EX1-8【目的と理由】
「支王真様、取り寄せましたお茶と呼ばれるものです…どうぞ…」
「おいおいっ!
魔王様ってのは、こんな可愛いメイドさんまでついてくるのかよっ!
俺なんて勇者とは名ばかり、でそんなオプションなかったぞっ!!!」
その言葉に戸惑い困った様子で去るメイドに、ニコニコと真は手を振るう。
それを見ながら呆れたような溜息を吐き、合図をだしメイドをさげる。
「ぬかせっ!
それにアイツは仕えてはいるが、メイドではない。
条件さえ整えば、私やお前さえも瞬間的にだが無力化できる程の強力なスキルホルダーだぞっ!」
その言葉を聞きヒュ~と口を鳴らした後に「怖いねぇ~」と付けたし答える。
「そんなことより、わざわざこうやって二人だけで話せる場を設けてやったのだ。
さっさと用件を言えっ!」
「分かってるよ…悪かったな!
当てや服の用意だけじゃなく、こんな部屋まで用意させちまって……」
そこは魔王城から少し離れたはなれ。
中心に置かれたテーブルに相対する形で椅子へと二人は腰を下ろした。
「完璧とまではいかないだろうが、完全防音とこの広さ、それに種族頂点に立つ我々2人だ。
そうそう聞き耳を立てられることもないだろう…」
「無理を言ったな、これから話す話はあまり多くの者に知られてほしくないんでなっ…」
そう言うと、先程までの軽口が嘘のように神妙な面持ちで真は語り出した。
「単刀直入に言う。
まどろっこしいのも、裏をかいた計算なんかも嫌いだし苦手なんだ…
俺は近い将来……それも多分1、2年の間に死ぬ」
「…なっ!?」
ガタンと椅子が倒れ、魔王が身を寄り出す。
「…三戦力の均衡、その外から最底辺にいた立場を押しのけて、いきなり現れた人族の新星にして人族の希望だろ?
発言には気を付けろっ?」
「……元々俺が使う能力《超限》は使用者の力を100%引き出すのが本来の使用なんだ。
それは、人族の能力としてはポピュラーな身体強化能力《強身》に属する。
それを500%強化というギアチェンジを繰り返すことで強化していく《超限》まで昇華できたのは……
まあ俺の才能もあっただろうが、《強身》を軸に”寿命を縮めること”で為し得た強化、あるいは進化形態の能力なんだ。
ただその代償は大きく、強制的使用による無理矢理な発動稼動で、
元の能力のそれ以上を引き出したことによる身体への負担は想像以上にきつかった。
それが身体強化の倍率により更に負担が増加していく。
当初は200%ですら、使用後あるいは次の日動けなくなる程だったよ…」
ふぅ~と思い出すかのように溜息を一つ吐き、話を続ける。
「基本的に様々な名の能力が存在するが、種類事の根本はほとんど変わらない。
電気使いと微電使いは分かれてはいるが、同じ電気を使うことにそれほどの差異はない。
要は得意かどうか、出力や魔力の量はどうかの違いだけだ。
しかし、”進化”はその力を大きく変えたものになる。
人族の能力は強化系に分類される…
それは体内電流を雷に強化させたり、熱を炎へ強化させたりと、いわゆる身体ではなく能力のみを強化したものを指し、
その行き着く先、強化という点においての最高到達点とされる力を俗に”進化”と呼ぶ。
しかし、そんな極限の進化が身体に負担がないわけがなく…急激な変化に身体の方が付いていかないのがほどんどだ。
ましてや俺のように、純粋な身体強化の能力を倍掛けにしていたわけだから自身への負担も当然の結果だな…
そんな無茶を承知で使用していた能力ではあった。
負担を気にするような時代でもないし、何より俺は俺の子供の為に早くこの戦乱の時代を終わらせたかった。
そして、ある日ある出来事の際…見つけてしまった……
その進化の更に先の力を……」
「……それが私との戦いの時に見せた…」
「あぁ、俺はあの力に『エクストラ』と名をつけた。
多分、記録上人類史他類史を含めた現時点で、あの力に目覚めたのは俺以外に存在していない。
お前達はまだいい…
力だけでなく、それ以外での交渉が成り立つ。
問題は龍族だっ!
多かれ少なかれ俺の存在…人族最強の勇者という称号と、龍王との一戦は奴等にとっての抑止力の働きがある。
その一角が無くなると、力で抑えつけた龍王が何をしてくるか分からない。
先日、本人に釘を打っておいたし、条約に手署もさせたが、果たしてどこまでその抑制が働くか…」
魔王はすぐに気持ちを切り替え、冷静を保つ。
「真、お前の目的は一体なんなんだ?
死を目の前にするお前は一体何を目指している?
他種族全滅ではないのか?」
「俺の目的か…
俺は、4種族が分け隔てなく暮らせる街…
全ての種族が住まう街…統合都市を創りたいと考えているっ!」
「統合都市…だと?」
「ずっと考えていた。
大義として世界平和が目標になるんだろうが、じゃあどうすれば平和な世の中になるのか…
人族以外全滅させること?
恨みを買うだけだっ……
どこかで必ず誰かの血がまた流れる。
それに、それが果たして本当に世界平和なのかと問われた時、俺は自信を持ってイエスと言える自信がない。
だから考えて、この答えに行き着いた。
長きに渡り、こんな無駄な大戦が起きているのは互いが互いを知らない、知ろうとしないからだ
手を取り合い一緒に歩むためにはまず、互いを知ること、知れる機会と場所が必要になる。
だからこそ、若い世代には互いを知れる環境を与えたい。
その結果、その先どうなるかは俺にも分からないが、
今の世界のように自身達だけが正しいと他種を一方的に敵として排除し、蔑ろにするような…
俺達とは違う答えを出してくれるんじゃないかと……俺は信じている!」
「……同じ場所に他種族が一緒に暮らすだと?バカげているっ!!!
結果更なる憎しみが生まれるかもしれないんだぞっ?
一緒に暮らしている同じ種族ですら内戦が起きるというのに……」
「そんなことは知らんっ!
俺は神や仏でなければ、未来視も運命視もできないからなっ!
俺にできることは希望を願い託し、その未来へ繋げる最善を尽くすだけだっ!」
勇者のその言葉を聞くや、魔王は大きな声をあげ笑い飛ばす。
「フハハハッ!そんなことで本当に世界に平和をもたらせられると思っているのか?
青臭い……だが悪くないっ!
ゲームのように悪の親玉を倒せば世界が平和になるような、そんな甘い考えでないだけ好感が持てる。
いいだろうっ!
お前が想うその統合都市のプランのプレゼンを続けるがいい。
改める点を含めて我が聞いてやろう!」
こうして、二人での統合都市計画プランの議題は夕方まで続いた。
それは一つの街という名の王国を創り、たった1人の頂点を作らず、4種族それぞれの長が同列に責任をもって管理をするシステム。
在住する人数は個の力や割合で算出させ、パワーバランスが崩れないようにすること。
都市の中に学園を作り、子供達を通わせることで世界を知る機会を与えると共に、互いが互いに”監視しやすい”状況を作ること。
その管理監視の一端をとある”幻獣”に頼んであること…
様々な情報共有と指摘や訂正内容をまとめあげ一息をつく頃、外は朱を含んだ夕空が城下町の上に広がっていた。
休憩を兼ねたその時間にふと、勇者は昨日からの疑問を投げ掛ける…
「しかし、こっちはオマケみたいなもんで…詮索するつもりもないから答えたくなけりゃ答えなくていいが…
あのガキんちょは何だっ?
あの年で能力覚醒、その上噂でしか聞いたことのない技の使い手ときたもんだ。
俺以上のアンタの驚きっぷりに俺が驚いたが、将来有望にも程があるだろっ!
条約が結ばれなかったらと思うとゾッとするぜ」
「…えな…だ…」
「…んっ?」
あまりの小さな声に魔王へ目をやると先程に比べ、明らかに顔色が悪くなっていることが見て分かった。
「アイツは…ミライだけはありえないんだ…」
「話が見えん!何がありえないんだ?」
「ミライは…例え能力に覚醒してたとしても、その能力を使うことができない…使えるはずがないんだ!」
「どうゆうことだ?現に使っているところを俺もお前も見ていたはずだが……」
「ミライが生まれた時、それから6年間毎日…研究グループに確認させていた。
アイツの魔力総数値は生まれた時から一切変わらず、現在24.7だそうだ…」
「にっ…20っ!??
嘘だろっ?
あの力は間違いなく《色彩》における最高技【インビジブル】…
今でこそ、足音や空気の流れで上位実力者なら攻略可能だが、
やり方次第では相手ターンを迎えることなく、一撃で勝負を決められる反則的な力…
しかし、存在しない色を創り出す技術ゆえに魔力消費量が桁外れのため、まともな使い手すらいない幻の技術だぞっ!?
計測ミスか何かじゃないのか?」
「いや、これに限ってそれはない。
なぜなら、ミライはこれ以上の魔力を体内に保有してはいけない…
というより保有した場合、ミライ自身の身体が耐えきれず命を落とす」
「はあ?なんだそりゃ!?魔力アレルギーかなんかの特異体質でもあるのか?
魔力が体内にある以上、アンチホルダーってわけでもないだろ!」
「…まぁ、我の持つダブルの力を見せてしまった以上、隠し立てしてあらぬ噂を流されるよりは、
正確に把握した上で黙っていてもらうのが良策なのだろうな…」
両肘を机に立てると顔を繋がれた両手の上へ置き、深く息を吸い吐く。
「我もあの子も純正の魔族ではない。
我は魔と人、ミライは4族全ての血をその身に宿す混血種だ…
元々実験の成功例であり被害者でもある我は反対したのだがな…
いくらトップが強い地位と能力を持っていようが、種族を支える上層部の意見を完全には無視できなかった。
そして、我と妻アリアの遺伝子情報・DNAを掛け合わせて、様々な外的刺激を与え生まれた、
現在生きている唯一の成功例こそがあの子…ミライだ。」
「…魔王に娘がいるのは知っていたが、息子の存在は公表されていなかった…
おかしいとは思ったが、そういうことか…
人族も言えた義理ではないが…虫唾が走るねっ」
「…相反するどころか、個々に独立した力を全て内包している。
それはまるで奇跡のような綱渡りで、通常なら魔力同士が拒絶反応を起こして破裂する。
現に十万を超える実験体を生み出してきたが、生物の形を維持できたのは10分の1以下。
その全ても、能力覚醒に耐えられず発現発動とともに朽ち果てているし、
成長、魔力の増大と共に拒絶が大きくなり、身体を維持できなくなり無惨な最期を迎えている」
「………」
「幾千もの実験の結果生まれた成功例、魔族と人族の混血種たる我の能力は、
世界の中でも五本の指に入る最強クラスの能力だった。
それが隠された力を含めれば二つ持つというダブルホルダーの使い手。
ならばその最強クラスを媒体に幾万もの実験の結果生まれた失敗作にして成功例、4種族全ての血を持つミライは…
それはもはや、我々の予想を遥かに上回る力を持っているのかもしれん。
我は恐ろしいよ…
あの時、その片鱗を見た時から、あの子が怖くてしかたない……」
「…我が子を恐れてどうする?
お前を守る為にその力を見せたんだろうに…」
肘をつけ右手で顔を抑えるようにし、冷めた視線を魔王へと向ける
「……ところでもう一つ質問なんだが…
この場所は間違いなく、会話の聞こえない完全防音…”密閉空間”でいいんだよなぁ?」
「当たり前だっ!!!
こんな話、他に漏らせるわけなかろうっ!!!」
魔王の返答に「ふーん」と軽く返しながら視線を下へとほんの少し向けた
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
夕闇がかった空が照らすことの無い…
誰もいない人体実験場にミライは座る。
一日一度、この場所で戻ることの無い皆を思い出すと、自分を戒めずにはいられなかった。
膝を抱き抱え、徐々に視界を暗黒へと塗り替えていく…
「…バアッ!!!!!」
「っ!?!?!?!?」
突如の大きな声と目の前に映るいつも見慣れない人物の大きな顔に驚く。
アヒャヒャヒャと下品な笑いを飛ばすその男を、ミライは知っていた。
「こんなところに何の用だ?……勇者…」
「さっきの話、どこまで聞いてたんだっ?坊やっ!」
「………なんの話だ?
確かアンタ等はその内容漏洩防止の為、何重のセキュリティ網の先の部屋に案内されていたと思うが?」
「密閉空間に風は通らない。
俺の足元にほんの少し風が通るのを感じた。
多分能力者周囲の空間と指定の空間を繋ぎ合わせる類の能力だろう。
魔王が俺を謀るなら、バレないであろう俺より遠い魔王自身の足元付近に空間を発生させるはず……
それを敢えて俺の足元付近で発生させたということは、俺をナメているか、魔王に知られたくないとかのどちらかだ。
……んで、後者だとするなら自ずと人は絞られる。
能力未確認の能力者が、確かいたような気がしてな…」
「……話したのか?」
「いんや!今も便所とか言って誤魔化して出てきた。
怪しむかもだが、内容を特定させるのは難しいだろう…」
「…随分とお優しいじゃないか、俺に同情でもしたのか?」
「俺のモットーはガキに優しくだ!
これでも俺は勇者だぞっ」
ニンマリを笑顔で答える勇者に呆れたように視線を外す
「あんまり気にするなよっ!あんなの一時のもんさっ…
未知のもんを見た時は、みんな最初気味悪がるもんだっ!
でも見慣れちまえばあんなもn…」
「気にしていないさっ…
だって、俺は父である最高傑作の魔王を守るために生み出された存在なんだから…」
「んあっ?」
気を使ってか、まくし立てるように早口になっていた勇者の口が止まる。
その表情は先程までとうって変わり笑顔が消えていた。
「俺という中途半端のせいで実験は続けられ、
俺が生まれたからいらぬ犠牲が増えた。
隠匿されている俺は王にはなれないし、まともに生きていく資格も無い。
もう俺に残された唯一の存在理由なんて、
超えられなかった最高傑作を守るそれくらいしかない…
その為に父も俺を未だ生かして……」
「アホらしいっ!
どこの世界に子供に守られたい親がいるんだよっ!!
子供はな、親に守られる為にいるんだよ」
ゴツンッと鈍い音が周囲に響く
頭を抱えるミライの後頭部をぐしゃぐしゃと撫でる
「子供が、背伸びして何かしようとすんなっ!
子供はなっ…ただそこにいるだけで、側にいるだけで、それだけでいいんだっ!!!
俺にもさ、可愛い娘がいるんだよ!
そりゃもう絶世の美女で目に入れても痛くない!!!
……まあ、俺が側に居る頃には、まだ産まれてなかったんだけどなっ…」
「……あの時の話は嘘だったのか?」
「嘘じゃないさっ!!!絶対必ず間違いなくそうなる。
でも、戦争が続いて戦いが長引けば、俺が言ったことが全て嘘になる。
俺はなっ…平和な世界で、俺が言ったことが間違いでなかったことを証明したい。
俺の娘が平和な世界で生きていてほしい!
ただそれだけの為に戦っているんだ。
親なんてもんはな……そんなもんなんだよ…
それだけの理由があれば、命を賭けて世界を敵に回せるくらいドアホな生き物なのさ…」
「……いいのか?
俺は、生きていていいのか?
存在していていいのか?
魔族の未来を背負い皆の期待を背負い、それを裏切り続けた俺が…
俺という存在は……間違いだったんじゃないのか?」
「生きていていいのか?
存在していていいのか?
間違いなんかじゃないのか?
そんな考え自体がそもそも無駄だっ!!!
生きていていいっ!
存在していていいっ!!
間違いなんかじゃ決してないっ!!!
だって、俺の娘はまだ産まれてすらいなかったのに、
こんなにも俺に戦う勇気と希望を与えてくれているんだから…
今ここにいるっ!それだけでもう奇跡で…かけがえのない絆なんだからっ」
その言葉が響いた瞬間、視界に広がる靄が晴れ、
世界に色が戻った気がした
その晴れ渡る色とりどりの世界が滲み、ぼやける視界を腕で拭う。
そんなミライの背中を微笑みを浮かべ、バンッと思いっきり叩く。
「ミライ?いい名前じゃねえか!
でも名前に縛られんなっ!
誰が付けたとかどんな理由があったとか関係ねえ…
要は本人が名前の通りに生きるか・生きたいかが大事なだけだろ?
アイツ等の未来である必要なんてないし魔族の未来なんてお前の生き方に関係ない。
自分の好きなように生きればいいのさ!
名前の由来なんて嫌なら気にするなっ、なんなら俺の名前でもくれてやるっ!」
「……名前なんてあげて貰えるもんじゃないだろ?」
「そんなことないさ!
新しいお前……真ミライ…いや、真ミライなんて厨二心くすぐるだろ?
新しく生まれ変わったお前に丁度いいっ!!!」
「……ださすぎるっ」
クスリとほんの少しフウを思い出し、笑う
……そう……
彼女を想って笑えたことに、少し心が痛んで……でもすごく嬉しかった
【※大切なお願い】
少しでも
「面白い!」
「続きが気になる!」
「応援してあげてもいいかな」
「更新がんばって!」
と思ってくださった方、応援を是非お願いします(*- -)(*_ _)ペコリ
応援は簡単、たった2、3秒で終わります!
このページの下の方にある、☆☆☆☆☆ボタンをポチッと押すだけです! もちろん無料です!
どうか皆様の数秒を、私に分けてください!
皆様のそのヒトポチでモチベーションが爆上がりします☆
何卒応援よろしくお願いします!
>すでに☆☆☆☆☆ボタンを押してくださっている読者様
応援ありがとうございます!感謝してもしきれません<m(__)m>
今後とも面白い話を作っていきますので、楽しんでいってください!




