5-6【私の名は・・・】
「親父…」
「……ミライ…か…」
魔王城ベルモーゼの一室にミライはいた。
能力を完全解放したミライの力の前では、巨城を守るセキュリティのその全てが徒労に終わった。
ベットの上に横になる男は、いくつもの線や管と医療機器をつないだ状態でそこにいた。
「寿命だよ……仕方のないことだ」
「早すぎるだろ…
普通の魔族なら200年はくだらない。
アンタは確かまだ60を迎えてなかったはず……」
「普通ではない…私は魔族と仙族の混血種だ。
元々遺伝子操作で寿命は通常の魔族よりも短い上、
異種魔力の混濁、強制的に能力発現、耐性が薄い中で無理な使用…
大戦でかなり無茶をした。
下は混乱してるだろうな…この事実を知る者は少ない。
加えて、そんな邪道ゆえの代償として、遺伝子レベルで悪性の細胞が急速に増殖していた。
龍王との戦いの後、その症状は加速度的に進んで最早止まることはない。
だが、私の死などはどうでもいい。
何より危惧すべきは……」
「…種族間による頂上会議……
そして龍王……か」
「あぁ、奴の思想は危険だ。
私……というより《想生》の能力を魔族が失いパワーバランスが崩れることにならば魔界、
そして仙界、人界を我が物とするため動くだろう。
三竦み…そして勇者の存在が今のこの時代を作った。
その二柱がなくなれば、奴が動くのは必然……」
スッとゆっくり瞬きをすると、その視線をミライへと向ける
ミライもまた目が合うと、深く瞳を閉じ、そして再びその視線を魔王であり、自身の父親へと向け直す。
「分かっている。
それを何とかし”終わらせる”為に、俺は今ここにいる……」
「……思えばお前には辛い思いをさせてばかりだったな…
罪も重荷も責任も…全てを背負わせてしまった。
不甲斐ない父親で悪かったな…」
「……微かにだが覚えている。
俺が研究員に母親から取り上げられる時、泣き叫ぶ母と一緒にいた悲痛な表情を浮かべるアンタの姿を…
ふれあう時間は少なかった
遠くから眺めている時間の方が長かった
それでも、愛されていなかったわけじゃなかった
俺の願いを聞き入れてくれたし、俺を見守り守ろうとしてくれていた。
そんなアンタに勝手だけど…父親を感じたよ」
「その言葉を聞けただけで、私は満足だよ
結局、親子揃って同じ人物から影響を受けてしまうとは…その辺りはやはり親子なのだな」
違いない!とミライは笑い、その笑みを見て魔王であり父であるクロノ・クロイツも笑う
「これから俺が行う行為を世界が…
そしてアンタは許さないかもしれない
だけど、俺も罪を償うつもりだ。
…だから…ごめん………」
「かまわないさ、苦労をかけた。
そして苦労をかける…
後のことは頼んだ」
「あぁ、じゃあなっ…親父………」
ミライの手がスッと下げられた。
ゴトンッ…と鈍い音が部屋に響く。
「すぐに俺も…いくから」
『我々は魔界において最高傑作なのかもしれない。
しかし、同時に世界にとって負の遺産で象徴なのかもしれない!』
昔、親父に聞いた言葉…今ならわかるよ。
だから俺は…
俺の役割を全うしよう
ハァ~と深く息を吐き高まる気持ちを抑える。
これから先の行動は全て、これから先の”運命”を決める戦い…
どう転ぶかもどうなるのかも分からない。
ただ、自分は全力で想い描く”その結果”へ辿り着かせるのみ…
「ここからが始まりだ。
お前達が存続するに相応しいか、
どんな答えに辿り着くのか見届けさせてもらおう。
さて、それでは……勝負だ、世界っ!
俺にお前達の力を見せてくれ」
認識阻害能力…そして机の上に置かれた仮面をつけ、ローブを翻し王の間より玉座への階段を登る。
ちょうどその頃、18時の鐘がなる。
鳴り響く鐘が10を数えた辺りで玉座の目の前に立つ。
身を翻し、腰を玉座へ掛ける動作へと入る。
そして18の鐘が鳴り止む頃、そこには誰の姿もなかった。
▽ ▽ ▽
統合都市学園街王宮:アステミシア
ここで三年に一度行われる四種族によるサミット『頂上会議』。
そこには種族の代表となる名立たる重鎮達が一堂に会していた。
学園生徒会長アルフレアの父親にして学園の重鎮。
天を統べ、全てを焼失させる黒炎の化身、煉獄龍【龍王グレンノア・ノーツ】
その側近、天候さえも操るギフト《天候王》を有し、
嵐を引き連れ、大戦で多大な戦果を挙げた空の使者【天龍アテナ】
森の女神にして《空流》のギフトを持つ仙族の女王、
全ての厄災を払う森神にして守神。【仙王ユリクス・リーフトレア】
その側近、種族大戦の立役者の一人にして龍族対抗用切り札。
自然界最強の攻撃力を誇る重力を操る【重神クリエラ・ディスキャバリー】
そしてこの会議をまとめるは、
生きとし生きる生命の全ての存在を把握できる探知能力を持つ龍の巫女にして総理事長【フィオネス・リンガード】
何が起こっても安全を期する為に集められた、現在ここ以上に安全な場所は存在しないとさえされる程の種族トップクラス戦力計5名。
「魔族の王はまだ来ないのか?時間がもったいないぞっ!」
「気が短いですよ、龍王!まだ時間前ではないですか。」
「はい!ユリクス様のおっしゃる通りです。」
「クリエラ……側近風情がシャシャり出るなっ!」
「アテナもやめなさい。
この場においては戦闘は厳禁。総理事長である私に従ってもらいますよ。」
一触即発の空気が流れる。
「大体この会議になんの意味がある?
元は世界をまとめようとした人族の小童が始めた呼びかけ…
だが、その人族は会議に参加すらせず行方不明ではないか!
お前達2種族が我々に均衡しなければ、世界など我ら龍族が支配し続けていたものを…」
「龍王と言えど口には気を付けて下さい。
この場は神聖な聖域…
先の大戦において亡くなられた方々を弔うと共に、二度と同じようなことが起こらないよう願う願いを込めて建てられた王域。
戦いを望むような発言はお控えください。」
「随分と偉くなったではないかフィオネス…
戦力として数えられないお前にはお似合いの役職だろうが、
我に意見を言えるほどまで調子に乗っているとは思わなかったぞ!」
二人の視線が重なり合うその先で火花が飛び交う
それは比喩表現では決してなく、実際の魔力がぶつかり合う超高魔力保持者同士のみに許された稀有な光景。
その時、鐘の音がなる。
それは、18の時を知らせ鳴り響く、世界の鐘…
「ええいっ、まどろっこしい!!!
時間は過ぎた…始めるなら魔王抜きでさっさと……」
「魔王なら、もういる!」
「「「…えっ!?」」」
それは突然現れた
気がつけば、目の前にいた
それほどまでに異質な出現
総理事を務めるフィオネスは驚愕した。
龍族の≪恩恵≫を搔い潜り現れたそれは、漆黒を纏う異形の存在が座していた。
声はどこか機械的で濁っているのに、なぜかクリアに聞こえ、
黒色のローブを羽織り、顔には仮面…らしきものをつけているのだろうが、それすらハッキリしない。
それはまるで、暗黒を孕み纏う闇龍のように、黒い霧状の靄が彼の周囲を覆い、人相は窺い知れない。
「なんだ貴様は…いつ、どうやって入った?
いや、それよりも…
…貴様は誰だっ?」
突如として現れた存在に、驚き戸惑う者達を尻目に続けて龍王は問う。
「私は魔王…いや、今をもって魔王となった者」
一瞬部屋の全ての時が止まったかのような静寂が訪れる。
「ふんっ、バカも休み休み言えっ!
歴代魔王の中でも最強と言われる能力《想生》を操る魔の頂点、クロノ・クロイツを差し置いて、
お前のような、どこぞも知らぬ小童が魔王を名乗るなど……」
「クロノ・クロイツは先程死んだ。
だからこそ私がここにいる。」
「…その言葉を信じろと?」
「自分の眼で確認するなら…そうすれば良い」
そう言うとコトンと机上に布に包まれた物が置かれる。
結ばれた紐を解いて布からその物が眼前に晒される。
「「「…なっ!!!?」」」
ガタンと椅子が倒れ、仙王が驚愕の表情で立ち上がる。
場がざわつく中、龍王だけは冷静に話を進めた。
「ふんっ!
影武者か幻術か…にくい演出をしてくれるな。
仮にもしそうだとして、これを信じろと?
大体、そんな魔族にとっての弱点を晒すようなデメリットをなぜ我々に話す?
どう見ても嘘か罠としか思えんっ!」
「ならば信用たる龍族を魔界に送ってみたらいい。
今頃魔界では、大混乱が起こっているからな…」
それを聞いた龍王は顎に指をあて少し考える素振りを見せた後、側近であるアテナに告げる。
「魔界に光龍ユピア、爆龍レネティス、岩龍グレアエネランスを向かわせろ!
今の話が事実と分かり次第……
そのまま魔界を潰せっ!」
「っ!!!
グレンッ!貴様ッ…」
「フハハッ!
おいっ小童、貴様には状況に応じた駆け引きというものがないのか?
大戦時代当時、三つ巴とも言われていた龍族、仙族、魔族。
その一角でありトップの想生の王。
奴が死に、人族の勇者は行方不明。
実質仙族のみならば協定だの同盟だの意味をなさないだろう。
均衡を自分達から崩すような真似事をするとはっ…馬鹿な男よのぉ!!!」
言い放つと龍王は立ち上がり、出入口の扉へと歩き出す。
「小童よ!王になったばかりで申し訳ない限りだが、先程の話が事実ならば、近々魔族は滅亡してしまうかもしれないぞ!
我々が行く前に早く対策を取ったらどうだ?」
と、笑いながら足を進める。
周りでは仙王やその側近、まとめ役の総理事長ですらも混乱が収まらない状態だった。
そうだ…こうなることは分かっていた。
どんなに口先だけで平和を謳い、停戦だのと宣い、同盟を組んでいようとも、
小さい小石をただ投げ込むだけで川の水が波状するように、衝撃となり瓦解する。
まるで脆い砂の城。
種族の争いは終わりがなく、すぐにまた新たな戦いが始まるのだ。
そんな当たり前なこと…もうわかっていた。
だから…
「フフッ、龍族の王よ。何か勘違いしていないですか?」
「…何っ?」
龍王は足を止め、ゆっくりと振り返る。
「私がただ”前王の死を報告するだけ”のために、
わざわざこんな場所へ足を運んだと…そう思うのですか?」
「なんだ?何が言いたい?」
「宣戦布告ですよ。
甘い思考を持った脆弱な前王は死んだ。
これから魔族が…いや、私が世界を終わらせる宣告」
「何を言ってir…」
「そうでした…名前を問われていたのでしたね。
教えて差し上げましょう。
私の名は……」
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