銃声
パァン……
一発の銃声が、寂れた市街地に小さく響き渡る。
一行は連邦軍からはぐれ、合流を目指しあちこちさまよっている最中で、この時アーラは隊を離れ、地下壕を拠点に一人で物資の探索を行っているところだった。
ここへきて一週間にもなるが、最近はあまり攻撃も受けていなかったので、この小さく、間抜けた、緊張感のある音はアーラを警戒させた。
「このあたりももうダメだな。さっさと伝えに戻らないとまずい」
目前の景色に背を向け、歩き出す。
そこに続けて、静寂の中にヘリのプロペラ音が割り込んでくる。
「まただ。間髪入れずにきやがる。」
つるっとしたヘリの側面には、"COMMONWEALTH"とある。結構な低空飛行からか、凄まじい轟音だった。
通り過ぎて行ったヘリの正体を、アーラは知っていた。
そのまま歩きながらも、このことを伝えるため携帯電話を取り出し、ソーニャへと繋げた。
「もしもし?コモンウェルスのヘリが通って行ったのを見た。ここにも雨が降るぞ。すぐ戻る。気をつけてな」
「了解」
素っ気ない返事の後すぐに電話が切れた。電話では最低限のことしか話さないのはいつも通りだが、普段は急に切ったりはしない。でもまあ、状況が状況だから、余裕がないのも無理はないと思い、先を急ぐことにした。
「あ……銃声のこと言ってなかった」
ヘリはともかく、あの一発の銃声は不安を引き起こした。今まで敵の気配のしなかったこの地で、出所の分からない銃声はたとえ一発であっても安心できない。
アーラは地図へさっと目をやり、改めて帰路を確認し直すと、走り出した。
物資のためのかばんはまだ軽い。それでも急いで戻らねば。それに今の最悪の気分、不安、怒り、さらに悲しみさえあるこの気持ちを晴らすためにも走る。ただ、それでも、いくら速く走ろうとも、正体不明の不安は増していくばかりだった。心臓の鼓動が異常に速くなるのはなぜだ?不安からか?急ぎすぎか?訳が分からなくなりながらも足は止めず、正確に道を辿ってゆく。
とにかくアーラは虫の知らせに身を任せ、仲間のもとへ向かった。