第三話 チワワじゃないよ、柴犬だよ
昨日は更新せず申し訳ございません。
基本、土日はお休みにして平日にアップする予定です。
無理のない範囲で書きております。
予定は未定、ですがどうぞよろしくお願いいたします。
「イベント…ああ、そうね。でもあの行列でしょう?どうしようって考えてたのよ」
「ふーん。そうなのかー…わかった!じゃあけろべろすが特別に案内してあげる!」
魔法使いの腕に抱かれていたけろべろすは、その腕からぴょんっと飛び出すと、魔法使いの足元で8の字を描きながらスキップしている。
犬のくせに器用である。
「え?いいの?」
「うん!いいよ!」
この目の前にいる子犬が本当に案内など出来るのかにわかに信じ難いが、魔法使いはけろべろすに纏われてたあの黒い靄と何か関係があるのでは?と思っていた。
「できんのかよ」
「できるもん!! むうう…ついてきたらわかるもん!」
馬鹿にするのは勇者だけ。
魔法使いが口を挟むのも待たずにけろべろすは憤慨して飛び出て行った。
……というか、転がっていった。丘を。
それを勇者が持ち前の身体能力で掛けていく。
通常の人間よりもかなり早いスピードで。
「お、おい!待てって!」
「え!?ちょっと、いきなり!?まってよ、二人(?)共ー!!」
言うが早いか、もう姿が見えなくなっているではないか。
慌てて魔法使いも走り出す。
しかし魔法使いと言えどただの人間である彼女は、人外のスピードなど持っているはずもなく、必死で走って彼等を追いかけるしか無かった……。
【魔王国ゲート前】
「つ、ついてきたはいいけど…お前、本当に魔王関係のやつなんだな……」
「そうね…まさかこの子が門番に『今日の魔王国入場は終了ですー!』って言い放った瞬間に兵士が出てきてあんなに長かった行列を捌いて一気に散らせたものね……」
丘から見ていた長い行列は元からなかったかのように消え去っており、野原にのほほんとした風が吹く。
先に到着していた勇者とけろべろすが言い合いしてるのをやっとこさで追いついた魔法使いが諌める。
何やらどちらが1番に門に着いたかで揉めたらしい。
――アホか。
不機嫌にぶーたれていたけろべろすをなだめすかしてみても、勇者のせいで、もうやらない!と拗ねていた。
どうしたもんかと悩むも結局は勇者の
『やっぱできねーんじゃんwww』
の一言で片付いた。
問題を起こすもの勇者だし、解決するのも勇者なのである。
ならば端から何も言うな、と思ったのは魔法使いだけじゃないはず。
「ふっふーん!どうだー!見なおしたかー!」
すっかりご機嫌も治ったけろべろすが自分の思い通りになったことにふんぞり返る。
だからそんなにふんぞり返るとまた転け……転けたね。
「ま、まあ…うん」
「…っへ!」
「やっぱムカつくなコイツ!!」
目の前で起きた事は事実で、たしかにけろべろすの一言で門番や兵までも動いたのだ。
認めたくなくても渋々だが勇者も肯定をするしかない。
くやしいがこいつが魔王に近しいもの、魔物であることには間違いなかったのだから。
その態度に満更でもないのだろう、足元から勇者を見上げると鼻息荒く、へっと嘲笑うけろべろす。
心底勇者が嫌いなんだろう。
普段は誰でも好意を持って接するけろべろすが唯一嫌悪をあらわにした人物なのだ。
自分にできる最大限の嫌味を送っている。
そんなけろべろすの態度に今度は勇者が地団駄を踏んだ。
今にもまた、始まりそうな兄弟?喧嘩に魔法使いが空気を読んで割って入る。
「まあまあ、いいじゃない。子供のすることと思えば腹もたたないわよ」
「あーーー!くっそ! いいから早く魔王のところに連れてけよ!」
「しょうがないなーけろべろすについてこいなのだ!」
自分にとっては何とも思わない、子犬が虚勢を張っているというか、大人になりたい時期…のようなけろべろすにイラつきもしないしむしろ微笑ましくもあるのだが、勇者にとってはそうではないのだろう。
小さいころの勇者のようで和みすらする。
で、あれば同族嫌悪なのだろうか。
いやにけろべろすに対して厳しい態度に、溜息を一つ。
魔法使いは知らない。
なぜ勇者がここまでけろべろすを毛嫌いする意味を。
それは魔法使いが無条件にけろべろすに優しいから。
それだけだった。
そう、ただ単にやきもちを焼いているのだ。
マザコンのようである。
残念勇者、残念伝説を残す。
けろべろすはお構いなしに我が道を突き進む。
門がある場所から離れて少し。
一見するとただの塀。
しかしけろべろすが案内した場所は…
「え…ここ通るのかよ。せっま!」
「これは…人がギリ入れるくらいかしら……よっと…あ、通れた」
塀に亀裂の入った、小さな穴だった。
けろべろすが言わなければ全く気付かなかったのでなにかしらの魔法が掛けられていたのだろう。
ローブのみの装備の魔法使いは難なく通れた。
持ち前のプロポーションもあるのだろうが、軽装の彼女には穴の小ささは関係なかった。
しかし、勇者は違う。
追い剝ぎのような真似をしていたので装備もちぐはぐ。
初期装備でギリギリ、というところだろうか。
「まじかよー装備ほぼ外さないとダメじゃん!あーくっそ!くっそ!」
「はやくしろよー!置いてくぞお!」
文句を言いつつも素直に装備を外す勇者。
追い剝ぎしていた全ての装備を外して初期装備にお気に入りの双剣を携え、塀の裂け目に身をよじらせ侵入。
焦れたけろべろすが遠くから声をかけるのを無視し、魔法使いより時間をかけて魔王国に入る。
「よっと……おお、ここが魔王国か。意外と中は普通なのな」
立ち上がり見回す初めての魔王国。
そこには、人間国と変わらない空と、すこし不気味な森と、のどかな平原と岩山が織りなす、自然豊かな綺麗な場所だった。
魔法などで発展した都市の人間国と違い、自然そのままの形を残す魔王国。
自分の生まれ育った故郷のようで、勇者は自然と深呼吸をしていた。
「ざっと見たけど、私達が居るの、結界のトンネルよ。それもすごく作りこまれてる」
「へえ…て事は魔物もそう簡単に入ってこれねえってことか」
魔法使いが空間を触る。
すると虹色の光のような、何かがふわっと一瞬、現われては消えた。
解りやすい様に視覚化してくれたのだろう、と理解しぐるりと一周見回す。
「そうね。ここまでのものを作れるなんて相当な魔力とレベルがいるわ。半信半疑だったけど、やっぱりこの子、魔王直属で間違いないわね。魔王がこの子のために作った結界のトンネルだって言われてもおかしいと思わないもの」
「そうか…。じゃあコイツについていけば難なく魔王のところに…」
こいつはイベントのチート役なのだろうか?
特別に案内する、と言っていた。
怪しいが抜け道も結界トンネルも本物だ。
魔法使いと勇者が真剣に話し合いをしてる所に、てちてちと近づくけろべろす。
「なにぶつぶついってるんだー?ほんとに置いていくんだからなあ!」
「お、おう…!」
「ところで、お前なんでまおうさまのいべんと来たんだー?」
けろべろすが首をかしげて勇者に問う。
その問いに魔法使いも勇者も戸惑いに一瞬間が開いてしまった。
「は? え…いや、魔王倒すためだけど?」
最初に口を開いたのは勇者。
「え!?」
「へ?」
「え…まさか、解ってなかった、とか…?」
その返答に思ってもみなかった!とびっくりなけろべろす。
まさか!?な勇者。
恐る恐るな魔法使い…と三者三様の反応。
しばし時が止まったけろべろす。
固まったと思ったら、はっと意識を取り戻し、信じられないという目で二人を見つめながら徐々に後ろに下がると、警戒しつつも震える声と身体で前足を上げて二人を指差し…。
「お、おまえら…もしかしてゆうしゃとまほうつかい…!?」
「気付いてなかった!」
探偵の如く、真実を口にしたけろべろすに、崩れ落ちる勇者。
けろべろすは今初めて知った事実にさっと顔を青くし、固まっている。
「そ、そうね…でないと魔王のイベントになんて来ないわよね。だってみんな魔王を倒したいから行列作ってたわけだし」
そんなけろべろすに畳みかけるように自分たちや並んでいた他の勇者の目的を話す魔法使い。
「そ ん な ! けろべろすはそんなの聞いてない!まおうさまにまおうこく案内しろしか聞いてない!」
初めて知る事実に崩れる子犬。
うわーん!と前足で顔を隠してお尻を上げたまま泣き出してしまった。
その姿にさすがの勇者も罵る気も起きず、ふっと頭にかすめるのは会ったこともない魔王の苦労で。
「なあなあ…言ったけど理解しなかった、の間違いじゃね…?」
「こら!シッ!」
たしなめる魔法使いに、お互いの考えが同じという事を悟る勇者。
普段は空気が読めない勇者であるが、ここは何となく何も言わないほうがいいと理解した。
勇者にそこまで気を使わせることができるけろべろす、何気にすごい。
当の本人?は泣き崩れてそれどころではないようだが。
「どうしよう!!けろべろす、ゆうしゃ連れて来ちゃった…。ま、まおうさましんじゃう…まおうさましんだらけろべろすひとりになるよ…?」
「うっ…そ、そんな潤んだ目で俺を見るな…!魔物のくせにそんな純粋な瞳で濁った俺の心を浄化しないでくれ…!」
魔王が言っていた、勇者が来たら死ぬかもしれないというところだけ覚えていたけろべろす。
そんな事はないのだが今はもう会話した内容も『勇者来る=魔王の死』として変換してしまっているので気分はもう捨てられた子犬である。
震えながら涙のたまった黒くおおきな瞳で見つめられる勇者。
某CMのような状況と、けろべろすの放つキラキラした純真のオーラが眩しくて直視できないでいる。
追い剝ぎを繰り返し、勇者であるにもかかわらず勇者ではない彼がこのオーラを浴びて何も思わないことはないのである。
浄化されそうな勇者に、慌てふためく魔法使い。
「ケ、ケロちゃん! 大丈夫よお、わたしは魔王なんて倒す気ないからねえ? そ、そうね…あー…えっと、そう!魔王国の見学にきたのよ!そう!そうよね!?」
「へ?俺?」
小突かれ意識を取り戻す勇者。
「(小声)いいから!話合わせる!」
「お、おおう!そうだぞー?俺は…ほら!何の装備もないだろ!?な!?こんなんで魔王なんて倒せねえから!」
浄化しかけた勇者は訳もわからずとりあえず魔法使いにのった。
装備などはけろべろすの案内で仕方なく取ったのだが、今そんなことを言ったらどうにかなるのは自分だ、と本能で自覚している。
そんな二人を見つめながら、けろべろすは上目使いをやめない。
「……ほんと?」
「本当だ! な!? だからそんな目で見ないでくれ!」
純真オーラは続く。
消えそうな勇者は情けなくも魔法使いの後ろに隠れている。
しばし見つめるけろべろす。
前足で顔を洗う仕草を見せるとすくっと立ち上がった。
その姿に悶絶寸前の魔法使い。
もはやそれどころじゃない勇者。
「そっか!わかった! じゃあ案内してあげる!」
「切り替え早っ!」
「単純で助かった…!」
にぱーーー!と明るい笑顔になると、その切り替えの早さに脱力する勇者と魔法使い。
何はともあれ、問題が無くなったのであれば安心して案内が出来る、そしたら魔王様に褒められる!と意気揚々である。
元々考えることが苦手なけろべろす。
自分では難しいことだったので考えることをやめた。
なんとも小さな脳みそ。
きっとあと少ししたらこの事も忘れるのだろう……。
「じゃあまおうこく案内してあげるね!!」
「「はーい…」」
気分はピクニック!とばかりに足取りはルンルンのけろべろすに対して、まだここは魔王国のほんの入り口に過ぎないというのに、どっと疲れている魔法使いと、勇者なのであった……。




