5-5【それはまるで一時の夢のようで・・・】
その日は生憎の天気で、昼にも関わらず空は闇色に染まり、
やや淡い薄暗がりは、これから崩れていくであろう天気を予見するに十分な程の情報であった。
十二の月24の日の朝
前日に買ったプレゼントを抱え、施設へと向かう。
「アンチ嫌いのあの二人も来るのか?」
「多分来ると思うよ。
最終的に招待状をあげてたし、二人は二人で満更でもない顔してたからっ!
いや~、子供の適応力って怖いねぇええ~♪」
「あの二人が、違う犯罪に走らないか心配になるな…
ボタンとカスミには注意しておかないと…」
「それもだけど……それよりも、この恰好よ?どうするの?
ダメでしょ?こんな普通っ!!!
サンタクロースの格好とかしようよぉ~↑?
私も着るからっ!
エッチなやつ着るからっ!
トナカイでもいいからぁああ~!!!」
「子供相手に何考えてんだっ!
悪影響過ぎるだろっ?
いいんだよ!
ささやかに、おごそかにケーキとプレゼントだけでっ…」
ぶ~たれるファムを他所に、施設へ向け足を進める。
ふと、荷物を持つ手に冷たい感触が襲う
ポツリ…ポツリ………と黒く広がる空から雨が降り始める。
その雨が、やけに冷たく感じ、空を見上げようとした時、
ふいにその先に昇る黒煙が目の端に映る
瞬間、その先にあるものが脳裏をよぎり、一気に血の気が引くのを感じる。
隣で「うそっ…?」と自身と同じ最悪を予想したファムを置き去りに、
荷物を投げ出し、足はその場所へ駆け出していた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
先程から鼻につく、濃密な血臭が嫌な予感を加速度的に増長させた。
この鼻腔の奥を刺激するような強烈な臭気、吐き気を催す死臭…
忘れたくても忘れられない、記憶の奥に無理矢理しまい込んだ記憶が如実に蘇る。
いつの間にか、足はひとりでに駆け足へと変わっていた。
目的の場所に着いた瞬間、自分の眼を疑った。
見開いた瞳は閉じることはなく、その場に立ち尽くした。
それは最早、見るも無残な状況だった。
そこには昨日までそこにあった、いつもの賑やかな光景はなく、視界のほぼ全てを赤黒色で覆いつくし、
見渡す限りの大地は焦土と化した凄惨な光景が広がっていた。
一瞬思考が働かず呆然とするが、辺りに漂う異様な臭気で我に返る。
それは幾度となく嗅いだことのある忌まわしき臭い。
研究所で…
大戦中で…
人が焼ける臭い………
考えたくない。
認めたくない。
それでも…理解してしまった。
自分の顔からスッと血の気が引く。
「…ミ…ミライ…君っ!!!」
微かに、後ろで心配そうに俺の名を呼ぶ声が聞こえたが、身体は勝手に前へと進む。
未だ止むことなく全てを焼き尽くし、全てを灰にし、全てを呑み込む巨大な炎。
肌をチリチリと焼く熱気の中を走り続ける。
周囲を見渡すと服の切れ端が散乱し、血は固まり赤黒く変色した大地が広がり、
呼吸し身体に取り込む酸素は、火の手が回ったのであろう少し咽る程に高い温度を保っていた。
前日まで、学び舎として使っていた建物は崩れ落ち、高温の熱を帯びた瓦礫と化していた。
その中心に立ち、両手を上へ上げると、崩れた建物は徐々に上がっていく。
そこからずり落ちるようにして出てきた人間だったそのものに絶望しながら、
目の前で建物に圧し潰されたヒナタと、彼女を庇う様にして重なり合う兄ソラの亡骸を見た。
絶望は加速する…
建物から発見された幾人かの子供達と、管理していた女性教職員、しかし人数が足りない。
探索の範囲を周囲の森へと広げると、すぐさま”それ”は見つかった。
そこには数日前に戦って以降、絡みながらも何かと交流のあった学園能力者…武藤大星と五六寺永翠が、
見るに耐えない無残な姿で無造作に転がっていた。
周囲を見渡すと、クレーターや突き刺さる骨や肉片がところかしこにあり、
明らかにこの周囲だけ地形が異様に変わっていた。
その様子から、激しい戦闘が行われていたことが容易に想像できる。
なんの関係もない二人がなぜ…?
なんの為に…?
決まっている。
ここにいる子供達の為に、死力を尽くして必死に戦ってくれていたんだ。
ボロボロになりながら…
勝てないと悟りながら…
それでも必死に、守ろうとしてくれていたんだ。
それなのに…自分だけが側にいて、守ってあげられなかった…
そんな後悔が思考を埋め尽くしながら、子供達と同じように、その亡骸を宙へと浮かび上がらせた。
そしてその少し奥には、二人と一番側に居たボタンとカスミが静かに、眠るような姿でこと切れていた。
歩を進めるその背後を、17つの影が後を追う。
14人の子供達と2人の青年、1人の女性。
あと一人…チエ…
『生きていてくれ…』
そんな願いを胸に、今にも泣き出してしまいそうな気持を抑え、探し続ける。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
…いやっ…初めから分かっていた
この場についた時点で目の前に広がる惨状の衝撃の瞬間、全てが分かってしまっていた
この光景を見た瞬間…いやここに辿り着く前から、身体は無意識に周囲広域に向け、生体探知能力を発動していた。
そして分かってしまった現実から目を背けていた。
……いたかっただけだった。
『何かの間違いだ』『俺の能力は完璧ではない』
そんな、すがるような想いは、17人の彼等彼女等によって砕かれていった。
そして今、目に映る光景が、ほんの微かな希望すら完全に全て…打ち砕いていた。
冷たかった雨は、いつの間にかそれを感じない程に、その温度を失っていた
そこには、絶望が待っていた
衣服は引き裂かれ、右足を失い、身体中傷だらけで瞳を閉じ、岩へもたれ掛かるようにした少女の姿がそこにあった。
「……………チ…エっ…」
ゆっくりと一歩ずつ、眠る少女の元へと近づいてゆく。
その一歩一歩を踏みしめる度に、
先程まで考えないようにしていたこの数日の日々全てが、
フラッシュバックのように頭をよぎり続けた。
両手で口元を抑え、言葉を失うファムを背に、ゆっくりと少女へと歩み寄る。
「本当に…なんて愚かなんだろうなぁ…
種族の壁すら越えられず、狭い視野でしか物事を見えず…
争い、奪い合い、憎しみ合い、互いを傷つけるばかりじゃないか…」
そっと横たわる少女の額に手を添える。
そこには、生きていた時には当たり前にある体温はなく、
冷たく冷め、身体は少女のものとは思えない程硬く、変わり果てていた。
そんな少女を躊躇いなく抱き寄せると、その額に自分の額をあてがう。
《帰郷》
対象者の記憶の伝達・共有を可能とする能力であり、以前に音奈に対しても奏也殺害の首謀者を探し出す為に使用している。
その一度目の際、音奈が声を失っていた為、記憶を遡る上で記憶に残る、音や声の情報共有ができなかったように、
対象者の心身的状態により、得られる情報に誤差が生じることを知っていた。
それでも、彼女に刻まれた恐怖の光景は鮮明に脳内へインストールされていく。
悲鳴を上げ逃げ惑う子供達、悲鳴は徐々に断末魔へと変わる中、変わらず俺の名前を呼び続ける少女。
それはもはや、この世の地獄…
死の恐怖をそのまま脳に流れ込んでゆく衝撃…
それがその身を襲う。
常人なら幾度となく発狂し、精神崩壊を起こしかねない状況にも関わらず、
ひたすらに…
ひたすらに……
その記憶を読み続ける。
そして、そこに映し出された者を視る。
「……結局、魔族も他の種族と同じ…ということか」
あてがった額を離し、冷たくなった唇にそっと優しく唇を重ねる。
それは一体どれくらいの時間だっただろうか
ゆっくりと重ねた唇が離すと、右手は優しく、そっと横たわる少女の頬を擦った。
「傍にいてやれなくて…ごめんなっ…
……苦しかったよなっ?
あと一瞬……ほんの一瞬……我慢してくれよ………」
▽ ▽ ▽
それはまさに、劫火と呼ぶに相応しいほどの炎が一瞬にしてファムを除く全てを燃やし尽くす。
踏み込んだ大地は沈み、人間大の空洞ができる。
骨すら残さず灰となった者達を優しく風が包み込むと、、
その大地にできた空洞に呑まれるようにして、灰を纏った風は降り立ち、その全てを土が覆い被さった。
その場には、燃え尽きた木々や家屋、ファム、そして大地を見るミライの姿だけとなった。
一体あの一瞬でいくつの能力が使われたのだろうか?
唖然とするファムへ、背中越しにミライは口を開く。
「ファム…分かるか?これが現実だ。
いくら平和を謳ったところで、そんなもの一部の特権階級の夢現つ…
現実は、クソみたいな世界が広がってるだけなんだ。」
その瞬間、ファムは感じた。
その顔に涙はなく、怒りに震える様子もない。
なのにどうしてだろう?
ファムから見たミライは、言葉では言い表せない恐怖と危険性を孕んでいるように見えた
静かに淡々と語られるミライの言葉…そして背後から溢れるような負を具現化したような異様なオーラ、
言葉にできない程の悪寒と圧迫感を……
それはもはや、人外とまで言われたミクの”ソレ”を遥かに上回る凶悪なまでの波動に背筋が凍る。
「…ミライ君……何をお考えなんですか?」
「簡単なことさ。
世界が”コレ”を現実だと突きつけるなら、
俺はその現実を根こそぎ全て…ぶち壊すだけさ……」
そう言い立ち上がり、振り向き様に見えたミライの表情でファムは確信した。
これはもう…ダメだっ……
「ミライくっ……いえ、ミライ様!
アナタという存在は、他が思う以上に素晴らしく影響力は計り知れないほどに大きい。
勇者支王ミクは元より、次期魔王候補のクロムハーツ様…
クローも貴方に尊敬の意を示しているし、かく言う私も……
ミライ様…今、アナタが考えられていることは正直分かりません。
ただ、それを止めないといけないことだけは分かりました。
申し訳ございません。」
そう言い終わると眩い閃光がミライを包んだ。
「なっ!!?」
瞬時、見たこともない力の発動に戸惑うミライを前にそっとメグルは囁いた。
「ミライ様…目覚められた時にはどうか、いつものお優しいミライ様でいて下さい。」
そして、光の消失と共に、ミライの意識が途切れた。
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12月24日午前11時
「あれがファムの能力、《楽園》による幻想封印か…
俺の過去の思い出に新しい映像を流し、上書きすることで、
12月15日以降の記憶を丸々書き換えるつもりだったのか…」
頭に手を当て12月以降の記憶を呼び起こす。
しかし、それにしても凄まじい能力だった…
『思い出の上書き』『記憶の書き換え』と軽々しく言ってみてはしたものの、
要は『記憶の改竄』が可能だと言ってもいい能力…
「噂では聞いていたが、まさかファムがその能力の使い手だったとはなっ…
今回のように数日単位ではなく一部改竄だった場合、
本当に何が実際起きた真実か分からなくなっていただろうな…」
今回彼女が行おうとしたのは、12月15日から24日までの長期間記憶改竄であり、
その通常とは使用方法が違う無理矢理の改竄からなる違和感を感じた為、
何らかの能力の発動を察知でき回避できたが、本来の使用方法である一部分に対してのみの改竄
(例えば数年前の学園の修学旅行、30人近いメンバーの中に1人だけ紛れ込ませ、
あたかもその場にいたような記憶を作り出すなど。
いたような”気がする”を再現する)
だった場合、俺はそれに気づくこともなく餌食になっていただろう。
幻影や思考操作は基本こちらに害をなすものであり、
それを身体が感知した時点で対応行動をとれるようできる限りには対処していた。
だからこそ、思い出の一瞬に能力使用者を一瞬割り込ませるなどといった、
こちらになんの害もなく、認知も感知もできない・しづらいものに対しては身体や能力はなんの反応も示せない。
そう考えると今、過去にファムと過ごしたような”気がする”この記憶でさえももう…
先程まで彼女がいた場所へ目をやると、盛り上がった土に、作りかけの木の立て札が転がっていた。
キッ…と睨みつけると発生した風の刃が一瞬で木を削り、舞い上がった立て札はそのまま大地に突き刺さった。
瞳を閉じる
それは1分にも満たない時間だっただろう。
静かに目を開くと、上空へ右手を上げる。
その先に発生した暗黒空間より黒いローブが自身に向け落ちてくる。
動くことなく、自然とローブに身に纏うと、右手でフードを頭にかぶし、顔に掛かる眼鏡を地面に投げ捨て踏み割る。
そして、正面に向けられた右手の先に、新たにできた暗黒空間へ歩を進む。
つい先日まで賑やかだった施設、その場所、その空間…
その場には、
誰もいなくなった
【※大切なお願い】
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「更新がんばって!」
と思ってくださった方、応援を是非お願いします(*- -)(*_ _)ペコリ
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どうか皆様の数秒を、私に分けてください!
皆様のそのヒトポチでモチベーションが爆上がりします☆
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応援ありがとうございます!感謝してもしきれません<m(__)m>
今後とも面白い話を作っていきますので、楽しんでいってください!




