4-1【紅の悪夢】
界歴0297年某日
とある日のその夜、この地にサイレンの音が鳴り止むことはなかった。
「嘘だろ?」
突入した警官隊が唖然とする。
今まで何年もの間、煮え湯を飲まされてきた。
数多の事件の裏で彼等が暗躍していた確信があった。
しかし証拠はなく、また後ろに控える更なる3つの脅威からの報復の恐怖から、手も足も出せなかった。
紅4団人族衆 <紫電> 本部壊滅
テレビニュースも複数ある情報サイトのすべてのトップは、この見出しが占めてた。
何より特質すべきは襲撃時、支部を含むトップ集結の特別会議、その最中だったということ。
紅4団の中でも人族衆は戦闘特化でないことは否めないが、
それを踏まえても <紫電> トップクラスに位置する者達は全て能力者。
しかも強化型の中でも極めて稀な能力が多く、
異色の能力の一つである、触れた箇所・対象を砕く《崩壊》の能力者:北威久良ですら、
<紫電> の中で上位から7番目に位置付けられていた。
その更に上6人を含めた、その場にいた252名全員が両手足の腱を斬られ、動けない状態で発見された。
その中でも <紫電> トップ:村崎金時来の外傷は酷く、
もはや能力者としての再起は肉体的・精神的にも絶望的にあった。
意識を取り戻した後、布団を顔まで被り、嗚咽と発狂を繰り返す日々を二週間程続け、
その後は廃人のように虚空を眺め、呆然とする毎日を過ごしている。
影を操る能力《黒影》。
対象の影を踏むことで影の動きを止め、リンクしている本体の動きを止めることが可能。
数に限りがあるが、マーキングすることで長距離でも他者の影や物体への移動もできる。
また視野内での影から影への移動も可能とし、味方の援護はもちろん、
暗殺や奇襲、撤退などにも適した汎用性のある強力な能力である。
急な襲撃と未知なる脅威を目前に、距離を置いての立て直しを図る為、能力を使用。
その移動の際、地面にある自身の影に潜り、
その影が閉じるほんの一瞬に腕を捻じ込まれ、首を締め上げられながら引きずり出されると、
両手足の健を斬られ、身動きの取れない状態にさせられる。
その後、幾度となく受けたのであろう殴打による打撲痕。
状況、証言から無理矢理起き上がらせては殴打を繰り返し受けた模様。
その最中、大地に叩きつけられてできた隆起と振動で一人の幹部が意識を取り戻す。
朦朧とする意識の中、彼は聞く。
「死なないように加減するのは難しいのですよ。
早く場所を言ってもらえますかねぇ?」
直後、再度地面に叩きつけた爆風で吹き飛ばされ意識を失う。
証言を聞けたのは彼のみで、その彼ですら震える身体を無理矢理抑え、ようやくここまで聞くことができた。
他の者に至っては村崎同様、恐怖から発狂を繰り返す者や、
呆然と空を見るだけでそこに意識があるのか分からない者達で病院は溢れかえっていた。
その証言者は最後に震えながらにこう語る。
「ーーーーーーーーーーーーー」
ただ、紅4団にとっての悪夢はここで終わりはしなかった。
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自然を愛し自然を守る種、仙族。
その中で、今の世こそ自然を害なす時代……と反旗を翻したのが紅4団仙族衆<緑林>
世界で3番目の標高をもつアルテラ山に存在する世界最大規模の樹海。
そこに紅4団仙族衆<緑林>が挟を構える。
その広大で圧倒的な大きさから所在位置の特定は難しく、
磁気を惑わせ安易に踏み込もうものなら、
彼等に辿り着く前に自然の脅威により、その命を散らすこととなる。
仙族の能力者の多くは、守りに寄った能力が多い。
守りに強い仙族ならではの手法、得意とする結界術も展開されており、
対生物用の封印や土地、その空間用の結界術で、侵入は超高難度とされていた。
説明を加えるのであれば、封印術が個人を対象とするのであれば、
結界術は空間を対象としたもので、定期的な能力維持と莫大な魔力量が必要な為、
同種の能力者複数名で行う必要があるが、故に強力な広範囲封印術を指す。
このアルテラ山樹海は<緑林>が住む小規模な村を中心に3平方キロメートルに複数名での電子を狂わせ方位を惑わす【磁場結界】
自然そのもの結界の一部に加え、五感を惑わせる【森林結界】
生活域周囲には侵入を妨げるループ空間、【幻惑結界】と三重結界術に守られており、
<緑林>首領・グリン・ベールは幻惑結界を一人で展開する程の実力の持ち主であり、
自然の脅威と結界術による攻略不可能な不落城と化していた。
また木々を操る能力による監視、
動物とシンクロを行い見たモノを自身も見ることができる能力など数多の変幻自在な能力に加え、
上位者は自然を操る攻撃を得意とする者で構成されていた。
<紫電>壊滅の3日後、<緑林>もまた壊滅することとなる。
面積約50平方キロメートル
そこにそびえていた密林は見る影もなく全て等しく平等な高さに斬り倒され、
露となったその地は発見された2日後で尚、血溜まりの光景が広がっていた。
死者がいない。
それだけだった。
そこに生者はなく、魂が抜けたように横たわる千を超える団員達と、
それをまとめ上げる10人の師団長の姿があった。
話ができるまでに回復した一人は、震えながらにこう語る。
抗う全てをたった一振りの剣で蹂躙された。
仙族が最も発現しやすい風と水による攻撃はもちろん、
使える全て一切合切、悉くを振るわれる一閃にかき消された。
そして<緑林>は、ついには倒すことを諦め、
警戒レベルを龍王襲撃予想時まで引き上げ、
”その者”に複合封印術【絶界封印】を決行する。
移動を限定する 【固定封印】
様々な木々がその者を取り囲うように縛る 【森淵封印】
物理攻撃無効の水の壁を作る 【水牢封印】
見えない刃で周囲を覆う 【風魔封印】
更にその効果を倍掛けの要領で引き上げ展開する【2重封印・3重封印】
その封印ごと空間の狭間へ閉じ込める 【空間結界】
脱出不可能。
中からの解除はおろか、複数の封印展開の為複雑化され、
術者達ですら解除困難の、持てる全てを結集させた究極の封印術。
そんな【絶界封印】ですらも3秒と持たず斬り破られる。
皆が驚愕した
【森淵】【水牢】【風魔】の封印は破られたとしても、
次の瞬間には元の封印を展開し直す永続封印の一種である。
故に龍王に対しても有効の手と考えられていた。
その封印が戻る気配が全くない。
そもそもに空間の狭間へ追いやったはずの封印術ごと、元の場所にいること自体が有り得ない。
封印・結界の根底を覆させられた仲間達は震え、怯え、立つこともできずへたれ込む。
”その者”は歩を進める
すれ違う仲間達は次々に斬られ、血を流し倒れていく。
恐怖から背を向け逃げ出す者、それすらも残虐に斬り捨てて”その者”は首領・グリン・ベールの元へゆく。
対象誤認催眠能力。《影楼》
幻影に近い力であり、相手の体内に存在する魔力の流れを乱して相手に誤認させる催眠能力
【幻惑結界】もこの能力を根源に編み出された術である。
しかし彼は困惑する
乱したはずの体内の魔力は、その全てが溢れる魔力により体外へ追いやられているのを感じた。
『能力が無力化されている』
ハッと顔を上げると目の前にはすでに”その者”が立っていた。
反射的に能力発動の為、対象に手を向け腕を伸ばすと、
その腕を掴まれ、有り得ない音と有り得ない方向へ曲がる感触と激痛が彼を襲う。
反対の手で首を絞め掴み上げ、耳元で何かを囁く。
それに対し、息も絶え絶えに「答えられるわけがない」と答える首領を大地へ叩きつけた。
満身創痍の首領へ”その者”は再度声を掛ける。
「何人か死なないと、本気度合いが通じませんですか?」
その言葉に傷だらけで青ざめた顔は更に凍り付く。
”その者”の言葉に嘘はないと細胞が警告していた。
話しが終わる頃、彼の顔は蒼白とし、身は震えていた。
思い出した……それだけで、これ程まで精神的に追い込めるものなのか
その証言者は最後に震えながらにこう語る。
「ーーーーーーーーーーーーー」
そして………
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全力で木々を掻き分け、森を駆け抜ける。
途中幾度も木の根に足を取られ、よろめきながらも必死に支え、息も絶え絶えに走り続ける。
瞬間移動の能力を駆使しメンバーで唯一、逃げることに成功した。
逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて…
足がもつれ転んで尚、這って走って逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて。
死ぬ気で逃げた。
外の警備及び伝達係としての職務中に事件は起きた。
突然、我々<黄河>が根城にする高層建築の塔上部が斜めに亀裂が入ると、滑り落ちるように地面へと落ちていった。
その直後、更に先程と逆斜めに亀裂が入り上層がずり落ちる。
外にいた者が唖然とする中、最初に落ちた北側を正面に右から斜め下へ亀裂が入り落ち、左から斜め下へ亀裂が入り落ち……
根城の中心から東西南北へ建物の残骸が綺麗に広がっていた。
謎の事態に場は混乱する。
優雅さすらあった根城は、見るも無残な廃墟へと姿を変えていた。
そんな中から、仲間達がフラフラと瓦礫を掻き分け出てくる。
そして、塔の中にいたほとんどのメンバーが這いずり出た瞬間にそれは起きた。
周囲の空間が捻子曲がるのではないかという程の圧倒的な殺意が、場を支配する。
そして、そこに現れた”モノ”。
人の…それもかなり華奢な姿をしていた。
しかし、果たしてそれは本当に人なのか?
そう思える程のドス黒いオーラを身に纏っていた。
皆が恐怖に怯える中、我らが主が前に出る。
紅4団魔族衆<黄河>主、オウガ・リバー
砂を操る能力《砂獄》
大地がある以上少なからず砂は存在する。
故にどの場面においても力を発揮できる能力者で、
自身を中心に周囲一帯の砂を操り、近・中・遠距離全てに対応でき、対象に攻撃、拘束、圧殺を可能にする。
また砂地獄を発生させ、流砂を引き起こし、対象を地中深くに埋め込んで圧力で殺すことができる広範囲殲滅型能力。
圧巻なのは、それほどの広範囲に渡り能力を行使できる魔力量であり、
砂漠地帯において彼の右に出る者はいない程、強力な能力者である。
能力発動と共に砂の礫がその”モノ”を襲う。
しかし、礫はその”モノ”に届く前に動きを止める。
まるで見えない壁に阻まれているかのように全方位の攻撃は無力化され大地へ戻っていく。
聞いたことがある……
異常なまでに高い魔力を所有する者は、溢れる魔力が周囲を覆い自然の防御壁となり、
生半可な攻撃はその身に届くことすらない。
これを、魔力でできた見えない鎧【魔力装】 と呼ぶ……と
今見ているものがソレと断定できないが、少なからずそれに近い現象を起こしたそれは、まさに奇才にして鬼才。
周囲が助けようと参戦する素振りを見せた瞬間、
鬼神の如く最速に最大の戦果を挙げるように、コンマの時間で全てを薙ぎ払っていた。
そして、オウガもまた流砂を引き起こそうと大地へ手を伸ばした瞬間、
その”モノ”は地面を踏みつけた、大地が波打つ程の衝撃が周囲を襲い、ほとんどの仲間は吹き飛ばされていた。
砂煙が治まり目を凝らすと、首を掴まれ締めあげられ、もがき苦しむオウガと、その”モノ”がいた。
傷つき、もがき苦しみながらオウガは言う
「こんなことをして、ただで済むと思うなよ!
親兄弟、知人に学友全て殺し尽くして後悔させてやるっ!!!」
ブチンッ!と何かが切れるのを感じた。
空気が変わり、先程までとは比べ物にならないほど恐ろしく悍ましい程の殺気が辺りを支配する。
その言葉を聞いた瞬間、鬼は悪鬼へと変貌を遂げる。
「やれるもんなら……やってみるですっ!」
オウガを宙へ投げると一瞬にして両手足の腱を斬り、後ろ首を握り締め直し、傷ついた仲間達へ視線を向けさせる。
「よく見ておくのです…」
一人の幹部の元へ向かうと、地面にクレーターができる程の勢いで踏みつける。
ピクリピクリと血が滴り、虫の息で横たわる仲間を見て皆が青褪める。
悲鳴と絶叫が飛び交い、逃げ惑う者達に対し、剣を一振りすると、次々と斬られ瀕死の状態で倒れてゆく。
愕然とするオウガにその”モノ”は言う…
「貴方程度ではどうにもできないでしょうが、それでも手を出したいなら結構です。
ただその時は、親兄弟、知人と言わず、魔族全てを根絶やしにしてあげるのですよっ!」
恐怖からの逃亡……
その”モノ”が見せた夜叉のような表情を見た瞬間、脊髄反射的に能力を発動し、気付けば最大限の距離を逃げていた。
細胞の全てが”アレ”はダメだと警告している。
魔力は尽き、ただ全速力で走るしか他に手段はなかった。
それでも十分な程に距離を稼げていた。
相手はあの混乱の中、ただの雑兵である自分に気付いていないはず…
直に森を抜ければ、魔界へ繋がるガイアの魔穴にたどり着ける
そして二度と人界には近づかない
そう誓いを立て走り続けた。
そしてようやく森を抜けた瞬間、凍りつくようにその場に立ち尽くす。
目の前には、先程まで猛威を奮ったその”モノ”。
そして右手には、意識があるのかも定かではない程ボロボロに傷ついたオウガの姿があった。
「なんで…?ここに…?
なぜバレたっ!?」
「最初確認していた数より一人減っていたこと…
あと魔力に妙な振動があった方角の先に魔穴があったので、足を運んだだけなのです。」
「空間移動による魔力振動を察知したのか?そんなことが……」
異常としか思えない視野把握と魔力感知に言葉を失う。
そんな自分を他所に右手に掴むオウガを持ち上げ、溜息を一つ吐く
「ちょっと移動速度を上げただけでこれじゃあ、やってられないのですよ」
そして、往復ビンタで無理矢理意識を取り戻させる
「ほら、見ていてくださいです。
アナタの為に、わざわざ追ってきてあげたのですから…」
そしてその視線を、こちらに向けさせる。
「さあ、これが最後の一人なのですよっ!」
そこで俺の意識は途切れる
気付くと目の前には白い天井が広がっていた。
周囲には白いベッドに、同じように傷だらけで苦しむ仲間達の姿があった
意味がよく分からない叫び声が病院内に響き、混乱の中、大人達が急ぎ騒ぎ立てている。
慌ただしい室内のその奥では、口以外のほとんどを包帯で包まれた、
当時の面影はない痛ましい姿の主、オウガの姿があった。
何が起きたのか思い出そうとする。
その瞬間、後悔するほどの衝撃と断片的なフラッシュバックに脳内が掻きまわされる。
嘔吐し、咳き込むとすぐさま看護の者がやってきて背中を擦られる。
思い出せずとも分かる思い出してはいけない”モノ”…
しかし、その断片の中の一瞬だけ映ったその存在……あの”モノ”はこう表現できる
「ーーーーーーーーーーーーー」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
以上が紅4団、<紫電><緑林><黄河>壊滅後に得た情報である。
最後に彼は……
彼等はそれぞれにこう付け加える
「「「あれは少女の皮を被った【怪物】【悪魔】【羅刹】だ!」」」……と
”その者”が齢11歳の時の出来事である
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