EX2-5【絶望の足音】
「物を売れないってどうゆうことだっ!!?
ここは物を売る為の店じゃないのかっ!!!」
ダンッ!!!と、店主と自分とを隔てる木材でできた机を叩き割る
さすがの強者が揃うこの刀の国の住人でも、
まだ年端もいかないガキんちょのその類まれなる膂力に一歩引く…
「お、お前はこの女の正体を知っていて一緒にいるのか?
コイツは悪名高いあの”氷結の女帝”だぞっ?
対人ではなく、周囲一帯の環境すら変える対国能力…
個人に対して最強の我々ですら手に余る世界の悪魔だぞっ!!!」
「誰だそいつ?そんなの関係ないし、それにそれがなんだってんだ?
別に今現状ここで悪いことをしてるわけでもないし、俺達はその被害にあっていないっ!」
「いやっ……俺は見たっ!
貿易先に迷い込んできた龍族を、コイツが氷漬けにする姿をっ…
龍族なんかよりコイツの方がよっぽど化け物だっ!!!」
「っ!!!」
ビクリと氷華の身体が震える
「そんなっ!?
別に故意に被害を出してたわけじゃないのに…
それに今はちゃんと抑えられている……」
「故意でなければ全てが許されるわけではないっ!
小僧には分からないかもしれないが、今がいいからって過去を精算できるわけじゃねえ…
それにまた、いつ周囲に被害を出すかわからない…
コイツが”氷結の女帝”である以上、俺等と相容れることはねえ!!!」
「っつ!!!!!」
過去の清算…
食いしばる歯は欠け、握り締める拳に力がこもる…
そんなことが叶わないことは、他の誰より自分が知っている…
その言葉に、我を忘れそうになる自身を善一のおっちゃんが止めに入る
「ミライっ、諦めろ!!!
相応にして力のある者は、そこにいるだけで、力のない者からしたら恐怖であり脅威に他ならない。
俺も大なり小なり近い仕打ちを受けたが、それでも人間の領域をはみ出していなかったからこそ、今の立場にいられる。
ワシ達が彼女のことを知っているだけで、他の者からしたら、彼女の力は明らかにその領域を超えている…
あい入れることはまず…ありえないだろう…」
「そういうお前も同罪だ…鴨川善一…
問題ばかり持ち込みおって…」
気付くと20もの刀が囲う様に俺達に向けられる…
幾人もの武士を引き連れた国の長
その横には軍隊長であり、過激派として名高い息子の国綱の姿があった。
「”氷結の女帝”真白氷華に関しては即刻この国から出て行ってもらう…
以後我が国の周囲で見つけ次第、脅威とし排除にあたる。
これは年齢を考慮した上で、できうる限りの恩情だと思え…
鴨川善一は詳しく話を聞くため後程本殿へと足を運んでもらう。
少年に関しては…」
「父上は甘すぎるっ!!!
これは我々を危険に晒した反国行為…
今すぐこの者達の首をかっさばき、晒し首にするべきだっ!」
国の長の話に割り込むように
その殺意に満ちた瞳と刃が俺達へ向けられる
…がそれを遮るように、長はその間に割って入る…
「少年よ、お主は選べる…
お主もまた異質ではあるが脅威ではない…
まだこちらの世界で生きられる。
親ではないが、子を持つものとして、どちらで生きるのが正しいか…
その年で賢く生きてきたお前なら分かるはずだ…」
「その代わり氷華は見捨てろってか…
特別な力を持つ者は全て異端扱いで…」
氷華に向け振り下ろされる刀を掴み止めると、パキリと折り、その刃は投げ捨てる…
「アンタ等が氷華を異端と罵り、蔑むのなら、俺もまた異端者の一人だよ…」
▽
「あーはっはっはっはぁー!!!
あの口上…見事だったっ!
刀を折った時のあのいけ好かねー童の驚きようを見たか?」
「世話になったよ…おっちゃん…
あれだけの啖呵を切った以上、この土地にはいられない!」
カーカッカッカッカッとひとしきり高笑いをし終えると、
ホイッと布で巻かれた物を投げ渡す
「くれてやる!
真に渡したのに比べたらナマクラ刀だが、ないよりマシだろ…
成長したら小生意気な娘っ子にでも持たせてやれっ!
氷華に関しては…お前さんに任せた、力になってやってくれ…」
「最初から最期まで悪かったな…
じゃあ…ありがとうな…」
「ああ、”またな”…」
「…ああ…また……」
善一との挨拶を終え、先に待たせる氷華の元へと辿り着く
「ミライ君…本当に良かったの?
今ならまだ戻れる…」
「たった一人の為に、命を掛けられる…
俺が尊敬した勇者はそんな男だった!
もしも、俺があの場で氷華を見捨てたら、俺はその人に顔向けできなくなる…
それだけだ、気にするなっ!」
ん?と後ろを振り返ると、今にも泣き出しそうな顔でこちらを見つめる氷華が立ち尽くしていた
「どうしたんだ?氷華っ!」
「んーん…何でもない!
ありがとう…」
こうして俺とミク、そして氷華の三人はこの土地を去っていった
そんな別れと旅立ちの会話の裏で密かに動く者達が居た…
氷結の女帝討伐に村の者達は動き出したのだった
「氷結の女帝を許すなぁ~~~っ!!!
奴がいる限り村に安寧は訪れな~~~いっ!!
火炙りにして、神への供物とするのだあ~~~!!!」
村に住まう過激な者達総勢20人ばかし、ミライ達の暮らす森の民家へ進んでゆく。
ゴソゴソと木々をかき分けて進んでいくと左に大きな湖が広がっていた。
1人の武士がその光景に目を奪われていると、遠くの畔に遠方からでも分かる程の巨大な鳥が降り立った。
唖然とする…
その優雅な姿以上に、異常なまでの大きさに開いた口が塞がらなくなっていた…
「なっ、なんだべ…?あれは?」
「ああっ!?
…あっ……あれはまさかっ?!!
なんでこんなところに?
…あっ…ありえないっ!!
ほ…本当に神の怒りに…ふ…触れたのかっ?
村にいる奴等に伝えろっ!!!
女帝なんかにかまけてられねえーーー!
あれは…あれは……」
「あと少し待ってくれ!
直に贄を差し出す…
それで勘弁し……ギャアアアアアaaaaーーー!!!」
悲鳴と共にその場にいた者達の痕跡は跡形もなく消えた…
風は止み、木々はその鼓動を止め、周囲の生物達は姿を消した…
”その者達”以外、そこに命の鼓動は感じない…
その場を悠々と歩み続ける者達こそ、
氷結の女帝を遥かに超える、最大最凶の脅威と後に村の人々は知ることとなる…




