4-4【シンフォニットガーデン(音の響く庭園)】
「そうですか………」
青年は答える。
ゆらりとカップに入っているコーヒーが波々と揺れた。
波打つ黒い液体が反射し、映る顔が4つ。
その机には本革の椅子に座る初老の男に対し青年と、
両脇の腰に剣を携える、如何にも剣士の少女。
そして、少し型落ちした腕時計を左手に、両手を体の前で重ねる清楚な少女が立っていた。
青年は横に立つ少女に問う
「……だそうだが、どうだ?
”音奈”っ」
「嘘ですね。
脈拍や呼吸、更には心音に乱れがあります。
嘘をついた時の波長と同じ波です。
なんなら正確な心拍数でもお伝えしましょうか?」
「なっ!!?」
「梓川さん、こちらはこれ以上踏み込んでも一向にかまわないんですよ。
しかし、そうなると貴方は命を狙われる可能性が高くなる。
早めに口を割ってしまうことをオススメしますよ」
「そ…そんなもの証拠になりはしないっ!!!」
「そうですか。
目に見える証拠が欲しいですか…」
机に広げた資料の上に、新たな資料を投げ渡す
「…っ!!?こ…これをどこでっ?いや、いつ手に入れたっ?」
「俺はね、初めからこの中で一番俺がアンタを疑っていて、
俺が一番危険だと警戒されていることを知っていましたよ。
そして、後ろの二人を容姿から、警戒対象から外されていたことも知っていた。
だから、俺に注意が向いている間に二人には動いていてもらっていたんですよ」
「くっ……くそっ!!!」
追い詰められたと感じるや、懐に手を入れ拳銃を取り出し、銃口を向けようとする
…が次の瞬間、視界の全てに机が映し出され、首筋には冷たい鉄の感触が触れる
「不利になったからといって、暴力に訴えるのはオススメしませんよ。
彼女のこと……貴方ならよくご存知でしょ?」
「お…お前達は………い、一体なんなんだ?」
「俺達は……」
「ギルド…【シンフォニットガーデン(音の響く庭園)】
『なのです』『ですっ』」
乗り出すように名乗る少女二人。
青年は肘を机につけ、顎をのせ溜息をつく。
スっと視線を男に向ける。
「……だ、そうです」
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「お疲れ様なのです」「お疲れ様ですっ」
クエスト終了後、一休みを兼ねてカフェでティータイムと洒落こんでいる。
まあ、この二人がいる時点で一休みはできないのだが…
「でも、一介の政治家がテロリスト集団と精通していたなんて、世も末ですね」
「未だに紅4団の影響力が大きいということだ。
後ろ盾が無くなって慌ててたんだろう…尻尾を捕まえやすかった」
「でもいつも一緒にいますけど、こうやってクエストを3人きりでやるのは久しぶりな気がします。
それにこのカフェで話してると、ギルドを立ち上げた頃のことを思い出しますっ!」
「そうか?俺は特にだが……」
15歳になり学外での活動が余儀なくされた。
もちろん低能力者の中でも更に能力が使えない最低能力者の烙印を押されている俺は、
ギルドに所属できるはずもなく、爪弾きにされ、しばらくの時が過ぎていた。
雑用でも構わないかと思った矢先、一つの転機が訪れる。
浮世絵源十郎の悪事が露見してから、アルテナ病院は一時的に閉鎖。
拉致監禁及び実験検体として電気信号を弄られた人々は、脳科学に詳しいユースカリナ大病院へと移動した。
その中に’彼女’もいた。
それから3年半後、彼女は俺達の通う学園へと転入を果たす
黒をベースに少し青みがかった髪に、両脇のリボンが特徴
透き通った耳障りのいい声に、落ち着いた物腰のその喋り方は、包み込むような優しい印象を持つ。
ミクに比べ年相応の容姿をし、若干幼さが残るものの、それ故に可憐さと守ってあげたいという庇護欲に駆られる、
ミクとは違うベクトルで魅力のある少女である。
そんな彼女を周囲が放っておくわけもなく、転校初日、彼女の机の周りには人だかりができていた。
出身はどこか?趣味は何か?好きなタイプの男性は?彼氏はいるのかetc
中にはスリーサイズや履いてる下着の色を聞くおバカさん達もいたが、
「女性は、秘密が多い方が魅力ですよっ?」とか言って誤魔化していた。
どこで覚えたんだ?そんなあざとさ。
奏也になんて弁解したらいいんだろうか……
そんな質問攻めに合う中で、一つの質問が彼女の表情を曇らせる。
「そういえば、歌方さんってあの三年前の解放事件の当事者だったんだよね?」
悪気のないことは分かっていたが、触れられたくない記憶だったことはその表情を見て明白だった。
すぐさま平静を装い笑顔に戻るが、そんな彼女の様子を少し離れた位置から見ていた。
「…ミク、修行の最終試験をしてやる。
期限は設けないができるだけ早めに、
誰も殺さないことを条件に……奴等を潰せ!」
「……いいのですか?
殺さないつもりなのですが、やりすぎちゃうかもしれないのですよ?」
「殺さないことを条件に!…と言ったはずだ。
殺さない程度に、地獄を見せてやれっ」
彼女の顔を見はしなかったが、視界にほんの少し映る彼女の表情は寒気がするほど不敵に笑っていた。
それから二週間後、音奈に誘われカフェで食事をしていた時、興奮気味に彼女は言う
「すごいですよっ!
ニュース見ましたか?
紅4団が龍族を除いてほぼ壊滅したとかっ……
クエストクリア報告がいくつも上がっているらしいですが、
全て信憑性がないとかで、未だに誰が実行したのか不明らしいですっ!」
「ああ、こんな短期間でとは…恐れ入るな。
まあ龍族<蒼天>に関しては、他の龍族やら龍王に狙われていて、根城を持たないと聞くからなっ…
壊滅させた”どっかの誰か”も、居場所が分からずお手上げ状態だったんだろう」
音奈の横をスッと見ると、ムスリとしたしかめっ面のミクが、ちゅるちゅるとストローでカフェオレを飲んでいた。
「”どっかの誰か”……ですか…
正体不明みたいですからねぇ~」
じっと音奈の視線が隣の少女へと向けられる。
ミクの肩がビクンと震える。
視線を反対へ逸らし、吹けもしない口笛を吹きながら誤魔化す……下手すぎだろ
そんな彼女をギュッと横から抱き締める
「兄ニの仇もあるでしょうけど、私が学園にいるのが辛くならないようにしてくれたんだよね?
みんなが、その話題で同情してきてくれてたから…
ありがとねっ、ミクちゃんっ」
「……ミクは知らないのですよっ!」
「……でっ、ミクちゃんが勝手に動くとは思えないし、
あの場にはもう一人、ミクちゃんの隣にいた人がいましたよね?」
ミクを抱き締めながらその視線は俺に向く
視線を逸らし、ちゃんと吹ける口笛を吹きながら誤魔化す。
「兄ニも安心してくれてると思います。
ありがとう、お兄さんっ!」
「……俺は知らん」
…っでなんですが!と突然机に両手を置き前のめりに、俺の方へと音奈は顔を近付ける、
「恩返しというわけではないのですが、微力ながらお手伝いしようかと…
お兄さん、困っていることないですか?」
「顔が近いっ!!
あと別に困っていることなんて特にないぞっ!」
「そんなことはないですよね?
クエスト受注は、大抵が複数人必要です。
ギルドに所属していないお兄さんは、選べるクエストが限られていて、
尚且つ有り得ない程ふざけた不名誉な二つ名のせいで指名クエストもなくて、
単位がまずいのではないのですか?」
「おまっ…どこからその情報を……」
ハッと視線を向かい横の愚妹へ向ける。
愚妹の肩がビクンと震える。
視線を反対へ逸らし、吹けもしない口笛を吹きながら誤魔化す……あとで覚えていろよ
「なので考えました。
新しいギルドを立ち上げましょう!
ギルド創立には3人以上のメンバーが必要ですから、この3人でなら立ち上げができますっ!」
「…んっ…そ、それは……」
それは、一度本気で考えたことだった。
とりあえずはミクがいるわけで、2人は確定していた。
もう1人には申し訳なく思うも、クローに頼もうとしたが、
どこからもひっぱりだこのクローをこれ以上付き合わせてしまうと、
俺とクローの立場に気付く輩が出てこないとも限らないと思い断念した。
「ということで、申請書を持ってきてますのでチャチャッとギルド名を考えましょう」
「アグレッシブすぎるだろ!
確定事項なのか?酒でも吞んでるんじゃないのか?」
などとツッコミながらも、いつもとは違うテンションの彼女を見て、
なんやかんやで紅4団の件が嬉しいんだろうと察する
「じゃあ、とりあえず名前を挙げていきましょう!
まずはミクちゃんからっ」
「お兄ちゃん倶楽部」
「却下」
「お兄ちゃんを愛で隊」
「却下」
「兄と愉快な仲間達」
「……お前の立ち位置はそれでいいのか?」
「どんとこいです!!!」
「採用」
「YESっ!!!」
「お兄さんっっっ!!!???」
慌てた素振りで、音奈の顔がミクから俺に向けられる
「さすがにギルド名に、それはないですよっ」
「いや、面倒臭いし、名前なんてなんでもいいかと…
それに、もうミクとのこうゆうやり取りも、飽きたというか諦めたというか……」
「諦めないで下さいっ!
ミクちゃんだけでなくお兄さんも相手では私には荷が重過ぎますっ」
「んー、じゃあなぁ……」
と手を顎に少し考え込む
「【エターナル・ラストレクイエム(永久に流れる最後の鎮魂歌)】」
「「…………」」
一瞬その場の時間が止まるのを感じる。
そしてそっと二人は背を向ける
「ミクちゃん…あの~、お兄さんって……」
「はいなのです。
読んでる本の中には結構漫画とかも入っていて……
そのぉ~…ネーミングセンスというか……
思春期に見られる、背伸びしがちな言動的な病気というか……
というかなんでもいいと言いながら一番凝っているというか……
まあ、そんなお兄ちゃんが可愛いというか!」
「……聞こえているんだがっ」
なんだかすごく居心地の悪い空気になった。
なぜか2人は椅子に正座で座りながら謝ってきた。
そんなにおかしかったのか?エターナル・ラストレクイエム(永久に流れる最後の鎮魂歌)……
「シンフォニットガーデン…」
「んっ?」「はいっ?」
「シンフォニーのSは支王の頭文字で、音を意味する言葉でもあります。
それに、いつも一緒にいたフォレストガーデンを加えて
【シンフォニットガーデン(音の響く庭園)】なんてどうでしょう?」
ふとミクと視線が合う。
「いいんじゃないか?
元々は音奈の案だったわけだしなっ」
「なのですっ!これなら恥ずかしくないのですっ」
ハッと視線を俺に向け、やってしまったといったいう表情を浮かべる。
とりあえず、何点かのミクセレクトコレクションを燃やすことにしよう
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「勢いで創ったギルドが、もう1年以上か…」
創立からなんやかんやで1年程経つが、
必要な時にギルド所属者側からによる勧誘のみでそのまま永住パターンとなり、人数は10人程となっていた。
一般ギルドとしては少ない。
……が知名度に関しては、えげつないことになっていた。
古代文字の解読による古代信書の解明
それによる、幻獣の真名及び能力名等の詳細データーの解明
連合ギルドによる級闇ギルドの討伐
死四龍、一角の討伐
…まあ、それ以外でも申請していないだけでクリアしたクエストは数知れず
そんなギルドのリーダーになんで俺が……
と思ったりもするが、他の者に指示をする立場は力を隠す上で、いい隠れ蓑になっているので案外悪くないと思えた。
実際、アンダーが一人だとギルドやクエストにおいて、受注やその場での”魅せる”対応に関しては困ることは多かったし、
それで音奈が学園に馴染めるならいいか!などと考えていたが、今の音奈の様子を見る限りいらぬお世話だったようだ。
そんな訳で、基本的に自分はメンバーやクエストの算出をしているわけで、
今回は珍しく、初期メンバーの3人でのクエストになったわけなのだが……
「やっぱりおかしいと思うのですよ…音奈がお兄ちゃんを”お兄さん”って呼ぶのはっ!
他の人がめちゃくちゃ不思議そうな顔をしてますし、
なんならミクより本物の妹感が出ていて、
ミクの方が”妹なるもの”とか巷で囁かれているのですがっ!!!」
「ミクちゃん、よく考えてみて下さいっ!
私の兄の親友がミライお兄さんなら実質、私のお兄さんみたいなものではないですか?
逆にそうじゃなかったら私にとってお兄さんはなんですか?恋人ですか?彼氏ですか?旦那様ですか?」
「えっ?そうなのですか?
そんな理屈がまかり通るのですか?
確かにお兄ちゃんは、みんなのお兄ちゃん的な包容力みたいなものがありますが…
なんか言われてみればそんなような気がしてきたのはミクだけなのですか?」
「それにもし今更私がお兄さんをミライさんって呼び始めたら、
『え?あの二人の関係変わったの?』『付き合い始めたたの?』とか更なら勘違いが生まれますよ?
私は一向にかまいませんが(ボソッ)」
「キーーーーーッ!!!
それは許せないのですっ!!!
勘違いした輩をグチャグチャにしちゃうかもなのですっ!!!」
なぜか咥えられたハンカチが噛み引き千切られる。
もったいない…一体これで何枚目になると思っているんだ?
いつの間にか訳の分からない言い合いを始めている。
安心しろ…その理屈は俺もよくわからん。
「今日は音奈は晩御飯食べていきますか?
腕を振るうのですよ」
帰り間際にミクは聞く。
一応我が家の料理担当としては気になるところなのだろう。
最近も結構な頻度で遊びに来ていたし……
「んーん、今日はやめとく!
なんか生徒会長から呼び出しがあったの、
クエスト報告もあるし何時になるかわからないから」
「そうなのですか、なら仕方ないのですっ!」
と言いながらも少し寂しがっていることは感じ取れた。
少し安心する。
音奈が帰ってくる前まではそれはもう酷く……
依存というか他は眼中にないというか……
俺が側に居ないと色々な意味でどうなってしまうか分からない状態であり、
正直どうしようかクローと共に悩まされていた。
そんな不安定さも、音奈が帰ってきてくれたことでかなり緩和された。
ギルド設立も、なるべく音奈をミクの傍に置きたい意図が少なからずあったが…
「感謝してるよ」
「えッ…?」
「なんでもない。
気を付けて行ってこい。
報告は任せた」
頭をポンポンッとすると、少し顔を赤らめ走り去っていく。
見えなくなる間際、振り返って手を振る彼女に俺とミクも振り返す。
そんな平和な日常だった
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