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短編小説

エネルギー

作者: 仲町鹿乃子

 学校からダッシュで本屋に寄って、そのまま走って家に帰る。


 玄関に鞄を投げ置いたまま、そのままリビングのソファに座る。雑誌の入った紙袋を、セロテープで止められた部分さえも邪魔臭く感じ、破くようにして本を出す。そして、目次に目を走らせ、目的の小説を読み出す。


 [最終回]


 その文字に、なんともいえない感情を抱えつつ、話を読み出す。

 ぐいぐいと物語の世界に入っていく。

 しんと静まった空間で、ぼくはその物語と同化する。


 物語を泳ぐ。


 途中、涙が零れてきた。

 本の文字が滲む。

 そんな、自分の涙にさえ、つまり読むということを遮る全てに、いらだちを感じる。

 悔しい気持ちになる。


 丁寧に読み進めたい。

 でも、話の先を早く知りたい。


 そんな贅沢な文句を心の中で言う。


 本を読む時。

 物語の世界にどっぷりと身を浸す時。

 ぼくは、いろんなことから開放される。


 世の中のこと。

 学校のこと。

 親のこと。

 兄弟とのこと。

 そして、肉体的、頭脳的なコンプレックスからも。


 また、ここの世界に戻ってくるのは分かっているけど、読むことで心がどこかに羽ばたいていく。そんな時間が好きだった。


 この物語もそうだった。

 毎回、毎回楽しみで。


 結末を知りたいと思う気持ちと、まだまだこの物語の世界にひたり続けたいと思う気持ちとのあいだで揺れた。



「そっかぁ」

 ハッピーエンドがぼくの目の前に広がる。

「よかったなぁ」 

 そんな言葉が自然と出てしまう。


 主人公が何かを超えていく姿は、ぼくの心にも何かを示した。


 はやる気持ちで、物語を追いかけた。

 読んで、共感して、自分の事にも置き換えたり。


 ―― 全く。本ばっかり読んで。

 そんな外野の声も聞こえる。


 けど、そんな人たちに、ぼくは言いたい。

 読むことはエネルギーに繋がるんだと。

 自分の明日を歩き出す、そんなエネルギーに。



「ほら、(たく)! 鞄を玄関に置いたままにしないの!」

 いつもの母の声がした。


 さて、さて。

 心には、満タンのエネルギー。


 勢いつけて。

 リアルな世界に戻りましょうか。



物語と物語を紡ぐ方々への感謝を込めて。

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