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《3章過去編》完全無欠のサイキョウ勇者の攻略法  作者: MeguriJun
4章【氷雪の記憶 Crystal Of Snow Memory】
73/74

EX2-7【星を守る時間と空間】

それは5秒にも満たない時間だった。

厚く張り巡らされた氷壁は白銀に輝く炎により、一瞬にして形を失い、

天空から降り注ぐ雷の豪雨による脅威に視線が向けられた瞬間、

漆黒の球体が氷華の左腕を“もって”いった。



「ーーーーーッッッ!!!!!」



それは表すならば深く沈んだ嗚咽か…

または耳を突く程の金属を切るような,細くかん高い金切り声か…

声にならない悲痛な叫びが森に響く…

右手で押さえつけた出血箇所を自らの能力で凍らせ、止血をし、視線を幻獣へと戻した。

しかし、瞬時に自分に対しこれほどの致命傷を与えながら、

足元の小石を蹴飛ばすように、何事もなかったように歩を緩めず、

悠然と歩く姿を見て、一気に恐怖が氷華の精神を支配した。

ガチガチガチッ!と震える体は、唇を噛み千切る…

ナメていたわけでは決して無い。

全力をもって10分持てば良いほう…

それくらいの覚悟で挑んでいた・・・はずなのに・・・

ここまで・・・

これ程まで・・・

力の差があるなんて…

未だ燃え上がる炎と轟き響く雷雨を背に三体が氷華へと近づいた



ーーー殺されるーーー



自分の最期を悟り、強く瞳を閉じる…

しかし、巨大な足音は近づいたかと思うと背後へとその音を移動させ、少しづつ離れていく。

後ろを振り返ると3体の幻獣の背中が見える…

見逃された…



「……助かった・・・」



その安堵のあまりボソリと発した自身が呟いた一言を自ら聞いた瞬間、凄まじい後悔と怒りが氷華の精神を襲った…


安心してしまった…

死ぬことすら覚悟していたはずなのに・・・

まだ何も終わってなんかいないのに・・・

まだ何一つ試していないのに…

これからあの兄妹が殺されるというのに・・・


…ブチンッ!と氷華の中の何かが切れる。



「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」



それはおよそ、人の発する声ではない異常な叫びが三体の足を止める。

幻獣が氷華へと視線を向け振り返る・・・

…が、それは正確ではなく三体のうち一体、

青虎レギオンのみは、その異常にいち早く”呑まれ”ていた。

気付いたその時には、すでに身体の半分は凍りつき、身体は振り返ることすら許さない状態にあった。



「悠久を生きる伝説の獣共・・・覚悟しなさいっ!!!

 さっき私にトドメを刺さなかったことを……今から後悔させてあげる…」



放つオーラ、異様な眼光が突き刺さり、幻獣の表情が変わる・・・と同時に反射的にシャハル・メルトはいくつもの漆黒空間を展開する。

しかし、そのどれもが瞬時に凍りつき活動を停止した。

…否・・・



「気付きましたか?

 空間ごと吸引と放出を繰り返すアナタの恩恵も、常に”永久的に凍り続ける”私のこの力によって、

 破壊された瞬間にその空間が凍りつく…破壊と凍結の無限ループに嵌っている。

 そしてその対象は、<恩恵>だけに留まらないっ!」



ハッ!とシャハル・メルトが視線を自らの身体へ向けると、

レギオン同様、身体の下部3分の1は既に凍りつき、その凍結はどんどんとシャハル・メルトの身体全体へと広がっていた。

凍りついた箇所の境目を、シャハル・メルトが睨みつけると光の空間が走り、切断。

そして<恩恵>の力により、自らの身体が空間と共に揺らぐ。

ピシャーーンと甲高い音が場に響き渡るとレギオンもまた、動く半身を雷へと変え、氷華を襲う。

漆黒の空間、そして雷速の一線が氷華の眼前に光る。

しかし、氷華の周囲に薄く張られた氷壁に触れた瞬間、空間・雷光のその事象が起きている空間が一気に凍りつき、そのまま動かなくなった。



「無駄よっ…

 この封印は別名’空間永久凍結’・・・形があろうがなかろうが、自然の事象であろうが関係なく、その空間そのものを凍らせる。

 ここ一帯広範囲に及び、アナタ方を含め封印術に組み込まれている…

 逃れるにはもう、これ以上の永遠の破壊力をもってでもない限り、止めることはできないわよ。」



ズバーーーンッ!!!と氷華の周囲を白銀の炎が覆う。




「そう、あとはアナタとの根競べよ・・・」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






時は少し遡り氷華と別れたミライへと移る



「な、なんだ…あの空間はっ?」



黒と白の球体状の”ナニ”かがいくつも浮かぶ異様な空間。

噂・伝記・神話などで伝わる伝説……

色々伝承はあるが、何よりは先の大戦で見たことがある……

あれは………

あの白と黒の歪な複数空間……その発生源!



「……王蛇っ?」



頂点の一角たる存在に戦慄する…

第四次種族間大戦において龍族を倒す肝となる魔王と仙王。

そのどちらの攻撃も受け付けない天敵

暗黒にして精神攻撃型ギフトホルダー闇龍。

その圧倒的なまでの空間支配を完全に無効化した最強の幻獣。

氷華の向かったその先に見える絶望に血の気が引く…



「まずいっ…氷華を助けないとっ…」



そちらの方角へ踵を返し駆け出そうとしたその足が止まる…違和感を感じる。

向かおうとした先、少し離れたある位置を起点に、風になびく草花の動きがそのラインの内と外で違いすぎる…

こちらに近い位置の葉の動きが明らかに遅い

何かが……起きているっ!!!



「ッ!!!」



本能的に危険を察知したとしか説明がつかない。

すぐさま展開した氷の壁に何かがぶつかり、凄まじい音が森に響く。

氷の壁を突き抜ける衝撃に吹き飛ばされるも反転し、着地と共に氷の壁の先を見るが誰もいない…


困惑する中、先程まで森に差し込んでいた太陽の光が途絶え、大きな影が周囲を覆う。

…にも拘わらず、上空にも周囲にもそんな影を生み出すような’モノ’がない。


謎と不見の脅威に困惑するも、頭を冷やす意味も込めて声を上げる



「誰だっ!?…いるのはわかっているっ!!!

 隠れてないで、正々堂々出てきたらどうだっ?」



そんな言葉に意味はないと思いつつも、上げずにはいられなかった。

しかし、そんな思いに反し、木々の隙間から姿を現す者がいた…



「…ライオン?……いや、金色の……獅子………ッ!!?」



その瞬間、先程見た異常空間、そして王蛇の存在で全てが繋がる。

驚愕と共に背筋が凍る…

読んだ本で見たことがある。

王蛇同様、界歴以前どころか何千年前より存在する正真正銘の生きた伝説、最強の集団の一角…



「まさか…幻獣金獅子っ!?」



その刹那、自身の右側から凄まじいプレッシャーを感じる…

気づいた時には、それは真横にあった

なんだ…?

いつから…?

どうやってこんなに接近を…?

視線を向ける暇すらもない。

何かがあるというそれだけ…

しかし、その答えは金獅子の瞳に映し出していた。

巨大な……口?……が真横に出現した?

『呑まれるっ!!!』

なんの前触れもなく、突如として現れた存在を前に、避けられないと判断すると同時に、反射的に能力を発動する

配列ゾーン

視界に映る対象と自身の場所を入れ替える能力により、自身の位置と視線に映る金獅子の位置を入れ替える。


木々大地諸共に先程まで自身がいたその場所は巨大な口の中へと消えていった。

まるで泳いでいるかのように上空へ浮かび上がるその存在は、俺を更なる絶望へ追いやった。



「幻獣………黒鯨っ…」



ザッと葉がしなる音の方へ目をやると、先程黒鯨の口の中へと消えていった金獅子の姿がそこにあった。



幻獣

どの種族にも属さない太古より今に生きる、特別な一体を除く10体の種族が確認されている幻の存在。

転生を繰り返し、そのほとんどが単体ゆえに目撃情報も少ないが、その少ない目撃情報ですら内容は驚愕の一言に尽き、

その力は死四龍に均衡すると言われている。


一定空間の時の流れを緩やかにし、その中を影響を受けることなく通常の時間軸で動く…

気付く間も与えず、全てを終わらせる時間の支配者。

時を翔ける獅子 幻獣【金獅子】


常にその多くを恩恵による裏世界で過ごすため、実世界では影しか映らず、実際の本体を目撃した例は少ない亜空間使い。

空間を泳ぐ鯨 幻獣【黒鯨】


幻獣の存在は見知っていたし、王蛇に紐づいて書き記された情報も少なからず知識にあった。

しかし…



「よりにもよって……この2体かよ…」



借入インデビデンス》の能力の特性上、真名・能力名・能力の使用を直に見る事が必須である。

そのため、事前対策の為に情報は得られる限り得ていたが、相手は喋ることのない出現頻度が極めて低い幻獣…

真の名も、正確な能力名も記載は一切ない。

しかも、相手の能力上、見るチャンスが極端に少ない…

視界に捉えなけらば条件を満たせないにも関わらず、視界に映る間を与えない相性が最悪の2体…

更にそこに加え、金獅子の超速攻撃を防ぐには氷のような物理的な壁が必要になる。

氷の能力のストックはかなりあるが、そのほとんどは氷華の能力……

今現在戦闘中かもしれない彼女の力を使うわけにはいかない


止まらない2体の猛攻に全力での応戦、姿の見えない者からの攻撃に防戦せざるを得ず、

ズルズルとその有限の能力ストックを削らされていく。


そしてついにその時が来る



『物理防御系能力のストックが……ない…』



氷華を除く、借入残数切れ…

金獅子対策に周囲に風を纏うように展開するが気休め程度にしかならない

何より展開範囲が先程に比べあまりにも狭く、巨大な黒鯨においては能力ごと呑まれかねない


今使っている身体強化系では、時の緩やかな世界で反応するのがやっと…

水系では突破される可能性が高く、壁の役割を果たさない。

相手を捉えるにしても早すぎる…

炎系はミクにまで被害が及ぶし、最悪命に関わる

土系はそもそもに使える者自体が少なく、生きている者で能力を見たことがない

だめだっ!

今使える能力で時間と空間に対処しきれない…




絶望がその身を襲う…

なんで…

なんでだ…



「俺は…みんなの犠牲の上に立つ…こんなところで……」



嫌だ…

死ねない…

まだ死ねない…

こんなところで死ねない…


死ぬのが怖いわけじゃない

何もせずに死にたくない

何も残さずに死にたくない

何も守れずに死にたくない


誓ったんだ

俺のために…

俺のせいで犠牲になった人達に…


無駄なんかジャない…

無駄にナンカデキナい…

俺ガ死ンダラ何千もの死が…

フウの死ガ無駄ニナル

無駄二……?



彼等が

彼女等が

友が

仲間が

親友が…


俺が何モデキズニ死んだら

その全テガ無駄になってしまうんだっ!!!


そんなことないっ!

そんなことさせないっ!!

何かを為して世界を変える…

そんな大それたこと、ちっぽけな俺にできるとは思わない…

それでも…

たった一人の女の子も守れずにどうなる…?

合わせる顔がない

謝っても謝りきれない

みんなの死が本当に無駄になってしまう

証明するんだ!

無駄なんかじゃないことを…!!!

証明したいんだ!!

みんなの力が誰かの助けになることを…!!!


だから頼む…みんなっ!

俺の顔も知らない奴・俺を憎んでいる奴・俺のせいで死んだ奴!

全てを俺は背負うから…

その先で俺はどうなったって構わない!!

だから、コイツを…コイツ等だけでも守ってやれる能力を貸してくれ!!!



「俺が…ミクも氷華も…守るんだぁああああああっー!!!」



その瞬間、閉じた瞳……暗闇に映るある情報は全て書き換わる

しかし、そんな隙を逃しはしなかった。

風の障壁を突き抜け、突然現れるその大きな口に、

ミクもろともに飲み込み、その者は亜空間へと消える。

その瞬間、勝負は決まった。


黒鯨は思う

仮にもしも、自身がこの状況で殺されたとしても<恩恵>により亜空間にいる以上、ここからの脱出は不可能だと。

これは元より金獅子と…更には他幻獣内で決めていたこと…

役目は果たした…そう思っていた



「《借入》《教本ライブラリー》!

 確認っ…真名、幻獣黒鯨キレヌヴァル、恩恵《羅生門ワールドリバース

 《借入》《羅生門》発動」



突如の<恩恵>の強制解除による現世出現に黒鯨は驚愕する。

閉じたはずの亜空と現界を繋げる穴が開いている

どころか自身の力でその穴を閉じることができない

まるで”自身の<恩恵>を誰かに使われている”ような…



「《借入》《烈風シムーン》発動!

 続けて《借入》《瞬身テレポテレネーション》発動!」



瞬間、黒鯨・金獅子の視界から姿が消える

熱を帯びた旋風が巻き起こり、高熱と砂煙は黒鯨・金獅子の視界を更に狭めた。

巻き上がる砂を払いのけながら、周囲を見渡す金獅子の背後死角から、そっと手を伸ばし足に触れる



「《借入》《教本ライブラリー》!

 確認っ…真名、幻獣金獅子ヴァストレオ、恩恵《《時界卿クロノスタシス》)》

 《借入》《《時界卿クロノスタシス》》発動」



例え、本から消しゴムでその記載が消されていたとしても、そこにあった事実は変わらない



「礼を言うよ…幻獣。

 お前達は俺に大事なことを気づかせてくれた。

 死んだら俺の中から消えてなくなる…

 死んだら全て無駄になる…

 …そんなことはなかったんだっ!

 たとえその身がもう朽ち果てて無くとも、俺の中で……俺の思い出で、彼等彼女等は生き続け、力を貸してくれる…

 そこに、あの時あの場所にいた事実は変わらないし、無駄になることもありはしないんだっ!」



吹き飛ばされた2体の元へと歩を進める



「お前らの仲間にも伝えておけ…

 責任は俺が取るっ!

 これ以上俺達に・・・ミクに手を出してくるようならその時は・・・

 お前ら幻獣全員、俺が生きている限り絶滅させ続けてやるっ!!!」

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