1094日目
『1094日目、雨』
「あのなぁ、何度も言わせるなよ。こんな雨の中ウロウロしてたら何か起こるって普通分かるだろ!……ってお前聞いてんのか?ソーニャ!」
アーラが叫ぶ。その怒りの理由もそのはず、外はかなりの豪雨、2人は崩れかかった廃墟の下で雨宿りの最中だった。
「分かってるって言ってるだろ。とにかく出て行って何か探さないと。それにな、お前もちょっとは黙ってろよ。しつこいぞ」
ソーニャは落ち着いた様子でそう返すと、背中を向け外へ出ていこうとする。
アーラはその背中に向かって吠える。
「そりゃあ何度も言わないと分からないバカを相手にしてるからなぁ!いいからやむまで待つぞ」
ソーニャが振り返る。
「じゃあ今の食糧問題をお前がどうにかしてくれるのか?なにか案が?」
「ま、まあ…そりゃぁー…ないけど…いやだからとにかく今は危険だってこと!」
アーラはタジタジとそう返した。
「はいはい、じゃあ私一人で行くから、お前はここにいろ。なにか見つけたら戻る。…それに、お前がそうやって叫び散らしてるのを連中に聞かれたらどうする?それはそれで危険だ」
ぶっきらぼうにそう言うと、アーラの抵抗むなしくソーニャは結局出て行ってしまった。
「あ!おい、ちょっと待てよ!今行く!はぁ…ライトぐらい消していけっての」
ソーニャを追いかける。
すると、少し離れたところから雨音混じりに、
「じゃあさっさとこい」
とソーニャが返すのが聞こえた。
雨の中探索に行くのは危険だと思いながらも、食糧が足りないというのは確かにまずい状況だというのはアーラも理解していた。ただどうしてもソーニャの行動は無謀だと思えて、気が気でなかった。そしてその気は嫌な予感へと繋がり、その予感は結果へと繋がった。
「止マれ!いっサい動くナ!!!」
外へ出て10mもしない場所、まさにバケツをひっくり返したような激しい雨の中、時刻は大体昼下り。すぐ左側を爆心地に、拡声器の様にくぐもった音が鳴り響いた。その爆音たるや凄まじく、銃撃を受けたのかと、2人して思わず身をかがめてしまうほどだった。
この一瞬のうちにアーラはふと思った。
「変な声だな……マスクでもつけてるのか?機械音のようにも聞こえるな」
ソーニャも同じことか、違っていても似たようなつまらないことを何かしら考えていただろう。とにかく、2人とも心臓の拍を変えずに中腰で固まったままだった。
人というのはさあ死ぬぞというときに走馬灯を見るように、ここぞというタイミングにかえって落ち着いてしまうものだ。だがそれはあくまでも最初の2秒ほどまで。もうたった1秒でも経ちさえすれば、また時が動き出す。声が聞こえたあたりから再開する。
そういえば、一瞬落ち着いていたかのように思えた彼女たちに1つ勘違いがあった。それは、今はもう昼下りではなく、夕方に差し掛かっていたということだ。さっきまで室内でライトを焚いていたから外が暗くなり始めているのに気が付かなかった。
声が聞こえる。
2人の瞳孔が光量を調節する。
もう日は落ちかけ、辺りが暗くなっている。
もう夕方だったのか。
声の方向に目を向かわせる。
1、2、3、4……5人?
左、前……いや後ろにも……。
囲まれてる?
「しまった!」
生きた心地がしなかった……本当に死んだかと思ったよ