EX1-9【信用と裏切り】
生活のための空間や客間などは大抵、居館内に作られているものだが、
魔王城はそれ以外で私的な部屋と公の部屋が別々になっていた。
それを世間一般では別棟と呼ばれていたが、そこにミライの部屋はあった。
冷たく暗く広がる渡り廊下を歩いていると、何かを察した魔王が待ち構える形で立っていた。
「支王…真っ……」
「……結局お前等の目が節穴だっただけだったなっ!
クソ生意気でクソませたクソ可愛いガキじゃねえか…恐ろしいなんてとんでもないっ!
お前等がいらないなら、俺がもらってやりたいくらいだっ!」
「………」
「ガキの不幸は好きじゃねえ!
次にアイツを泣かせるようなことになってみろ…
俺がお前等をこれでもかって程泣かせてやるっ!!!」
「……ああ、肝に命じておくよ…」
それから二週間程の時が経つ
魔王である父クロノ・クロイツと勇者である支王真は統合都市を創る為、幾人かの重鎮と共に話し合いを重ね、
その片手間に時間が空くと、真は俺の話し相手になってくれた。
それは魔界の…この城内しか知らない自分からしたら未知のことばかりで、
冷たく返事を返す反面、内心は心躍る内容のものばかりだった。
俺は問う
「胡散臭いなっ…ホントにそんな場所があるのかよ?」
真は答える。
「俺の話が嘘か本当かなんて、俺自身にしかわからない。
だからお前は俺の話が嘘か本当か、お前が自分で見て確かめろっ!」
情報はやっただろ?と頭をクシャクシャ撫でる。
払いのけながら、そんな何気ない行動が楽しいと思えてしまっていた。
そして、部屋に帰り一人になるといつも、
こんな俺がこんな楽しく思える日々を過ごしてしまっていいのかと自暴自棄に陥る。
そんな眠れない夜にはいつも、従者を呼びつけ話を聞いていた。
外はどんな世界なのか…
どのような世界が広がっているのか…
どんな世界を、見てきたのか…
人それぞれがそれぞれにそれぞれの、違った世界を見てきたのだろう。
世界の広さを知ると共に自分の存在が…自分の見ている世界がどこまでも狭く小さいものなのだと感じる
「シード、暇な時で構わないから、またその力を見せてくれよっ…」
「…構いませんがっ……興味がございますか?」
「ああ、興味がある。
俺はまだこの星の一部にすら触れられていなかったみたいだから…
俺は知りたい…真が語る、この広い世界の光景を…」
俺は知る必要がある。
これからどうするのか?どうしたら良いのか?
世界の在り方を見て、聞いて、知って…
自分なりの答えを出して、そしてこれから先の自分の道を決めよう…
そんな風に考えていた…
▽▽▽
▽▽
▽
「ミライが攫われただとっ!?」
バンッと机の叩く音が鳴り響く
その場にいた者達がどよめく。
「鉄壁の要塞詳細を言えっ!」
「すみませんっ!!!
ミライ様の部屋にいたところ突然の襲撃に合い…
ワタクシがついていながら突然現れた賊に、ミライ様を連れ去られてしまい…」
「シード…お前がついていながら情けないっ!
で、ミライの居場所はっ?」
「それが我々にもわからないのですっ!!!
忽然と姿を消して、探知レーダーで確認をしてみましたら……」
探知レーダーを奪うようにして、魔王は息子たるミライの場所を確認をする。
「なんだこれはっ!!?
超高速移動…いや、瞬時に消失と出現を繰り返して移動している……だと?」
「これは…空間移動というより瞬間転移能力だろう…」
困惑を隠せない王を含めた魔族の隙間を縫うように、
突然現れた勇者が覗き込むようにしてレーダーを見る。
「以前戦った他種族に同じような能力者がいたが、かなり面倒な相手だった。
戦闘力はそれほどでもないが、苦労した要因がこのスキル…
視界に映る位置に瞬間的に移動・転移する能力。
名前を確か………《瞬身》…だったか…」
「空間系…だと?そのような能力、魔族の中では把握されていないぞっ!」
「この能力は非常に強力ではあるが、弱点も存在する。
それは『自分の瞳の視界に映る場所』という発動の為の限定条件…
つまりは双眼鏡や望遠鏡といった”道具”を利用した場所はその能力発動の範囲に入らないんだ。
まあ、それができたら道具を介した場所ならどこでも行けるようになり、
テレビモニター画面からも移動ができてしまうチート能力になっちまうからな…
城とその周囲の広さ、そして秘匿性の高さからのミライの部屋の場所…
それらを考えると、この能力だけでは逃奔は可能でも誰にも見つからず侵入はまず無理だっ!
多分、中から手引きした者がいる…
おいっ…メイドのアンタっ!
ミライが連れ去られた時に一緒にいたんだってなっ…
どんな風に連れてかれたんだっ?」
「えっ…そ、それは…突然目の前に現れて、一瞬でミライ様と共に姿を消して…」
「そうかい…
ちなみに、この能力には発動してから次の発動までに数秒のインターバルが必要になるというもう一つ弱点がある。
先程の質問の答えも気になるが、更に言えばこの能力のみを考えた時、攻撃性能がほぼ皆無と言っていい…
クロノに聞くが、突然とはいえ目の前に現れた賊に対し、
数秒とはいえ能力が使えない相手に、彼女と未知の力を有したミライが遅れを取ると思うか?」
その問いかけに魔王は黙り、そっと自分に仕え、ミライの世話役に当たるシードへ視線を向ける
「まさか…本当にお前が…?」
俯き顔にその表情が分からないまま十数秒が経つ。
そんな空気に待ち切れなくなった重鎮の一人が「どうなんだっ!?」と机を叩き聞き直すと、下を向いたその顔を魔王へと向け直す。
「魔王様は私の境遇を知ってらっしゃいますよね?」
「…ああ、私と同じArtificial Children(人工子)…仙族と魔族のハーフ。
私と違い、攻撃性能に欠けていたことから今の立ち位置になったが、その力は植物操る能力。
しかし、魔力値があまり高くないせいか微電と同じく、少しの活性や成長を促すことしかできない……がっ……」
「はい、いわゆる失敗作扱いをされましたよ。
しかし、この力には使い方がありましてね…
植物にも少し刺激を与えたり、成長を促進させただけで、色々な効果を発揮するものがありまして…
次第では一時的に洗脳作用や幻惑…睡眠効果を与えることも可能なんですよ」
「…確かに植物による作用であれば感知はし辛いか……
魔族の最重要機密の誘拐…
仙族と魔族のハーフであるにも関わらず、戦争を誘発させるようなやり方…
両者が両者とも互いに戦争を起こさせるメリットはないし、それは人族も同じ事
裏に暗躍するのは……龍族か?」
まだ若さの見える女性に真は質問を投げ掛ける
静まり返る場の均衡を破るように女性は両の手を叩いた
「フフッ、ご明察…というか本当に素晴らしいですっ!
この少ない情報で、よくぞその答えにたどり着きましたね…勇者支王真様っ!」
「龍族が攻めあぐねているのは仙族と魔族とで結託し、結果均衡しているからなっ!
正確にはそれでも頭一つ飛び抜けた龍族ではあるが、二種族に加え人族の三種族を相手にするにはデメリットが大きい。
だからこそ仙族の血を引くお前達が魔族の息子を攫うことで、魔族と仙族の間で争いを起こさせ、両者を削り取るつもりだったんだろう。
しかもその息子が魔族内でも一部でしか知らず隠匿したくなる程の秘密を抱えているとなれば、魔族内での内輪での信頼関係も瓦解させられる…
最悪の…しかし連れ去るならこれ以上ない程の相手を選んだな…」
「今までのあの”実験体”は感情の起伏がなかったが、
それ以上に他人を信用してないことからか隙らしい隙が全くなかった…
しかし、支王真っ!アナタのおかげですっ!!!
アナタの存在があの実験体を変え、他人に心を開くキッカケを与えてくれた!
感謝しまs…」
「…もう黙ってろ…」
それはまさに目にも映らぬ光速で打ち出された拳はシードの顎を正確に打ち抜き意識を失わせた。
「残念だ。
近い境遇にいたお前なら、ミライのことわかってもらえると思ったのだがな」
意識を失った従者であるシードを、憲兵たちが連れて行く
大きく溜息を吐くと魔王は再度、探知レーダーに目をやる。
「さあ、これからどうする!今から先遣隊に招集をかけてミライの元へ向かわせるか…」
「いや、普通に追いかけたら間に合わないだろう。
相手は視界に入る最速位置に転移を繰り返しているんだからなっ!」
「ではどうしろというんだっ!
だだ黙って見ていろというのか?
この先には人界に繋がる”ガイアの魔穴”がある。
そこを抜けられたらレーダー探知もできない上、何より仙界にも天界にも渡れる為範囲が広すぎる…
探し出すのが困難になr……」
「そうだな、アンタらはここで待ってな…」
そう言うとレーダーを取り上げ、扉方面へと歩を進める。
「あのガキは……
ミライは……俺が助ける」
▽▽▽
▽▽
▽
ザッザッ!!!
時に木々への着地音、時に超高層域からの落下浮遊…
移動しているとこは明白だが、布か何かに包まれているようで何がどうなっているのか分からない…
くの字に曲がる自身の身体を動かそうともがくが、まともに身体が動かない
「起きたか?世間知らず君…」
聞き覚えの無い声…
そして現状を考えて最悪な状況を想定する。
すぐさま能力による脱出を試みるが、身体と同じくうまく魔力と能力が扱いきれない。
「お前も覚えておくんだな…
『能力者は常に冷静であれ!』これが能力者の真理だ。
動揺や困惑は能力の質を下げる。
まあ、それを踏まえた上でも今のお前は能力が使えないだろうがなっ!
今のお前は催眠や昏倒、麻痺・毒といった状態異常を付与されている…」
その能力を俺は知っている。
常に俺の側に居て、誰よりも俺のことを見ていたであろう彼女…
「想像の通りだ。
《成植》シードはこちら側、内通者だ!』」
ああそうか…
輝きかけた世界に再び闇が訪れる
『俺はまた、裏切られたのか』
その言葉が頭に浮かぶと共に、開きかけた瞼は静かに瞳にカーテンを下ろす。
元々諦めていた…それに希望を見かけたこと自身が間違えだった。
一時の感情に流され、人を…他人を信じようとした俺が間違えだった。
やはり世界は欺瞞と裏切りに支配されていた…
「そんなことはないっ!」
急な浮遊感に襲われると、誰かに抱きかかえられる感触がした。
突然のことに目を開くと覆いかぶされていた布ははぎ取られ、暗闇が途端に明るくなる。
「だってお前は、まだこの世界を何も知らないんだから…なっ!」
そこに俺にとっての”勇者”がいた
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