオンは後ろを振り返らずに、泣きそうな声を上げた。彼女は無事に生きていた。今もたった独りで、モンスターの大群を相手に戦っている。
どうやら魔法で作った氷を壁にすることで、モンスターたちの侵攻を抑えていたようだった。攻撃に転じて隙を作るよりも、防御に専念したのが功を奏したらしい。
「(へぇ、ゲーム慣れしているっていうのは本当だったみたいだな)」
シオンのことをミコトから軽く聞いていたトオルは、彼女の機転の良さに感心していた。少なくともどこかの誰かさんよりは頼りがいがありそうだ。
しかしそのシオンも体力の限界のようで、支えの魔法杖が無ければ今すぐに倒れてしまいそうだ。
ようやくの助けに彼女は思わず安堵した表情を浮かべ、振り返った。
「は、ははっ……ピンチ過ぎて、遂に幻覚が見えるようになっちゃったのかな? それともアレが死神?」
スーツを着たトマト頭を見たシオンは、乾いた笑いを漏らした。
それは紛れもなく異形の姿であり、シオンから見れば新たに舞い降りた恐怖の対象にしかなり得ない。
「ち、違うよ! たしかに見た目はかなり変な人だけど、私たちを助けに来てくれたんだよ。ほら、トオルさん。早く説明してあげてください」
「……うん」
ミコトに促されて、トオルはしぶしぶ前に出る。
「えーっと、今日から配信活動を再開したトマトちゃんです。現在は無職の二十六歳で彼女募集中。趣味はゲームで嫌いな物はピーマンとアンチ野郎です。どうぞよろしく」
「……」
トオルの言葉を聞いて、シオンは絶望の色を濃くさせた。せっかく救助がきたと思ったのに、こんな変態に助けてもらうなんて最悪である。
「ねぇミコト。男の趣味は人それぞれだけど、さすがにコレは……」
「うるさいな。誰にも迷惑を掛けてないんだから、別にいいだろ!」
「うわぁ……もういい。喋らないで。ミコト、この人にはもう近づいちゃだめだよ」
「なにおう!? 人が折角来てやったのになんだその態度は!」
出逢ったばかりにもかかわらず、二人はバチバチと火花をぶつけ始めてしまった。間に挟まれたミコトは、慌てて二人の仲裁に入る。
「落ち着いてよ二人とも! 今は喧嘩なんかしている場合じゃないでしょ!」
ミコトに叱られて、二人は気まずそうに顔を背ける。彼女の言う通り、ガーゴイルが炎を吐いて氷の壁を壊そうとしていた。このままでは三人ともモンスターたちに食い荒らされてしまう。
「ごめん……つい」
「悪い。俺も言い過ぎた」
「ふぅ、分かってくれればいいんだよ。……それよりトオルさん、お願いします! あのモンスターたちをなんとかしてください!」
「ああ、任せてくれ。そのために俺が来たんだ」
二人の視線を向けられたトオルは、力強く言い切る。その言葉を聞いたミコトは、嬉しそうに微笑むと彼に期待を寄せた。
「(やっぱりトオルさんは凄い人だった! だってあんなに自信満々に言っているもの!)」
「よし、じゃあ早速――」
トオルはインベントリを開くと、おもむろにスーツを着替え始めた。それも女性モノのワンピースへと。
「え? な、何をしているんですか……!?」
突然の奇行に驚く二人。だがそんなことお構いなしに彼は装備を替えると、最後にレース付きの下着を腕に通して言った。
「よし、下準備はコレで完了。あとはコイツを装備するだけだ」
「「……」」
「さぁ、行くぜ――勇者トマトちゃんの爆誕だ!」
出現させたロングソードを天へと掲げると同時に、周囲にキラキラとした光が降り注ぐ。光はトオルの体を囲み、ワンピースや下着を輝かせた。
「「!?」」
シオンもミコトも何が起きたのか分からず困惑するばかりだが、トオルは気にせずに剣を振り下ろした。
「くらぇっ、魔王殺しの斬撃!」
振り抜いた瞬間、轟音と共に衝撃波が巻き起こる。
トオルを中心にした一帯のモンスターたちが一瞬にして塵と化し、中庭の景色は一変した。




