EX1-7【前勇者VS前魔王】
死四龍及び幻獣による大規模戦闘が起きてから数日後、世界に激震が走る。
人族が仙族との共闘及び和睦友好条約が結ばれただけでなく、龍族との平和条約が結ばれたのだった。
それはもはや、人類史どころか世界史においても稀にすら見ない異例の事態に皆が皆、困惑を隠せずにいた。
そしてここにも、困惑を隠せない者が一人いた…
魔王は驚愕していた。
前述の情報がまだ世に出回る前…
意気揚々と魔界の…しかも王の間まで乗り込んできた目の前に立つ勇者に、脅威を感じていた。
一度剣を交えただけでもわかってしまった。
……コイツは別格だと……
理不尽な力を更に超える理不尽なる存在…
この世界にはそんな存在が何人も存在する。
龍王…
死四龍…
幻獣…
しかしそれは…魔王も同じ…
間もなく続け様に放たれる勇者からの連撃を弾き・いなし・躱し、距離を取り立て直す
「おいおいっ、何かの冗談かよ?
無から有を生み出す《想生》だけでも手に負えないのに、
身体能力まで俺の最速の《超限と並び立つなんて…
魔族の生まれながらに持つ身体能力の高さは知っているが…それにしても限度があるだろっ!!!」
「・・・そうだろうな。
貴様の能力使用時、その速度と攻撃力に勝る魔族はほぼ皆無に等しいだろう。
だが、私は違う!
魔族の王たる所以、しかとその瞳に刻むがよいっ!!!」
ダンッ!!!と地面を割る程の踏み込みと同時に迫り来る圧倒的な存在に、反射的に握られた刀を横一閃へ振るう。
経験則からなる反射はカウンターとなるタイミングで、その一撃が魔王へと届くと思われたその瞬間…
”バキンッッッ”
と、その場にそぐわぬ金属音が周囲に響く。
気付いた時には《超限》による最高速度で魔王との距離を大きく離していた。
身体に流れる電気信号が危険を察知したこともさることながら、右手に握られた刀の違和感を感じ咄嗟にその場から回避していた。
その違和感に目をやると刃の根本から先の全てがへし折られ、その刃先は遠く離れた岩盤に突き刺さっていた。
「うっ、嘘だろ?
伝説クラスの名声が叩いた一振りを拳で・・・砕…いた?」
「フッフハハハハハハッ!
誇るが良いぞ勇者っ!!
人間風情が我の”第二”の能力を拝めたのだからなっ!」
「第二の…能力・・・?」
「そう、貴様は先程刀を”砕いた”・・・と言ったが正確ではない。
魔族の中でも決められた位以上の者でないと知ることがない事実。
《想生》の裏に隠された、勝るとも劣らないその力…
絶対粉砕能力《破壊》
その名が示す通り、対象となったモノを触れるだけで破壊する能力。
触れさえすれば鋼鉄やダイヤモンド、または例えば龍王の龍鱗すらも破壊可能な力だっ!」
「…そらまぁ、なんというか・・・なんつう反則的な能力だよ・・・」
少し前に対峙した際、龍王の身体には何ヵ所か龍鱗が剥がれ落ちている部位があった。
龍鱗の強度は個体により異なるが最低でも鉄を超え、龍王に関してはダイヤモンドと同等のまさに絶対防御の肉体。
その時は深く考えなかった状況に納得がいく。
それにその能力効果は砕かれた刀を見れば明らか…
だがそれでももう一つ、謎が残る…
「・・・腑に落ちない!といった表情だな。
今の話では超破壊的攻撃力は説明がついても、
貴様に拮抗する速度に説明がつかない・・・と!簡単な話だ。
要は《破壊》の能力の対象が”外的”だけではないということだ!」
「・・・外的ではない・・・外的以外・・・っ!
まっまさかっ!?」
「わかったようだな…
内的部分、つまり我の中にある生物としての”限界”を破壊したっ!
成長限界!と言い方を変えてもよい。
我々生物には生物の…そこから更に魔族には魔族の、人族には人族の…!
加えそこから更に個々には個々の成長限界というのが存在する。
いくら鍛え、切磋し、極め高めようと辿りついてしまう限界点。
火が炎に勝てないように…
風が嵐に勝てないように…
ただの人間が龍族に勝てないようにっ!
それはもはや、生まれもっての素質や天性、才能や種族といった努力ではどうすることのできない壁。
個々それぞれに違うが、必ずある運命められ決められたもの。
それ以上に成長することができないゴール、あるいは終着点と言っても良い。
その運命られたどうすることのできない限界という名の”壁”を壊し、更なる高みへと上限なく登り続けることができる力。
それこそが、我の持つ≪破壊≫第二の力【界崩】
これが、《想生》と《破壊》…魔界史上最強と恐れられたクロノ・クロイツの”ダブルスキル”だっ!!!」
高らかに両手を広げ、高笑いをする魔王の姿を見る勇者がそっと呟く。
「確かに、このまま戦えばジリ貧…
体力の総量を考えれば魔族である魔王…お前の勝利は揺るがないのだろうなっ!
だが言わせてもらえば魔王、お前は人族を…人間をナメ過ぎているっ!」
「…なにぃい?」
「人が同じ場所にずっと立ち止まっていると思うなよっ!
魔族や龍族のように生まれた時から巨大な力を持ち、それゆえその力に甘んじて努力をしない者。
その力の差が大きく寿命が長い為、早々に勝つことを諦める者。
そんな種族とは根本が違うっ!
互いが互いに高め合える、短い命だからこそ、その一瞬を大切にできる。
可能性の追求をし続け研磨し、辿り着いたからこそそもそも持ち得なかった能力を人族は覚醒できた。
だが、だからこそ、そこで人が止まるわけがないだろうっ!!!」
剣を捨て、前傾姿勢に構える。
「見せてやるよっ!
能力を超えたその先の世界…
今に満足するんじゃない…
人が辿り着いた未来へ繋ぐ新たな世界への進化…【エクストラ(限界突破)】の世界をっ!!!」
その言葉が発せられた瞬間、うねりと共に勇者の姿が変わる。
瞳は真赤に光り、その瞳の中心には十字紋が漆黒に輝く。
身体には電気を帯びたように電流があちこちに走り帯電状態となり、髪が逆立つ。
その変化に戸惑う魔王を尻目に勇者は口を開く。
「ーーいーおわーーせr--」(時間がない、終わらせる)
キュイン!!!と空気を切るかのような甲高い音が一瞬聞こえた次の瞬間、ズトォーーーン!!!と凄まじい痛みと衝撃が魔王を襲う。
「っ!!!???」
聞こえる声に、音に反応すらできず後方の壁に叩きつけられていた。
『何が…?』そう思うコンマ1秒の間に更に上空から10撃以上の衝撃が身体に走り、地面に叩きつけられていた。
ドンッドドドドドドドドドッ!!!!!
叩きつけられた反動で浮き上がった所に、更なる追撃が加わる。
鈍い音とそれに伴う身体へのタメージが魔王へと襲い来る。
『何が起こっているのか?』
朦朧とする意識の中でこの思考に辿り着いたのは初撃から6秒後、134発目の拳撃を受け、
音や衝撃を置き去りにした攻撃が止み、あとから襲うソニックブームで壁に叩きつけられた時だった。
ガ八ッ!!!魔王にとっては何年ぶりとさえ思える肉弾においてのダメージによる出血。
そんな戦いの高揚を感じる間も無く、目の前には明らかに先程までとは桁外れに違う勇者・支王真の姿があった。
『反撃を…』
そう思い震える右手を上げようと筋肉が反応したその瞬間、壁にめり込む程の勢いで腕ごと左足で踏みつけられた後、
右の回し蹴りを顔面にくらい真横の壁へと吹き飛ばされる。
魔族は龍族に劣るとはいえ、相応の体力・防御力・耐久力を備えている。
その種族の長たる自分が、ものの10秒程で動けなくなる程の深刻なダメージを受けている事実に魔王は信じられずにいた。
「ゆう…しゃ……おまe…な……にを…」
傷だらけで絞り出すように出した一言に勇者の瞳が揺らぐ。
「ーじゃーなりーーいか…」(これじゃあ会話も成り立たないか…)
スッと頭を下げるとブツブツと何かを口にする。
その間2秒もかからないうちに顔を上げると、瞳の中に輝く十字紋は綺麗に消えていた。
「エクストラを解除した。
下手な動きは見せるなよ…」
「…っ!い…一体なんなんだ?な…何をしたっ!?」
「これが能力の進化の果て…俺はこの力を
《超限》EX≪超越突破≫と呼ぶ」
「…エク、ストラ…?…オーバー…スキル…?」
「《超越突破》は《超限》とはおよそステージがまるで違う。
《超限》の最速が自身限界の500%に対し、≪超越突破≫発動時は身体能力は通常の100倍程に跳ね上がる」
「ひゃ…100ばっ…!!?」
「そう、パーセント表記ですらない倍計算。
《超限》最高値の軽く20倍…まさに世界が違う。
だが、この能力の真骨頂はその異常な身体上昇ではなく、
その速度についてこれる思考能力を含めた身体のそのあらゆる全ての能力が、速度に比例して上がることにある」
「っ!!!先程のおかしな言葉…
口に出すその言葉すらも早すぎて、我が聞き取れなかったのか…」
「もちろんデメリットは存在する。
わざわざ今ここでお前に話す義理はないがな…
さあ…これからどうする?
武器がない以上この力に頼るしかないが、これ以上やるというなら…俺も手加減はできなくなるぞ」
ザッと死神の足音が魔王に向かい迫ろうとした時、
突如背後から来る妙な感覚に背筋が凍る。
《超限》による高速でその場から離れ、自分が先程までいた場所を見ると、
抉られた地面の上に年端もいかぬ少年が立っていた。
「どこからっ…いや…いつからここにいたっ?」
「これ以上親父を…俺の繋り断とうとするなら、俺が相手する…」
「ミ…ライ…?なぜ、お前が…」
その瞬間、勇者の身体にまとっていた能力によるが消えた。
「…魔王。
お前も未来を願う、父親だったんだな…」
そっと魔王から離れ、少年に歩み寄る。
「…ッ!!!」
「安心しろ、ガキんちょっ!
もう俺は、アンタの親父を傷つけられない」
スッと出した右手がミライの頭に乗る。
「魔王…戦いは終わりだ。
この決着は話し合いの場で…
…もうそれでいいだろ?」
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