6-7【空間と時間】
ザザザザザザンッと、あり得ない程の斬撃音が、上空に浮かぶ城から地上にまで響き渡る。
皆が視線を向けると、雲を斬り裂く斬撃は城の上部を吹き飛ばし、その残骸は空から地上へと降り注いだ。
回避の為、一同に城から距離をとる中、一人唖然とその斬撃が放たれた中心に目をやる音奈と、その側に龍王の姿があった。
「歌姫っ!?!
この辺りは危険だぞっ!
すぐに離れないと…」
「あの数の同時斬撃数……
まさかあれって……嘘でしょ?」
音奈の顔が一気に青ざめる。
震える身体を両手で押さえるその姿に、周囲の人々も異変を感じる。
「どうした?何があった?」
「皆さんっ、すぐに遠くへ逃げて下さいっ!
ミクちゃんが本気を出しましたっ…
この辺一帯全てが危険区域ですっ!!!」
その叫びが周囲へと響いた瞬間、視線を城から離したそのタイミングで、
音奈の背後を、空間を斬り裂いて飛んでくる一閃の斬撃が襲ってきていた。
最初に気付いたのは、音奈に視線を向けていた龍王だったが、
一瞬の出来事だったことと、その斬撃の見辛さから反応が遅れる…
「あ、危ないぞっ!!!」
「……えっ!?」
音奈が振り向こうとした時には遅く、その距離は5m内へ迫り一秒とかからずに音奈を斬り裂く射程へと入ってきていた。
しかし気付くと、音奈は視線をその斬撃へと向けており、斬撃は歪む空間の中でゆっくりと音奈へ向かい進んできていた。
そして、音奈の横には生きる伝説、時を翔ける獅子…【幻獣:金獅子】と、
空を覆う巨大な影、空間を泳ぐ鯨…【幻獣:黒鯨】が漂っていた。
「これは…金獅子と黒鯨の時間と空間の合成能力か?」
先に答えへ辿り着いた龍王が、その二体を見る。
「時間と空間の能力で、この一部の空間だけを時間軸の違う別空間へ変異させたのですか?
助かりました。
ありがとう、黒鯨、金じs…」
幻獣に向ける音奈の言葉を聞き終える前に、金獅子は音奈の腰に手を回すと自身へと抱きしめるように引き寄せた。
音奈の視界が金獅子の毛むくじゃらの胸板で覆われ、何が起きたかわからず思考が止まった瞬間、
バリンッと”何か”が割れる音と共にザンッと”何か”を抉る音がする。
「おわっぷっ!!!」
金獅子の腕から抜け、先程まで自分がいた場所を見ると、
ヒビの入った明らかに異常な空間の歪みと、大地を貫通する斬撃痕が残されていた。
「っ!!!」
「バッ、バカな!?
幻獣の時間と空間によるギフトコンボをもってしても、一時的に斬撃速度を緩めるのが精一杯なのかっ!?
これほどの距離があってこの威力とは…
これが、勇者…支王ミクの本気……」
「…いえ、確かに本気のつもりで戦ってるでしょうけど、まだそれでも程遠いです。
時間も空間も斬り裂くミクちゃんの一撃は、やろうと思えばその目に映ることなく光速を超え、放たれます。
私の能力を全開且つ繊細に使ってようやく音と振動によって放たれていたことが確認取れる程に…
私達が見えて尚、避けられること自体、ミクちゃんが無意識にセーブをかけている証拠なんです。
ミクちゃんにとってこの星は、本気で戦うには狭すぎるんです…」
その言葉に周囲の者達は戦慄し青ざめる。
そんな周囲を余所に、音奈の視線はゆっくりと浮遊する巨城へと戻る。
『それでも、ここまでの力を出して……それでも勝てない相手なんているの?
そんな相手、私の知る限り…』
そこで気付く
まさか…でも…もしかして
信じられず困惑する。
ミクに対抗しうる唯一の存在の名を静かにそっと……
誰にも聞こえない程のか細い声で口にする。
「ミライ…お、兄さん…?」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「なるほど…腕をはじいても、握り締めた指の力だけで剣を振るい斬撃を撃ち出すことが可能なのか…
さすがに捌ききれないなっ……
厄介な戦術を生み出しおるっ…」
軽い痛みを手で顔を拭うと、剣撃による出血が確認できる。
手に付く赤い跡…それを見るやニヤリと笑みをこぼす。
「フフフッ、クッハハハハハハ!!!
本当の本気での戦いで、傷を負わされたのは初めてだぞっ!
今まで本来の力を隠す為に力を抑え込んでいたからな……楽しいとすら感じる。
そしてなるほどっ……魔力装があるとは言え、どうもダメージが通らなすぎると思っていたが、
その珍しい鎧も、先程脱ぎ捨てたマントも、見慣れない防具全て、龍鱗魔装の一種だったか…
魔力装の上、更に最高位の防具のせいで能力によるダメージが通らないわけだ」
顎に手を当て、考える素振りをする。
「そしてもう気付いて狙っているんだろ?
お前の特性が周囲の魔力を取り込む力なら、俺の能力は周囲の魔力を使用する能力…
俺達が本気で戦えば、直にこの辺一帯の魔力が一時的にでも尽きる。
そうなれば、例えお前が勝てずとも、他の者達が俺を止められるのではないかと……」
笑みはやがて不敵な表情へと変わる。
「だが、そんな決着を俺は望まない。
だから見せてやろう。
魔力装も龍麟も…全てを打ち破る星の恩恵…
<能力>の最高峰に位置する力…’<恩恵>’の真なる力をっ!!!」
両手を広げ、空へとその身が浮かび上がるのと同じくして、城全体がゴゴゴゴゴゴッと唸りを上げ揺らぐ。
「ミクッ、お前は世界がもたらす恩恵…ギフトについて考えたことはあるか?」
「?なんのことですか?」
「スキルとギフトの大きな違いはその力の在り様にある。
スキルとは、その者の生き方や環境によって影響を受け発現する、謂わば後天的才能が基本なのさ…
しかしギフトは違う。
生まれた時…もしかしたら生まれるその前から、星がその者に与えた超先天的才能。
あるいは龍族のように太古よりその血肉をもって受け継いできた超遺伝的才能。
能力のようにその力を[操る]のではなく、その力に精通した、言うなれば[司る]力なのさ。
だからこそ、恩恵は能力の上位に存在している。」
「???」
「…頭が良いくせに察しが悪い上に賢くない奴だな。
昔からこういった応用にお前は弱すぎる……まあいい。
例を挙げれば、人が使う炎の能力は自身の熱を最大クラスまで強化したことにより生み出される力であり、
根本的には他の能力者もそれに近い。
しかし、闇龍アルデウスは一瞬でその場を闇へと変える…操ると言うより’呼び寄せ’。
闇そのものに自身の姿を変えたりと操るだけでは説明がつかない力を使える。
それが闇の完全支配…’司る’力にして’恩恵’の真骨頂だ。
さて、先程話した闇龍は、100%でなくとも闇を従え、その空間を支配した。
ではもしも仮に、その恩恵の力を煉獄の悪魔・龍王グレンノアが100%で発揮した場合はどうなるのか…」
その言葉と共に、ミライを中心に空間が歪み始めると徐々に周囲の世界が色を変える。
「ギフトとはその力を司る能力。
身に宿した力が、身体に影響を及ぼし、放出する以外にその身を能力の対象へと変える。
そしてその力が100%へ到達すると、その影響は周囲の空間さえも巻き込む。
さぁ、丁寧なご説明は以上だ!
見せてやる。
100%へと辿り着いた、ギフトの真の力を!」
「なっ…これは……」
「予想以上の奮闘に敬意を評して一つ注意をしておこう。
小太刀八刀流…まさにお前にしかできない全力を超えた先の戦術なんだろう。
だがあえて、お前が想う二刀を持つことをオススメしておく。
そうしないと、そのもの自体を失うことになるぞっ!」
「っ!!!」
瞬間、八本の小太刀を地面に突き刺すと直ぐ様二本の愛剣を握りしめる。
「ギフト《太陽王》(白煉の園)、召喚っ!」
それを合図に周囲の空間が歪みが一気に消え去り、一帯は純白に輝く美しくも悍ましい炎に囲まれる。
その空間では鉄すら形を保てず、突き刺した八本の小太刀は一瞬で溶けて消えた。
触れるどころかその場にある全てを焼失させ、王城の最上階全て床ごと消え、ドーム状にミライとミクを囲う形で見たこともない風景に変わった。
魔力装に守られたその身ですら、空気の熱だけで火傷をおこすレベルにまで熱量は引き上げられる。
長期決戦は不味いと感じた瞬間、
ドォーーーーン!!!と、周囲を焼き払う業火がミクを襲う。
それを意に介さず、炎を斬り裂くと先にいるミライの懐へ潜り込む。
「やっーーー!」
横一閃の剣撃を宙へ飛び、避ける。
その先にある白い業火を斬り、そびえる山々がキレイに真っ二つに斬られる。
「ギフト《(氷河期)》(摂氏界)召喚っ!!!」
右手を横に振り、ミライの放った一言で見える全ての景色が氷の世界へと変わる。
世界が凍った
それほどまでの銀世界が広がった。
「3…2…1…《太陽王》(白煉の園)、召喚っ!」
その瞬間、氷の世界は一瞬で炎の巻き上がる地獄へと変わる。
バキンッ!!!鈍い音がミクの鎧から響き、次の瞬間には粉々に砕け散っていく。
「なっ!?」
魔を纏う龍の加護を持つ鎧が砕けたことで、白煉の熱波をモロに受ける。
初めて味わう肌のひりつき、火傷のような痛みが全身を襲う。
魔力装の全力を注ぐ二刀を除き、身につける全てが燃え上がり焼失、一瞬露わになった自身の姿に視線が向いた…
…その隙をミライは見逃さなかった。
腹部への蹴りに反応し、腕でガードするも、吹き飛ばされ後ろの岩盤に叩きつけられたミク。
すぐさま岩盤にめり込んだ右手を引き抜こうとするも、足で押さえつけられる。
「二本の剣に気を取られ過ぎたな…
どんな強固な鎧でも金属である限り、超高温と超冷温を繰り返されれば耐久がもつわけがないっ!
魔力装を集中させ過ぎたのが敗因だ」
右手の暗黒空間から剣が生成される。
「これで終わりだ……じゃあなっ、ミク…」
ミライの持つ剣がミクの胸をつらぬいた…
「がっ…」
そして貫かれたその剣から、どんどんと凍結が始まってゆく。
薄れゆく意識の中で柄へと手をやる…が…
「引き抜けるものなら引き抜いてみろっ!
できないだろう?ただの氷じゃない。
封印術を組み込んだ絶対零度の凍結から無理矢理剣を引き抜くにはお前の《全剣》しかない。
だが、《全剣》のその能力は【世界の全てを”斬り裂く”】能力。
使用し、引き抜いた瞬間、凍りつき始めたお前の体内がどうなるか……予想できるだろ。
…もう眠れ。
目覚めた時、そこは差別も戦いもない、真の平和な世界がお前を待っている…」
「…あっ…うぁっ…お…お兄ちゃ…」
突き刺さる剣を握り締めるも何もできず、そのまま全身は完全に凍り付いた。
「…じゃあなっ……ミクッ……」
パキーン!と甲高い音と共に周囲を氷結させ、何重もの氷の層がミクの周囲を覆い、巨大な氷岩へと形を変えた。
完全に凍りつくのを確認し、背を向け歩きだす。
無音の氷岩の中、虚ろな瞳はゆったりと揺らめく。
『今なのですっ!!!』
その姿を氷の中から確認したミクの目に、光が一気に灯る
『《全剣》(クロック…アウトッ)!!!』
その瞬間、世界の空間が一気に捻じ曲がる
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何かが起きた
詳細がわからずとも、それだけはわかった
気付くと、背後からの吹きすさんでいた冷気が消えていた。
見える風景も周囲の音も変化が全くないのに、背後で何かが起こった。
ふと振り向こうと足を止め振り返る最中、そこには自身へ向けて飛び掛るミクの姿があった。
急な出来事の数々に反応が遅れ、支えきれずそのまま倒されると、右手に激痛が走る。
左手を星剣クローバーが貫通し、地面ごと突き刺さり動きを止められる。
両足をミクの足と右手が押さえつけ、右腕を左肘で押さえながら握りしめた星包ガーネットが喉元に突き付けられる。
「な…なんだ!?何が起きた…?
氷の封印術が音も痕跡も何もかも全て…跡形もなく消えている?
そんなことが……」
「はぁはぁ…
ミクがぁ…斬られるぅ…その瞬間の【時間】を斬ったのですっ!
正確には23時20分50秒から59秒の8秒間……
つまり、50秒から59秒の間でその二点に始点と終点を置いて、間の8秒を斬り捨てて50の次に59を無理矢理繋げる
《全剣》第二の秘剣”時間消失”なのです。
ミクを斬って立ち去ろうとするまでの時間を丸ごと斬り捨てて…なかったことにしたのですよ…」
「これから過ぎる時間……
いやっ、’今’から見れば過ぎた時間を斬り裂いたのか……規格外にも程があるだろ」
「ハア…ハア…《空間》を丸ごと召喚する人に言われたくないのですよっ!
それに使いどころの難しい上、異常なまでに膨大な魔力を消費するのです。
ミクの保持魔力でも10数秒が限度ですし、一時的に完全に尽きてしまうのです。
斬る時間の始点の設定タイミングや即死を間逃れて、初めて成立する秘剣なのですよ。」
互いの目が合う。
「これで…終わりなのですっ!」
剣を両手で握りしめ、力を加える。
「さようなら…大魔王っ!!!
……いいえ…お兄ちゃん…」
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